「みかづき」森絵都
とても面白かった。
昭和36年、大島吾郎は、勉強を教えていた児童の母親とともに学習塾を立ち上げる。
その子どもたち、さらに孫の世代と時代は移り変わっていく。
「塾」「教育」をテーマにした戦後史とも言える。
この作品を見逃してはいけない。
お薦めです。
P6
勉強ができない子は集中力がない。集中力がない子は瞳に落ちつきがない。この〈瞳の法則〉を見出して以来、吾郎はまず何よりも彼らの視線を一点にすえさせることに腐心した。
P25
「大島さん。私、学校教育が太陽だとしたら、塾は月のような存在になると思うんです。太陽の光を十分に吸収できない子どもたちを、暗がりの中に照らす月。今はまだ儚げな三日月にすぎないけれど、かならず、満ちていきますわ」
【おまけ】
久しぶりに、森絵都作品を読んだ。
もし、(本作以外で)森絵都ベスト3を選ぶとしたら…。
【ネット上の紹介】
昭和36年。小学校用務員の大島吾郎は、勉強を教えていた児童の母親、赤坂千明に誘われ、ともに学習塾を立ち上げる。女手ひとつで娘を育てる千明と結婚し、家族になった吾郎。ベビーブームと経済成長を背景に、塾も順調に成長してゆくが、予期せぬ波瀾がふたりを襲い―。山あり谷あり涙あり。昭和~平成の塾業界を舞台に、三世代にわたって奮闘を続ける家族の感動巨編!
「秋萩の散る」澤田瞳子
澤田瞳子さんの新刊。
奈良時代を舞台にした歴史小説・短編集。
阿倍上皇(孝謙上皇)、恵美押勝(藤原仲麻呂)、吉備真備、道鏡も登場。
次の5編が収録されている。
凱風の島
南海の桃李
夏芒の庭
梅一枝
秋萩の散る
P118
五常とは人が守るべき徳目たる、仁・義・礼・智・信。また五倫とは父子の親、君臣の義、夫婦の別、長幼の序、朋友の信の五つの道徳。これらを備えた君主とその意を受けた官吏によって、国は治められるべきというのが、儒教の統治観であった。
PS
嬉しいことに「孤鷹の天」のキャラクターも出演。
デビュー作なので思い入れがあるのでしょうね。
「孤鷹の天」2010年・・・「孤鷹の天」澤田瞳子
【ネット上の紹介】
わしと共に、京の者たちを呪い殺そうとは思わぬか――。薬師寺別当に任命され、遠い京から下野国にやってきた道鏡は、行信という僧から禍々しい誘いを持ちかけられる。一瞬、道鏡の心を過ぎったのは……。日本の威信と将来を担う人々の姿、奇跡のような瞬間が、奈良の都に満ちる。『若冲』の著者による、人生の機微に触れる傑作歴史小説
イギリス料理はなぜ不味いか?
常々、私も疑問に思っていた。
フランス、イタリアなど、カトリック系の国の料理は美味い。
その旧植民地の料理も美味い。
逆に、イギリスの旧植民地…ニュージーランド、オーストラリア、アメリカの料理は不味い。
(香港は例外…中国三千年の歴史のせいか?)
結果として、ピューリタン系は不味い、という事になる。
2016.11.12朝日新聞
「たてもの怪談」加門七海
七海さんと言うと若竹七海さんを思い出すかもしれない。
若竹七海さんはミステリ作家。(コージー・ミステリの印象が強い)
一方、加門七海さんは、俗に言うオカルト作家。
民俗学・風水に造詣が深く、そっちの感度も良く、心霊体験豊富。
今回読んだのは、建物にまつわる怪談話。
ある日、著者は、「引っ越しをしよう」と決意する。
そこから物件探しが始まる。
普通、間取り、便利さ、金額を考えて、絞り込む。
しかし、そこは加門七海さん、単純にはいかない。
家相、風水、歴史、治安、霊能者への問い合わせ、氏神様、方角。
そして、やっと住むべきマンションを決定。
次にするのは、新居の清祓。
氏神様の宮司に来て頂く。
こうしてやっと、引越完了。
だがしかし、超常現象続出、である。
普通の方なら、耐えられないでしょう。
P94
自慢ではないが、どんな場所でも、私が一定期間逗留して、何も現れなかったことは、今まで一度たりとない。
P244
今の家に越してから、私はモノノケ対策として箒を買った。
箒というのは、本来、女性が用いる呪具で、神の宿るものでもあるからだ。
実際、正倉院には孝謙天皇が用いたという「玉箒(たまははき)」が収められている。これは正月三日、子の日の儀式において、蚕部屋を清めるために用いられた。
埃だけではなく、罪・穢れ・禍までも、箒は掃き清めるとされたのだ。
最近ではあまり見かけないが、「高砂」で描かれる媼が箒を持っているのも同じ理屈だ。
婦人の「婦」という文字が、女性が箒を持つ姿を表しているのも、同様の意味を持っている。これを差別的というフェミニストもいるのだが、本来、この文字は魔力・呪力に富んだ女性の力を示している。西洋の魔女が箒に乗るのも、遠いところで繋がっている。
つまり、箒は女性にとって、最強の魔除けアイテムなのだ。
[目次]
引越物語
道の話―終わらない話
幽霊文化財
ホーンテッド・スウィート・ホーム
夜遊び好き…らしい
ひとり旅の醍醐味
お化け屋敷の話
東京の「顔」―風水の話
在宅怪談
【ネット上の紹介】
幻の原稿、そして、4編の書き下ろし!;ファンの間では「幻の原稿」と呼ばれていた、自身の引越しを綴った長編オカルトエッセイがついに書籍化! また、本書のために、新たに4編を書き下ろし。自宅での恐怖体験や、訪れた文化財で出会った“この世ならざるモノ”、東京の最新風水考察など、オカルト好きならたまらないテーマが詰まっています。「建築」と「妖しいモノ」をこよなく愛する江戸っ子オカルト作家・加門七海ならではの、ゾクゾクッとイキのいい、実話怪談をご堪能ください。
「なんでわざわざ中年体育」角田光代
角田光代さん(1967年生まれ)が様々なスポーツにトライする体験エッセイ。
表紙の写真は、著者がボルダリングにトライしているところ。
P92
ものすごく高く感じる。こわくて飛び降りることができない。足場をさがして下りればいいのだが、見えない。壁に張りついたまま、
「下りることができません」
だいじょうぶ、下、マットですから。両手離してだいじょうぶです。そう言ってもらえるが、ああ、でも、こわい。
このときようやく、私は無意識にボルダリングをなめていたことに気づいた。こんな、壁をつたって縦横無尽に移動することなんて、私には一生できるはずがないではないか。しかも、私は高所恐怖症なのだ。やろうやろう、という自分の軽率な答えが悔やまれる。
著者は、登山にもトライしている。
P186
今回学んだのは、相性の合う山に登ると心底楽しい、ということ。だから、できるだけ自分の好みをはっきりさせておかなくてはらない。交際する相手のように。
他にも、マラソンやトレランにも挑戦している。
那覇マラソンなど、よほど楽しいのか、毎年参加して、4回分のコラムを書かれている。
応援やサポートが格別なのでしょうね。
『中年体育心得8カ条』
P260
●中年だと自覚する
●高い志を持たない
●ごうつくばらない
●やめたくなったら、やめる前に高価な道具をそろえる
●イベント性をもたせる
●褒美を与える
●他人と競わない
●活動的な(年少の)友人を作る
【ネット上の紹介】
中年たちは皆、運動を始める。フルマラソンに山登り・ボルダリング。人気作家が果敢に挑戦した爆笑と共感の傑作エッセイ集。
「山の神さま・仏さま 面白くてためになる山の神仏の話」太田昭彦
仏教では33や88、108などの数字は無限を表す数字。
88は四国霊場の札所の数。
42(男の厄年)+33(女の厄年)+13(子どもの厄年)=88
また、神社の数は約10万社、お寺の数は約7万5千ヶ寺、だそうだ。
ちなみに、コンビニは全国5万店舗。
…このようなトリビアが詰まっている。
P44-45
神社の建物には朱色がよく用いられていますが、朱色も血液の色に似ていますね。その朱色は、生命力を表すと同時に、厄を除ける力が備わっているといわれます。
P162
日本百名山としても知られる月山は、羽黒山、湯殿山を合わせて出羽三山と呼ばれています。東北を代表する一大山岳霊場です。羽黒山は現在、月山は過去、湯殿山は未来を表しています。(湯殿山で体験したことは「人に聞かれても語らないように、語る者がいても聞かぬように」と戒律があるそうだ。お湯が沸き出していて裸足でご神体に向かうそうだ…一度登ってみたい)
【ネット上の紹介】
昔から日本の山は宗教と深く結びついている。山名や地名の由来はもとより山が与えてくれるパワーの存在を知れば知るほど山が好きになるに違いない。
[目次]
第1章 山の神仏についての雑学(山を数える単位は、なぜ一座、二座なの?
人はなぜ、山を敬うのか? ほか)
第2章 主な神さまと山(神さまって何ですか?
筑波山に鎮座する、イザナギとイザナミの神 ほか)
第3章 仏教に学ぶ登山の知恵(仏教に学ぶ安心登山の知恵
憧れの山に登るためのお釈迦さまの教え ほか)
第4章 山岳宗教と密教(山岳修験道とは何か?
修験道発祥の地・金峯山寺と役行者 ほか)
第5章 山で神仏を感じる(北海道の山々で、カムイを感じる
神仏の魂が宿る植物 ほか)
「火竜の山 南アルプス山岳救助隊K-9」樋口明雄
シリーズ4作目。
他県に新設された山岳救助隊のため、講演に訪れた夏実と静奈。
ネットで集まった登山者たち、誘拐された子どもと犯人。
さらに、組から差し向けられたヒットマン。
そこに、休んでいたはずの山が噴火する。
手に汗握る展開で、一気読みの面白さ。
噴火が始まる中をメイは疾走する
P281-282
メイは踵を返し、四肢を駆って走った。
怖かった。これまで味わったことのない恐怖だった。
それでも大切な相棒である夏実のことを想い、無我夢中で疾走した。何度か、小さな噴石が背中や頭に当たった。そのたびにメイは身をよじり、悲鳴を上げた。どこかの穴にでも逃げ込みたかった。
しかしハンドラーの夏実への強烈な想いが自分を疾走させた。
夏実を助けなければ――。
【ネット上の紹介】
これは、ただの“災害現場”ではない! アドレナリン全開の極上エンタテインメント。高速道路が開通して人気の新羅山。新設された山岳救助隊のため講演に訪れた南アルプス警察署の夏実と静奈、登山サイトの同行者募集に応じた沙耶、そして一人さまよう傷だらけの少年……山に噴火の兆しが現れた時、人間たちの絆が試される。パニック・アクション×クライム・サスペンス=一気読み必至の山岳ミステリ!
福知山線廃線跡ハイキング。
生瀬――武田尾、武庫川沿い4.7km。
以前は「黙認」であったが、本日から正式に一般開放された。
2012.11.15朝日新聞
トンネルがいくつも出て来る。
「開放」された今はどうか知らないが、昔は真っ暗であった。
(装備としてヘッドランプ必携)
2016.11.12朝日新聞
気分は、「スタンド・バイ・ミー」か?
「失踪.com 東京ロンダリング」原田ひ香
これはおもしろかった。
ひとつひとつの章が、独立した短編のようになっている。
登場人物の感情が丁寧に描かれていてレベルが高い。
通して読むと、それぞれの章に繋がりが出て来るのが解る。
ミステリ仕立ての趣向になっている。
妻から離婚を告げられる夫…この科白は怖い!
P97
「あなたから取れるものは、すべてしぼりとるつもり。ケツの毛一本だって逃がさない。一生、私たちに尽くすのよ。かりんとも会わせない。無駄遣いしないようにね。再婚なんてできないようにしてやる。覚悟しておいた方がいい」
P137
「若い人は二言目にはプライバシー、プライバシーって言うけど、プライバシーじゃ飯食えないんだから。プライバシーを飛び越えて、できたつながりとか、関係だからこそ、お互い面倒も見るし、迷惑と感じないようになるんだよ。(後略)」
本作品は「東京ロンダリング」の続編であるが、前作を読んでいなくても、十分楽しめる。
(もちろん、読んでいたら、より楽しめる)
久しぶりに、原田ひ香作品を読んだが、進化していた。
嬉しい驚きである。
他の作品も読んでみようと、って気になった。
「東京ロンダリング」原田ひ香
【ネット上の紹介】
事故物件に住み部屋をロンダリング(浄化)する人材を斡旋する相場不動産。ある時から、なぜかその関係者が次々と相場不動産を離れていく。背後に妨害工作の動きを察知し、調査を始めた仙道は、とある事実を突き止める。相場と共に、巨大勢力と戦おうと立ち上がった仙道が決断したこととは…。
「風雲児たち」(4)みなもと太郎
なぜ鹿児島と岐阜県が姉妹県なのか?
本作品を読んで分かった。
薩摩藩が木曽三川の改修工事を行ったから。
木曽三川(右側から木曽川、長良川、揖斐川)について
P18-19
なぜ暴れ川になるのかというと
三つの川の水面の高さが違うせいだわ
木曽川が長良川より四尺半高く
長良川が揖斐川よりやはり四尺半たきゃあので
毎年長雨がつづくと
まず木曽川の水があふれ堤を破壊し
凄まじい勢いで長良川から揖斐川へ落ちこみましょーが
平賀源内が天才であったことが分かる
「風雲児たち」(3)みなもと太郎
シリーズ3作目。
思っている以上に内容は深く、
勘ちがいや思い込みを正される。
幕府のほうでは水戸家を
「天下の副将軍」とは思っていないし
そんな役職も存在しないのだが
水戸家のほうで勝手に
「うちは副将軍だぞ」と思ってしまったのは事実である
浅野内匠頭は勅使(天皇の名代)を迎える場所で刃傷を起こし
当時水戸思想にかぶれていた将軍綱吉が怒って切腹を命じたのだから
勤王の志士がこの事件をほめるのはトンデモないまちがいなのです
「介護ヘルパーは見た」藤原るか
介護の現場はどうなっているのか?
介護保険をうまく利用する方法は?
20年以上の経験をもつ著者がレポートする。
P28
こと介護に関してはがんばりすぎない方がいいように思います。親の介護は子どもの世話と違って長期戦になる可能性があります。1人で抱え込まず、自治体の相談窓口や外部の支援機関などに相談することが鉄則だといえるでしょう。
認知症予防に有効な食事
P102
食事に関して近年注目されているのが、ビタミンE、ビタミンC、ベータカロテン、ポリフェノールといった抗酸化物質です。
とくに脂質に関しては、イワシやサンマ、サバなどの魚油に含まれるオメガ3系の不飽和脂肪酸がいいといわれています。実際、魚を多く食べていると、アルツハイマー病予防に効果的だという報告もあります。
P124
これから親の介護をしようと思っている方は、おもつ交換もするのだと覚悟を決めてください。そういう心の準備をしておくだけでも、介護のストレスは軽減されると思います。
【ネット上の紹介】
親の介護は決して他人事ではない。統計によると、75歳以上の4人に1人は、一人暮らしが困難となるからだ。では実際に在宅の介護現場ではどんなことが起こっているのか?1人になると寂しくてウンチをこねくり回すおじいちゃん、ありったけの宝石を身につけてお風呂に入るおばあちゃんなど、想像を絶する世界がそこにはあった。20年以上介護ヘルパーとして働く著者が、これから介護する人、介護される人が直面する現実をリアルに伝える、衝撃の一冊。
[目次]
第1章 介護はある日、突然やってくる
第2章 恐るべし、認知症
第3章 コツさえわかれば、認知症はこわくない
第4章 やっかいなのは認知症だけじゃない
第5章 介護でわかる家族の素顔
第6章 介護を乗り切れる人、つぶれる人
第7章 介護保険制度をうまく利用するコツ
第8章 ヘルパーが見た介護業界の現実