「女王さまがおまちかね」 菅野雪虫
とりあえず、菅野雪虫さんの新刊なので読んでみた。
内容は、ちょっと年齢低め。
だから、大人が読んだ場合、ストーリー、キャラクター、演出等、ちょっともの足りない。
(まぁ、それなりに楽しめるけど)
印象に残るシーンを紹介。
(P32-33)
「先生、質問していいですか」
先生の熱い口調とは正反対の、冷めた声だった。
「なんだ、大月?」
「先生は、文部省が『死ね』といったら死ぬんですか?」
「は?」
先生だけでなく、だれもが、「はあ?」という顔をして現を見た。しかし現は、いつもの冷静な調子で続けた。
「たとえば、絶対服従の関係じゃなくても、立場上その命令に従わなければならないときって、あるんじゃないですか?正式な命令じゃなくても、『前例だから』『ほかの先生がやっているから』という理由で行動することが、先生はまったくないんですか?」
突然の追求に、ぱかんと口をあけた先生に、現はとどめを刺した。
「先生の『友だちに死ねといわれたら死ぬのか』という質問は、現実味のない愚問だと思います」
もう1箇所・・・P57-61。
この部分、「感想文の書き方」これは参考になる。
どんな本でも対処できそう。
PS
次回作品は、もう少し上の年齢をねらった線でお願いしたい。
【ネット上の紹介】
「女王さま」という怪人物が世界中の人気シリーズを収集、新刊本が出なくなるという事件が大発生!!本が大好きなゆいは、女王さまと対決するために「ある世界」へのりこんでいきますが…。本嫌いの荒太と頭脳派の現もまきこんで、ゆいは世界を救えるの!?―。
「乙嫁語り」(3)森薫
待望のシリーズ最新刊。
今回は、スミスさん中心に話が進む。
当時の政治情勢を交え、微妙な地域文化、そこに住む人々の心情を伝える。
そのあたりの描写は見事で、どれだけ資料を調べたんだ?!って感嘆する。
新しいヒロイン・タラスも登場。
後半にはアミル、パリヤも登場し、いっきに賑やかになる。
食事のシーン、ホント、おいしそう。
(ところで、キジ・・・食べてみたい)
【ネット用の紹介】
美しく幸薄き――第2の"乙嫁"、タラスの涙エイホン家の居候イギリス人、ヘンリー・スミス。彼は長らく滞在した土地をはなれ、カラザそしてアンカラへと旅に出かけた。カラザでは珍しい外国人であるスミスは、町の人波にもまれ、気がつくと、馬も、荷物も、盗まれてしまっていた! そして、もう1名、愛馬を盗まれたのが第2の"乙嫁"タラスさん! いま、スミスは運命の女性に出会う……! 中央アジアの生活文化を、丁寧な筆致で描き上げる、人気絶好調シリーズ第3巻!!
図書館戦争シリーズ 2「図書館内乱」有川浩
シリーズ2巻目、本当に面白くなるのはここからだ!
1作目では、脇役として控えていた人々にスポットライトがあたった。
これで作品に奥行きと深みが出た。
私が好きなのは第二章。
毬江が登場して、小牧が中心に語られる章、である。
小牧と周囲の思惑、駆け引き、プライド、思い入れがぶつかる。
いつも笑い上戸で飄々と正論を語る小牧。
この時ばかりは、必死になった。
・・・毬江を護るために。
しかし、毬江はそれ以上に強かった。(以下P139-141)
「聾唖者って誰のことですか?」
毬江がすかさず切り込む。これだけはっきりと日本語を操る毬江は、少なくとも聾唖の定義に当てはまらない。
「いや、それは聾者と言い間違えて」
くぐもった声が毬江には聞き取れなかったらしい。付き添っていた柴崎が持っていた手帳にその台詞を書いて見せ、
「聾者って誰のことですか?」
読み終わるや毬江がまた突っ込む。
「みなさんは聾者と中途失聴者と難聴者の区別もついてないのに、どうして私がその障害者として差別されたと分かるんですか?」
(中略)
「障害を持っていたら物語の中でヒロインになる権利もないんですか?私みたいな女の子が恋愛小説の主役になったらおかしいんですか?私に難聴者が出てくる本を勧めるのが酷いなんて、すごい難癖。差別をわざわざ探してるみたい。そんなに差別が好きなの?」
ああ――何て強くなったんだろうね、君は。毬江の声を聴きながら小牧は目を閉じた。
小牧だけでなく、柴崎や手塚もスポットライトをあびて背景や心情が語られる。
柴崎が情報通だったが、その理由も語られる。
ああ、そうだったのか!、と納得。
情報に命を賭ける柴崎だけど、そのプライオリティを翻す瞬間があった。
私はそのシーンが好き。
朝比奈とのパイプを切って捨てる瞬間だ。(P363)
「謝っても取り返しはつきませんか?検閲のない社会を一緒に作れたらと思っていました」
「残念ながら、あんたたちあたしの逆鱗に触れたのよ」
周りを語ることによって、笠原にも深みが出てきた。
1作目では、堂上も笠原も体育会系ノリなので、心理描写になると、イマイチもの足りない。
(アクション・シーンは良いんだけど)
2巻目になって、内容濃くなった、ホント、よくなった。
【ネット上の紹介】
図書隊の中でも最も危険な任務を負う防衛隊員として、日々訓練に励む郁は、中澤毬江という耳の不自由な女の子と出会う。毬江は小さいころから面倒を見てもらっていた図書隊の教官・小牧に、密かな想いを寄せていた。そんな時、検閲機関である良化隊が、郁が勤務する図書館を襲撃、いわれのない罪で小牧を連行していく―かくして郁と図書隊の小牧奪還作戦が発動した!?書き下ろしも収録の本と恋のエンタテインメント第2弾。
図書館戦争シリーズ 1、「図書館戦争」有川浩
人気シリーズ、おそるおそる読んでみた。
思った以上に文章が巧い。
政治的駆け引き+恋愛要素をブレンドした作品。
ライトノヴェルらしいキャラクター重視と言われるが、
私の判断では、『お約束』をしっかり押さえた少女漫画要素が強い、と思う。
著者が構築した近未来=図書館戦争の世界が理解出来たら楽しめる、と思う。
ただし、1巻目は面白さが十分開花していない。
(既に、2巻目読了済み、だけど、1巻目でやめなくてよかった、と思っている)
1巻目は75点くらいの出来上がりで、可もなく不可もなし・・・かな。
2巻目から80点後半から90点オーバーの世界に突入してくる。
なお、小牧のキャラクターがいい感じ。
一部文章を紹介。
P287
「投げっぱなしで逃げるなよ」
正論本家はやはり痛い。
「外したのは堂上の都合だろ。自分の都合を笠原さんのせいにするな。俺にフォローさせるのも違うだろ」
黙り込んだのは返す言葉が見つからないのと後ろめたさを真っ向から突かれてふてたのと。正論が好きな奴は優しくないよと小牧が常に言うように、小牧はこうしたときに馴れ合いに逃げさせてくれない。小牧は自分にも平等に厳しい。
「笠原さんの事情は笠原さんが処理したもんだろ、あの子はもう大人なんだから。お前が余計な手出しする筋合いじゃない」
PS
柴崎と笠原を見ていて、なんとなく篠北礼子と矢島順子のコンビを思い出した。
なお、ハードカバーで読まずに、文庫本で読むと、ショートストーリーがおまけでついてくる。
これが、けっこうな価値有り。
【ネット上の紹介】
2019年(正化31年)。公序良俗を乱す表現を取り締まる『メディア良化法』が成立して30年。高校時代に出会った、図書隊員を名乗る“王子様”の姿を追い求め、行き過ぎた検閲から本を守るための組織・図書隊に入隊した、一人の女の子がいた。名は笠原郁。不器用ながらも、愚直に頑張るその情熱が認められ、エリート部隊・図書特殊部隊に配属されることになったが…!?番外編も収録した本と恋の極上エンタテインメント、スタート。
先週に引きつづき、昔の写真を整理している。
今回は、2007正月・タイ・クライミング。
それにしても、登っている写真が一枚も無い。
知らない方が見たら、単に観光に行っただけ?、と思うかもね。
【資料】
【レポートタイ・プラナーン】
「負けるのは美しく」児玉 清
今年2011年5月16日に亡くなられた俳優・児玉清さんの自伝・エッセイ。
映画界、TV界の事情とか分かって面白い。
一部文章紹介する。
思い出してはふっと笑ってしまうのだが、笠智衆さんの楽屋での話だ。単発のテレビドラマでご一緒させていただいたときのことなのだが、何かのつながりで戦争の話になり、兵隊として出征していた笠さんが終戦を迎え、漸くわが家へ帰還したとき、いつ帰るとも知らずに洗濯物を干してらっしゃる奥さんの後ろ姿を見て、思わず愛しさに後ろから抱きついてしまったというお話であった。あの、笠さん独特のエロキューションで、訥々と「思わず、後ろから抱きついてしまいました」と仰った言葉は今も折にふれ思い出される。(P90-191)
さて、遺稿となった文章が、『文藝春秋』特集「「われらは何をなすべきか」、である。
次に紹介する。(以下、ウィキペディアより)
内容は「この国の危機管理のお粗末さに日々唖然」から始まり、「決死で頑張るとか精神論を披歴するだけ、まるで昔の旧軍人総理となんら変わらない幼稚さ」であると菅直人首相の震災への対応について酷評。さらに東京電力による福島第一原子力発電所事故に対する対応についても「日本は完全に幼稚化した人間たちがリーダーシップを握っていることを露呈」などと綴ったものであった。
【ネット上の紹介】
就職活動の一環としてなりゆきで受けた東宝映画のニューフェイス試験で、遅刻した上に水着を忘れ、パンツ姿で面接したが見事合格したこと。生来の天邪鬼が顔を出し、天下の黒澤明監督にたてついてしまった新人のころ。大スター三船敏郎をはじめとする数々の名優との思い出。運命の出会いと結婚、そして36歳という若さで逝った最愛の娘。読む人の心を静かにそっと揺さぶる感動のエッセイ。
「印象派で「近代」を読む-光のモネから、ゴッホの闇へ」中野京子
タイトルは硬いけど、とても面白かった。
(タイトルどおり、「近代」が見えてくる)
それだけでなく、いろんな知識が増えて楽しくなる。
(興味深い箇所に付箋を貼りながら読んだけど、もう付箋だらけ!)
例えば、次の絵「シャルパンティエ夫人と子どもたち」。
典型的なブルジョワの邸宅。右隅に東洋風の小物が飾られている。
真ん中の少女は、この家の長男(!)である。
私は、てっきり次女だと思っていた。(それより、犬が「重たいやんけ!」と怒ってる?)
次の絵は、「グランド・ジャット島の日曜日の午後」。
右端の男女は夫婦と思っていた。
実際は、ドゥミ・モンディーヌ(高級娼婦)であろう、と。
さて、次が「エトワール」。
これは、「怖い絵」でも触れてあったけど、左端に黒い燕尾服の紳士がいる。
踊り子のパトロンであろう、と。
次のように書かれている。(P190)
バレエはオペラの添え物でしかなく、踊り子は売春婦と同義であり、プリマとして踊ったからといって実力があるとは限らず、単にパトロンの後押しによったのかもしれない、そういった歴史的事実です。
ドレフュス事件について書かれている箇所も面白かった。
自分で読んでみて。→(P72-75)
P108
日本には「清貧」という言葉があり、貧困をあまり恥と考えません。それについてはすでに戦国時代のイエズス会ヴァリニャーノ(イタリア人)が、ヴァチカンへこう報告しています。「貧困は日本人を罪悪感や卑しさへと駆り立ててない」。逆に言えば、西欧人は貧困によってそうしたものへ駆り立てられる、ないし駆り立てられると信じられている、ということになりましょう。
P116
ドガ「カフェにて」だけど、女性の前にあるのが、あの有名な「アブサン」。
二十世紀初頭に、製造販売禁止、ニガヨモギを主に、いろんな香草のエキスを混ぜたリキュールで、いわばアルコールと麻薬を混ぜたようなもの。強烈な幻覚作用があり、ゴッホとロートレックがアブサン中毒。(ロートレックは精神病院に入院し、ゴッホは左耳を切断した)
次いってみましょう。→(P117)
「ナナ」と言っても、矢沢あい作品ではない。
ナナというのは、固有名詞であると同時に、日本語でいう(少し古い言い回しかもしれませんが)「かのじょ」、もっと露骨には「愛人」の意味でも使われる言葉です。
シルクハットの紳士の目の前で、下着姿のまま堂々とお出かけ用の化粧をしているのですから、これはもう見間違いようもなく「囲われた愛人」ですし、豪華な邸は彼によって与えられたもの。このナナは高級娼婦、いわゆる「ドゥミ・モンディーヌ」とわかります。
ドゥミ・モンディーヌというのは、ドゥミ・モンド(=半社交界)に生きる女性のことを指します。上流階級人士には、半分しか入れない。パトロンと一緒なら入れるが、ひとりだと出入り不能。
以上、簡単に(ごく一部)紹介した。
興味が湧いたら読んでみて。
これはオススメ。
PS
日本では印象派が大流行。
毎年印刷されるカレンダーを見よ・・・印象派ばかりではないか!
この本を読めば、理由が(結果として)解る。
(あとがきだけ読んでも分かるけど・・・P210-211、P186)
【ネット上の紹介】
十九世紀後半のフランスに起こった絵画運動で、現代日本でも絶大な人気を誇る「印象派」。“光”を駆使した斬新な描法が映し出したのは、未だ克服せざる「貧富差」による“闇”であった。マネ、モネ、ドガからゴッホまで、美術の革命家たちが描いた“近代”とは―。
[目次]
第1章 新たな絵画の誕生;第2章 「自然」というアトリエ;第3章 エミール・ゾラをめぐる群像;第4章 キャンバスに映されたパリ;第5章 都市が抱えた闇;第6章 ブルジョワの生きかた;第7章 性と孤独のあわい;第8章 印象派を見る眼
以前から、海外での評価が高い谷口ジローさん。
今月初め、フランス芸術文化勲章「シュバリエ」章を受章したそうだ。
(叙勲式の日程は発表されていない)
(私が、谷口ジローさん、と聞いて、まず思い出すのが、『坊っちゃん』の時代(全5部)かな)
漱石先生麦酒酔余の行状について
印度洋上で瞑目する
明治四十二年四月三日 烟雨
秋水捕縛
雨降る
http://natalie.mu/comic/news/50671
http://mainichi.jp/select/world/news/20110604ddm012040057000c.html?inb=yt
6/19(日)、第1回ボルダリングコンペティションKYOTOが、ルカラで開催された。
(先日、たまたま知った。もしかして、ルカラで初めてのコンペ?準備等大変だったでしょうね)
どうやら、国体京都府予選を兼ねていたようだ。
カテゴリーは、次の3種類。
リザルト等、リンクしておく。
【カテゴリー】
オープン 目安:OS1 級以上程度 ※国体京都府予選 成年男子に該当
ミドル 目安:OS2 級以下程度 ※国体京都府予選 少年男子に該当
ファン 目安:OS3 級以下程度 ※国体京都府予選 成年・少年女子に該当
「夫の彼女 」垣谷美雨
極限状態を設定して、その行動・心理を描いた作品が好き。
この作品もそれに当てはまる。
夫の愛人と、妻が入れかわる、って設定。(これはツボだ!)
展開や落としどころも、読む前から分かる。
それでも読むのは、こういった作品が好きだから。(演出も楽しみたいし)
果たして予想どおりだったけど、充分楽しめた。(満足、満足)
さて、「入れかわる」、って作品はいくつかある。
古典では、「王子と乞食」(マーク・トウェイン)、「ゼンダ城の虜」(アンソニー・ホープ)。
日本では、「とりかえばや物語」と、それをリメイクした「ざ・ちぇんじ」(氷室冴子)。
「おれがあいつであいつがおれで」(山中恒)(映画「転校生」の原作)小学6年生の男の子と、転校生の女の子が入れかわる話。
「秘密」(東野圭吾)妻と娘を乗せたバスが転落。娘だけが助かった、と思ったら、その身体に宿っていたのは妻だった、って話。
「パパとムスメの7日間」(五十嵐貴久)タイトルどおり、父と娘が入れ替わる話。
ハリウッド映画では「フォーチュン・クッキー」母と娘が入れ替わる話。
なお、似たタイトルで「クッキー・フォーチュン」があるが、こちらはロバート・アルトマン監督の群像劇。(秀作)
PS
他の、垣谷美雨作品では「リセット」がおもしろい。
過去に戻ってやりなおしが出来たら、って設定。
名作「リプレイ」のバリエーションだけど、楽しめる。
【ネット上の紹介】
夫(42)の浮気を疑った妻(39)が、相手の女性(20)に会いに行く。言い争っていると、突然現れた老婆が、物事は相手の立場になって考えることが大切、と言い、ふたりを入れ替えてしまう。確かに相手の立場にはなったけれど、この先、どうやって生きていけばいいの!?書き下ろし長編if小説。
「おじさんとおばさん」平安寿子
先日、「さよならの扉」を読んだが、よかったので、また平安寿子作品を読んだ。
物語は同窓会から始まる。
久しぶりに集まった小学校時代の同窓生。
お互い50代、「おじさんとおばさん」、である。
いくつか文章を紹介する。
さすがに、おばさんの心理描写が卓越している。
P44
夫というものは、妻に楯突かれるのが一番イヤなのだ。しかし、亭主の威厳を振りかざして頭ごなしに叱りつけるのも、苦手である。
どうしたらいいかわからないから、むっつりする。もって、「俺は怒っている」「だから、おまえがなだめないとスメまくるぞ。不愉快が続くぞ。早く、なんとかしろ」とアピールするのだ。めんどくさいったら、ありゃしない。
P46
しかし、手に届きそうなところにいる夫以外の男を、こっちが結婚しているからという理由で片っ端から切って捨てる主婦というのも、皆無である。(中略)
もしかしたら、思いがけず素敵なおじさんになった誰かとの「出会い」があるかも。
スターはウインドー越しに見るだけのブランド服だが、普通の男はバーゲン商品のようなものだ。
P49
結婚して以来、緑は明以外の男と寝たことがなく、それもここ十年ご無沙汰だ。しない習慣がついたら、せずでもオーケーの身体になった。
しかし、まあ、あれは自転車と同じで、ちょっと練習すればカンは取り戻せる。
P77
おじさんを見る目も優しくなった。性的対象として見ていた頃は差別していたしょぼさや加齢臭も、自分の老化と重ね合わせて「お互い、大変ね」と、ねぎらう気持ちになれる。
しかし、こんな風に余裕ができると、そこに甘えたくなるらしく、ときどき、おじさん及び一世代下のお兄さんからお声がかかる。
これがどうにも、うっとうしい。「女」を期待されたくないのだ。
女であることはわたしの属性のひとつであって、全部ではない――これは、80年代フェミニズムのスローガンだ。
当時三十台の久美子は、こんな言い方をする女になりたくないと思った。
(中略)
ところが、更年期を過ぎたら、このスローガンがピッタリ!
P197
歯止めのきかない老化現象は、もはや努力と根性ではカバーしきれない。
(中略)
限界が見えてくる。それが五十台の「大台」たるゆえんだ。
だから、若い頃のように多くを望んで四方八方、闇雲に手を出し、首を突っ込みして、時間を浪費するわけにはいかない。第一、多くを望む膨大で無防備な気力が無い。というか、望みを持つこと自体、忘れてしまうのだ。
解決できない問題を、いつも両手一杯に抱えている。立っているだけで精一杯。それが、五十台だから。
以上、文章紹介オワリ。
かゆいところに手のとどく文章だ。
ところで、私が今まで読んだ平安寿子作品は次のとおり。(スターグレード+覚書日付)
「もっと、わたしを」★★★★★2005/6/18
「センチメンタルサバイバル」★★★☆2005/4/16
「グッドラックララバイ」★★★☆2005/4/30
「素晴らしい一日」★★★★☆2005/4/30
「くうねるところにすむところ」★★★★2006/7/2
「わたしにもできる悪いこと」★★★★2009/5/16
「さよならの扉」★★★★☆2011/6/2
「おじさんとおばさん」★★★☆2011/06/18
【ネット上の紹介】
ひさかたぶりの同窓会に集まった男女たち。みんなもうおじさんとおばさんで、体力気力は落ち気味、介護や子供たちの就職にと心配の種もつきない。しかし、初恋の人に会えば胸がきゅんとし、同時代のテレビ番組、漫画、流行歌を思い出すと懐かしさに気持ちが温かくなる。幾つか新たな同級生カップルもできたが、その恋の行方は?熟年こその「希望」を求める50歳を過ぎた人々に、愛をこめて贈る同窓会小説。
「中央モノローグ線」に竹書房4コママンガ誌オフィシャルサイトをリンクした。
サイト内を見ていたら、猫占いを見つけた。
こちらです・・・→猫占い
ちなみに、私はアメリカンショートヘア(大海)、でした。(当たるも八卦)
「中央モノローグ線」小坂俊史
中央線沿線に住む様々な年齢職種の女性達。
彼女たちのモノローグを四コマ漫画で描く。
P25
武蔵野境の中学生キョウコです
今日から体育はプールの授業です
私たちの住む武蔵野には、溺れるほど大きな川や池が、あるわけでもなく
海といえば、溺れる隙間もないほどの、イモ荒いの海岸しか知りませんが
補修を受けずにすますために、私たちは泳ぎを覚えます
世の中の泳ぎ方を教わっているのかもしれません
P75
桜並木は中野駅周辺で、突然貧弱になるのですが
これには理由があって、この一帯は数年前まで、
いちょう並木だったのを抜いて、植え替えたのです
気持ちはわかるけど、微妙に肯定しにくい、知られざる駅前再開発です
貧弱な若桜を見るたびに、イチョウがどうなったのか、モヤッとしてしまうので
そんな事も忘れるような立派な桜に、なってほしいのですが
かたわらの歩道柵には、東京都のシンボル、いちょうマークがあるという
いろんな意味で東京らしい話
・・・文章で紹介しても、イマイチ雰囲気でないかな?
ところで、関西人には馴染みのない中央線。
出来たら関西バージョンを創作してほしい。
阪急京都線、大阪環状線モノローグ、とか。
【参考リンク】
竹書房4コママンガ誌オフィシャルサイト
小坂俊史『中央モノローグ線』 (06/10)
語る四コママンガ『遠野モノがたり』
小坂俊史(ウィキペディア)
【ネット上の紹介】
中野、高円寺、阿佐ヶ谷、荻窪、西荻窪、吉祥寺、三鷹、武蔵境。JR中央線沿いの街に住む8人の等身大な「今」を描く青春群像劇!!
「花桃実桃」中島京子
先日「小さいおうち」を読んだが、わりと良かったので最新作「花桃実桃」も読んでみた。
父が亡くなったのを機に、OLを辞めて父の残したアパートの大家さんになる。
ところが、このアパートの住人、変なヤツばかり。(幽霊も出るし)
そしていちばんヘンなのは、大家さんだったりして。
いくつか文章を紹介する。
P66-67
「やらなきゃ、まずいかな」
「そりゃ、まずいでしょう、初盆だよ」
「しかし、めんどくさいな。誰か、人、来んのかな」
「来るのは、人じゃなくて、坊さんだよ。他人は、自分とこの盆で大忙しだもの。お兄ちゃんちと、私で、十分じゃないの。呼ぶほど、親戚もいないしさ。でも、お坊さんは呼ばなくちゃ。初盆だもの」
「なあ、さっきからおまえ、気になるんだけど、ウイボンじゃなくて、ハツボンじゃねえのか?」
「え?ハツボン?」
「ハツボンだろ。ウイボンじゃないよ。ウイボンって、おまえフランス語じゃ、ねえんだから。それよりどっちかつーと、ニーボンじゃねえ?」
「え?ニーボン?アラボンじゃないの?」
「なに?アラボン?聞いたことねえ。おまえ、あいっかわらず、漢字よえーな」
ちなみに、初盆=はつぼん。新盆=にいぼん。あらぼん。
P255-257
「The one close to me now,
even my own body
these too
will soon become clouds,
floating in different directions.」
(中略)
「これはかなり謎かけだった。あきらかに百人一首ではないし。花村さんが和泉式部を英語で読むとは知らなかった」
「私が、誰を?」
(中略)
「『近く見る人も我が身も/かたがたに/漂ふ雲とならむとすらむ』。これを見つけたときは衝撃だったよ。考えさせられた。いまは近く思っても、漂う雲のように別々の方向へ流れていくなんて悲しいと、そういう歌だよね、これは。つまり結局僕は、僕の都合だけを花村さんに押しつけて、磯際で船を破ることになりかねなかったんじゃないかと」
「磯際で船を破る?」
以上、文章紹介オワリ。
とぼけてるのか、ぼけてるのか、よくわからない花村さん。
なかなかユニーク、ではある。
PS
ちなみに、今まで私の読んだ中島京子作品は・・・
「だいじなことはみんなアメリカの小学校に教わった」(=「ココ・マッカリーナの机」(改題文庫化)
「イトウの恋」
「平成大家族」
「小さいおうち」
そして今回の「花桃実桃」
私のいちばん好みは「平成大家族」かな。
【ネット上の紹介】
40代シングル女子まさかの転機に直面す。昭和の香り漂うアパートでへんてこな住人に面食らい来し方をふり返っては赤面。行く末を案ずればきりもなし…ほのぼの笑えてどこか懐かしい直木賞作家の最新小説。