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「これは経費で落ちません! 」①―⑧青木祐子

2021年05月11日 08時00分28秒 | 読書(小説/日本)

「これは経費で落ちません! 」①―⑧青木祐子

読みやすくて面白い「お仕事小説」、オフィス人間模様が描かれる。
①から⑧まで再読した。
④から美華が(本格的に)登場し作品魅力度が増す。(③は挨拶だけ)
沙名子は基本、トラブルを避けようとするので、思わぬ方向へ物語が向かう、ってのがない。その点、美華は暴走する。真面目なだけに、傍から見ておかしい。
いまや、麻吹美華抜きで、このシリーズは考えられない・・・ツイン・リードシステム。

②P11
「ウサギを追うなってのはなんですか?森若さん」
(中略)
「雑念に惑わされるなって意味。(後略)」
(中略)
「昔の映画にあったのよ」
沙名子の好きなハリウッド映画、『パシフィック・リム』の中にあった台詞である。(でも、もともとは『アリス』だと思うけど・・・映画「マトリックス」でも「白ウサギについて行け(Follow the white rabbit.)」と出てくるし)
ファクスはいまや遺物としてスミソニアン博物館にあるという。

③P239
「おはようございます。みなさん」
(中略)
「(前略)仕事において、何より人生において、常に正しくありたいと思っています」
美華がそう言ったとき、沙名子がぐっと右手を握りしめるのが見えた。
なんかスイッチ入った。(麻吹美華登場!)

④P25
「――ああ、『新感染』、ゾンビ映画ですよね。あれまだ観てないんです。いいですか」
「なかなかいいです。わたしは劇場で観ました」(続編もおもしろかった)

④P28
美華は何を考えているのだ。言いたくても言わないほうがいい言葉というものはあるではないか。たとえ、みんなが考えていることであっても。
入ったばかりの会社で、全方位にケンカを売ってどうするのだ。
無理にフレンドリーになる必要はないが、信頼をなくしてはならない。嫌われるのは、親しくなりすぎるのと同じくらい始末が悪い。

④P207
性格に癖があっても仕事のできる人間のほうがいい。

④P226
「どうして決定的な失態をすると?」
「有本さんは頭が悪いからです。アンフェアです。あんなやり方が、社会に通じるわけがないです。彼女はどこかでつまずくはずです。そうじゃなきゃおかしい」
(中略)
 あちこちでつまずいているのは美華のほうではないか。マリナと美華、頭がいいのはどっちだ。正しければ勝つわけではないのなら、正しさに何の意味がある。
 
⑤P58
「静岡に一泊――ですね」
 沙名子は出張計画書を数秒眺めた。
 透明な水晶が燃えあがる。(山崎は「共感覚」の持ち主なのか?「共感覚」は感情や言葉を色で認識するという・・・沙名子は山崎にとって「透明な水晶」なのだ。だからかまわずにいられない。ちなみにこの能力は、「 臨床真理」「天空の犬」でも取り上げられている)
 
⑤P60
昔は人の精神というものは年齢とともに成熟していくと思っていたが、実は生まれたときが完璧で、少しずつ欠けていくのかもしれないと思う。(歳をとって精神的に成長し、穏やかになるなら誰も苦労しない・・・自身のクライミングに関して言うと、年齢とともにプライドだけが高くなり、実力は低くなる、悲涙)

⑤P106
――大人の友情にはメンテナンスが必要です。

⑤P177
「(前略)いくら性格が良くたって、モテるブスなんてこの世に存在しないっつーの!」

⑤P237
「楕円のボールだ。自分だけならどうにでもなるが、他人はわからん」
 勇太郎はつぶやいた。
「そのとおりです。そして他者のいない社会はありません」
 沙名子は言った。(中略)
「――いえ、その考えは間違っています。過度な期待はすべきではないですが、人間関係が成り立っているのは最低限のコンセンサス、自分にも相手にも良識があるという前提があってのことです」
 口をつっこんできたのは美華である。
(中略)
「こっちが正しいと思ってたのが、相手にとって正しくない場合もありますよ。そういう場合はどうすればいいんですか?」
 真夕が割って入った。(経理の面々の性格と考えがでるシーン)

⑥P47
彼氏ができたからといって沙名子自身は変わらない。すりあわせが必要なだけだ。スマホに新しいアプリを入れたようなものである。ちょっと面倒なアプリだが、そこそこ役立つし楽しいので使うことにする。(森若さんのキャラが良く出ているモノローグだ)
 
⑥P257
美華はおそらく普通に生活していたら接点はない、同じクラスにいても友達にならないタイプだが、今は仲良くなっている。(接点のない人と出会い話をする、って良いことと思う・・・無理すると疲れるので、まぁ、ほどほどに・・・)

⑦P33
(前略)――結婚、出産することは会社への迷惑、わたしの悪いところであるということですか」
(中略)
仕事とは幸せになるためにするもので、幸せを阻害するものではないはずでる。誰にでもある人生の転機を迷惑と責められるのなら、真面目に働くのがバカバカしくなる。
 
⑦P63
会社とは労働分の報酬を引き出すATMであって、私生活に入ってこられたら迷惑なのだ――
 
⑦P105
自分がいないとまわらないと思っているのは本人だけだ。
 
⑦P160
美しい女性だと思った。憎しみと優しさが混在して、不思議な迫力がある。愛した男との別れを決意すると、女性はこういう顔になるのか。
機嫌がいいと思ったのは間違いで、決意が固まって気持ちが高揚しているのかもしれない。離婚ハイ。そんな言葉があるかどうか知らないが。
 
鎌本の結婚観
⑦P183
「森若は出世しそうだし貯金ありそうだろ。土下座して頼んできたら結婚してやらんでもない。ただし仕事を辞めることは許さない。給料は俺が没収で、金の管理は俺の母親。家事育児は全部やること。夕食のおかずは三品以上。そうでもなきゃ結婚に男のメリットないだろ」(さすが嫌われキャラ屈指の鎌本である。どこから突っ込んでいいのか分からないぐらいの発言。山崎さん曰く、「欠損している」)

⑧P127
「(前略)なんで彼女ってそういう手間とワンセットなんですかね」
(中略)
世の中には一定数、人間関係の手間を面倒と変換する人間がいるようである。

⑧P165
「そういう時期ってないですか。(中略)過去の決断は正しかったのか確認したくなるときが。確認したからってどうにかなるものでもないのに」

「入力ミスはないです。変動給与がこれでよかったのかなと思って。(後略)」(給与計算の重要ポイントは変動項目の入力・・・そもそもこの言葉自体がtechnical termなので、知る人は少ないように思う)

⑧P210
美華は相手への好き嫌いや立場など考えず、正しいと思ったことを正しいと言う人間である。

⑧P212
「――玉村志保さんですか」
美華が言った。
沙名子は驚かなかった。うっすらとそうではないかと思っていた。
この件の腑に落ちなさ、ざらりとした嫌な感触は、志保に対して感じるものと同じである。

P216
不必要に喧嘩腰になることはできるのに、友好的に人に何かを尋ねたり報告したりすることはできない。雑談が嫌いなくせに口が軽い。このあたりは矛盾しないものらしい。真夕は志保の反対で、お喋りで雑談好きだが、大事なことは喋らない。(ここだと思う。信用されるかどうかの要だ。志保は鎌本とならんで、シリーズ屈指の嫌われキャラ。志保の場合は、性格が悪いと言うより、コミュ力がなくて周りが迷惑、ってのが大きい)

【参考リンク】
「これは経費で落ちません! 」①―⑥青木祐子

「これは経費で落ちません」(7)青木祐子

「これは経費で落ちません」(8)青木祐子

 

「ひねもすのたり日記」④ちばてつや

2021年05月10日 08時35分21秒 | 読書(マンガ/アニメ)


「ひねもすのたり日記」④ちばてつや

ちばてつやさんのマンガエッセイ第四弾。
時節柄、コロナの影響を描いた回が複数ある。

上村一夫さんと銀座の店(上村さんの姉の経営)に飲みに行ったときの話
「上村さんが描く女性たちは、凄みがあって色っぽくて大好きでした」
上の絵は、ちばてつやさんによる模写・・・うまい、そっくりだ!(ちなみに、私は上村作品のなかでは、「サチコの幸」が一番好き)



日は落ちて・・・今年はコロナで暮れていく

母は、てつやさんがいじめを受けると、卒塔婆を引き抜き、いじめっ子を全員をたたきのめす。
②でも語られてるが、著者の母は、4人の子どもをつれて引き揚げてきたつわもの。ただ者ではない。②では、次のようなシーンが描写されている。

「四人も子どもを連れて帰るのは無理ですよ」
「赤ちゃんそんなにやせ細って可哀そうに・・・・・・」
「中国人に育ててもらったほうがその子も幸せだと思うよ。」
(中略)
「この子たちはどれも私が産んだ子よっ。一人残らずぜんぶ日本に連れて帰りますっ!!」

もう一つのリアル「流れる星は生きている」だ。


【ネット上の紹介】
切りに追われる怒濤の日々を送っていく--。そんな過去の半生を振り返る一方で、2020年春、現実の世界では新型コロナウイルスが蔓延しつつあった……酒やタバコの話。イジメについて。そしてコロナ禍に考えること。昔と今を行ったり来たり。徒然なるままに描くフルカラーショートコミック。

一緒に暮らしませんか?

2021年05月06日 09時23分32秒 | TV/ドラマ

韓国ドラマ「一緒に暮らしませんか?」をAmazonで観た。
2018年作品、全72話、1話48-50分
出演:イ・サンウ, ハン・ジヘ, ヨ・フェヒョン
脚本:パク・ピルジュ

U-NEXTのめぼしいホームドラマがなくなってきたので、Amazonで探して観た。
Amazonは使い勝手が悪いので、使いたくない。
早送り・巻き戻しが不便だし、次のエピソードに入るときに、不要な広告が挿入される。鬱陶しいことこの上ない。予告なく急に「視聴期間終了」するし。面白そうな作品は課金されるし・・・月額500円だから仕方ないけど。Amazonの悪口はこのくらいにして、作品について説明する。例によって、ジャンルはホームドラマ。

【家族構成】
父=靴職人のパク・ヒョソプをユ・ドングンが演じている。ユ・ドングンは、「家族なのにどうして」では、豆腐職人を演じていた。頑固おやじが似合う役者だ。
母=亡くなっていていない
長女=パク・ソナ(パク・ソニョン)36歳、アパレル企業課長、母代わりで弟妹を育てた
次女=パク・ユハ(ハン・ジヘ)33歳、財閥家に嫁ぐが離婚、医大出身
長男(双子)=パク・ジェヒョン(ヨ・フェヒョン)27歳、就活中
三女(双子)=パク・ヒョナ(クム・セロク)27歳、アルバイトでけっこう稼いでいる
5人家族に、父の同級生だった投資家イ・ミヨン(チャン・ミヒ)とその息子が加わり、この7人を中心に展開する。

以下、ネタバレありで注意。
家族それぞれにエピソードがあるけど、一番見ごたえがあるのが次女・ユハのケース。
財閥に嫁ぐが理不尽な要求に耐えられず離婚。慰謝料も養育費もなし。子どものウンスだけ連れて実家に戻る。しかし、婚家の要求はエスカレートし、ウンスも取りあげようとする。ユハも堪忍袋の緒が切れ、我慢に我慢を重ねた怒りが爆発する。もともと頭がよいので、婚家が打つ手の先を読み、逆襲していく。相手の最も執着する財産を取りあげ、すっからかんに追い込んでいくのが痛快。紫禁城「瓔珞」クラスの策略だ。財産がなくなり意気消沈している義姉にアメリカから戻ってきた元夫がひと言、「だからユハを刺激するなと言っただろう。何をするか分からない」

【感想】
例によって、タイトルがいまいち。オープニングの主題歌で「ワンダフルマイライフ」と歌ってるから、「ワンダフル・ライフ」あたりが、無難な気がする。

面白さでは、「黄金の私の人生」(2017)、「家族なのにどうして」(2014)「棚ぼたのあなた」(2012年)より落ちるが、それなりに楽しめる。全72話なので、少し疲れる。50話くらいだったらよかったのに。 
 
【印象に残るセリフ】
#44 始まりが半分だ もう半分成し遂げた

「性風俗シングルマザー」坂爪真吾

2021年05月04日 09時10分02秒 | 読書(風俗/社会/貧困)


「性風俗シングルマザー」坂爪真吾

P7
母子家庭になった理由は、「死別」が8.0%、離婚などの「生別」が91.1%となっている。1人親世帯になった時の母親の平均年齢は33.8歳である。(80年代から「生別」が「死別」を上回ったようだ・・・昔は、出戻ると、世間から白い目で見られた、まるで欠陥品のように。今は、「フツー」、「よくあること」、と受けとめられるようになった。ハードルが低くなった、という解釈でよろしいでしょうか?)

P48
デリヘルで働くシングルマザーの悩みの一つは、子どもを保育園に入れる際に所得証明が出せないことだ。
風俗店と女性の契約は、雇用契約ではなく事実上の業務委託契約になっていることが多い。つまり女性は会社員ではなく個人事業主になるので、就労証明書も源泉徴収票も、基本的にお店から出してもらうことはできない。

P168
福祉が風俗に勝てない理由の一つは、ここにある。生育歴に起因する自己肯定感の低さに悩まされている女性は、風俗で働くことで、多くの男性から容姿や性格を褒められたり、これまで決して得られなかった高収入を手にすることができ、それによって自己肯定感を高めることができる。

P195
遺族年金があるため、離別シングルマザーに比べると、死別シングルマザーは経済的に困窮しません。(夫に生命保険をかけてれば、なおさらOK)

P215
近年、幼稚園・保育園の時期から子どもの『非認知能力』を育てることの重要性が言われています。非認知能力とは、粘り強さ、人と協調する力、やり抜く力、自制心、感謝する力や社会課題に向き合う力といった、数値化できない能力を指します。

【相談窓口】
シングルマザーサポート団体全国協議会

全国妊娠SOSネットワーク

風テラス

【感想】1
先日のNHKでは、風俗産業の市場規模は6兆円、とか。えっ、となった。バブルがはじけた際、500億くらいの不良債権で銀行が潰れている。それって、とてつもない金額だ。

【感想】2
コロナにより、店舗型より、派遣型に移行してるそうだ。どちらにせよ、ソーシャルディスタンスを保てるのだろうか?濃厚接触しないと、仕事にならないけど。

【感想】3
自分がその立場――離婚して、就職先がなく、実家にも戻れず、養育費を払ってもらえない場合、身体を売ってでも生き抜くサバイバル力があるだろうか?
いろいろ、考えされられる作品だ。

【追記】
ノンフィクション版「フルーツ宅配便」、と思う。

【参考リンク】
「性風俗のいびつな現場」坂爪真吾


お昼12時のシンデレラ

2021年05月03日 07時17分28秒 | TV/ドラマ

中国ドラマ「お昼12時のシンデレラ」をU-NEXTで観た。
(全33話、1話45-48分、2014年)

このところ韓国ドラマばかりなので、中国ドラマを観ようか、と。
ところが探しても、「普通のホームドラマ」がない。
史劇や活劇はあるのに、なぜ?
市井の人の暮らしを知りたいのだけど。
仕方ないので、適当に現代を舞台にした作品を選んでみた。

シャンシャンは、湖南地方出身。実家は洋裁店。
上海に出るときは、村人総出で万歳しかねない雰囲気で送り出してもらった。
なぜなら、上海の大企業に就職したから。
社員の4割が留学経験者という国内最大のIT企業。
コネも学歴も家柄の後ろ盾もなく「採用されたのは奇跡」、と言われた。
仕事は、財務部のアシスタントで見習い。
最初、従姉妹や友人とルームシェアして暮らしはじめる。約2年間が描かれる。(年齢で言えば22歳から23歳あたり)

平穏に日々が過ぎると思われたが、CEOの妹に輸血して命を助けたことから、物語が動き出す。感謝のしるしに、毎日、シャンシャンのもとにお弁当が届くようになったのだ。(タイトルは、ここから来ている)解説によると、中国で同時間帯視聴率1位を記録し、動画再生回数が14億回となるヒットとなった、とある。

【とりとめもない感想】・・・以下、ネタバレありで注意。
面白くなかったら「即中止」、と思って、中断する気満々だったけど、最後まで観た。随所に萌え要素がちりばめられている。
ヒロイン、チャオ・リーインの演技もよかった。
脇役として、CEO妹・ユエ、その友人・リーシュー、同僚のアージア、秘書のアーメイとリンダの活躍もよかった。
随所にアニメーションが挿入され、いい感じで効果をあげている。
ヒロインの心の声がモノローグとして効果的に使われて物語を盛り上げている。(セリフの半分が独白?と思うくらい多い)
春節の帰省ラッシュが描かれていたりして、日本の正月休みと同じだなあ、と感じた。シャンシャンがお土産を持って両親のもとに帰省するシーンがいい。
2回目帰省の際、湖南の近所の人が総出で出迎え、ユエがお年玉を子どもたちに配るシーンもいい。
OL同士の会話で「昨日、韓流ドラマ観た?」とか言い合っている。中国でも韓流ドラマ人気のようだ。(具体的タイトルを口にしているかもしれないが、聞き取れない)

#2 ジュエンの化粧には孫悟空も負けるけど、一番驚くのは化粧を落とした時よ(この「孫悟空、云々」という表現は、この後でも出てくるので、中国ではポピュラーな言い回しなのかも)

#7 『男が道楽にふけるのはよし だが女の道楽は話にならぬ』