【ぼちぼちクライミング&読書】

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「韓国カルチャー」伊東順子

2022年08月23日 12時26分33秒 | 読書(韓国)


「韓国カルチャー」伊東順子

P33
「日本では『愛の不時着』が人気だけど、いったいどうして? 他の国ではそうでもないのに」――と、韓国の人によく驚かれるが、理由はいろいろだろう。すぐに思いつくのは主役のヒョンビンの人気が他国より盤石であったこと。そしてもうひとつはドラマの舞台となった「北朝鮮」への感心の高さである。(後略)」

P60
「韓流」という言葉はそもそも中国で作られた新造語だった。それを韓国が取り入れ、日本も飛びついた。2000年代初頭に中国で巻き起こった韓流ブームは、ストレートに北朝鮮にも伝わったのである。

P98
孤独な男性の子守は母親世代までで十分。「風と石と女」に象徴される済州島にしても、男たちは「強い女」を持ち上げながら、実際は女に甘えていたとか。

P197
最近の韓国ドラマは最終的には「和解」が訪れる。信じられないほどの意地悪や騙し合いがあっても、「悪人」は打倒されるか、反省して「善人」に変身して手を取り合う。そうやって人間についての希望を失わないにする。そこには孟子に倣う韓国儒教の「性善説」がベースにある。

P208
1997年の秋、アジア通貨危機が起こり、韓国は「国家倒産」の寸前の段階までいく。

P211
韓国では病院のランクによって、外来診療の自費負担率が異なり、上級総合病院クラスになると6割負担と高率になる。(中略)
ちなみに韓国の医療機関は、医院、病院、総合病院、上級総合病院というランクに分かれている。

P215
「(前略)韓国の小学校ではね、『困っている人を見たら助けましょう』と教えるんです。今、日本の学校ではどうでしょう?むしろ『他人に迷惑をかけないように』じゃないですか?」

P216
医師と聖職者と軍人という3つの職業が並ぶことは、今の日本ではあまりないだろう。

【関連図書】



「韓国社会の現在」春木育美

「韓国現地からの報告」伊東順子

「となりの韓国人」黒田福美

「「不時着」しても終わらない」黒田福美

【ネット上の紹介】
韓国カルチャーが世界で人気を博している。その理由は、それらが韓国社会の“いま”を巧妙に映し出す鏡であるからだ。近年話題となった小説、ドラマ、映画などのさまざまなカルチャーから見た、韓国のリアルな姿を考察する。
小説と映画、それぞれの凄絶『82年生まれ、キム・ジヨン』―憑依する「恨」、フェミニズムの時差と逆転、母は清渓川で働いていた
成長物語としての、ドラマ『サイコだけど大丈夫』―治癒のための韓国料理、家族と戦争のトラウマ、「クレメンタインの歌」の謎
北朝鮮の人々は『愛の不時着』を見たのだろうか?―北朝鮮における韓流、過去と現在
韓国ドラマ・映画と北朝鮮―「北のヒーロー」、その系譜 映画『南部軍』からドラマ『愛の不時着』まで
『梨泰院クラス』(1)―ダイバーシティとしての梨泰院 レインボーカラーが交差する街で見た夢
『梨泰院クラス』(2)―基地の街から外国人労働者の街へ 私にとっての梨泰院
映画『ミナリ』―これまでとは少し違った「韓国系移民の物語」受賞の喜びと、さまざまな感想
光州は世界をつなげる―パク・ソルメ著『もう死んでいる十二人の女たちと』と映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』、そして白竜、高橋悠治、富山妙子の世界へ
韓国の財閥とは?―ドラマ『Mine』から、そのリアルに迫る
なぜ、ドラマ『SKYキャッスル』が韓国を知るうえで重要と言われるのか?―「上級階級の妻たち」がモンスター化する、その理由
『賢い医師生活』で知る、韓国の人々の幸福感や倫理観―頑張ってきた自分は、次は何に頑張ればいいのだろう?
チョンセと再開発―不動産階級社会としての韓国 ドラマ『賢い医師生活』、映画『パラサイト 半地下の家族』、小説『こびとが打ち上げた小さなボール』、小説『野蛮なアリスさん』


「韓国現地からの報告」伊東順子

2022年04月20日 17時09分56秒 | 読書(韓国)


「韓国現地からの報告」伊東順子

昨年、「韓国社会の現在」(春木育美)を読んだ。
韓国ドラマの背景を知るためだ。
本書も、その流れで読んだ。

P36
32名もの犠牲者を出した事件の犯人チョ・スンヒ(23歳)は、8歳の時に一家で米国に移り住んだ韓国系移民だった。事件の詳細が伝わるや、韓国はパニック状態となった。

朴槿恵元大統領について(金鍾泌キム・ジョンピル氏のコメント
P78
「5000万人の韓国国民がデモしても、絶対に自ら辞めることはないだろう」
(中略)
「下野?死んでもしないよ。あの頑固さに勝てる人間などいない」「彼女は両親の性格の悪いところばかり受け継いだ」

P202
「反日教育」がつらくて帰国したという話はほとんど聞いたことがないが、韓国の受験教育を避けるため、子どもを連れて日本に戻った話はよく聞く。韓国人の配偶者もそれに同意するばかりか、配偶者が率先して提案する場合も少なくない。「この国の教育は終わっている。日本へ行け」と。
「教育移民」「キロギアッパ」(教育のために母子だけ海外に送り、父親だけ韓国に残る)という言葉がある国だ。

P219
韓国は日本とは違って、「推薦入学」の比率がものすごく高い。それは大学によってばらつきがあるが、平均して約7割が推薦枠。(中略)
大学別だとトップ3であるソウル大学、延世大学、高麗大学の定時枠(=日本のセンター試験に相当)は、それぞれ21.5%、29.5パーセント、15.8パーセントと、名門大学も例外ではない。(ちなみに、受験戦争を描いたドラマ「SKYキャッスル」のSKYとは、S=ソウル大学校、K=高麗(コリョ)大学校とY=延世(ヨンセ)大学校のこと・・・SKYキャッスル

P220
今の韓国の受験生にとっては「随時」こそが第一の目標であり、「定時」はそこから漏れた人の敗者復活戦的意味合いになっている。(「随時」=「推薦入学」だ)

P230
私自身もそうだし、韓国で長く暮らす他の日本人の友人たちも、反日感情で嫌な思いをすることはあっても、あのタイプのデモを経験したことはない。韓国人のデモは「批判」や「要求」が中心であり、「憎悪」や「排除」ではない。したがって自分の存在そのものが脅かされるような恐怖を味わうことはないのだ。(そこが日本のヘイトスピーチ・デモと異なる)

【ネット上の紹介】
セウォル号事件、朴槿恵退陣を求める巨大デモ、悪化する日韓関係、文在寅政権下の分断…そのとき、韓国では何が起こっていたのか?人びとは何を思い、考えていたのか?二〇一四~二〇年はじめまでに起こった出来事のほか、過度の競争を強いる教育制度、軍隊生活や不動産階級社会の実際、日韓をつなぐ人や物など、さまざまな物事を現地から報告する。メディアにはあらわれない韓国の人々の本音、日々のつぶやきを聞き取り、思考するための一冊。
第1章 不信―セウォル号事件2014~15(船長や船員は何故さっさと逃げたのか
「まさに韓国的」なのか、「日本も同じ」なのか ほか)
第2章 政変―政治参加する人びと2016~17(朴大統領への巨大な怒り、しかし謎は残る
朴疑惑、メディアは前から知っていた? ほか)
第3章 歓喜から混乱へ―文政権のジレンマ2018~20(前政権を清算する新政権―「日韓慰安婦合意」の誠実な履行のために
なんと検察から!韓国の#Me Too―緊張する政界財界マスコミ業界 ほか)
第4章 韓国の教育現場から―日韓どちらが生きづらい?(韓国の学校で学ぶ、日本人の子供たち
教科書の中の「慰安婦問題」 ほか)
第5章 旅、友だち、それぞれの日韓(松山ではヘイトスピーチがありますか?―ある「親日派」の息子
韓流観光の教訓―「寒流」とキーセン観光 ほか)


「「不時着」しても終わらない」黒田福美

2021年05月13日 08時35分19秒 | 読書(韓国)


「「不時着」しても終わらない」黒田福美

ドラマの背景となる韓国社会を論じた作品。

P30
上着なしでは正式ではない、「身なりを整える」ということが相手への礼儀であるということが染みついている、韓国人男性独特の仕草だなといつも思います。(つまり、日韓外交交渉の場で省エネルックで臨むと、決裂必然、と)

「恨」について
P59
「自分ではどうすることもできない、哀しみや苦しみが心の中に降り積もって、降り積もって、たくさん降り積もって、でも、どうすることもできなくて、それが心の中で長い年月をかけて石のように固くなってしまったような、悲しみの塊のようなもの」

P83
私の皮膚感覚として、日本人は「善悪」を基準とし、韓国人は「損得」を重要視すると感じるのは、片や仏教的、片や儒教的なものの考え方が反映されているのではと思うのです。

P108
自分が女性である場合、「姉はオンニ」「兄はオッパ」となり、自分が男性なら「姉はヌナ」「兄はヒョン」となります。母方の姉妹は「イモ」、父方は「コモ」というのは序の口。妹が姉の夫を呼ぶときは「ヒョンブ」、弟が姉の夫を呼ぶときは「メヒョン」、兄嫁は「ヒョンス」。自分が女性か男性かで呼び方も変わります。

P110
たとえばセリは「代表(テービョー)ニム」と呼ばれています。(中略)
ほかには「会長(フェジャン)ニム」、「社長(サジャン)ニム」、「係長(ケジャン)ニム、「~代理(デリ)」、「室長(シルチャン)ニム」。

「ポッタリ(風呂敷包み)チャンサ(商売)」
P117
山口県下関港からは百年以上続く、下関と釜山をつなぐ「関釜フェリー」が就航しています。この船の二等船室は韓国のアジュンマであふれているのです。行きは釜山で日本向けの韓国製品を仕入れて下関の市場に卸し、帰りは日本の家電などを仕入れて釜山で売るのです。(いつか乗ってみたい)

【関連作品】
「韓国社会の現在」春木育美 -

「となりの韓国人」黒田福美


【ネット上の紹介】
考えてから走る日本人。走りながら考える韓国人。日本と韓国の文化の違いがこんなにおもしろいなんて!芸能界きっての韓国通の著者が深掘りします!
1 私たちはなぜリ・ジョンヒョクに心惹かれるのか?
2 憧れの女性像 ユン・セリは自分のことは自分で決める
3 韓国独特の「恨」の文化がユン・セリの上昇志向の原動力
4 遠くて近い韓国文化と日本文化 違いと魅力
5 韓国人女性の“これまで”と“いま”
6 越えてはならぬ38度線が強いる「兵役」と「統一」への願い


「となりの韓国人」黒田福美

2021年04月19日 18時07分12秒 | 読書(韓国)


「となりの韓国人」黒田福美

先日、「韓国社会の現在」(春木育美)を読んだ。
韓国ドラマの背景を知るためだ。
本書も、その流れで読んだ。
「ドラマあるある」の背景を知ることができ、役に立った。

P107
「韓国人は立ち入ったことでもずけずけと聞いてくる」というのは同じ韓国人でも手を焼いている事のようだ。
「そういうときはどう対処しているの?」と聞くと、「それとなく話題を変えたりして乗り切る」と彼ら自身も苦慮しているのがうかがえる。
以前、「チバンイリムニダ(身内の問題です)」というコメディアンの言葉が流行語になったことがあったが、これなども追求の魔の手をやんわりかいくぐるのに一役買ったフレーズだったのかもしれない。

P113
韓国のホームドラマなどを見ていると、みんなスプーンにてんこ盛りご飯(韓国ではご飯はスプーンで食べる)を口に入れるので思わず「大丈夫か?」と、同業者として心配してしまうほどだ。しかも、美人女優がご飯を頬張ったついでにキムチまで口に入れたりする。(中略)
また、韓国では「サム」といって、肉や魚を青菜などで包んで口一杯に頬張って食べる習慣があるが、どういうわけか、これはどんなに大きくても「一口」で食べるのが決まりだ。

P185
何より妙なのは「ぞんざい語宣言」があることだ。(中略)
「僕たちこんなに親しくなったのだから、もうぞんざい語(パンマル語)で話そう」と。
男女間でも同様だ。ドラマなどでお互い好意を持ち合っている2人が、もっと打ち解けた間柄になろうと男の子のほうから「パンマル」を提案し、それまで尊敬語を使っていた2人が、ぎこちなくぞんざい語での会話を始めるなんていうシーンがあったりする。

P187
しかしなんといっても韓国人の生活に密着する「儒教文化」、その最たるものといえば「祭祀(チェサ)」だろう。(中略)
祭祀となると親族一同が本家に集まる。さらに祖先に捧げる祭祀料理の準備もあり、本家筋の長男の嫁はそのつど準備に追われるわけで、その肉体的・経済的・精神的負担も半端ではない。
 四代ということは単純に考えても四組の夫婦、年に八回の命日に法事が執り行われる計算になる。(以前、10年か20年前、新聞記事でチェサが韓国女性の結婚ハードルになっている、という記事を読んだことがある・・・これら要因が積もり積もって『20代の未婚率は91.3%に上る。同じく晩婚化が進む日本で20代の未婚率が79.7%であることと比べても、韓国の晩婚化は際立っている』、という結果に繋がるのでしょうね。・・・「韓国社会の現在」春木育美)

【おまけ】
著者の「韓国愛」が感じられる作品。
2011年5月、韓国政府から『修交勲章興仁』(2等級)を授与されたそうだ。

【参考リンク】
「韓国社会の現在」春木育美 -


【ネット上の紹介】
仕事よりメシが大事な韓国人、完璧なんて望まない韓国人、はっきり言わなきゃわからない韓国人。似てるようでもちょっと違うし、違うところはずいぶん違う。そんな違いに、日本人と韓国人は、いつもつまずく―。20年以上韓国と関わってきた人気女優が解き明かす、ドラマではわからない「隣人」の真相。


「定年後の韓国ドラマ」藤脇邦夫

2021年03月25日 15時35分28秒 | 読書(韓国)


「定年後の韓国ドラマ」藤脇邦夫

韓国ドラマを分類、分析して、具体的に作品を紹介してくれている。
但し、2016年11月出版なので、日進月歩で新作が出来ていくなかで読むには、古すぎる。
よって、過度に期待するとがっかりする。
それに、著者と私では趣味が異なる。(2016年出版だから、2017年「黄金の私の人生」2017年「愛の迷宮」2018年「知ってるワイフ」が抜けるのは仕方ないにしても、2009年「華麗なる遺産」2012年「いとしのソヨン」2013年「私の10年の秘密」2014年「私はチャン・ボリ!」に触れていない。これって、どーいうこと? 趣味が違いすぎる)

P140
「ニューファミリー」出現以前の70年代まで、特に地地方在住の団塊の世代では(特に女性は)、「結婚までは親と同居、また結婚後も相手側の親と同居」は、当時支配的な考え方だったことはここで記しておきたい。

P82
このジャンルの第一人者であるノ・ヒギョンの作品はまさにそうで、「私が生きる世界」「愛の群像」「花よりも美しく」「グッバイ・ソロ」「彼らが生きる世界」とヒットの多い作家だが、その世界は作家自身の人生も投影しているらしく、それだけにリアルで感動を呼んだ作品で知られている。(現在、これらの作品は、Amazon、Netflix、U-NEXT、いずれでも視聴不可能)

【ひと言】
韓国ドラマを観ていて、タイトルの付け方がなってない、と感じる。
何とかならない?(少なくとも、「愛の××」は、やめてほしい)
これって、配給担当者が付けてるのだろうか?
担当者を変えるか、タイトル専門の優秀な方を雇うべき。

【ネット上の紹介】
国内外のドラマ、映画を500本以上視聴した著者は、長い余暇の相棒として「韓国ドラマ」に勝るものはないと断言する。韓国は、毎月100話近いドラマが放送される異常なドラマ大国で、視聴率にもシビアだ。日本のようにキャスティングありきの安易なドラマ制作は許されず、脚本が優れた本物の作品のみが生き残る。最高視聴率64・5%を記録した「砂時計」や、韓国ドラマの全ての要素が完全に内包された「ジャイアント」を見れば、その凄さが必ず分かるはずだ。本書ではその魅力を「韓国ドラマベスト50」と共に余すことなく語り尽くす。
第1章 韓国ドラマとは何か
第2章 日本人だけが感じ取れる、韓国ドラマ特有の情感
第3章 究極のシナリオ技術
第4章 韓国ドラマの俳優たち
第5章 家族ドラマの世界
第6章 代表作「ジャイアント」「砂時計」徹底解析
第7章 ドラマ音楽の、もう一つの対等な効果
第8章 ブームが去った後で残ったもの


「韓国社会の現在」春木育美

2021年03月04日 08時57分11秒 | 読書(韓国)


「韓国社会の現在」春木育美

韓国社会での問題点は、日本と共通するものが多い。
人口減少、高齢化、貧困・格差社会、少子化問題。
このところ、韓国ドラマをよく観ているので、「どうなってるの?」と、その社会背景が気になって読んでみた。

P7
20代の未婚率は91.3%に上る。同じく晩婚化が進む日本で20代の未婚率が79.7%であることと比べても、韓国の晩婚化は際立っている。(2018年データ)

大手新聞の社説
P16
「もはや誰も子どもを産まなくなる。遠からず大韓民国は消滅する」

2017年文在寅大統領就任直後の演説
P16
「この10年で少子化対策に130兆ウォンも費やしたのに、まったく効果がなく解決する兆しもない。このままでは早晩、国家的な危機を迎える」

P20
韓国では結婚をすること自体の費用負担が、日本と比較してもかなり重い。結婚はいまだに家同士の格やつながり、対面が重視される傾向が強く、籍だけ入れて済むものではない。
(中略)
最大の問題は、結婚後に住む家の確保である。韓国独自の住宅賃貸制度として、賃貸でも高額な保証金を貸し手に払うことが必要となる。準備できる金額により居住できる物件が高層マンションになるか、「半地下」の家になるか決まる。
正社員でなければ銀行の融資額も限られる。親に資産がなければ、安定した収入や貯蓄ができるまで、結婚は先延ばしにされがちである。家が借りられなければ結婚生活が始められないからだ。(「黄金の私の人生」でジテとスアがなかなか結婚に踏み切れない。「自分の子に貧しい暮らしをさせるくらいなら結婚しない」、と言い切っている。やっと結婚に踏み切るが、その際に「婚前契約書」を作成して「子どもを持たない」と第1条に記載している)

P24
1997年末のアジア通貨危機を契機として専業主婦志向は一変した。それまで家計の大黒柱として家族を養ってきた父親世代が、大量にリストラや失業の憂き目にあった。1997年11月から1998年7月にかけて雇用者数は1割減少し、失業率は2%から一気に7.9%に跳ね上がった。離婚は急増し、家族解体や家庭崩壊が相次いだ。
(中略)
家父長的韓国の家族形態はここで大きな打撃を受けた。
(中略)
この頃から、「お前の人生の目標は結婚だ」と叫ぶ父親がいた家庭でも、まずは就職して安定した職と収入を得ることが優先事項となる。
(中略)
かくして娘たちは受験戦争での勝利を目指すようになり、大学進学率は男子を追い抜いた。(「いとしのソヨン」「黄金の私の人生」でも、父親の事業が破綻し、その子どもたちは苦学する、って設定だ・・・これでドラマの背景に納得、また、「SKYキャッスル」では、受験戦争と母親の情報戦が描かれている・・・SKYとはソウル大学校、高麗大学校、延世大学校の頭文字)

『結婚移民者の韓国語テキスト』
P44
韓国語テキストの内容や教育プログラムの内容には、家父長的な家族規範を押しつけるような内容が散見される。また、多くの韓国女性が忌避したがる祭祀(チェサ)の行い方や料理の作り方、舅や姑の還暦や喜寿の祝膳の整え方といった講習に力を入れている。(この辺りも韓国女性の結婚ハードルの一つ、と思われる)

P57
親の面倒をみない親が子どもを訴える「親不孝訴訟」も珍しくない。実際に最高裁は、親孝行契約書に違反した息子に、親から譲り受けた財産を返納するよう命じる判決を2015年に下している。

P95
現在17歳になると役所に赴き、指10本すべての指紋登録を行い、住民登録証の交付を受ける。(このカードは日本の免許証のように写真入りだ。「童顔美女」でヒロインが就職する際、「身分証」の提示を求められるシーンがある・・・映像を一時停止してよく見ると、この「住民登録証」を提示しているのが分かる)

P128
韓国の大学には、日本にみられない特色がある。演劇映画学科の存在である。
(中略)
韓国の俳優の演技力や演劇のレベルの高さは、大学で演技の専門教育を受けた人材の層の厚さ背景にある。(役者もスタッフも高学歴な方が多い、と)
P139
進歩派のエリートたちは、社会正義を叫びながら、その一方で自らの文化資本をフル活用し、わが子が上位中間層から滑り落ちることがないよう血眼になってきた。(「後継者たち」では、舞台となる高校の中にも歴然と階級差が持ち込まれている)

P140
韓国人男性と結婚した日本女性のなかには、わが子を韓国の過酷な教育環境で育てたくないと、中学や高校の段階で日本に子どもを連れて帰国する人もいる。

P182
儒教の影響から技術職を下に見る価値観も根強い。

教育・しつけと体罰(教育問題について・・・P227-235を読んでみて)
P228
ドラマ最終回では、ヒロインのチャングムが愛娘を叱りつけながら棒で打つシーンがでてくる。(このドラマ視聴率は63.5%)

【ネット上の紹介】
若者の就業率、私教育費、男女の賃金格差など先進国の中で、”最悪”の数値を示す韓国。「圧縮した近代」の結果、特に1を切った出生率、60%が無年金者という高齢者の貧困率・自殺率は世界で最も深刻である。他方で問題解決のため大胆な政策が即座に行われ、デジタル化などは最先端を行く。本書は、少子高齢化、貧困・孤立化、デジタル化、教育、ジェンダーをテーマに、深刻化した現状と打開への試行錯誤を描く。韓国の苦悩は日本の近未来でもある。
第1章 世界で突出する少子化―0.92ショックはなぜ
第2章 貧困化、孤立化、ひとりの時代の到来
第3章 デジタル先進国の明暗―最先端の試行錯誤
第4章 国民総高学歴社会の憂鬱―「ヘル朝鮮」の実情
第5章 韓国女性のいま―男尊女卑は変わるか
終章 絶望的な格差と社会―若者の活路は


「パチンコ」(上・下)ミン・ジン・リー

2021年02月12日 18時59分35秒 | 読書(韓国)


「パチンコ」(上・下)ミン・ジン・リー

これこそ小説の醍醐味。
早くも、ことしのベスト、と思う。
上下2冊、一気読みだ!

舞台は、日本の統治下・朝鮮、大阪(猪飼野)、横浜へと移動。
在日コリアン四世代、全三部作。

第一部、1910年から1933年
第二部、1939年から1962年
第三部、1962年から1989年

物語は、日本に併合された朝鮮半島、釜山沖の影島から始まる。
オープニング、島でのソンジャの成長と恋が描かれる。
まるで神話のような描写が美しい。

大阪に舞台は移動・・・台詞は大阪弁となる
P75
「僕もそれで帰ってきてるんや。おかんによると、いつもとちょっと様子が違うらしいねん(後略)」(翻訳の大阪弁がいい感じだ。母=おかん、と翻訳家・池田真紀子さんが訳している。東京生まれなのに、えらい!)

P78
日本は、こちらがどんなに愛しても自分を愛してくれない継母に似ていた。

P212
1952年以降に日本で生まれたコリアンは、十四歳の誕生日に市区町村の役所に日本の在留許可を申請しなくてはならない。その後は日本を永久に離れないかぎり三年ごとに同じ手続きを繰り返す。

著者の言葉
P361
「私の夫は日本人とのハーフで、私の息子は民族的には四分の一が日本人だ。現代の日本人には、日本の過去については責任はない。私たちにできるのは、過去を知り、現在を誠実に生きることだけだ」

【気になること】
戦時中、日本人は、中国のことを支那、と呼んでいた。
中国人のことは支那人、と。
戦後、中国、中国人、と呼ぶようになったように思う。
本作品では、登場人物達は、そう呼んでいない。
そこがひっかかる。(重箱の隅をつついて申し訳ない)

【著者略歴】
著者はソウル生まれ、その後家族とニューヨークに移住。
イエール大学、ジョージタウン大学ロースクールを経て、弁護士となる。
その後、2007年から2011年にかけて東京に在住。
原作は、英文で書かれている。

【ネット上の紹介】
日本に併合された朝鮮半島、釜山沖の影島。下宿屋を営む夫婦の娘として生まれたキム・ソンジャが出会ったのは、日本との貿易を生業とするハンスという男だった。見知らぬ都会の匂いのするハンスと恋に落ち、やがて身ごもったソンジャは、ハンスには日本に妻子がいることを知らされる。許されぬ妊娠を恥じ、苦悩するソンジャに手を差し伸べたのは若き牧師イサク。彼はソンジャの子を自分の子として育てると誓い、ソンジャとともに兄が住む大阪の鶴橋に渡ることになった…一九一〇年の朝鮮半島で幕を開け、大阪へ、そして横浜へ―。小説というものの圧倒的な力をあらためて悟らせてくれる壮大な物語。構想から三十年、世界中の読者を感動させ、アメリカ最大の文学賞・全米図書賞最終候補作となった韓国系アメリカ人作家の渾身の大作。


「柔らかな海峡」金惠京

2016年05月11日 20時55分49秒 | 読書(韓国)


「柔らかな海峡 日本・韓国和解への道」金惠京(キム・ヘギョン)

親日家として知られる金惠京さんの最新コラム集。
以前、このブログでも「涙と花札」を紹介したことがある。→「涙と花札」金惠京
著者はソウルで育ち、日本に憧れて明大と早大で学究生活を送り、その後渡米、ローファーム Morrison & Foester本部 国際弁護士、現在、日本大学総合科学研究所准教授を経て、日本大学危機管理学部准教授。

安重根について・・・。
P32
 私の専門は国際法で、テロに関して研究を進めている。その分野で知られた格言として「ある人にとってのテロリストは、他の人にとっての自由の戦士」というものがある。韓国で民族の英雄とされる安重根は、しばしばその代表例として語られてきた。

昨年、NHK『歴史秘話ヒストリア』で伊藤博文の妻・梅子が取り上げらえた。
その時、違和感を強く感じたのを覚えている。
どのように伊藤博文が亡くなったのか、一切触れなかったから。
暗殺されたのである、安重根によって。→「暗殺者たち」黒川創
NHKは日韓関係に配慮して、この個所を割愛したのであろう。

【参考リンクNHK】
2015/08/26 第227回放送 「やっぱり妻には かないません! ~初代総理大臣・伊藤博文の妻 梅子~」

慰安婦問題について
P97-98
アメリカ社会のこの問題の捉え方である。現在、少女像を挟んで日韓両国が見せている応酬は、アメリカ社会からの視点を加えると滑稽ですらある。なぜなら、一般のアメリカ市民の大半は韓国が日本の植民地であったことすら知らないためである。

集団的自衛権について
P178
 韓国は1964年、集団的自衛権に基づき、アメリカが主導したベトナム戦争に参戦した。ベトナムとの直接の利害関係は国の根幹に関わるものではなかったが、急速な経済発展を目指す韓国のアメリカからの支援拡張、あるいは朝鮮戦争参戦への返礼という意味合いに基づき、参戦の判断が下されたのである。
 当時最大で5万人の韓国人が参戦し、韓国人とベトナム人双方に数千人規模の犠牲が生じることとなった。その後、韓国は1972年に撤退したものの、ベトナムとの国交正常化までには20年を要し、韓国人兵士や、韓国人とベトナム人との間に生まれた子どもたちなどの当事者は、未だ多くの困難を抱えている。

P69-73
2015年6月5日放送「池上彰緊急スペシャル!知っているようで知らない韓国のナゾ」の問題点。まとめると…
①「冷静な日本に対して、感情的な韓国」という印象が強調されすぎている。実際そうなんだろうか、と…韓国では59.2%の人が日本に行きたいとアンケートに答えている。(逆に日本人が韓国に行きたいは、52.4%)相手国に行きたいというのは、敬意が高い証拠。
②池上彰氏が、タレントの感情的な反応に対して、冷静な側に引き戻すというリーダーの役を果たしていない。
③デリケートな時期にもかかわらず、日韓の専門家がゲストとして不在であった。
(この箇所は、実際読んでみて。私の説明では不十分だから)

【ネット上の紹介】
テレビ、ラジオで活躍する気鋭の論客が、「困難を極める日韓関係」と「テロの時代の世界」を、柔らかで明確な視線で読み解く。「不寛容な時代」を生きる私たちの必読書。
[目次]
第1章 対立を超えて(「いつもの光景」を超えて―竹島(独島)を相互理解の契機に
希望を忘れた関係に未来はない―韓国人サポーターの横断幕に思う
潘基文・国連事務総長の発言は誤りか? ほか)
第2章 世界はどこを目指す(熱烈な愛国心と恒常的な恐怖―失われたアメリカの自由
アルジェリア人質テロで見過ごされた三つの問い
シリアの査察受け入れは薔薇色のゴールではない ほか)
第3章 後退に抗する(誰が法と制度を運用するのか?―在留カードの穴から見えた現実
日韓の選挙が明らかにした両国の姿
法の成り立ちから集団的自衛権を考える ほか)


「コリアン世界の旅」野村進

2015年11月16日 22時33分45秒 | 読書(韓国)


「コリアン世界の旅」野村進

大宅壮一ノンフィクション賞・講談社ノンフィクション賞ダブル受賞作品。
ずっと気になっていた作品。
今さら、と言われるかもしれないが、読んでよかった。
レベルが高く、面白かった。
次の3章からなる。

1 コリアンとは誰か
2 コリアン世界の旅
3 コリアン 終わりと始まり

第2章が特に面白い。
アメリカ、ベトナム、韓国での取材。
私は以前から、ロサンゼルス暴動で、なぜ韓国人商店街がターゲットになったのか?、と言う疑問を持っていた。
100%ではないが、回答を得られた。

1992ロサンゼルス暴動について、チェ・ソンホ氏の証言
P187
「ロドニー・キング事件の評決があったのが、1992年4月29日の2時半頃だったよね。そのニュースを、俺、知らなかったんだよ。そしたら、向かいの黒人のおじいちゃんが、『なんか大変なことになりそうだから、早く店を閉めたほうがいいよ』って言いにきてくれたんだ。(後略)」

ミドルマン・マイノリティとしてのコリアン
P192
 移民としては後発組でも、教育程度や経済水準が高い彼らは、必然的に白人と黒人・ヒスパニックとのあいだに組み込まれることになった。
(中略)
ヨーロッパのユダヤ人や東南アジアの華人、東アフリカのインド人などが、しばしばこの範疇に属し、支配層と従属層との橋渡しや緩衝役を果たす反面、攻撃対象やスケープゴートにされやすい不安定な存在であることも指摘されてきた。

「謀略説」も根強くある
P197
いわく、ユダヤ資本の大手チェーン・ストアが、韓国人商店から顧客を奪い返すために仕組んだのだ。いわく、火付け役となって暴れた黒人ギャングたちは、白人からカネをもらっていた。

なぜアメリカに移民したのか?
P189-190
 朝鮮戦争――、この日本では忘れられかけている戦争が朝鮮半島の人々にもたらした惨禍は、日本の敗戦直後の比ではなかった。家族も財産も生きる場所も失い、民族全体が難民化したと言っても過言ではない。アメリカは戦争の一方の当事者だったのだが、韓国人の目には食料や物資を惜しみなく与えてくれる“救世主”と映った。かつての支配者・日本とは、天と地ほども違うではないか、と。『美国(あめりか)幻想』がこのとき醸成され、韓国国民のあいだに広がっていく。

1992ロサンゼルス暴動以外でも、興味深い話が盛りだくさん。
済州島出身の韓国人の話
P311
 「朝鮮の地域差別は、日本人にはちょっとわからないと思うくらいひどいんですよ。『陸地』でも慶尚道の人間は全羅道の人間を差別するけれど、それは『人間として』差別するんでね。慶尚道の人間も全羅道の人間も、済州島の人間を人間扱いしなかった。牛や豚の同類として差別したんです。済州島ではむかし人糞をえさにして豚を飼っていたから、僕らは『くそブタ』と呼ばれていたんですよ」

現在、日本にいるコリアンたちは、強制的に連れてこられたのか?
P321
 次の二点を明記しておきたい。強制連行された朝鮮人のほとんどは、戦後まもなく日本政府の計画送還で帰国していること。在日一世の大半は、戦前から日本に住みつづけているか、戦後、密航で来たかのどちらかであるということ。

高史明の言葉
P373
旧ユーゴスラビアの民族紛争などを見ても、民族の熱い絆そのものが、導火線の役割を果たすようになってしまったというのである。
「血のつながりだけで人間の連帯を説いても、現代の世界に出口は見えないわけですよ。逆に、血のつながりが人間の存在そのものを脅かしかねないようになってきているのが、いま人類が直面している重い課題だと思います」

我々・・・というか私は、あまりに隣国について知識がなさ過ぎた。
大変勉強になった。
私が今まで読んだノンフィクション作品の中でも、屈指の面白さ、と思う。

【ネット上の作品】
日本に住む韓国・朝鮮系の人々が、なぜ日本人の目に「見えない」存在になってしまったのか。この謎に果敢に挑む著者の旅は、日本、アメリカ、ベトナム、韓国に広がり、再び日本に戻る。私たちのすぐ隣にある「コリアン世界」を真摯に描いた、大宅壮一ノンフィクション賞・講談社ノンフィクション賞ダブル受賞作品。
[目次]
1 コリアンとは誰か(“帰化”―歌手にしきのあきらの場合
焼肉はどこからきたか
日本人が知らない「民族教育」 ほか)
2 コリアン世界の旅(世界で最も危険な街に生きる在米コリアン
サイゴンに帰ってきた韓国兵たち
韓国人ボクサー父と子の拳 ほか)
3 コリアン 終わりと始まり(金日成は生きている
大震災のあとで―神戸市長田区の人々
Jリーグのコリアンたち ほか)  


「涙と花札」金惠京

2013年03月29日 21時40分36秒 | 読書(韓国)

「涙と花札 韓流と日流のあいだで」金惠京

評判の作品を読んだ。よかった。
タイトルの「涙と花札」は、韓国の葬儀のシーンから来ている。

そこでは涙の数が死別の悲しみの深さを表し、参列者も遺族とその悲しさを分かち合う。
(中略)参列者を前にしなければ、遺族も声をあげて泣くことは余り無い。そして家族を亡くした悲しみの強さはどれ程のものか周囲もよく理解しているので、参列者は彼らの気持ちを和まそうと努力する。
そこで行われるのが、葬儀場(韓国では遺族がそこに泊まり込む)での参列者の間の花札である。

韓国では、葬儀場や病院の売店には必ず花札が置いてあるそうだ。
その花札は、1世紀以上前、李氏朝鮮時代後期に日本から入ってきたそうだ。
このように、日本と韓国の相違と相似が書かれている。
自伝の形をとり、体験とエピソードが紹介されている。
読んでいて、著者の人柄の良さが感じられ、好感度が高い。
世の中、金惠京さんのような方ばかりだったら、日韓関係もうまくいくんだけど。

[目次]
第1章 遠い日の記憶;
第2章 夢と受験のはざまで;
第3章 憧れの留学生活;
第4章 大学での忘れえぬ人々;
第5章 望郷;
第6章 道を切り拓く;
第7章 北朝鮮という運命;
第8章 アメリカを生きる韓国人;
第9章 終の帰還
【ネット上の紹介】
韓国人が分かる、日本人が見えてくる――新世代の韓国人法学者による注目の書! なぜ韓国人は葬儀場で号泣した後、賑やかに日本由来の花札に興じるのか? なぜ受験競争が世界一と言われるほど過熱するのか? 韓国人にとって北朝鮮とは何か? 五輪に沸くソウルで育ち、日本に憧れて明大と早大で学究生活を送った気鋭の女性法学者が、自らの体験をもとにユニークな視点で日韓の相違と相似を描いた好著!