「ふがいない僕は空を見た」窪美澄
R-18文学賞、山本周五郎賞、W受賞作品。
連作長編で、次の5つの短編からなり、各章で語り手が変わる。
「ミクマリ」・・・高校生・斉藤君
「世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸」・・・主婦・里美(斉藤君の不倫相手)
「2035年のオーガズム」・・・高校生・七菜(斉藤君の彼女)
「セイタカアワダチソウの空」・・・斉藤君の友人・福田君(この章が秀逸)
「花粉・受粉」・・・斉藤君の母
少し文章を紹介する。
P263(助産師でシングルマザー・斉藤君の母の語り)
みっちゃんくらい若いときは、私も産婦さんたちを力まかせに自分の意見のほうに向かせようとしたこともあった。けれど、自然分娩がどういうことなのか、私が頭でっかちに語れば語るほど、産婦さんの表情はかたくなり、お産はスムーズにいかなくなった。
本当に伝えたいことはいつだってほんの少しで、しかも、大声でなくても、言葉でなくても伝わるのだ、と気付いたのは、つい最近のことだ。もっと早く気付いて、それを夫婦関係にも活用できればよかったのだけれど。
【結論】
さて、「ふがいない僕は空を見た」、「晴天の迷いクジラ」、どちらがおもしろいか?
・・・どちらも同じくらいおもしろい。
ただ、本作品はR-18受賞作品なので、やたらセックス描写が多い。
それさえクリアーしたら、楽しめる、と思う。
そういう意味で、「晴天の迷いクジラ」の方が、一般受けする、と思う。
【蛇足】
この作家さんは、子供から大人まで、すごく描写力がある。
特に、思春期の少年少女の造形と心理描写が巧い。
だから、もう1章増やして、七菜の友人・あくつにも語らせて欲しかった。
(さらに、欲を言えば、担任の先生・のっちーにも語らせて欲しかった)
【参考リンク】
「晴天の迷いクジラ」窪美澄
【ネット上の紹介】
高校一年の斉藤くんは、年上の主婦と週に何度かセックスしている。やがて、彼女への気持ちが性欲だけではなくなってきたことに気づくのだが―。姑に不妊治療をせまられる女性。ぼけた祖母と二人で暮らす高校生。助産院を営みながら、女手一つで息子を育てる母親。それぞれが抱える生きることの痛みと喜びを鮮やかに写し取った連作長編。R‐18文学賞大賞、山本周五郎賞W受賞作。