Sightsong

自縄自縛日記

リアル・タイム・オーケストレイション@Ftarri

2016-08-12 22:29:18 | アヴァンギャルド・ジャズ

水道橋のFtarriにおいて、しばてつさんによる「リアル・タイム・オーケストレイション」という企画(2016/8/11)。なんといっても、大蔵雅彦、森順治という全く異なるタイプのサックス奏者の共演が気になって、足を運んだ。

Shibatetsu しばてつ (pianica, p)
Junji Mori 森順治 (as, bcl, fl)
Masahiko Okura 大蔵雅彦 (as, bcl)
Riuichi Daijo 大上流一 (g)

1、しば~大蔵~大上。しばさんは異なるピアニカを並べ、弄ぶように吹き始める。大蔵さんのアルトはやはり面白く、妙な倍音を出したり、真横に加えてヘンな音を出したり。大上さんは、横に古いラジオを置き、ギターで弾く音を飛ばしてそれで受信する(あとで訊くと、ヤフオクなんかで安く入手しているとか)。従ってノイズが入り、それも相まって、急に抽象空間があらわれた。

2、しば~森。森さんはアルトを吹く。大蔵さんのアルトが乾いてイラストレイティヴだとすれば、森さんのそれは湿っていて情で濁っている。その森さんのアルトには、ピアニカよりもピアノが合っているような印象。

3、森~大蔵~大上。森さんはフルートを、大蔵さんはバスクラを吹いた。このふたりがはじめて交わったこともあってか、存外に長く熱がこもった演奏となった。

4、森~大蔵。休憩の間に、しばさんが、バスクラのデュオを観たいと言い出した(わたしもそう思った)。なるほど、先の演奏でも感じられたふたりのコントラストが明確となった。

5、全員。最後まで誰もお互いに迎合しなかった。ずっと大上さんの音を聴いていると朦朧としてきた。

そんなわけで、脳のあちこちが思いがけず刺激されて、ひたすら面白いギグだった。

大蔵さんを観たのは90年代以来なのでもう20年近くも前である。大友良英さんの企画で、老いも若きも即興演奏家を集めるセッションが新宿ピットインであったのだ。故・金井英人さん、吉田アミさん、杉本拓さんなども出ていた記憶がある。藤川義明さんと翠川敬基さんが***っていた。大蔵さんは、自身のプレイについては、そのあと音を抑えた時代があって、またそのころに戻っているかもしれないと語った。

●参照
森順治+高橋佑成+瀬尾高志+林ライガ@下北沢APOLLO(2016年)
本多滋世@阿佐ヶ谷天(2016年)(森順治参加)
M.A.S.H.@七針(2016年)
森順治+橋本英樹@Ftarri(2016年)
M.A.S.H.@七針(2015年)


松風鉱一カルテット+石田幹雄@新宿ピットイン

2016-08-12 00:20:18 | アヴァンギャルド・ジャズ

祝日の新宿ピットイン昼の部(2016/8/11)、松風鉱一カルテット+石田幹雄。

Koichi Matsukaze 松風鉱一(as, ts, fl)
Takayuki Kato 加藤崇之(g)
Hiroaki Mizutani 水谷浩章(b)
Akira Sotoyama 外山明(ds)
Mikio Ishida 石田幹雄(p)

冒頭の「Marionette」では、全員が小さな音でがさがさと模索するところから始まる。「K2」や「w.w.w.」など松風さんオリジナルの馴染の曲も、新しい曲も演奏した。

雰囲気はこれまでより地味にも感じられるのだが、やはり百戦錬磨の者たちである。あまりにも何気なく、実は凄いことが展開されている。加藤さんのギターとエフェクターのソロは、相変わらず、何が起きているのだろうという異次元ぶり。いきなりの手拍子に川端民生さんを思い出したりもする。松風さんのささくれた音も健在。水谷さんは珍しくウッドベースだったが、それでも面白いことに水谷節。

そしてピアノの石田さんは、独自なコードとリズムの展開の間隙において、その都度、ドゥルーズ的に新たな数列を見出しているようにも見えた。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4

●参照
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2016年その2)
松風鉱一@十条カフェスペース101(2016年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2016年その1)
渋谷毅エッセンシャル・エリントン@新宿ピットイン(2015年)
松風鉱一カルテット+石田幹雄@新宿ピットイン(2015年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2014年)
5年ぶりの松風鉱一トリオ@Lindenbaum(2013年)
松風鉱一カルテット@新宿ピットイン(2012年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2011年)
松風鉱一トリオ@Lindenbaum(2008年)
松風鉱一カルテット、ズミクロン50mm/f2(2007年)
松風鉱一『Good Nature』(1981年)
カーラ・ブレイ+スティーヴ・スワロウ『DUETS』、渋谷毅オーケストラ
森山威男『SMILE』、『Live at LOVELY』 
反対側の新宿ピットイン
くにおんジャズ、鳥飼否宇『密林』


シルヴィー・クルボアジェ+マーク・フェルドマン+エヴァン・パーカー+イクエ・モリ『Miller's Tale』、エヴァン・パーカー+シルヴィー・クルボアジェ『Either Or End』

2016-08-11 11:01:19 | アヴァンギャルド・ジャズ

シルヴィー・クルボアジェ+マーク・フェルドマン+エヴァン・パーカー+イクエ・モリ『Miller's Tale』(Intakt、2015年)を聴く。

Sylvie Courvoisier (p)
Mark Feldman (vln)
Evan Parker (ts, ss)
Ikue Mori (electronics)

昨2015年にニューヨークを訪れた際に、9月22日、23日と連日エヴァン・パーカーのライヴを観たのだが、この録音はそのさらに前日の9月21日に録音されている。ニューヨークでは、その後にネッド・ローゼンバーグとのデュオも演っていたが、それには残念ながら行けなかった。

2015/9/21 本盤
2015/9/22 エヴァン・パーカー US Electro-Acoustic Ensemble@The Stone
2015/9/22 Rocket Science変形版@The Stone
2015/9/23 エヴァン・パーカー、イクエ・モリ、シルヴィー・クルボアジェ、マーク・フェルドマン@Roulette

このメンバーでの9月23日のギグを観たときには、パーカーとフェルドマンとが、断片的/連続的の違いを超えて絡み合い、ときにふたりが身体を入れ替えているのではないかとさえ錯覚した。そこでのクルボアジェの役割は場の活性剤注入、そしてイクエ・モリが満天の星空を展開したという印象を持った。

その予断で本盤を聴いたのだが、ライヴでの「二体問題+ふたり」ではなく、それぞれ異なる有機体のリボンがらせんを描きだす「四体問題」を幻視した。観ると聴くとの違いか、ライヴと録音との違いか、中1日での演奏の違いか。ただこれも魅力的で、特に、イクエ・モリがチャーミングな要素を持ち込み、サウンドの組成に大きく貢献している。

ひょっとすると昔からのパーカーのファンであれば、このサウンドは物足りないかもしれない。しかし、大きな音で没入するように聴いてみると、これはさらなる展開も期待できる、腐乱臭さえ漂うかもしれない、パーカーのまた新しい姿なのかと思った。

改めて、この2年前に、クルボアジェとのデュオにより録音された『Either Or End』(Relative Pitch、2013年)を聴いてみると、ここでのパーカーは、孤独にしてたえず世界をドリルで突破しようとする者である。その意味ではデュオであれ、サウンドはソロの足し算のような印象を持つ。クルボアジェは、光があちこちで屈折して輝く結晶世界を構築し、パーカーに対峙している。

もちろん過去から続くパーカー世界は好きで、これもその強さにより聴きいってしまう。ライヴでその場を共有していれば、きっと震えて動かされているに違いない。しかし、いまは新しい『Miller's Tale』のほうに惹かれる。

Evan Parker (ts, ss)
Sylvie Courvoisier (p)

●エヴァン・パーカー
エヴァン・パーカー@稲毛Candy(2016年)
エヴァン・パーカー+高橋悠治@ホール・エッグファーム(2016年)
エヴァン・パーカー@スーパーデラックス(2016年)
エヴァン・パーカー、イクエ・モリ、シルヴィー・クルボアジェ、マーク・フェルドマン@Roulette(2015年)
Rocket Science変形版@The Stone(2015年)
エヴァン・パーカー US Electro-Acoustic Ensemble@The Stone(2015年)
エヴァン・パーカー+土取利行+ウィリアム・パーカー(超フリージャズコンサートツアー)@草月ホール(2015年)
エヴァン・パーカー ElectroAcoustic Septet『Seven』(2014年)
エヴァン・パーカー+ジョン・エドワーズ+クリス・コルサーノ『The Hurrah』(2014年)
ジョン・エスクリート『Sound, Space and Structures』(2013年)
『Rocket Science』(2012年)
ペーター・ブロッツマンの映像『Soldier of the Road』(2011年)
ブッチ・モリス『Possible Universe / Conduction 192』(2010年)
エヴァン・パーカー+オッキュン・リー+ピーター・エヴァンス『The Bleeding Edge』(2010年)
ハン・ベニンク『Hazentijd』(2009年)
アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハ『ライヴ・イン・ベルリン』(2008年)
シュリッペンバッハ・トリオ『Gold is Where You Find It』(2008年)
エヴァン・パーカー+ネッド・ローゼンバーグ『Monkey Puzzle』(1997年)
エヴァン・パーカー+吉沢元治『Two Chaps』(1996年)
ペーター・コヴァルトのソロ、デュオ(1981-98年)
スティーヴ・レイシー+エヴァン・パーカー『Chirps』(1985年)
エヴァン・パーカー『残像』(1982年)
シュリッペンバッハ・トリオ『Detto Fra Di Noi / Live in Pisa 1981』(1981年)
シュリッペンバッハ・トリオ『First Recordings』(1972年)


森順治+高橋佑成+瀬尾高志+林ライガ@下北沢APOLLO

2016-08-11 09:00:08 | アヴァンギャルド・ジャズ

下北沢のAPOLLOに足を運び、興味深い面々のセッション。森順治さんと瀬尾高志さんとは初共演だという。

Junji Mori 森順治 (as, bcl, fl)
Yusei Takahashi 高橋佑成 (p)
Takashi Seo 瀬尾高志 (b)
Raiga Hayashi 林ライガ (ds)

それにしてもたいへんな年齢差。60代、30代、20代、10代。しかしそんなことは関係なく己を露出しあうことがあらためて面白い。

ファーストセット。まずは間合いを計る中から、瀬尾さんのベースが口火を切った。高橋さんの全域を使ったピアノが空気をかき乱し、林さんがマレットからスティックに持ち替えたところで一気に全員が疾走しはじめた。瀬尾さんのピチカートは腹に響き、また、アルコはよじれ裏返りともかくも進んでいく。森さんのアルトはいつものように素晴らしくエネルギッシュであり、ときに泡立ってもいる。ふっと静寂が訪れ、林さんが愉快そうににやりとした。

2曲目は高橋さんのピアノが入ってゆき、ドラムスが巧みに合わせてゆく。融合を主としてそこからの離散を見せた1曲目とは異なり、逆に、それぞれの断片が集合体を組成していくような発展があった。森さんのバスクラは諄々と物語をかたるようだ。そのバスクラとベースとが主軸となって音楽が進んでいくと思いきや、その世界を一瞬にして鮮やかに破壊するドラムス、そしてまた全員での疾走。足が折れそうな中で終わりを目指して全員が走りつつ、相互に介入し、やがてまたバスクラのかたる物語へと戻ってきた。そして瀬尾さんのベースは、弦に轢かれよ、弦に痙攣せよとの力を持って迫ってきた。

セカンドセット。ここでは幾度となく、高橋さんのピアノと瀬尾さんのベースとの間で形成される磁場に立ち戻る展開がみられた。ときには激しい世界の中に美しい調和を見出そうとする模索もあった。そこからのサウンドの展開は、その都度、林さんが点火し、牽引した。それにしても、実に粒が立って音圧が強く、するどいシンバルである。森さんはアルトで朗々と自己のブルースを吹き、また、フルートでサウンドに亀裂を入れた。

演奏が終わりそうで終わらない。誰もがこの音の展開に幕を引くことを拒否している。高橋さんのピアノは「その時」を待ち、そして、ラグタイム~モンク~マーチ的な異世界を突然顕出させた。瀬尾さんのアルコによる音の尻尾、森さんのアルトによるタップが、終わりを惜しむように続いた。 

Nikon P7800

●参照
本多滋世@阿佐ヶ谷天(2016年)(森順治参加)
M.A.S.H.@七針(2016年)
森順治+橋本英樹@Ftarri(2016年)
M.A.S.H.@七針(2015年)
坂田明+今井和雄+瀬尾高志@Bar Isshee(2016年)
板橋文夫『みるくゆ』(2015年)(瀬尾高志参加)
寺田町+板橋文夫+瀬尾高志『Dum Spiro Spero』(2014年)
バール・フィリップス+Bass Ensemble GEN311『Live at Space Who』(2012年)(瀬尾高志参加)
齋藤徹、2009年5月、東中野(瀬尾高志参加) 


沢木耕太郎『オリンピア ナチスの森で』

2016-08-09 06:59:00 | スポーツ

沢木耕太郎『オリンピア ナチスの森で』(集英社文庫、原著1998年)を読む。

1936年のベルリンオリンピック。それは、ナチスドイツによる内外への国威発揚でもあった。若い日のレニ・リーフェンシュタールは、政権に乞われ、『民族の祭典』『美の祭典』の2本を撮る(まとめて通称『オリンピア』)。それは結果として、ナチスのプロパガンダにもなった。

驚くべきことに、著者は、最晩年のレニにインタヴューを行っている。実は、レニは一度はこの話を断っている。ところが、その後、映画に使われることになるギリシャの肉体美のイメージを幻視し、引き受けることにした。それは「恍惚とする体験であると同時に、痛みにも似た体験」であったという。おそらくは、彼女は、政治的な意図ではなく、内面からの野生のような衝動によって映画を撮ったのだろう。大会の間も、もぐって撮影するための穴を掘り、走り回り、美を追い求め、ときには選手よりも目立っていた。

それにしても、陸上や水泳において日本選手が世界のトップレベルにいたことには驚かされる。三段跳びやマラソン、いくつかの競泳では金メダルを取っているし、走り高跳びや棒高跳びでも取っていてもおかしくはなかった。本書では、日本占領下の朝鮮、満州、ソ連を経て遠路はるばるヨーロッパ入りした日本人選手たちのドラマを描いている。これが非常に面白く、また隔世の感もある。ついさっき、リオオリンピックの男子体操団体において日本チームが金メダルを取ったばかりだが、この時代は正反対。誰も使わない大昔の技を繰り出したりしてついていけず、観客からは爆笑が起きていた。

マラソンで金を取った孫基禎は、日本占領下の朝鮮半島出身者である。日本代表は3人。しかし選考過程において、上位が孫を含む朝鮮人2名と日本人1名という構成となり、それは、朝鮮人1名と日本人2名にするというマラソン界の上層部の思惑とは違っていた。その結果、さらに日本人1名を追加した4名をベルリンに派遣し、現地の調子で選ぶことにした(結果は選考過程通り)。孫は優勝し、表彰台で「君が代」を聴き「日の丸」を見ながら、亡国の悲しみを感じていたという。また故国の「東亜日報」は、表彰台の孫の胸にあった日の丸を削ぎ落とした写真を掲載し、朝鮮総督府によって半年間の発禁処分となった。「日本がすごかった」以上に記憶されるべきエピソードであろう。

●参照
レニ・リーフェンシュタール『ヌバ』


レイモンド・マクモーリン『RayMack』、ジョシュ・エヴァンス『Portrait』

2016-08-08 21:24:30 | アヴァンギャルド・ジャズ

「ジャッキー・マクリーンの子」たちは、ハード・バップ以降の伝統的なジャズの方法論を受け継いでいながら、決して守旧的ではなく、各々が個性の光を放っている。

そのあたりが気になって、以前に、ジョシュ・エヴァンスをNY・スモールズの外でつかまえて後日インタヴューさせてもらったところ(>> リンク)、かれの口からは、エイブラハム・バートン、マイク・ディルーボ、ルーミー・スパン、ジミー・グリーン、ビル・サクストン、ルネ・マクリーン、レイモンド・マクモーリン、ウェイン・エスコフェリー、クリス・アレン、ロン・サットン、アントワーヌ・ルーニーという名前が出てきたのだった。そのうち日本在住のレイモンド・マクモーリン(地元のバーでよく出会いジャズ話で盛り上がる)にも同じことを訊いてみると(>> リンク)、それぞれの個性を認めて興味深いコメントが得られた。

そんなわけで、レイモンド・マクモーリンの初リーダー作『RayMack』(Truth Evolution Recording Collective、2012年)。

Raymond McMorrin (ts)
Josh Evans (tp)
David Bryant (p)
Dezron Douglas (b)
Curtis Torian (ds)

いや、イイ音である。もちろんジョシュ・エヴァンスは熱い。

先日のマクモーリンのライヴでも、また昨年(2015年)のルイ・ヘイズ(レジェンド!)の来日公演(>> リンク)でも共演したピアニスト、デイヴィッド・ブライアントが実に煌びやかで目が覚めるようなソロを披露している。

曲は最近も演奏しているマクモーリンのオリジナルだが、中でも、「For My Brother Andy」ではエッジの効いたテナーソロを取っていてとてもいい(コルトレーンの「Countdown」を思わせる)。

最近あらためて気づいたのだが、ジョシュ・エヴァンスの初リーダー作『Portrait』(Snave Sounds、2011年)は、その1年前に録音された記録であり、メンバーも割と共通している。そして面白いことに、日本に去るマクモーリンのために、「Ray Mac Left Town」というエヴァンスのオリジナルのワルツを演奏していたりもする。

Josh Evans (tp)
Raymond McMorrin (sax)
Lawrence Clark (sax)
Alan Jay Palmer (p)
Theo Hill (p)
Dezron Douglas (b)
Ralph Peterson (ds)

とはいえサウンドは随分と異なり、こちらは、エヴァンスがその次の作品『Hope and Despair』(2014年)において展開したように、新主流派時代のジャッキー・マクリーンも想起させるような印象。

こうなると一本筋の通ったエヴァンスが好きになるのだが、やはり、マクモーリンの乾いたテナーもいい。モードのように熱く攻めるテオ・ヒルもいい。そして人間扇風機ラルフ・ピーターソンはここでもびしばし叩いて風を起こしている。

いまかれらのジャズを、日本において、どのような人たちが聴いているのだろう。確かに「JTNC」的なスタイルの目新しさはない。フリー・即興によって得られるようなダイレクトな刺激もない。しかし、現在進行形で、伝統に根差した熱いジャズの中で、個性を炸裂させているのは、想像以上に面白い。(それで、わたし自身も「ジャズ」が好きなんだなと思うわけである。)

●レイモンド・マクモーリン
レイモンド・マクモーリン@Body & Soul(JazzTokyo)(2016年)
レイモンド・マクモーリン@h.s.trash(2015年)

●ジョシュ・エヴァンス
ジョシュ・エヴァンスへのインタヴュー(2015年)
マイク・ディルーボ@Smalls(2015年)
ジョシュ・エヴァンス@Smalls (2015年)
ジョシュ・エヴァンス『Hope and Despair』(2014年)
フランク・レイシー@Smalls(2014年)
フランク・レイシー『Live at Smalls』(2012年)
ラルフ・ピーターソン『Outer Reaches』(2010年)


安ヵ川大樹+高田ひろ子@本八幡Cooljojo

2016-08-07 20:45:33 | アヴァンギャルド・ジャズ

本八幡のCooljojoに足を運び、昼のライヴ(2016/8/7)。

Daiki Yasukagawa 安ヵ川大樹 (b)
Hiroko Takada 高田ひろ子 (p)

ファーストステージ、「How Do You Keep the Music Playing?」(ミシェル・ルグラン)、「紫陽花」(高田)、「Choro Bandido」(エドゥ・ロボ)、「加計呂麻」(安ヵ川)、「Inner Voices」(高田)。セカンドステージ、「The Deep Valley」(安ヵ川)、スタンダード「It Never Entered My Mind」と「Stella by Starlight」、キューバの曲「Como Siento Yo」、「Kaori」(高田)。

天上なのか平行世界なのか、聴く者が呆けてしまうほど美しく響く、高田さんのピアノ。一方の安ヵ川さんのベースも中音域で多彩な表情を見せた。特に、アルコからピチカートへと移行するときの音風景の転換は実に見事だった。そしてこのふたりがアイコンタクトをしながら、それは愉しそうに、演奏を繰り広げた。

Fuji X-E2、Xf60mmF2.4開放

●参照
安ヵ川大樹+廣木光一@本八幡Cooljojo(2016年)


渋谷毅+市野元彦+外山明『Childhood』

2016-08-07 11:23:01 | アヴァンギャルド・ジャズ

渋谷毅+市野元彦+外山明『Childhood』(Carco、2015年)を聴く。

Takeshi Shibuya 渋谷毅 (p)
Motohiko Ichino 市野元彦 (g)
Akira Sotoyama 外山明 (ds)

いやこれは、何て魅力的な音楽なんだろう。渋谷さんも市野さんも、淡々と自分自身の音という味わいを追い求めて形にしているようでいて、他者が発するサウンドのなかに、ふわっと絶妙に入ってくる。

ライナーノートでは、池上比沙之さんが、故・浅川マキさんの言葉を紹介している。「渋谷さんはね、こちらが歌ってて、ああ、こんな音が欲しいなと思う音をドンピシャのタイミングで出してくれるのよ。それがめちゃめちゃに美しくて、こちらの次の展開を開いてくれるのね。気持ちいいなんてもんじゃないわよ」と。黒田京子さんも、以前に、なぜ歌手がみんな渋谷さんの歌伴を求め、なぜそれがあれほど良いのだろう、といったようなことをブログに書いていた記憶がある。これはたぶん渋谷毅オーケストラでも同じことであって、個性集団のサックスが吹いている横の渋谷さんのピアノやオルガンにいったん注意すると、そこから耳が剥がせなくなる。そしてこのトリオでも。

ほとんどは市野さんのオリジナルだが、面白いことに、リー・コニッツの「Subconscious-Lee」も演奏している。どうしても、高柳昌行『Cool Jojo』を思い出してしまうのだが、研ぎ澄まされたクールジャズの美学が花開いたそれとは違い、ここでの演奏はまるで異なる。相互に大きく開かれたスペースにおいて、驚くほど優しい相互干渉を聴くことができる。

渋谷さんのデュオのシリーズといいながら全面的に入っている外山明さんの、自由度が異様に高いドラムスもいい。背後から演奏者たちを煽るでもかき乱すでもなく、ひたすら皆の自遊空間を拡張する面白さである。故・古澤良治郎さんのあとを継いで渋谷毅オーケストラのドラマーをずっと務めているのも、強靭にして自由なる松風鉱一カルテットで叩いているのも、きっとそういうことである(もっとも、松風さん曰く、最初のギグ直後には「ああこのグループは解散だ」と思ったそうだが)。

●渋谷毅
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2016年その2)
廣木光一+渋谷毅@本八幡Cooljojo(2016年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2016年その1)
渋谷毅@裏窓(2016年)
渋谷毅エッセンシャル・エリントン@新宿ピットイン(2015年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2014年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2011年)
渋谷毅+津上研太@ディスクユニオン(2011年)
渋谷毅+川端民生『蝶々在中』
カーラ・ブレイ+スティーヴ・スワロウ『DUETS』、渋谷毅オーケストラ
渋谷毅のソロピアノ2枚
見上げてごらん夜の星を
浅川マキ+渋谷毅『ちょっと長い関係のブルース』(1985年)

●市野元彦
rabbitoo@フクモリ(2016年)
rabbitoo『the torch』(2015年)

●外山明
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2016年その2)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2016年その1)
松風鉱一カルテット+石田幹雄@新宿ピットイン(2015年)
纐纈雅代『Band of Eden』(2015年)
渋谷毅エッセンシャル・エリントン@新宿ピットイン(2015年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2014年)
纐纈雅代 Band of Eden @新宿ピットイン(2013年)
松風鉱一カルテット@新宿ピットイン(2012年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2011年)
渋谷毅+津上研太@ディスクユニオン(2011年)
松風鉱一カルテット、ズミクロン50mm/f2(2007年)


アシフ・ツアハー+ヒュー・レジン+ペーター・コヴァルト+ハミッド・ドレイク『Open Systems』

2016-08-07 09:08:53 | アヴァンギャルド・ジャズ

アシフ・ツアハー+ヒュー・レジン+ペーター・コヴァルト+ハミッド・ドレイク『Open Systems』(Marge、2001年)を聴く。

Assif Tsahar (ts, bcl)
Hugh Ragin (tp)
Peter Kowald (b, voice)
Hamid Drake (ds, frame ds, voice)

再発盤だというがこれまで知らなかった。アシフ・ツアハーとペーター・コヴァルトとの共演であれば、『Deals, Ideas & Ideals』の翌年、また、『Live at the Fundacio Juan Miro』の前年の記録である。オーネット・コールマンの「Lonely Woman」からはじまり、あとはオリジナルである。

ハミッド・ドレイクのドラムスは実に多彩で、快感なほどあちこちのタイコから思わぬリズムが飛んでくる。先の2枚はそれぞれラシッド・アリ、サニー・マレイとの共演だが、個性も強さも決して引けを取らない。また、アシフ・ツアハーのテナーは独特な音を持っており、まるで嗚咽し、唸り、呪うようでもある。

そして、ペーター・コヴァルトの絹のようなベースの音色を再確認する。ソロで細い音を出すときも、重層的な音を出すときも、また他のメンバーがわれもわれもと叫ぶときも、絹のコヴァルトがずっと聴こえている。この翌年には亡くなるというのに。

●ペーター・コヴァルト
アシフ・ツアハー+ペーター・コヴァルト+サニー・マレイ『Live at the Fundacio Juan Miro』(2002年)
ラシッド・アリ+ペーター・コヴァルト+アシフ・ツアハー『Deals, Ideas & Ideals』(2000年)
ペーター・コヴァルト+ヴィニー・ゴリア『Mythology』(2000年)
ペーター・コヴァルトのソロ、デュオ(1981、1991、1998年)
エバ・ヤーン『Rising Tones Cross』(1985年)

●アシフ・ツアハー
アシフ・ツアハー+ペーター・コヴァルト+サニー・マレイ『Live at the Fundacio Juan Miro』(2002年)
ラシッド・アリ+ペーター・コヴァルト+アシフ・ツアハー『Deals, Ideas & Ideals』(2000年)

●ハミッド・ドレイク
ジョージ・フリーマン+チコ・フリーマン『All in the Family』(2014-15年)
マット・ウォレリアン+マシュー・シップ+ハミッド・ドレイク(Jungle)『Live at Okuden』(2012年)
ブッチ・モリス『Possible Universe / Conduction 192』(2010年)
サインホ・ナムチラックの映像(2008年)
デイヴィッド・マレイ『Saxophone Man』(2008、10年)
デイヴィッド・マレイ『Live at the Edinburgh Jazz Festival』(2008年)
デイヴィッド・マレイ『Live in Berlin』(2007年)
ウィリアム・パーカーのカーティス・メイフィールド集(2007年)
イレーネ・シュヴァイツァーの映像(2006年)
フレッド・アンダーソンの映像『TIMELESS』(2005年)
ヘンリー・グライムス『Live at the Kerava Jazz Festival』(2004年)
ウィリアム・パーカー『... and William Danced』(2002年)
アレン/ドレイク/ジョーダン/パーカー/シルヴァ『The All-Star Game』(2000年)
ジョー・モリス w/ DKVトリオ『deep telling』(1998年)
ペーター・ブロッツマン『Hyperion』(1995年)


木村尚『都会の里海 東京湾』

2016-08-07 08:37:24 | 環境・自然

木村尚『都会の里海 東京湾 人・文化・自然』(中公新書ラクレ、2016年)を読む。

昔と違って、東京湾は汚染度が低く、実にさまざまな生き物が集まっている。なんとここでは絶滅したと言われていたハマグリさえ復活の兆しがあるという(なお、アメリカ船にくっついてきた外来種ホンビノスガイは「白ハマグリ」とも呼ばれ、すっかりポピュラーになった)。

これには、河川から流入する汚染や汚濁の減少、稚貝や稚魚の放流、水辺環境の改善などが大きく貢献している。三番瀬では干潟を人工的に造成することに対する議論がなされてきたが、著者は、人工干潟については肯定的にとらえているようだ。それはおそらく、水辺環境は人が常に生活の場として立ち入ることによって成り立ってきたという考えがある。

本書には、三番瀬や盤洲干潟といった代表的な干潟だけでなく、江戸川・荒川・隅田川・多摩川の河口、海ほたる(行ったことがないが)、お台場、内湾と外湾との間に首都防衛のために作られた海堡など、さまざまな場所でみられる生き物の面白さが、手際よくまとめられている。読んでいると何かを食べに行きたくもなってしまう。

●参照
豊かな東京湾
東京湾は人間が関与した豊かな世界
船橋側の三番瀬 ラムサール条約推進からの方針転換
『みんなの力で守ろう三番瀬!集い』 船橋側のラムサール条約部分登録の意味とは
浦安市郷土博物館『三角州上にできた2つの漁師町』
市川塩浜の三番瀬と『潮だまりの生物』
三番瀬を巡る混沌と不安 『地域環境の再生と円卓会議』
三番瀬の海苔
三番瀬は新知事のもとどうなるか、塩浜の護岸はどうなるか
三番瀬(5) 『海辺再生』
三番瀬(3) 何だか不公平なブックレット
三番瀬にはいろいろな生き物がいる(2)
三番瀬にはいろいろな生き物がいる
船橋の居酒屋「三番瀬」
『青べか物語』は面白い
谷津干潟
井出孫六・小中陽太郎・高史明・田原総一郎『変貌する風土』 かつての木更津を描いた貴重なルポ
平野耕作『キサラヅ―共生限界:1998-2002』
盤洲干潟
新浜湖干潟(行徳・野鳥保護区)
江戸川放水路の泥干潟
下村兼史『或日の干潟』
日韓NGO湿地フォーラム
加藤真『日本の渚』
『海辺の環境学』 海辺の人為
畠山重篤『日本<汽水>紀行』


西川武信『ペリー来航』

2016-08-06 07:52:22 | 政治

西川武信『ペリー来航 日本・琉球をゆるがした412日間』(中公新書、2016年)を読む。

1853年5月、琉球王国にペリー艦隊があらわれた。日本・清の両国に帰属するような形でバランスを取っていた海の国家・琉球王国にとっても、これは相手として大きすぎた。結局は翌1854年7月に「琉米修好条約」を結ぶことになるのだが、著者によれば、このときの琉球の対応が敢えて組織的に下位の者によってなされたことを含め、琉球が国際法上の主体となれるのかはっきりしない面もあったのだという。しかし、少なくとも、アメリカは独立国家として琉球王国と相対した(琉球新報社・新垣毅編著『沖縄の自己決定権』)。それにより、琉球王国をアメリカの戦略拠点とするという計画は具体化されていった。この条約は1879年の第二次琉球処分(日本による強引な併合)によって無効となるのだが、琉球=沖縄をアメリカの戦略拠点とする歴史は現在に至るまで続いている。

ペリー艦隊は、琉球のあとの1853年7月に東京湾にもあらわれる。しかし、19世紀になって、アメリカのみならず、ロシアやイギリスも関東近辺にちょっかいを出しに来ていたから、それはある程度予想された驚きであったに違いない。既に1840年代に、東京湾の外湾(富津と観音崎を結んだ線より南側)からやや内湾にかけて、防衛拠点たる砲台がいくつも設置されていたからである。

本書には、「近海見分之図」(1850年)に収録された絵が収録されており、これを見るといかにも素朴で、相手のことをよくわからぬまま整備されたのだなと思わされる。品川台場(いまのお台場)は、ペリー再来に向けて築造されたものだが、実際のところ、ほとんど防衛のためには役に立たない代物であったらしい。それよりも、この姿勢により人心を安定させることが目的でもあり、土木建設の好景気が生まれたという。(要するに、いまと似たようなものだということである。)

市民のペリー艦隊見物熱はたいへんなものであったようだ。同時に、瓦版や狂歌などの風刺も流行する。これがまた面白い。人びとは国難を醒めた目で見つめ、実相を見抜いてもいた。たとえば、東京湾の警備を慌てて進める姿は、次のような狂歌で茶化されている。

「大筒に鼻つまむらん毛唐人、我屁のもとの武威におそれて」

●参照
琉球新報社・新垣毅編著『沖縄の自己決定権』(ペリーと琉球)
石川真生『大琉球写真絵巻』(ペリーと琉球)
ジャン・ユンカーマン『沖縄うりずんの雨』(ペリーと琉球)
製鉄の映像(2)(韮山の反射炉が砲台製造のために使われる)


渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン

2016-08-05 00:39:25 | アヴァンギャルド・ジャズ

今年の4月に続き、また、新宿ピットインで渋谷毅オーケストラ(2016/8/4)。

Takeshi Shibuya 渋谷毅 (p, org)
Kosuke Mine 峰厚介 (ts)
Koichi Matsukaze 松風鉱一 (bs, as, fl)
Eiichi Hayashi 林栄一 (as)
Kenta Tsugami 津上研太 (ss, as)
Takumi Nakayama 中山拓海 (as)
Osamu Matsumoto 松本治 (tb)
Akihiro Ishiwatari 石渡明廣 (g)
Katsumasa Kamimura 上村勝正 (b)
Akira Sotoyama 外山明 (ds)
Hideko Shimizu 清水秀子 (vo)

ファーストステージは前回同様「Side Slip」(石渡)から。今回急に参加することになった中山拓海さん(24歳らしい)が、手探りのようにややスモーキーな音でソロを吹き、そのあとを引き継いだ林さんの剛腕アルトにより聴く方も目が覚めてしまう。外山さんはのっけからアナーキーなタイコを叩く。

「Ballad」(石渡)を経て、「Reactionary Tango」(カーラ・ブレイ)。渋谷さんのピアノはいつものこの曲の演奏と違い、装飾音を多めにして繊細に曲のイメージを形作っていくようだ。中山さんが両隣のふたりにつつかれて最初のソロ。これがまた潮目を変えそうな手探りのソロだったのだが、林さんが途中で入って音を厚くし、さらに峰さんもその雰囲気を再生する。このあたりはさすがである。

「Chelsea Bridge」(ストレイホーン)では、浅川マキ「炎の向こうに」の歌伴を想起させる渋谷さんのピアノ。そして「Brother」(林)では、ソロになるやすべてをもぎ取るような林さんのアルト、オルガンとの相性がとてもよい松風さんのフルート。上村さんのベースがノリノリになってくる。

セカンドステージ。「Three Views Of A Secret」(ジャコ・パストリアス)のあとに清水秀子さんが登場して、「Girl Talk」、「Love Dance」、「It's A Lovely Day」、「Sometime Ago」の4曲を気持ちよく歌う。「Sometime Ago」では、誰も楽譜を持っておらず(爆笑)、松風さんがフルートで見事に歌伴をつとめた。

次の「Aita's Country Life」(松風)はヘンな曲である。ギターとベースとが煽りまくる中で、ときどきテーマを差し挟み、その間は、松風さん、中山さん、津上さん、林さんがそれぞれ追い立てられるように濃縮されたアルトソロを取る。そして「Soon I Will Be Done With The Trouble Of The World」(カーラ・ブレイ)、アンコールで「A New Hymn」(カーラ・ブレイ)。渋谷さんは、「Lotus Blossom」(ビリー・ストレイホーン)のピアノソロでステージを締めることをやめてしまったのかな。

今回は、中山さんと清水さんが入ったこともあるのか、少しいつもと違う雰囲気になった。しかしいつもと同じであろうと多少違おうと、この「全員四番打線」が素晴らしいことに変わりはない。

●参照
廣木光一+渋谷毅@本八幡Cooljojo(2016年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2016年)
渋谷毅@裏窓(2016年)
渋谷毅エッセンシャル・エリントン@新宿ピットイン(2015年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2014年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2011年)
渋谷毅+津上研太@ディスクユニオン(2011年)
渋谷毅+川端民生『蝶々在中』
カーラ・ブレイ+スティーヴ・スワロウ『DUETS』、渋谷毅オーケストラ
渋谷毅のソロピアノ2枚
見上げてごらん夜の星を
浅川マキ+渋谷毅『ちょっと長い関係のブルース』(1985年)


田村夏樹+3人のピアニスト@なってるハウス

2016-08-04 08:35:44 | アヴァンギャルド・ジャズ

入谷のなってるハウスに足を運び、「田村夏樹3days」の最終日(2016/8/3)。

Natsuki Tamura 田村夏樹 (tp)
Mikio Ishida 石田幹雄 (p)
Hisaharu Teruuchi 照内央晴 (p)
Satoko Fujii 藤井郷子 (p)

この日は、田村さんが3人のピアニストそれぞれとデュオ演奏を行うという趣向だった。演奏の順番は、じゃんけんで決定された。

1) 田村夏樹+石田幹雄

サウンドの衝突具合を模索するように、跳ねるように、タッチ・アンド・ゴーを続けるピアノ。やがてトランペットの音が乗ってくると、ピアノも跳躍しながら鮮やかに並走する。抑制のときには、トランペットは堪えながら風の音を発し、石田さんはクラシックピアノのような美しい旋律を奏でるが、靴を脱いだ右足はダンパーペダルのうえで痙攣している。跳躍のピアノと短いパッセージによる点火のトランペットがやがて融合し、どちらともなく離れて演奏が終わった。

2) 田村夏樹+照内央晴

ミュートを使いながら、風のような音、話しかけるような音、トロンボーンのような音までも発する田村さん。照内さんのピアノは、石田さんのそれとは随分異なり、より構成主義的なものに感じられた。模索の間合いの大きさや、いちどの意思で繰り出すフラグメンツとコンポジションの大きさがより大きいというのか。田村さんはゆっくりと、まるで練習曲で音を確かめるようにトランペットを吹き、横のテーブルに置いた玩具を弄んだ。ここで緊張感が漲る融合があり、照内さんはかっと前の虚空を凝視して田村さんとの間合いをはかり、ほどなくして別の軌道に乗って離脱していった。

3) 田村夏樹+藤井郷子

「夫婦漫才か」と笑いながらはじまったデュオ。田村さんは「トランペット、飽きちゃった」と、手で口を覆い、楽器のような音を出し始める。藤井さんは弦の上に電子音を発する器具を置き、また、テグス、ゴム板、木の棒などで弦に触れ、電子音のようにも邦楽のようにも聴こえる素晴らしい響きの数々を放った。さすがである。ここまで見事な技は観たことがない。

実は田村さんも藤井さんも、ずいぶん前に、師匠・松風鉱一さんに呼んでいただいてNHKのスタジオで観て以来なのだった。

●参照
松風鉱一カルテット+石田幹雄@新宿ピットイン(2015年)
5年ぶりの松風鉱一トリオ@Lindenbaum(2013年)(石田幹雄参加)
纐纈雅代 Band of Eden @新宿ピットイン(2013年)(石田幹雄参加)
松風鉱一カルテット@新宿ピットイン(2012年)(石田幹雄参加)
石田幹雄トリオ『ターキッシュ・マンボ』(2008年)


アミナ・クローディン・マイヤーズ『Country Girl』

2016-08-02 23:32:39 | アヴァンギャルド・ジャズ

アミナ・クローディン・マイヤーズ『Country Girl』(Minor Music、1986年)を聴く。

Patience Higgins (fl, as, ss)
Carlos Ward (fl, as) (only 1.)
Ricky Ford (ts)
Jerome Harris (b, voice)
Reggie Nicholson (tap ds, tympani, triangle, bells, tambourine, wind chimes, voice)
Bola Idowu (talking ds, bembe, combe, cowbells, guiro, woodblock, sleigh bells, triangle, voice)
Amina Claudine Myers (p, voice, harmonica, vib)

80年代という微妙な時期にあって、ちょっと時代的なサウンドの感は否定できない。ジェローム・ハリスが調子に乗ってンベンベと弾くエレベも、いかにもフュージョンな浅い音色のサックス陣も、いかにも古い。

それでもアミナの魅力がはじけている。ファンクのリズムの中でチャーミングな声を発し、カッチョいいハーモニカを吹き、ひたすらの繰り返しによって盛り上げていくところなんてさすがである。

●参照
ヘンリー・スレッギル(8) ラップ/ヴォイス(リュウ・ソラ『Blues in the East』(1993年)にアミナ参加)
アート・アンサンブル・オブ・シカゴの映像『LUGANO 1993』(1993年)(アミナ参加)
アミナ・クローディン・マイヤーズ『Jumping in the Sugar Bowl』(1984年)
アミナ・クローディン・マイヤーズ『The Circle of Time』(1983年)
アミナ・クローディン・マイヤーズのベッシー・スミス集(1980年)
ヘンリー・スレッギル(7) ズォイドの新作と、X-75(『X-75 / Volume 1』(1979年)にアミナ参加)


広瀬淳二+今井和雄+齋藤徹+ジャック・ディミエール@Ftarri

2016-08-01 23:23:47 | アヴァンギャルド・ジャズ

なんとも凄いトリオ+1が共演するという。そして全員61歳。(2016/7/31)

Junji Hirose 広瀬淳二 (ts)
Kazuo Imai 今井和雄 (g)
Tetsu Saitoh 齋藤徹 (b)
Jacques Demierre (p) (2nd set)

演奏前に、広瀬淳二さんが「今日はガット弦だって。大変なんだよ」と苦笑しながら呟いていた。今井和雄さんのギターも、齋藤徹さんのコントラバスも、そうなれば、音が抽象として綺麗に空間に放出されるようなことはしない。楽器からの音離れは極端に悪い。まるで、あくまで周波数であるはずの音が、自分もマテリアルなのだと主張しているかのようなのだ。音が楽器と演奏者にへばりつくということは、音が身振りそのものであることを意味する。音楽が身振りであるからには、聴客のわたしも音の創出に立ち会うつもりでいるほかはない。

今井さんのギターは守りにも攻めにも自在に転じ、唾を呑みこめないほどのテンションを保っている。

広瀬さんのテナーの響きも素晴らしい。トンネルを通りぬける風のような音、高音でうなりを生じる音など、どのように出しているのだろう(演奏後の宴席で訊ねてみると、2番の柔らかいリードでないとダメだとのこと)。最初の呟きの通り、音の響きを抑えたのだろうか。だがそれが緊張に貢献していた。

そしてテツさんは、一歩引いているかのように、いくつもの仕掛けを繰り出してきた。あとでFB上の文章を読むと、ここでの「競争・狂騒」に身を置くことへの躊躇のようなものが記されていた。待ったなしのセッションではなく、音そのものが思索する空間があってほしいということだろうか。しかし軋みも付帯音も、紛れもないテツさんの音楽だった。

セカンドセットでは、ジャック・ディミエールさんが参加。確信と集中のために敢えて視野を狭くするような、例のないピアノだった。「競争・狂騒」のなかで異常なる落ち着きをみせ、まるで児戯のようにピアノを弄んだ。驚いた。

Fuji X-E2、Pentax-K 18mmF3.5、XF35mmF1.4

●広瀬淳二
広瀬淳二『SSI-5』(2014年)
広瀬淳二+大沼志朗@七針(2012年)
広瀬淳二『the elements』(2009-10年)

●今井和雄
坂田明+今井和雄+瀬尾高志@Bar Isshee(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
今井和雄 デレク・ベイリーを語る@sound cafe dzumi(2015年)
今井和雄、2009年5月、入谷
齋藤徹+今井和雄『ORBIT ZERO』(2009年)
バール・フィリップス@歌舞伎町ナルシス(2012年)(今井和雄とのデュオ盤)

●齋藤徹
齋藤徹の世界・還暦記念コントラバスリサイタル@永福町ソノリウム(2016年)
かみむら泰一+齋藤徹@キッド・アイラック・アート・ホール(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
齋藤徹・バッハ無伴奏チェロ組曲@横濱エアジン(2016年)
うたをさがして@ギャラリー悠玄(2015年) 
齋藤徹+類家心平@sound cafe dzumi(2015年)
齋藤徹+喜多直毅+黒田京子@横濱エアジン(2015年)
映像『ユーラシアンエコーズII』(2013年)
ユーラシアンエコーズ第2章(2013年)
バール・フィリップス+Bass Ensemble GEN311『Live at Space Who』(2012年)
ミッシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹@ポレポレ坐(2011年)
齋藤徹による「bass ensemble "弦" gamma/ut」(2011年)
『うたをさがして live at Pole Pole za』(2011年)
齋藤徹『Contrabass Solo at ORT』(2010年)
齋藤徹+今井和雄『ORBIT ZERO』(2009年)
齋藤徹、2009年5月、東中野(2009年)
ミッシェル・ドネダと齋藤徹、ペンタックス43mm(2007年)
往来トリオの2作品、『往来』と『雲は行く』(1999、2000年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ+チョン・チュルギ+坪井紀子+ザイ・クーニン『ペイガン・ヒム』(1999年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ『交感』(1999年)
久高島で記録された嘉手苅林昌『沖縄の魂の行方』、池澤夏樹『眠る女』、齋藤徹『パナリ』(1996年)
ミシェル・ドネダ+アラン・ジュール+齋藤徹『M'UOAZ』(1995年)
ユーラシアン・エコーズ、金石出(1993、1994年)
ジョゼフ・ジャーマン