今回の喜多直毅クアルテット2デイズのタイトルは「文豪」。2日目に足を運んだ(2018/10/28)。
Naoki Kita 喜多直毅 (vln)
Satoshi Kitamura 北村聡 (bandoneon)
Shintaro Mieda 三枝伸太郎 (p)
Kazuhiro Tanabe 田辺和弘 (b)
1. 月と星のシンフォニー
2. 孤独
3. 死人〜酒乱
4. 文豪
5. 疾走歌
6. 厳父
曲間に緊張を解かず、通しの演奏を1時間続けるという独特のスタイル。コンサートのたびに言葉で縛りをかけるのもそれと無縁ではないだろう。
「月と星のシンフォニー」(『Winter in a Vision 2』所収)では、ふと訪れた静寂と、そこでの震えるヴァイオリンの声に、いきなりこのドラマに惹きこまれる。そこからの悦びの盛り上がり。と思うと、喜多さんは弦を激しくはじいて安寧を許さない。「孤独」はバンドネオンが主導してはじまり、全員で感情のレベルを持ち上げてゆく。タンゴのタテの強いノリと、そこから脱出せんとする意図との相克といった印象を持つ。それと関係してか、各人の音が複数の層を成して、それらが合致するときの濁りとハーモニーという矛盾が共存しているように聴こえた。そのような矛盾を抱え込むことが、このクアルテットの魅力に違いないとも思えた。
「死人」から「酒乱」へ(『Winter in a Vision / 幻の冬』所収)。静かなバンドネオンからはじまり、ノイズも使いながら騒乱的となってゆく。喜多さんは弦にクリップを挟み、短い音を出す。コントラバスもノイズを発し、三枝さんは内部奏法を行う。ときに激しい展開があって、ときに静かな間があり、そのたびに楽器の肉声が届いてくる。「文豪」が今回の新曲だろうか、音風景がめまぐるしく変わってゆき、ヴァイオリンとバンドネオンとが前面に出ては退いてゆくようだ。四者による厚みに驚く。野太いドラマというのか。
そして「疾走歌」(『Winter in a Vision / 幻の冬』所収)。文字通り疾走するように小刻みにはじまるのだが、それは精神的な焦燥感でもあるようで、聴いていると、演奏者がこの音楽を全員で創出し、一方ではそれに呑みこまれることへの抵抗もあり、それがスリリングなものに感じられた。ピアノが撒く火花も素晴らしい。コントラバスは終始音楽に酸素を注入している。(このあたりで田辺さんが勢い余って譜面台を倒したのだが、サウンドに強さがあって何の影響も受けなかった。)
「厳父」は前回コンサートのテーマだった。三枝さんのピアノが力強く下から持ち上げ、上でさまざまな感情と結びついた旋律が何本も踊る。やがて安寧の時間があるのだが、再び、四者が激しいドラマを創出する。聴く方も切れそうな迫力がある。最後は和解のようなイメージを持ったのだが、果たして何がこの曲に込められたのだろう。
演奏後の床には、楽譜の数々が散乱している。過ぎ去っていく時間や棄てられていく感情の痕跡にもみえた。
Fuji X-E2、XF35mmF1.4、XF60mmF2.4
●喜多直毅
ロジャー・ターナー+喜多直毅+齋藤徹@横濱エアジン(2018年)
ファドも計画@in F(2018年)
齋藤徹+喜多直毅@板橋大山教会(2018年)
齋藤徹+喜多直毅+外山明@cooljojo(2018年)
齋藤徹+喜多直毅+皆藤千香子@アトリエ第Q藝術(2018年)
ロジャー・ターナー+喜多直毅+齋藤徹@横濱エアジン(JazzTokyo)(2017年)
翠川敬基+齋藤徹+喜多直毅@in F(2017年)
喜多直毅+マクイーン時田深山@松本弦楽器(2017年)
黒田京子+喜多直毅@中野Sweet Rain(2017年)
齋藤徹+喜多直毅@巣鴨レソノサウンド(2017年)
喜多直毅クアルテット@求道会館(2017年)
ハインツ・ガイザー+ゲリーノ・マッツォーラ+喜多直毅@渋谷公園通りクラシックス(2017年)
喜多直毅クアルテット@幡ヶ谷アスピアホール(JazzTokyo)(2017年)
喜多直毅・西嶋徹デュオ@代々木・松本弦楽器(2017年)
喜多直毅+田中信正『Contigo en La Distancia』(2016年)
喜多直毅 Violin Monologue @代々木・松本弦楽器(2016年)
喜多直毅+黒田京子@雑司が谷エル・チョクロ(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
うたをさがして@ギャラリー悠玄(2015年)
http://www.jazztokyo.com/best_cd_2015a/best_live_2015_local_06.html(「JazzTokyo」での2015年ベスト)
齋藤徹+喜多直毅+黒田京子@横濱エアジン(2015年)
喜多直毅+黒田京子『愛の讃歌』(2014年)
映像『ユーラシアンエコーズII』(2013年)
ユーラシアンエコーズ第2章(2013年)
寺田町の映像『風が吹いてて光があって』(2011-12年)
『うたをさがして live at Pole Pole za』(2011年)