第1章は、昭和10年生まれの晶子の人生が語られる。
戦中、戦後。
どのように生きて来たのか。
第2章は、晶子の孫くらい歳の差がある真菜の人生が語られる。
有名料理研究家の娘で、物質的には不自由なく暮らしている。
読まないと分からない面白さ。
そして、面白さを超えた、絶妙な味わい、である。
いくつか文章を紹介する。
真菜の母親の描写。(2歳になった真菜をつれて公園に行くシーン)
P134
「いい大人が、昼間から、こんなところで何やってんだろう・・・・・」
その思いが、かまいたちのように自分を切り裂いていった。
確実に、どこかで道を誤ったのだ。大学生のときも、OLだったときも、皆が自分を美しいとほめてくれたし、料理を作れば、おいしいと言ってくれた。だから、自分のことを一番、大きな声でほめてくれる人と結婚したのに・・・・・・。
P254(真菜のモノローグ)
地震の原発事故もいつ収まるのか、誰にもわからない。自分の軸足をどこに置いていいのかがわからない。そんな場所で、子どもを持つ親や妊婦が生活するのは、何て酷なことなんだろう。
P281(真菜と父の会話)
「・・・・・・パパは、いつも」
授乳しながら真菜は口を開く。
「自分が見たいようにしか見ないんだね。いろんなこと・・・・・・」
声がかすれて、小さく咳払いをした。父の顔を見ないまま、真菜は言葉を続ける。
「だから、ママも仕事を始めたんだよね。・・・・・・多分」
くっ、くっ、と母乳を飲み込む小さな音だけが響く。
「パパがママをちゃんと見ないから、ママは飽き足らなくなったんでしょう。パパの妻で、私の母親をやってるだけじゃ、ママはちっとも幸せじゃなかったんだよ」
「真菜・・・・・・」
父が息をのんだような気がした。
「パパは、いつも、家族だから、って言うけど、血がつながっていたって、人間だもの。相性があるよ。パパと、ママと、私の、家族としての相性は最悪だと思う・・・・・・」
今まで読んだのは、次の3作。
『晴天の迷いクジラ』
『クラウドクラスターを愛する方法 』
どれも良かった。
でも、もしこれから読み始めるなら、本作か、『晴天の迷いクジラ』がお薦め。
唯一文庫本になっている、『ふがいない僕は空を見た』も良い。
結局、ハズレがない作家、ということだ。
【ネット上の紹介】
産む、育てる、食べる、生き抜く。その意味は、3月11日に変わってしまった。75歳でいまだ現役、マタニティスイミング講師の晶子。家族愛から遠ざかり、望まぬ子を宿したカメラマンの真菜。人生が震災の夜に交差したなら、それは二人にとって記念日になる。