【ぼちぼちクライミング&読書】

-クライミング&読書覚書rapunzel別館-

「藍の糸 着物始末暦」(2)中島要

2014年07月30日 21時39分48秒 | 読書(小説/日本)


「藍の糸 着物始末暦」(2)中島要

シリーズ2作目。
物語はさらにふくらみ、奥行きも出てきた。
新たな登場人物も加わった。
次の4編収録されている。
以下、ネタバレ有り。未読の方、ご注意。

藍の糸
魂結び
表と裏
恋接ぎ

●第一話「藍の糸」
綾太郎がお糸にちょっかいを出す話。
お玉は綾太郎の許婚。
あみつは、お玉に使えている桐屋の奉公人。
お糸とおみつは幼馴染み。
それに、お糸は、余一にぞっこんである。
だから、お糸が綾太郎になびくはずがない。
さて、どうなるか?
西海天女の異名をとるおいらん・唐橋も(再び)登場し、豪華キャストである。


唐橋と綾太郎の会話
P68
「あやさまは、なぜ職人が藍染めの袢纏や股引きを身につけるか、訳をご存じでありんしょう」
「当たり前だろ。藍染めは染めるほど丈夫になるし、切り傷や虫刺されにも効く。だから、火消しや職人、百姓が仕事着にするんじゃないか」
(中略)
「あい。しかも、洗えば洗うほど、色が鮮やかになります」
(中略)
「わっちら女郎は派手な錦、客が必死で稼いだ金を湯水のように使わせて・・・・・・相手が尾羽打ち枯らしたら、別れを告げるだけざます」

P70
唐橋が口にした通り、なるほどお糸は藍染めのきものだ。しかも、糸から染めあげた極上ものの紺色だ。


●第二話「魂結び」
六助のもとに、盗品の帯が持ち込まれた事が発端。
尋常ではない頭痛に悩まされる六助。
六助は、この世のものでないものが見えたり、声が聞こえたりする。
この帯は誰のものなのか?

今回のレギュラーは、六助と余一しか登場しない。
少し寂しいキャストだが、物語の根幹に関わる重要な事項が示される。

P125
余一が首から下げている守り袋には、水晶の数珠珠が二つ入っている。ひとつは元々持っていたもので、もうひとつは親方が死ぬ間際に渡したものだ。色と大きさがまるっきり一緒だから、元は同じ数珠玉だろう。それにどういう意味があるのか、六助にはわからない。

●第三話「表と裏」
家族、夫婦の問題は、本作品全体のテーマ。
この章では、特に強く出ている。
大隅屋の若旦那から振袖をもらったお玉。
お返しに何を贈ったらよいか?
奉公人のおみつは悩む。

P143
無論、お礼の文は届けてあるし、桐屋から大隅屋に相応なものも届けてある。しかし、お玉から綾太郎へのお返しは何もしていなかった。
「親の決めた縁談だもの。放っておいても大丈夫でしょ」
「そういうことじゃ困りますって、何度も申しあげたはずですっ」

おみつは、困って、結局、余一に相談に行く。
余一の家で、おみつは御高祖頭巾の女と出会う。
新たなキャラクター登場、である。(レギュラー入り間違いなし)
P147
すらりとした立ち姿は、まるで錦絵から抜け出たようだ。しかも上品な出で立ちをしている割に危うい色気を感じさせる。見たことのない類いの美人におみつはごくりと唾を呑んだ。

おみつに、もう一つ問題が起こる。
義母が十両貸してくれ、と奉公先にやって来たのだ。
2つの問題を抱えたおみつ。
解決できるのか?
佐野屋のご隠居さんも絡んで、物語は進行する。
ウルトラCクラスのエンディングだ。
オチもついて、見事。

●第四話「恋接ぎ」
再び、夫婦と家族の問題。
お糸の一膳飯屋『だるまや』の前に赤ん坊が捨てられる。
誰の赤ん坊か?
どうして『だるまや』なのか?

新キャラクター・達平(十歳)登場。
(前章の御高祖頭巾の女同様、こちらもレギュラー入りするでしょう)

【ネット上の紹介】g
呉服太物問屋の若旦那・綾太郎は、着物の染み抜きなどをなんでもこなす着物始末屋・余一のもとへ打掛の始末を頼んだ。毛嫌いする余一を困らせようと、生地が弱りすり切れた打掛を渡したのだが、その仕上がりは非の打ちどころのない出来栄えだった。余一に対して、何としても一泡吹かせたいと願う綾太郎。そんなある日、彼は古着屋の六助を伴い、余一に想いを寄せるお糸の飯屋を訪れた。血の気が多い職人や人足などの男達を前に、てきぱきと働くお糸を見て、綾太郎は彼女に惹かれはじめるが―(「藍の糸」より)。大好評、連作短篇時代小説。待望の第二弾!!


蝉の昼寝

2014年07月28日 20時53分00秒 | 身辺雑記


蝉がひっくり返っていることがある。
先日、目の悪い年寄りが、ゴミと間違えて拾おうとした。
蝉が驚いて、ブブブ、と羽を振るわせた。
腰を抜かしそうになった。
お互い、寿命が縮んだか? 


「しのぶ梅 着物始末暦」(1)中島要

2014年07月27日 07時00分31秒 | 読書(小説/日本)


「しのぶ梅 着物始末暦」(1)中島要

本を買うと帯がついてきた。
次のように書かれている。

“みをつくし料理帖”の高田郁さん推薦!
読み心地、絶品!切なさ、哀しみ、悔い――
そんな心のシミも着物同様、
余一が綺麗に始末してくれる。
私の一押しです。

どうなんだろう?
そこそこ面白いかも・・・と、読み始めて「素晴らしい!」、と。
これほど、面白いとは思わなかった。
「みをつくし」シリーズに匹敵する面白さ。
キャラクター、ストーリー供に、出色の出来。
素晴らしい、と感じた。

全部で4編収録され、連作長編となっている。

めぐり咲き
散り松葉
しのぶ梅
誰が袖

以下、ネタバレあり。未読の方は、ご注意。
より楽しみたい方は、ここから読まないように。

●第一話「めぐり咲き」について。
主要人物3人が登場する。
余一・・・着物の始末屋
綾太郎・・・呉服問屋の若旦那
六助・・・古着屋の店主(作品の案内役、登場人物達を繋いだりする陰の功労者)
第一話だけ読むと、軽いタッチのコメディか?、と勘違いするかもしれない。
しかし、よく読むと、コメディタッチを含めて、骨太作品であることが示されている。

P68・・・このシリーズを貫くテーマとも言うべきものが余一によって語られる
「ただしまっておいたって、女もきものも値打ちが下がる一方だ。せっかくこの世に生まれたからには、陽の目を見せてやらねぇと。ちょっとくらい傷がついても、どうってこたぁありゃせん。いくらでも姿を変え、形を変え、生き直せるもんなんでさ」

女ときものはいくらでも形を変える、という重要セリフである。
(第一話では、ヒロインはまだ、登場せず) 

●第二話「散り松葉」について。
本章から、ヒロイン・お糸が登場する。
シリアスな箇所が増えてきて、俄然面白さが増してくる。

P110柳橋の芸者・染弥とお糸の会話
「どうして竹のほうがいいんです」
お糸の問いに、染弥はにやりと笑った。
「前に客から聞いたのさ。松は花が咲かないけど、竹は何十年かに一度、花が咲くことがあるんだって」
 そして、そのあと枯れちまうんだって――と付け加えた。

お糸の母と父の馴れ初めが、父によって語られる。
P114
「まさか、こんな話をおめぇにする日が来るとはなぁ。おくに――おめぇのおっかさんは、惚れた男を諦めて俺と一緒になったのさ」
(中略)
母は評判の器量よしで、思いを寄せる男は多かった。だが、彼女の思いは同じ長屋に住んでいた若い浪人に向けられていたそうだ。

P118 さらに、父の語り
「おめぇは自分で紡いだ初恋っていう思いの糸に手足を捕らわれちまっているのさ。俺もおくにも、そんなつもりでお糸と名付けた訳じゃねぇぜ」

お糸と六助の会話
P126
「みんな、どうしてそんなことばっかり・・・・・・あたしじゃ余一さんに釣り合わないっていうのっ」
(中略)
「お糸ちゃんは余一なんかにゃもったいねぇって言ってんのさ。器量よしで働きもんで親孝行と三拍子揃ってる。ところが、野郎は偏屈で身寄りのねぇ貧乏人だ。親父さんが気を揉むのも無理はねぇって」

染弥姐さんが、どうして散り松葉の裾模様のきものを着たのかが、語られる。
P130-131
「お糸ちゃんは、吉原芸者と町芸者の違いを知っているかい」
(中略)
「裾模様の座敷衣装に白の半襟ってなぁ、吉原芸者にだけ許された格好だ。町芸者がそんなことをしたら、すぐに吉原から文句が出る。染弥は芸者を引くと決めたから、あえて掟を破ったんだろう」
(中略)
道理で裾模様のきものを見たとき、いつもと違うと感じたはずだ。それが形見ということは、染弥の母は吉原芸者だったのか。

・・・過去と現在が交錯し、親の因果が子に及んでいる。
これは、本作品の特徴として、これからも何度も基調音として繰り返される。

お糸の名の由来が語られる・・・作品の根幹に触れるエピソードである。
P135
――糸はすべてをつなぐものだから。おまえがこの先いろんな人とつながっていけるように、お糸って名にしたんだよ。

●第三話「しのぶ梅」について。
振り袖がテーマ。
P151
吉原ですら、振袖を着るのは水揚げ前の生娘だけだ。求愛に応える長い袖は、男を知らない証だった。

それなのに、もっとも振袖と縁遠いはずの2人が登場する。
30歳ちかい夜鷹と40歳近い小間物屋の女主人である。

振袖をテーマに、この登場人物。
いったい、どう着地させるのだろう?

余一と小間物屋の女主人の会話
P190
「東雲色に青をかけて、紫がかった夕暮れの色にしてみやした。いかがでしょう」
(中略)
「梅は長い冬を耐えしのび、果てに小さな花を咲かせる。その香りに誘われて、虫も鳥も春の訪れを知るんでさ。日差しに咲き誇るのもきれいだが、人知れず日暮れてから咲くのも似合いでしょう」

夜鷹の名前が明かされる・・・熱いものがこみ上げるシーンだ。
P196
「おい、おめぇの名は何てえんだい。俺はまだ聞いちゃいねぇぜ」
(中略)
「何言ってんだい。これ以上ぴったりの名はねぇよ」

●第四話「誰が袖」について。
お糸の幼馴染み・おみつと、桐屋の娘・お玉が登場する。
これで、本シリーズの重要人物達が全て出そろったことになる。
ちなみに、お玉は綾太郎の許嫁である。

今回のテーマも、振袖が絡んでくる。
大店の娘なのに、お玉は祖母・お比呂の古いきものしか着ようとしない。
おみつは、なんとかして、お玉に振袖を着せようとするが・・・。

この章でも、親子関係から説かれる。
P220
お玉の母、つまりご新造のお耀(てる)は金持ちのお嬢様を絵に描いたような人物である。
鷹揚なところもあるのだが、自分の思いが通らないとたちまち機嫌を悪くする。日本橋の両替商、後藤屋の娘として生まれ、いかなる望みもかなえれれてきたせいだろう。

おみつとお玉の会話
P222
「何よ、おみつまで、振袖を着ないのがそんなに悪いっていうの」
「だって、振袖は嫁入り前しか着られないんですよ。お嬢さんは今年の末には大隅屋の若旦那と祝言を挙げるのに、今着ないでどうします」

おみつの忠義ぶりが表現される
P240
犬は三日飼うと、生涯恩を忘れないという。たとえ無力な身であっても、主人のために何かしたい。そう思うことさえ分不相応と言うのだろうか。

この作品のすごいところは、次のようなセリフにある。
隠れている深層心理まで引き出してくる。
P254
「あたしは・・・・・・お嬢さんのことを思って袖を引きちぎったんじゃない。いつまでもお嬢さんに思われているお比呂様が妬ましくて・・・・・・そういう思い出の品を持っているお嬢さんがうらやましくて・・・・・・だから、着られないようにしたかったのよっ」

余一のセリフ
P258
「きものってなぁ人の思いの憑代だ。だからこそ、古着でもあだやおろそかにしちゃいけねぇのさ。(後略)」


先にも触れたが、(この作品全般について)過去と現在が交錯する。
因果は巡る糸車、ってところ。
後に分かるが、お糸の家だけでなく、桐屋では、祖父母の代まで遡って、巡り合わせが語られる。
複雑に過去が絡んでくるので、しっかり読む必要がある。
著者は、エンディングの場面をきっちり頭に描いているに違いない。
最終章に向けて、緻密にストーリーを構築している、と感じた。

読んでいて、なんとなく「ハチミツとクローバー」を思い出した。
エンディングを想定した緻密なストーリー構築が、似ている。、
さたに、ヒロイン・お糸と、「ハチクロ」の山田あゆみと重なるときがある。
すると、桐屋のお玉が、花本はぐみ・・・か?
江戸版「ハチクロ」、青春群像劇、である。

本シリーズは、(2014年7月現在)3冊出ている。
①「しのぶ梅 着物始末暦」・・・今回紹介した作品。
②「藍の糸」
③「夢かさね」 

さて、今後どう展開するか?(読んでのお楽しみ)
群像劇なので、物語はさらにふくらみ、奥行きも出てくる。

【ネット上の紹介】
着物の染み抜き、洗いや染めとなんでもこなす着物の始末屋・余一は、職人としての腕もよく、若くて男前なのだが、人と深く関わろうとしない。一方、余一の古馴染みで、柳原土手の古着屋・六助は、難ありの客ばかりを連れてくる。余一の腕を認めながら、敵対心を燃やす呉服太物問屋の若旦那・綾太郎。朴念仁の余一に片思いをしている一膳飯屋の看板娘・お糸など…。市井の人々が抱える悩みを着物にまつわる思いと共に、余一が綺麗に始末する!!人情味溢れる筆致で描く、連作短篇時代小説。


「春はそこまで 風待ち小路の人々」志川節子

2014年07月23日 20時58分14秒 | 読書(小説/日本)


「春はそこまで 風待ち小路の人々」志川節子

先日、「糸を手繰れば」を読んだ。→「糸を手繰れば 結び屋おえん」志川節子
良かったので、他の作品も読んでみようか、と。
結果から言うと、こちらの方が面白かった。

江戸の市井の人々を描いている。
タイトルにあるとおり、「風待ち小路の人々」である。
「糸を手繰れば」同様、大きな事件もなく、江戸の人たちが情感深く描かれている、と思っていた。
ところが、残り3章から急展開。
これには驚いた。

具体的には、「しぐれ比丘尼」から趣向が変化してくる。
「あじさいの咲く頃に」は「しぐれ比丘尼」の裏面史というか、裏バージョン。
「風が吹いたら」は、怒濤の展開。
この著者は、こんなことも出来たんですね。
嬉しい驚きだ。

【ネット上の紹介】
絵草紙屋、生薬屋、洗濯屋…。「風待ち小路」には、小さな店が肩を寄せ合うように集まっていた。芝神明宮の門前町でくり広げられる人間模様、親子の絆、そして許されぬ恋。これぞ時代小説の醍醐味。


「暗礁」(上下)黒川博行

2014年07月22日 20時20分18秒 | 読書(小説/日本)


「暗礁」(上下)黒川博行

先日、直木賞を受賞した黒川氏。
受賞作は、本作品と同様、「疫病神」シリーズ。

賭け麻雀の代打ちを務めたことが、事件の発端。
大手運送会社の利権。警察、ヤクザとの癒着。
佐川急便の事件が元になっている、と思われる。
途中で、舞台が沖縄に移動したり、楽しませてくれる。

このシリーズの面白さは、
ヤクザの桑原と建設コンサルタントの二宮の軽快な掛け合いにある。
ほとんど、漫才のような、当意即妙な応対だ。
大阪の馴染みのある地名が多数登場するのも魅力。
守口、門真、城北公園通り、都島・・・地図なしでも、位置関係が分かる。

P381
「おまえ、共依存いう言葉知ってるか。心理学の用語や」
「共依存・・・」
「酒食ろうて、博打して、あちこちに借金こしらえながら、女に食わしてもろてるクズがおるやろ。どうにもならん寄生虫と分かってても、女は男から離れようとせん。金の工面から身のまわりの世話まで献身的に尽くすことで、女は自分の存在価値を確かめることができる。殴られても蹴られても金をむしりとられても、女はクズ男についていくんや」
「男は女の稼ぎに依存してるけど、女も精神的に男に依存してる。そういうことですか」

まさか、ヤクザの桑原が心理学を語るとは思わなかった。
著者は、信田さよ子さんのファンか?→「共依存・からめとる愛」信田さよ子

面白さの割に、あまり知られていない作品のように思う。
もっと、読まれても良いシリーズ、と思う。

【ネット上の紹介】
警察組織と暴力団の利権の草刈場と化していた奈良東西急便。その社屋放火事件の容疑者に仕立て上げられた二宮に、捜査の手が伸びる。起死回生を狙う桑原は、裏金を管理する男を追って二宮とともに沖縄へ飛ぶが、二人を追い込む網はそこでも四方八方に張り巡らされていた―。超弩級のエンターテインメント大作。想定外の興奮と結末。


「カリスマ」~中内功とダイエーの「戦後」(上・下)

2014年07月20日 15時40分10秒 | 読書(昭和史/平成史)


「カリスマ」~中内功とダイエーの「戦後」(上・下)

流通と小売業から、戦後史を辿るノンフィクション。
読み応えのある大作である。

もともとダイエーは兄弟経営であったが、結局、中内功のワンマン経営となる。
P206-207(上巻)
俗に兄弟は他人の始まりというが、昔から、“兄弟経営”というものがうまくいった例は、きわめて少ない。古くは山崎製パンオーナーの飯島兄弟(藤十郎、一郎)の血で血を洗うといわれた”お家騒動”が知られているし、戦後経営者の代表の1人といわれたリコー社長の市村清も、弟の専務を追放した。
兄弟経営がうまくいくのは、出光興産の出光佐三と計助や、三洋電機の井植歳男、祐郎、薫のように、年齢が親子ほど離れ、実力も衆目のみるところケタはずれに違っている場合か、さもなくば樫尾忠夫を筆頭とする四兄弟のごとく、技術開発を軸に、兄弟一致して切磋琢磨したカシオ計算機のような技術系企業かにほぼ限られる。

P241(上巻)
千林商店街について
“日本一の商店街”とも呼ばれるこの街は、陰陽道でいけば、大阪の中心の大阪城からみて東北すなわち丑虎の方角にあたり、万事に忌み嫌われる場所だった。
千林から京都寄りに十駅先に行ったところに香里園という駅がある。1931年、この駅の東に、成田山新勝寺の別院が建立された。京阪電車が“除霊”のため誘致したものだった。

P243(上巻)
ダイエーが産声をあげたこの商店街は、サティ、ビブレなどを展開する、もう一つの大手スーパー、ニチイ(現・マイカル)の発祥の地としても知られる。

P422(下巻)
99年1月、社長の椅子を味の素元社長の鳥羽薫に譲って会長に退いたとき、これまでの人生を振り返って思い出は、と聞かれた中内が、こう答えたことを印象深く覚えている。
「これまでの人生で楽しいことは何もありませんでした」

・・・あまりに寂しいコメントである。
皆さんご存じのように、現在ダイエーは、イオン(ジャスコ)の子会社になった。
栄枯盛衰、である。
Daiei logo.png
(ダイエー“D”を意匠化した)オレンジ色の“上弦の月マーク”は、なくなった。

【ネット上の紹介】
神戸の零細な薬屋に生まれた中内功は、地獄のフィリピン戦線を奇跡的に生き延び、戦後、三宮の闇市から事業を始めた。流通の世界に革命を起こし、高度経済成長と足並みをそろえるように急成長を実現、日本一の小売業者にのしあがる。しかし、破滅の足音はすぐそこまで迫っていた。二十年以上にわたる取材をもとに、圧倒的なディテールで中内ダイエーと戦後日本を描いたノンフィクション大作、増補完全版。

[目次]
プロローグ 私はなぜ中内ダイエーの盛衰を書いたのか
第1部 苦悶と狂気(沈む半月マーク
メモリアルのなかの流通帝国)
第2部 飢餓と闇市(三角の小さな家
書かれざる戦記
日本一長い百貨店
キャッシュレジスターの高鳴り
牛肉という導火線)
第3部 拡大と亀裂(神戸コネクションと一円玉騒動
わが祖国アメリカ
黄金の六〇年代
ベビーブーマーたち
血と骨の抗争)
第4部 挑戦と猜疑(「わが安売り哲学」
三島由紀夫と格安テレビ
一兆円は一里塚
バブルの予感、V革の悲劇)

第5部 膨張と解体(裸のラストエンペラー
持ち株会社第一号とローソンの反乱
宮古の怪、福岡の謎
南島のファミリーカンパニー
夢のまた夢)
第6部 懊悩と焦燥(中内ダイエーの一番長い日
インサイダー疑惑の衝撃
堕ちた偶像
幻の流通革命)
第7部 終焉と残照(無念の退場
革命児最後の日々
時代を照らした二つの星
戦後戦記の輝き)
エピローグ 堤清二氏との対話

【関連作品】
城山三郎氏の「価格破壊」は、ダイエー・中内功氏がモデル。


第151回直木賞&芥川賞

2014年07月18日 21時00分06秒 | 読書(小説/日本)

第151回直木賞&芥川賞が発表された。
「破門」に注目。
建設コンサルタント・二宮とヤクザの桑原が活躍する「疫病神シリーズ」で、
「破門」はシリーズ5作目、にあたる。

疫病神(1997年3月)
国境(2001年11月)
暗礁(2005年10月)
螻蛄(2009年7月)
破門(2014年2月)

私は、2作目「国境」までしか、読んでいない。
これを機会に、残りを読んでおこうか、と思っている。


第151回直木賞は黒川博行さんの「破門」に決定しました

第151回芥川賞は柴崎友香さんの「春の庭」に決定しました

芥川賞に柴崎友香さん、直木賞に黒川博行さん


「糸を手繰れば 結び屋おえん」志川節子

2014年07月15日 21時04分24秒 | 読書(小説/日本)


「糸を手繰れば 結び屋おえん」志川節子

味わい深い作品だ。
とても良かった。

不貞を疑われ、大店の妻の座を追われたおえん。
実家も、おえんの話を聞こうとしない。
1人、長屋に住むことになる。
長屋の人々とおえんの生活が描かれる。

生活のために針仕事を始める。
さらに、たまたま縁談をまとめたことから、仲人に目覚める。

P61
おえんの戸口に掛けられている木札
――ご縁とりもち承ります 結びやおえん――

これで、生活が成り立つのか?
不思議と、ぽつぽつと仲立ちを頼まれることに。
一方、離縁した旦那が復縁を迫ってくる。
子どものこともあり、悩むおえん。

P266
お針の師匠・鈴代のセリフ
「一緒にいる理由をさがすようになったら、男と女は汐どきじゃないのかねえ。まあ、わたしにゃ夫婦のことはわからないけど」

P281
「夫婦は、しょせん、他人なんです。相手を信じる心だけが、命綱の・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「いっぺんでもぷっつり切れたら、命綱は、もう、使い物にならない・・・・・・」

さて、どうなるか?
自分で読んでみて。

【蛇足】
欲を言えば、もう少しキャラ立ち、させて欲しい。

【ネット上の紹介】
結び屋、それは人のご縁を繋ぐ業。無実の罪を着せられ、大店の妻の座を追われたおえん。悲しみの中で過ごすうち、ひょんなことから魚河岸の女仲買いと商家の若旦那の縁談を取り持つことに。でも商家の奥には、手ごわい姑が構えていて…。悲しみと幸せが降り積もる連作時代小説。 


「海街diary~四月になれば彼女は」(6)

2014年07月14日 20時24分22秒 | 読書(マンガ/アニメ)


「海街diary~四月になれば彼女は」(6)

これほど、心待ちにしている作品はない。
今回、発売のサイクルが長かったので心配していた。
もしかして、シリーズ立ち消えになったのか?!、と。
(「河よりも長くゆるやかに」の前例があるから)
新刊が出て大喜び・・・・ホント嬉しい。

サブタイトルは、「四月になれば彼女は」。
意味深、である。
サイモンとガーファンクルの曲からいただいている。
4月になると、彼女はいなくなる・・・。
すずも風太も中学3年生。
進学の問題が立ちふさがっている。
風太から見たら、すずは4月になったらいなくなってしまうかもしれない。
そんな暗示があるタイトル、となっている。

次の5編収録されている。

いちがいもんの花
逃げ水
地図のない場所
肩越しの雨音
四月になれば彼女は


【参考】
映画化されるようだ。
微妙な心境だ。
映画『海街diary』公式サイト | 2015年初夏全国公開。

【ネット上の紹介】
是枝裕和監督による実写映画化が決定!! 待望の第6巻がいよいよ発売!! 累計部数250万部突破、マンガ大賞2013を受賞した大人気シリーズ 「海街diary」の第6巻「海街dairy 6 四月になれば彼女は」がついに発売!! 2015年初夏公開予定での実写映画化も決定!! 監督を熱望し、映像化に挑むのは『そして父になる』で昨年第66回カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞した是枝裕和監督。すずの母が生まれ育った街、金沢。会ったことのない祖母の月命日、遺産相続の手続きのため母の生家を初めて訪れたすず。そこで四姉妹を待っていた”いちがいもん”とは!? 鎌倉を舞台に描かれる家族の「絆」の物語。シリーズ第6巻!!

 


「パーネ・アモーレ イタリア語通訳奮闘記」田丸公美子

2014年07月10日 20時32分25秒 | 読書(小説/日本)


「パーネ・アモーレ イタリア語通訳奮闘記」田丸公美子

先日、「ドラゴン姥桜」を読んだ。
とても面白かったので、同著者の本作品を読んでみた。
少し、文章を紹介する。

P281-282
通訳を頼んだ日本の社長による田丸公美子さんの様子
「今までいろんな通訳の人とこの席で食事したけど、あなたが初めてですよ。通訳するだけじゃなく間ももたせてれて、われわれの倍しゃべりながら、そのうえみんなと同じ速度で何一つ残らず平らげたのは。通訳はみんな緊張するし、ほとんど残してたものね。いやあ、あなたは大物だね」

P290-292
米原万里さんによる田丸公美子さんの様子
自慢の巨大な胸の谷間を惜しげもなく見せつける胸元が大きく開いている服。大胆不敵なデザインのアクセサリー。脚線美を強調する網タイツ。挑発的な真っ赤な口紅と同色のハイヒール。これで、扇情的に胸を突き出しながら、
「カップはD級ですが、通訳はA級です」
と挨拶するのだ。

本作品では、通訳の裏話から、出会った様々な人たち、通訳になるまでの学生時代の話、いろいろ盛りだくさん。
大いに楽しめる内容になっている。

【ネット上の紹介】
TV局から依頼された法王のクリスマス・メッセージの通訳。放送開始まで20分。電話で音声を聞き、訳した原稿を持って6歳の息子がFAXに走る…手に汗握る聖夜の出来事を始め、日本最強のイタリア語同時通訳が明かす楽しいエピソードが満載。日伊文化比較や語学の上達法等、ためになる情報もいっぱいです。

[目次]
イタリア語通訳奮闘記(通訳はその言語の文化に同化する通訳すごろく ほか)
私が出会った人たち(ネオレアリズモの息子マッシモ・トロイージ
強気な女王様ジーナ・ロロブリジダ ほか)
シモネッタ以前(青雲の志
学園生活 ほか)
通訳ア・ラ・カルト(発展途上通訳の反省帳
同時通訳デビュー ほか) 


「吉原代筆人雪乃」高山由紀子

2014年07月09日 21時38分10秒 | 読書(小説/日本)


「吉原代筆人雪乃」高山由紀子

吉原で遊女の代筆を手伝うことになった雪乃。
様々な問題が持ち込まれる。

設定として、とても面白い、と思う。
でも、盛り上がりに欠ける。
ヒロインも、少し魅力が足りない。
江戸の世相、吉原の裏事情も、もっと書き込んで欲しかった。
そこが残念なところ。 

【ネット上の紹介】
消えた男の行方を追って吉原にたどりついた雪乃。ぷっつり切れた消息の糸を掴むために吉原で生きることに決めた彼女は、読み書きのできない遊女にかわり手紙を綴る代筆屋を手伝うことになる。だましだまされる客と遊女。手紙の秘密をただ一人知る仕事ゆえ、雪乃は図らずも様々な事件に巻き込まれてしまう。咲き乱れる色もように真実はあるのか。女たちの本当の生きざまとは?異色の代筆人が大活躍!時代小説新シリーズ。 


「メリーランド」畑野智美

2014年07月08日 21時54分32秒 | 読書(小説/日本)


「メリーランド」畑野智美

「南部芸能事務所」の続編。
前作では、お笑い芸人達を描いた群像劇であった。
今回もそうであろう、と。
実際、そうなんだけど、、少し変化してきたように思う。
これは、「八犬伝」だ、と。

能力のある人たちが、(あるいは、能力があるのに、気づかなかった人たちが)
南部芸能事務所に集まってくる。
個性というか、アクの強さ、身勝手さも含め、芸人達が表現される。
さらに、芸人だけでなく、事務所のスタッフも描かれている。
次作も楽しみに待ちたい。

【関連作品】・・・最初の作品
「南部芸能事務所」畑野智美


【ネット上の紹介】
偶然見に行った「南部芸能事務所」のお笑いライブに魅了され、芸人を志した大学生の新城は、事務所の研修生になった。コンビを組んだ溝口との厳しい稽古を経て、初舞台に立った二人に、社長から渡されたギャラは「1000円」。相方と分けて残った500円玉を握りしめて、新城はその使い道を考えるのだが―。文芸界待望のハタノ5冊目。弱小プロダクション「南部芸能」に集まってくる「いろんな人の、いろんな人生」を描く短編集。 

【参考図書】
 
「海の見える街」畑野智美

「国道沿いのファミレス」畑野智美

「夏のバスプール」畑野智美


スロベニア

2014年07月07日 22時02分54秒 | クライミング(海外)

7/2、ナカガイジム・スタッフの石井夫妻が、ヨーロッパに出発した。
無事到着したようす。
現在、スロベニア。
しばらくしたら、ドイツに移動、と思う。
とりあえず、無事到着でよかった。
石井夫妻、前回のヨーロッパは2012年のスペインなので、2年ぶりの海外。
楽しんできて欲しい、と思う。

スロベニア (07/06)


「シモネッタのドラゴン姥桜」田丸公美子

2014年07月02日 20時45分56秒 | 読書(エッセイ&コラム)

文春文庫<br> シモネッタのドラゴン姥桜 
「シモネッタのドラゴン姥桜」田丸公美子

田丸公美子さんの(ひと味違う)子育てエッセイ。

P122開成中学での父母会
「あのー、田丸君のお母様ですよね。Eと申します。実はうちの息子が、学校で田丸君に巨乳ヌード写真を見せてもらったって申しましてね・・・・・・」。私は彼女の言葉を途中で遮って言った。「うちの息子に限って、そんな!!彼は、大きすぎるおっぱいは嫌いだ。小ぶりな手の平サイズがいいって、いつも言ってるんですのよ」。言ったあと「まずい、初対面でこんなこと言うべきではなかった」と後悔のほぞをかんでいると、E夫人、高らかに笑っておっしゃった。「まあ、坊っちゃんだけじゃなくって、お母様もユニークですこと!」。アー、良かった。ジョークのわかる人だった。ほっと胸をなでおろす。しかし、もう一つの心配がわいてきた。私は、中学入学式の翌日、イタリア出張に出かけたのだが、その際、彼の部屋に無断でポスターを貼って行ったのだ。それは、アメリカ版「プレイボーイ」大判折込ヌード。巨乳の美しい裸体はピンアップガールのものなのだが、顔の部分には私の顔写真を貼り付け、そばにサインペンで「これを見てママを思い出してね」と書いておいたのだ。帰国したときには、壁にポスターは残っていなかった。「まさか、友達にあれを見せたのではないだろうか」。親の心配は尽きない。

著者も素晴らしいけど、息子のユウタ君も愉快なヤツだ。
頭が良いだけでなく、感性も豊か。
田丸公美子さんの親友が故・米原万里さん。
米原万里 対談集『言葉を育てる』にも、ユウタ君は登場する。
(三者三様の言動が面白い)

P233-234
田丸 私の親友が米原万里さんの血液型はB型じゃないかって言うから、メールで聞いたことあったじゃない。そうしたら“人類を四つに分類しようとするバカとは友だちにはなれません。ちなみに私はO型です”と返事がきた。
米原 ああ、あったわね(苦笑)。
田丸 その画面を、ちょうどうちの息子が見て、「何なんだ、この尊大なヤツは。バカにもいいヤツと面白いヤツがいるじゃないか。こんなこと書くヤツ、こっちから友だちになるのはお断りだ!」って叫ぶの。私が「控えなさい。エ勝手リーナ様ですよ」って言ったら、急に静かになって、「そうか。あの人ならしょうがないか・・・・・・」って。
ちくま文庫<br> 言葉を育てる―米原万里対談集 

PS
私のようなものが、子育てエッセイを読んでも意味ない、って言われそう。
責任も義務もないから、他人の子育てを純粋に楽しめる、って話もある。

【ネット上の紹介】
イタリア語通訳として多忙を極めた30代で出産。初めての育児に悪戦苦闘の末、いつのまにやら否応なしに中学受験に突入。開成→東大→弁護士と華麗なダッシュで駆け抜けつつ、アルバイトにガールフレンドと青春を謳歌する息子のエキサイティングな日々を見守った、シモネッタの型破りな爆笑子育てエッセイ。
【目次】
楽して子供を東大に入れる法
成り行きで母
初めての試練
すべての基本は言語にあり
じいちゃん、ばあちゃん、愛の寺子屋
二重保育、誰に預ける?
親はなくとも子は育つ
子供の「人を見る目」
塾は必要悪?
中学入試、そして開成へ
半狂乱の母
男子の本懐
東大受験、初めての挫折
東大生のアルバイト
東大狂想曲
不治の病
司法試験と就職
巣立ちのとき


「知ってても偉くないUSA語録」町山智浩

2014年07月01日 21時33分49秒 | 読書(英・米)


「知ってても偉くないUSA語録」町山智浩


今年5月12日に紹介した「教科書に載ってないUSA語録」の続編。→「教科書に載ってないUSA語録」町山智浩
流行している言葉、話題になった語彙からアメリカの現状をレポート。 
面白くて、知識も増える、一挙両得。

P282-286
第二国歌と言われる『アメリカ・ザ・ビューティフル』を様々なルーツを保つアメリカ人少女が歌っていく。
(中略)
この歌詞を、少女たちはそれぞれの言葉に訳して一説ずつ歌う。メキシコ系はスペイン語で、ユダヤ系はヘブライ語、中国系は北京語、アラブ系はアラビア語、アフリカ系はセネガル式のフランス語、そして先住民プエブロ族はケレス語で。
(中略)
「せっかくの名曲が台無しだ」「ここはアメリカだ。英語が嫌なら出て行け!」などのヘイト・コメントがYouTubeやフェイスブックにあふれた。
(中略)
で、コカ・コーラの多言語CMだけど「ここはアメリカだ!英語で話せ!」と怒るのもおかしな話だ。英語ってイギリス語じゃん。このCMで歌ってる先住民の言葉、ケレス語のほうが、本当のアメリカ語だからね!

【参考リンク】・・・問題のCM
Coca-Cola - It's Beautiful - Official :60

【参考リンク】2
アメリカの美しさ」を表現したコカコーラ社のCMに賛否両論 ...

【ネット上の紹介】
気鋭の映画評論家・コラムニストの町山智浩氏による 「週刊文春」人気連載の単行本化、第二弾! アメリカの政治・経済・エンタメを現地リアルタイムレポート。澤井健氏の爆笑イラストも収録しました。(「まえがき」より要約) アメリカで話題の言葉は、面白い。面白くて怖いーー。「共和党の候補だったミット・ロムニーは、20億ドル以上を投じた2012年の大統領選を、たった二つの失言でしくじりました。本書では政治家の発言以外にも、『トロフィー・ワイフ』のように学校や職場では使うのをためらう言葉、『フォトボム』などネットとスマホの時代に生まれてアッという間に広がった新語も紹介しています」 〈本書に登場するUSA語録〉 レッドネック=貧乏白人 キッズヴォート=こども投票 マンスプレイン=男がドヤ顔で講釈垂れること ドーマ=結婚防衛法 パンプ&ダンプ=ボロ株を使った詐欺 プライムエア=アマゾンの無人ヘリによる宅配 デトロピア=デトロイト+デストピア など 全74のキーワードを収録。