「家裁調査官・庵原かのん」乃南アサ
ベテラン作家・乃南アサさんの新作・連作長編。
大きな盛り上がりはないけど、事件、少年たちが淡々と描かれ、その距離感がいい。
P62
少年が事件を起こした場合、その処理の流れは一本ではない。
P217
「外国籍だと、日本の義務教育制度からこぼれ落ちちゃうんだそうです。(後略)」
P257
ADHDとは注意欠陥・多動性障害といって、発達障害の一つとされている。
P258
ASDというのは発達障害の中で、自閉症スペクトラム障害と分類される疾患だ。
P268
ASDという分類でひとまとめにされるまでは、アスペルガー症候群と呼ばれていた。
P334
「人を恨んだり憎んだりっていう気持ちは一度持っちゃうと、胸の奥に根を張るみたいになるの。それでだんだん、自分の栄養が吸い取られていくんだよね。(後略)」
【ネット上の紹介】
の面会を繰り返す中で、やがて彼女はあまりにも厳しい家庭の事情や優しくない社会の現実に直面していく…。地方都市での家裁調査官の活躍を通して、令和日本の姿を浮かび上がらせる名作誕生。
「ミステリーの系譜」松本清張
松本清張氏によるノンフィクション。
実際あった犯罪を解説している。
次の3編。
①「闇に駆ける猟銃」・・・「津山三十人殺し」昭和13年
②「肉鍋を食う女」・・・「群馬連れ子殺人・人肉食事件」昭和20年
③「二人の真犯人」・・・「鈴ヶ森おはる殺し事件」大正4年
①は、いわゆる「津山事件」で、横溝正史「八つ墓村」のモチーフになったと言われる。
岡山県僻村、閉鎖社会、旧い因習の残る横溝正史作品そのままの舞台背景。2時間足らずで28人殺し、のち2名死亡で、30人殺しとなった。
②は、旦那の連れ子を継母が煮て喰った、とんでもない事件。継子殺しはよくあるが、喰ってしまうのは珍しい。
③は冤罪を扱っている。警察が「証拠」を捏造して犯人をでっちあげた背景を、リアルに解説。さすが松本清張氏で、読んでいて納得させられた。警察あるある、なんでしょうね。
P27
山村の夜這いという性的風習については、現在の若い人にはすでに意味が通じなくなっている。これは交通の不便と娯楽機関のない閉鎖的な環境の中で昔から行われてきた混交慣習であった。(悪く言えば性的にルーズ、良く言えばおおらかだった、と。獅子文六氏の小説でも、客人に対して、自分の奥さんを提供して「もてなす」シーンが出てくる)
P29
睦雄が1時間のうちに単独で30人もの人間を殺したことから、いつも問題になるのは彼の精神状態である。だが、遺伝的にはその証明はない。
P67
人はだれでも他人からの日常的な被害感を持っている。悪口、軽蔑、中傷、妨害――それは「加害者」が気づかぬくらいに作為のない、些細なことであっても、受けた側の精神的な傷は存外に深いものである。被害感の感受性に鋭敏な者ほどそうである。それはほとんど妄想に近いくらい、いつまでも忘れない。
P103
一度関係をし、また関係を求めた女性は己の独占物のように考えている。自分は幾多の女性に歪んだ関係を持ちながら、その女性が自分より去ると激しい憎悪を以てこれに報いている。他人の権利や人格を全く認めないで自己の所有物のように考えて、何事もほしいままに結論しては勝手に行為している。
P172
小原直といえば、司法検察に塩野閥対する小原閥という2大潮流をつくった一方の元締めである。すなわち、塩野の思想検察系に対し、小原は刑事警察を主体とする系統であった。この二大閥の暗闘は今でも司法史の語り草になっている。
【参考リンク】
「夜見の国から 残虐村綺譚」池辺かつみ
私の知る限り、「津山事件」を元にしたマンガは、
池辺かつみさんの「夜見の国から」と、
山岸凉子さんの「負の暗示」だ。(「天人唐草」に収録)
【ネット上の紹介】
一夜のうちに大量殺人を犯す「闇に駆ける猟銃」、継子の娘を殺し連れ子と「肉鍋を食う女」など、人間の異常に挑む、恐怖の物語集。
「高齢初犯」NNNドキュメント取材班
高齢者が、突然、犯罪を犯してしまうことがある。
それって、どういうこと?
どんな経緯でそういうことになったの?
P22
高齢者ストーカーの場合、若いストーカーにくらべて常軌を逸する行為に出るまでの時間がかからない。突然豹変し攻撃を始める。
また、ストーキング対象が高齢者の場合でも、男性の方が嫉妬深くて追いすがる傾向がある。退職後、ボランティアやサークルに参加するようになったものの、会社のように肩書があるわけでも、上下関係があるわけでもない。グループに溶け込めずにいる男性をあたたかく受け入れてくれる女性に寄りすがり、恋をしてしまうパターン。(高齢者はヒマだから。有り余る時間を持てあまして思い詰めるのかも?・・・自戒を込めて書いておこう)
P23
「こんな俺が拒絶されるはずがないと思っているような気がします。とにかく、プライドが高いのに人としての弱さがある。受け入れもらえないと、自分を全否定されたような気になって自暴自棄になるんでしょうかねえ。また、拒絶されることに慣れていない。孤独を受け入れることがとても苦手なのです」
P25
「自分探しをやめれば楽になる。一旦、孤独であることを受け入れてみること。そして犬を飼うなどして新たな役割を見つけることでストーキング行為はおさまっていく」(「自分探し」、って何よ!・・・若いときにするものだと思っていた!)
P26
「この仕事をはじめて15年間、一度も農業を生業にしているストーカーに会ったことがないんです」
P134
身内や近しい間柄の人に対する凶悪事件が増えているのも、高齢初犯の特徴であることもわかった。若い人が凶悪事件を起こす場合、相手が多岐にわたり、犯罪目的や場所も状況もさまざまだということだ。それに対し、高齢者は家族、知人や友人、隣人など比較的近しい人間関係の中で殺人や放火等の事件が起きている。(文脈から「起こしている」とした方が良いかも?)
【ネット上の紹介】
2013年12月に日本テレビ系ドキュメンタリー番組「NNNドキュメント」で放送され話題となった「高齢初犯」。ごく普通の高齢者が、ある日突然「魔が差して」罪を犯してしまう事件が増えている。本書は、高齢犯罪者10名へのインタビュー内容をもとにその恐るべき実態と背景を明らかにする。また、そこに陥らないための方策を「7つの習慣」としてまとめた。
第1章 高齢初犯はなぜ増えているのか―もはや他人ごとではない
第2章 高齢者はなぜ犯罪に走ってしまうのか―魔が差す瞬間とは
第3章 高齢者はなぜ犯罪に走ってしまったのか―犯行後のこころの軌跡
第4章 日本だけが、なぜこんなことになっているのか
第5章 NNNドキュメント「あなたは、なぜやったのですか?増え続ける高齢初犯」放送を終えて
第6章 高齢初犯に陥らないための「7つの習慣」
「一橋桐子(76)の犯罪日記」原田ひ香
老親を見送った桐子は、76歳になっていた。
わずかな年金と清掃のパートで細々と暮らしている。
このままだと孤独死して人に迷惑をかけてしまう。
そこで、刑務所に入って孤独死を逃れようと悪戦苦闘する日々が始まる。
どんな犯罪が人に迷惑をかけず、長く刑務所暮らしができるだろうか?
結婚詐欺のターゲット
P191
「まず、騙せそうな男・・・・・・ターゲットをどんな場所で探すのか、というところから始まったの。やっぱり病院とか美術館、博物館、歌舞伎、ワインの研究会なんかがいいんですって・・・・・・お金があって孤独な人が多いから。子どもたちとは別居で、奥さんに先立たれて1人暮らしな人。そういう老人と仲良くなって、少しずつお金を引き出す」(全財産の10%から20%を引き出すのが目安らしい・・・その程度なら、男もプライドがあって、警察沙汰にしないから。表に出る数字は氷山の一角、と言える)
【感想】
思った以上におもしろかった。
読後感も良い。
その理由は、ヒロインの好感度の高さにある、と思う。
いつのまにか、応援しながら読んでいた。
(今まで読んだ中で、最高齢のヒロインだ)
【おまけ】
原田ひ香作品では、過去に次のような作品を読んだ。
「東京ロンダリング」「彼女の家計簿」がおすすめ。
【ネット上の紹介】
万引、偽札、闇金、詐欺、誘拐、殺人。どれが一番長く刑務所に入れるの?老親の面倒を見てきた桐子は、気づけば結婚もせず、76歳になっていた。両親をおくり、わずかな年金と清掃のパートで細々と暮らしているが、貯金はない。同居していた親友のトモは病気で先に逝ってしまった。唯一の家族であり親友だったのに…。このままだと孤独死して人に迷惑をかけてしまう。絶望を抱えながら過ごしていたある日、テレビで驚きの映像が目に入る。収容された高齢受刑者が、刑務所で介護されている姿を。これだ!光明を見出した桐子は、「長く刑務所に入っていられる犯罪」を模索し始める。
「息子が人を殺しました」阿部恭子
犯罪加害者の家族に焦点を当てたノンフィクション。
犯罪が起きると、マスコミが押し寄せる。
家族は巻き込まれ、プライバシーはなくなり、世間に叩かれる。
それって、被害者の「救済」に繋がるのだろうか?
「犯罪抑止力」になるのだろうか?
著者は、日本で初めて加害者支援を始めたNPO代表。(WorldOpenHeart)
P40
当団体の相談は無料だが、転居や就労支援にあたって、相談者の経済状況を確認することもある。実感としては、経済的に「中流」と言われるような家庭が多い。
P42
相談者の中で、重大事件の家族のみを対象に、逮捕から判決確定までにかかった費用を調査したところ、平均金額は、約600万円だ。
息子が強制わいせつ致傷罪で逮捕されたAさんの場合、3名の被害者に100万円ずつ示談金を支払い、私選弁護人の費用に300万円を要した。
夫が出張中に強姦致傷罪で逮捕されたBさんは、被害者に300万円を支払い、夫が逮捕された場所が遠方であったことから、面会のための旅費に、判決確定まで約50万円を要した。
息子が振り込め詐欺事件の犯人のひとりとして逮捕されたCさんは、示談金として500万円を支払い、私選弁護人の費用に100万円を要した。
未成年の息子が傷害致死罪で逮捕されたDさんは、遺族に1000万円の支払いをした。
A~Dの相談者に資産家はいない。自宅を売却したり、親族から集めたり、借金をするなどして捻出したお金である。子どもの教育費や老後の蓄えは、一瞬にして消えてしまう。(中略)
被害弁済や損害賠償の支払いは加害者本人の責務であり、家族が必ずしも負担する必要はない。しかし、社会的責任を強く感じている加害者家族は、経済的援助に積極的な傾向にある。(加害者の子どもが未成年だと学費が払えず転校を余儀なくされたり、退学に至ったりする。離婚して家庭も崩壊する。いったいどこまで家族に「責任」があるのだろうか?家族の誰が犯罪をするかで変わる。子どもが犯罪者だと、どうしても親は追求される)
P133
痴漢で逮捕された男性がまず心配するのは、「会社をクビにならないか」ということだ。家族への影響よりも、自分の社会的な地位や自由を奪われることの方が心配なのである。(本人は拘置所や刑務所の中で蚊帳の外、となり、逆に、家族はマスコミや世間の非難にさらされる)
P177
また、家族内の問題を社会批判にすり替えてしまう人たちもいる。
(中略)
社会に対する批判的態度があまりに強い人たちへの支援は、非常に困難である。
手を差し伸べようとしても、本人はすべてに批判的で、時には攻撃手になり、救われる機会を自ら潰してしまうのだ。こうした批判的な人たちには、プライドが高く、問題の核心に迫る勇気がないタイプが多いようである。(「家族」もいろいろだ)
P186
「人に迷惑をかけてはならない」――おそらく学校でも家庭でもそのように教え込まれ、世間のルールに従順であることが「善」とされてきた。
その一方で、世間のルールから少しでも外れる者に対しては、厳しい社会的制裁が下される。「安全」な社会が、必ずしも「安心」な社会とは限らない。
【ネット上の紹介】
連日のように耳にする殺人事件。当然ながら犯人には家族がいる。本人は逮捕されれば塀の中だが、犯罪者の家族はそうではない。ネットで名前や住所がさらされ、マンションや会社から追い出されるなど、人生は180度変わる。また犯罪者は「どこにでもいそうな、いい人(子)」であることも少なくない。厳しくしつけた子どもが人を殺したり、おしどり夫婦の夫が性犯罪を犯すことも。突然地獄に突き落とされた家族は、その後どのような人生を送るのか?日本で初めて加害者家族支援のNPO法人を立ち上げた著者が、その実態を赤裸々に語る。
第1章 家族がある日突然、犯罪者になる
第2章 加害者家族はこうして苦しむ
第3章 疑われるのは、まず家族
第4章 報道されれば、家族は地獄
第5章 事件にひそむ家族病理
第6章 家族の罪を背負って生きる人たち
第7章 家族への制裁は犯罪抑止になるか
第8章 加害者家族の支援はこうして始まった
第9章 加害者家族を支援するということ
第10章 犯罪者にしないために家族ができること
ホストに入れ込む女について
【ネット上の紹介】
親と社会に棄てられた少年が、生きるために選んだのは犯罪だった。少年院で出会った仲間と重ねる、強盗、詐欺。大金を得ても満たされない、居場所と家族を求める心。血縁も地縁もなく、犯罪者だが被害者でもある少年たちは孤独の中で何を思うのか。原案漫画も人気沸騰、少年犯罪の現実を抉り出す衝撃のルポ!
序章 老兵の予言
第1章 邂逅
第2章 18歳の振り込め詐欺日記
第3章 予行演習
第4章 カラフルな男たち
第5章 楽園
第6章 最弱ホストの居場所
第7章 帰還兵
第8章 共食いの時代
第9章 出発
「石つぶて」清武英利
外務省の「機密費」というタブーに挑んだ刑事たちを描いたノンフィクション。
P40
「ざぶん」と「どぼん」。接待用語である。
(中略)
「ノーパンしゃぶしゃぶ」という接待もあった。(大蔵官僚の接待として有名になった…大蔵大臣、大蔵省事務次官、日銀総裁が辞任に追い込まれた)
P69
「その顔だけで恐喝罪になるんじゃないか。歩く恐喝だよ。中島さん」
(どれだけ怖い顔の刑事なんだ。犯人もすぐ自白してしまうかも)
P110
外務省は紳士ぞろいに見えるが、実は女性関係に寛大で、不倫が咎められない役所になっていた。
(中略)
「女でしくじるキャリアは実に多かったです。キャリアがそうだから、別にノンキャリがしくじったって問題にされない。在外勤務をするとカネはできるし、しくじっても偉くなる芽が摘まれてしまうわけでもないから、女にはみんなだらしなかったですね」
P160-161
「税金よりも刑事事件のほうが優先しますから。もし、捜査しているのが汚職事件であれば、なおさら様子をみるしかない。汚職で得た資金は課税しません。警察が立件すれば、その賄賂資金は後で国に没収されるからです。これまで賄賂金まで追徴課税できたのは、ロッキード事件の田中角栄だけですね」
P322-323
確かに、警視庁の一人ひとりの刑事の能力は検事たちに比べると劣っているように見える。(中略)石つぶてのように力のない集団だ。それでも彼らには蟻のような人海戦術がある。無名の石ころの力を集めることで、霞ヶ関の底知れぬ腐敗に光を当てることができる。
【参考】
著者の清武英利さんの作品では、過去に「プライベートバンカー」を読んだことがある。
こちらもよかった。
「プライベートバンカー」清武英利
【ネット上の紹介】
消えた10億円。沈黙する官邸・外務省。「機密費」という国家のタブーに挑んだのは、名もなき4人の刑事だった。人間の息遣いが聞こえるヒューマン・ノンフィクション。
序章 半太郎
第1章 捜査二課の魂
第2章 浮かび上がる標的
第3章 地を這う
第4章 情報係とナンバー
第5章 パンドラの箱
第6章 聖域の中へ
第7章 涜職刑事の誇り
第8章 束の間の勝利
事件の後で
「謝るなら、いつでもおいで」川名壮志
約10年前、2004年6月に起きた殺人事件。
その衝撃は忘れられない。
小学校6年の女の子がクラスメートの女の子にカッターで切られて死亡。
いわゆる「佐世保小6女児同級生殺害事件」を扱っている。
被害者の父は、毎日新聞記者。
著者はその部下。
事件当日をつぶさに見ており、その後の調査――関係者への聞き取りを交え、本書を著した。
なぜ小学校6年の女の子がこのような凶行に及んだのか?
結果からいうと、分からない。
少年犯罪の変遷
P193
社会全体が貧しかった戦後の動乱期、少年犯罪の原因は無秩序な社会そのものにあると考えられていた。ひもじくて荒れた世相が子どもたちを犯罪に駆り立てる。それが通念だった。実際、少年の殺人事件は、この時期がピークだった。
やがて経済が復興し、一億総中流化が進む。すると今度は、少年犯罪の火種を、社会ではなく、個々の家庭や教育現場にはめ込む考え方がトレンドとなった。ドラマ「3年B組金八先生」で描かれたような時代性である。
そして90年代。酒鬼薔薇聖斗事件や西鉄バスジャック事件など、家庭や学校の枠組みだけでは説明のつかないような、突発的で不可解な少年事件が発生。
(中略)
そうした社会の要請にこたえるようにして登場したのが、少年の発達や成長に視点を向けた、精神鑑定だ。
精神鑑定はもともと、容疑者に刑事責任能力があるかどうかを判断するためのものだった。しかし、最近の少年事件においては、こういった不可解な事件の原因と、その子固有の特性とを結わえ付ける仕掛けとして、導入が進んだのである。
(こうして、「発達障害」が脚光を浴びるようになった)
このタイトルの元になっている発言は、被害者の父、ではない。
被害者の兄、である。
P317
こちらも、今までのことを断ち切って前に進みたいという思いがある。諦めじゃなくて、結果として僕が前に進めるから、1回謝ってほしい。謝るならいつでもおいで、って。それだけ。
(さらっと言っておられるが、この兄もそうとうひきずり、苦しんでいる)
PS
読んでいて、ずっと暗く、つらい気分が続いた。
さらに、めずらしく体調もくずし、しんどかった。
とことん気の滅入る作品である。
単に「サイコパス」による事件、と片付けられたら、どれほど楽だろう?
この手の本を読むのは、しばらく止め。
【ネット上の紹介】
友だちを殺めたのは、11歳の少女。被害者の父親は、新聞社の支局長。僕は、駆け出し記者だった―。世間を震撼させた「佐世保小6同級生殺害事件」から10年。―新聞には書けなかった実話。第十一回開高健ノンフィクション賞最終候補作を大幅に加筆修正。
[目次]第1部(1本の電話
僕は新聞記者
昼日中の教室で
抱き上げてやれなかった
加害少女は ほか)
第2部(御手洗さん/被害者の父として
加害者の父として
被害者の兄として)
「毒婦。 木嶋佳苗100日裁判傍聴記」北原みのり
タイトルどおり、木嶋佳苗100日裁判傍聴記。
木嶋佳苗の事件は、日本の男性を震撼させた、と思う。
でも、ほとんどの男性は「俺はだまされないぞ」、と感じたんじゃないだろうか?
私なら、どうだろう?
いくつか文章を紹介する。
P4
女の犯罪といえば、影に男がいることが未だに多いが、佳苗に男性の共犯者はなく、女の犯罪に感じる湿度のようなものが、あまりにもなかった。
P81法廷での佳苗の様子
午前と午後で服を変えたり、前髪を切ってきたり、唇をつやつやさせたり、胸が大きく開く華やかな服を着てきたり・・・
P94
この社会に生きていれば、不美人であることの不遇を、女は痛いほど感じている。女は男のようにブスを笑えない。自分がブスだと、自虐はしても、他人のブスは笑わない。それは天につばするようなものだから。
P120
男は純情の名の下にお金を出し、愛を求め、手料理を求め、セックスを求めてくる。佳苗のドライさと合理性に、純情が適うわけがない。
P137法廷の検事とのやりとり
声を荒らげる検事に、一度、佳苗が笑ったことがあった。(中略)
「なぜ笑ったんですか?」
と検事が聞くと、佳苗は彼を見ようともせず、マイクに向かって、はっきりとこう言った。
「あなたが、常に、恫喝的だからです」
P248
佳苗の話を男性とすると、よく「おれはだまされない」で終わってしまうんですけど、ご飯を作ってくれて、優しくしてくれて、「あなただけが大事です」ってケアしてくれる女性がいたら、容姿に関係なく、日本の男はかなりの確率でだまされると思います。
さて、再度、自分に問うてみる。
私は、騙されないだろうか?
相手はプロである。
う~ん・・・自信がない。
【参考リンク】
木嶋佳苗の拘置所日記
【関連作品】
「毒婦たち 東電OLと木嶋佳苗のあいだ」上野千鶴子/信田さよ子/北原みのり
「毒婦たち 東電OLと木嶋佳苗のあいだ」上野千鶴子/信田さよ子/北原みのり
3人の毒婦による毒舌トークだから、「毒婦たち」・・・と言う訳ではない。
木嶋佳苗、角田美代子、上田美由紀、下村早苗、畠山鈴香・・・と言った、『毒婦』をテーマに鼎談するから、このタイトルとなっただけ。
いたってシンプル。
しかし、内容は濃い。
P10
北原 佳苗は1974年生まれで、逮捕時は34歳ですから、援助交際の走りの世代なんですよ。
P19
上野 (前略)昔は女には素人と玄人がいたのよ。信じられないよね、「玄人の女」って何なんだよ(笑)。そして、援交世代がその玄人と素人のボーダーラインを溶かしたから、佳苗は「溶けた後」の世代ということになる(後略)
P25
信田 私が1番面白かったのは、佳苗と付き合った男性は小さかったっていう話。・・・・・・あ、身長がですよ!
上野 はいはい(笑)。
北原 わかってますよ。もう、下ネタはやめてください(笑)。
P27
信田 こう言っちゃなんですけど、彼女が美人でなかったから、男たちは上から目線になれたし、つまり無防備になれた。美しい人がいいっていうのは、世の中がつくった神話ですからね。
P28
信田 男はギャップに弱いですからね。とっても頭がいい女なのに、馬鹿みたいなふりをするとか、とってもブスなのに高姿勢であるとかね。
上野 童顔に巨乳とかね。
P84
北原 角田って、連合赤軍の事件と重なりませんか。
P194
PS1
かつて、木嶋佳苗の事件が起こったときに2冊ノンフィクションが出た。
①佐野眞一氏の「海から来た女 木嶋佳苗悪魔祓いの百日裁判 」
②北原みのりさんの「毒婦。 木嶋佳苗100日裁判傍聴記 」
・・・2冊とも気になったが、機を逸して、未読となっている。
佐野眞一氏は高名なノンフィクション作家だが、この作品に関しては評判が悪いので、
この機会に、北原みのり作品の方を読んでみよう、と思う。
PS2
3人は普段から親しくて、よく話をするのだろうか?
ほぼ同じ考えを根底として共有する、女子会の雰囲気。
だから、異なる考えの男性が参加したら、どうなるのだろう?
そんな勇気のある方はいない・・・か?
PS3
信田さよ子さんが昭和21年生まれ、
上野千鶴子さんが昭和23年生まれ、
北原みのりさんは昭和45年生まれなので20歳以上年下、となる。
それにもかかわらず、引けを取らないと言うか、遜色がないのは立派。
【おまけ】
信田さよ子さんと上野千鶴子さん、仲が良い、と分かった。
それだけでも、今回の読書は「収穫あり」、である。
【参考リンク】1
「毒婦。」木嶋佳苗トークその3.
「毒婦。」木嶋佳苗トークその2.二股したこと、ありますか?
「毒婦。」木嶋佳苗のこと。その1
【参考リンク】2
上野千鶴子研究室 | WAN:Women's Action Network
【参考リンク】3
原宿カウンセリングセンター
信田さよ子ブログ
【鼎談・メンバー】
上野 千鶴子 (ウエノ チズコ)
1948年、富山県生まれ。社会学者、立命館大学特別招聘教授、東京大学名誉教授。認定NPO法人WAN(ウィメンズアクションネットワーク)理事長。日本における女性学・ジェンダー研究のパイオニア
信田 さよ子 (ノブタ サヨコ)
1946年、岐阜県生まれ。臨床心理士、原宿カウンセリングセンター所長。アルコール依存症、摂食障害、DV、子ども虐待などを専門とするほか、母娘問題の第一人者
北原 みのり (キタハラ ミノリ)
1970年、神奈川県生まれ。コラムニスト、女性のためのセックストーイショップ「ラブピースクラブ」代表。時事問題から普遍的テーマまでをジェンター視点で考察した寄稿・連載多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
【ネット上の紹介】
「東電OL」、木嶋佳苗、角田美代子、上田美由紀、下村早苗、畠山鈴香…etc彼女たちはなぜ殺し、殺されたのか?女たちが語る“女の殺人事件”。
【目次】
第1部 東電OLと木嶋佳苗のあいだ(彼女の事件に惹かれた理由;木嶋佳苗と「東電OL」の共通点;女目線で事件を語る ほか);第2部 女はケアで男を殺す(支配する女―角田美代子;角田のサティアン;脅しの社会 ほか);第3部 性と女たち(彼女たちは傷ついていたか;性的な居場所;リベンジのその先 ほか)