「大統領でたどるアメリカの歴史」明石和康
P6
建国から200年余の期間で、独立直後の大切な時期を指導したワシントンと19世紀半ばの南北戦争を克服したリンカーン、そしてフランクリン・ルーズベルトの3人が、アメリカ史上最も尊敬されている大統領です。
P24
満場一致で2度も大統領に選出されたのはワシントンだけです。
P26
ワシントンは惜しまれながらも、二期8年で引退しました。これは、生まれて間もない民主主義国アメリカの指導者の在り方を明瞭に示した点で大きな意義があります。つまり、大統領の権力は非常に強いけれども、民主国である以上、1人の指導者が権力の座に長くとどまるのは良くないとの信念です。(毛沢東、金日成など政治家より、教祖か家元に近い気がする)
P80
双方とも、よもやこの戦い(南北戦争)が4年も続き、計62万人もの犠牲者をだす近代史上最大規模の内戦に発展するとは思ってもいなかったようです。(中略)第1次世界大戦での米兵の死者数は40万5千人、ベトナム戦争では5万8千人です。
P150
民間経済が失敗したなら、連邦政府が積極的に経済に介入して、国民の生活を守らなければならない。それを行動で示し、危機の時代のリーダーシップを確立したのがルーズベルトです。(中略)30年代から40年代に大人になった多くのアメリカ人は「彼が職を与えてくれた」「彼が救ってくれた」との思いが強く、民主党時代は戦後の60年代まで続くのです。黒人層がリンカーンの政党だった共和党から民主党支持に変わる歴史的な変化が起きたのも、中間層が急速に厚くなったのもルーズベルトが築いた民主党時代の特徴と言えるでしょう。
P175
ベトナム戦争は、アメリカが軍事的に支援する現地政府に対して、南ベトナムの人々が植民地主義からの脱却を目指して戦う民族解放戦争の意味合いがありました。東南アジアにおける共産主義の浸透を恐れるあまり、ジョンソン政権はもちろん、多くのアメリカ人がそのことをなかなか理解しようとしなかった点にも問題があります。
68年1月に北ベトナムが仕掛けたテト攻勢(the Tet Offensive=テトとはベトナムの旧正月です)はアメリカ軍を守勢に追い込みます。国内の批判が高まる中で、同年3月31日、ジョンソンは北爆の中止と自らの再選出馬断念をテレビを通じて国民に発表します。ちょうど68年が大統領選の最中だったため、民主党は大混乱。(中略)フランクリン・ルーベルト以来、長年続いた民主党優位の時代は、ベトナム戦争の激化とともに終焉を迎えるのです。
P201
カーターの稚拙な外交手腕に失望した保守的な民主党員の中には、レーガンの指導力に引き付けられ、共和党入りする人が出てきました。(中略)まさに、「レーガン革命」とも言うべき政治的大変動が起きたのです。そのうねりは、基本的に第43代ジョージ・W・ブッシュ政権まで続き、共和党主導の一時代を画するのです。
【参考リンク】
歴代アメリカ合衆国大統領の一覧 - Wikipedia
【ネット上の紹介】
大国アメリカを率い、世界に強い影響力を及ぼすアメリカ大統領はどのように指導力を発揮してきたのだろうか。「建国の父」と呼ばれる初代ワシントンから、リンカーン、ルーズベルト、レーガン、ブッシュそして初の黒人大統領オバマまで、歴代大統領の足跡をたどりながらアメリカの歴史をわかりやすく解説します。
序章 大統領が導くアメリカ
第1章 独立からフロンティア拡大の時代―一七七六‐一八六〇年
第2章 分裂の危機と南北戦争―一八六〇‐一八九六年
第3章 欧州列強に並ぶ大国への道―一八九六‐一九三二年
第4章 ルーズベルト連合と民主党の時代―一九三二‐一九六八年
第5章 アメリカの復活とレーガンの時代―一九六八‐二〇〇八年
第6章 変わるアメリカ、オバマの登場―二〇〇八年‐現在
「アメリカ人の4人に1人はトランプが大統領だと信じている」町山智浩
P116
史上最も賛否が分かれたのは1974年、フォード大統領によるニクソン恩赦だ。ニクソン大統領は民主党選挙本部を盗聴したウォーターゲート事件で辞任したが、副大統領から大統領になったフォードは、「関わった犯罪、または関わったかもしれない犯罪」について赦免するとした。これが「先制恩赦」だ。
P124
クレヨンしんちゃんの父(35歳)
天才バカボンのパパ(41歳)
サザエさんの父・波平(54歳)
P171
2018年に『大草原の小さな家』の作者ローラ・インガルス・ワイルダーの名前がアメリカ図書館協会の児童文学賞の名称から外された。先住民や黒人に対する差別的な描写があるという理由で。ワイルダーが『大草原~』を書いたのは1930年代。まだ人権意識の低い時代だった。このようにポリティカリー・コレクトでない文化を抹消することをキャンセル・カルチャーと呼ぶ。(同様の理由で、『風と共に去りぬ』は、人気投票ランキング上位に上がってこない。「差別的だから」という理由で。『大草原~』も『風と共に~』も、作品本来の趣旨と違う事由で貶められる、ってどうなの?・・・もやもやとしたものが残る)
P186
政治的なコンテンツを見なくても、ネットで人は政治に引きずり込まれる。フェイスブックやツイッター、YouTubeには気に入ったコンテンツに「いいね」をつける機能があるが、その人の「いいね」を68件見れば、性的嗜好から政治的傾向まで9割以上プロファイル(推測)できる。その仕組みを暴いたのはスタンフォード大学のマイケル・コジンスキー准教授。フェイスブックはそのデータをマーケティングに利用していたが、2016年に5千万人分のデータが流出し、それをケンブリッジ・アナリティカ社が大統領の政治広告の送りつけに使い、トランプ候補の勝利に大いに貢献した。
P236
アマゾンは、パンデミックで世界中の小売店が閉鎖された2020年、213億3,100万ドルという史上最大の利益を上げた。その勢いでハリウッドの映画会社MGMを買収した。MGMが所有する007、ジェームズ・ボンド・シリーズは次からアマゾン製作になるわけだ。
P224
CRTとは、アメリカの白人たちの繁栄は、先住民から土地を奪い、黒人奴隷制度や人種差別の上に築かれたものだ、という歴史観のこと。こうした過去への反省は1960年代カウンターカルチャーの中で生まれたリベラルな考えだが、保守派は、CRTは白人の子どもたちに罪悪感を植え付け、白人への憎しみを育てるだけだと批判し続けてきた。
【ネット上の紹介】
一難(トランプ)去ってまた一難!?
悪あがき空しくトランプは落選。希望の再スタートかと思いきや今日も政治家、セレブの奇行は止まらない。
「トランプ軍」連邦議会に乱入!
BLMの波が全土を席巻
富裕層は所得税ゼロ?
カリスマYouTuberは年収17億円!……
大混乱のアメリカの一年間を定点観測。この国の明日はどっちだ?
「キンドレッド」オクテイヴィア・E・バトラー
面白かった!
おそらく、今年、翻訳小説のベスト、と思う。
「タイムスリップ」SFとしても、文学作品としても、良く出来ている。
著者は、アフリカ系米女性作家。
ヒューゴ賞を2度、ネビューラ賞を1度獲得し、現時点ではSF分野で位置の確立した唯一の黒人女性作家、と言われている。(訳者あとがき、より)
過酷な体験はデイナに憑依した読者の魂を揺すぶり、傷を残すかもしれない。くれぐれも精神に余裕のあるときに読書に臨んでほしい。(解説、より)
ちなみに、「キンドレッド・Kindred」は、「親族」のこと。
P46
「何年ですって?」
「1815年。」
(この19世紀初頭、ってのが、本作品のミソ・・・舞台はメリーランド州ボルチモア近くの農園。この後、黒人奴隷の生活が克明に描かれる)
P168
(ロビンソン)クルーソーは結局のところ、船が難破した時奴隷貿易の航海中だったのだ。
P229
この小説(「風と共に去りぬ」)の、優しく情愛ゆたかな奴隷制度下の幸せな黒ん坊(ニガー)の図には我慢できなかった。
P286
戦闘的な1960年代だったら、軽蔑される女だろう。頭にスカーフを巻いた屋内の黒ん坊、アンクル・トムの女性版、抵抗する力をすっかり失った脅えた女、来世のことに劣らず北部の自由についてほとんど知らない女。
P466
教育は奴隷を畑の労働の役に立たなくする。メソジストの牧師は教育は彼らを反抗的にし、神が定めたよりももっと多くを求めるようにしてしまう、と言った。
【チェックポイント】
①メリーランド歴史協会
Maryland Center for History and Culture (mdhistory.org)
②ヴァージニア、マウント・バーノン・・・ジョージ・ワシントンのプランテーションで、昔の状態を保存し、常時公開している、そう。
Official website of Mount Vernon
マウントバーノン - Wikipedia
③「農園主の館」見学ツアー
【ネット上の紹介】
二十六歳の誕生日をむかえた日、黒人女性のディナは、突然十九世紀初頭の奴隷制下の地へタイムスリップし、ルーファスという白人少年の命を救う。ルーファスは、黒人奴隷を多く抱えた農園主の息子であった。一世紀の時を超えた彼の元への、重度なるタイムスリップの理由が、次第に明らかになってゆく。人間の本質を問う、アフリカ系アメリカ人SF作家の金字塔。
プエルト・リコ人はアメリカ国籍を持つが、連邦税の納税義務はない。しかし、州ではないので、大統領選や連邦議会への選挙権はない。アメリカなのにアメリカじゃない、中途半端な立場に置かれたまま100年以上経った。
P125
冬休み、家族で中国の深圳に遊びに行った。(中略)
秋葉原の何倍もデカい電気街に行ったが、汚い屋台でおばちゃんが最新のドローンを売っている風景はあまりにブレードランナー。
でも、どこにも日本製品はない。日本企業の広告も影も形もない。
「日本が先進国だなんて自惚れは木っ端微塵に打ち砕かれるね」
そうグチると、アメリカの大学に通う娘がため息まじりでつぶやいた。
「OK、ブーマー」
訳すと、「はいはい、わかったよ、おじさん」。
(中略)
【ネット上の紹介】
コロナに負けても負けは認めん!米国史上最大の危機を現場からレポート!澤井健の爆笑イラストも完全収録。特別付録アメリカの闇を撃つ傑作映画10本。
トランプを袖にした女子サッカーの英雄
若くて非白人で4人の女性議員が政治を変える
「射殺したい」チャット流出でプエルト・リコ知事炎上
1969年の悲劇からハリウッドを救うタランティーノ
少女たちを奴隷にした富豪エプスタインの超人実験
ドクター・ルースのセックス相談とホロコースト
二重人種の苦労はギャグにもなればホラーにもなる
「日本化する」とは「日本のように経済が停滞すること」
石油パイプラインが先住民ダコタ族の水を汚染ス
ネット通販を支える宅配便という名の奴隷労働〔ほか〕
ニューイングランド地域―ヤンキー発祥の地
メトロポリタン・ニューヨーク地域―グローバルシティとしてのニューヨーク大都市圏
アパラチア地域―貧困と環境汚染がまねくディアスポラ
サウス地域―二つの南部
インダストリアル・ノース地域―工業と穀倉と酪農の地
ハートランド地域―ルイジアナ購入で得た広大な牧草地帯
アウトウェスト&アラスカ地域―ワイルドウェストと広大な資源の地
パシフィック・ノースウェスト地域―アジア太平洋とハイテク産業
サウスウェスト地域―先住民、メキシカン、アジア系が織りなすタペストリー
ハワイ地域―ミックスプレイトの光と陰
【ネット上の紹介】
世界最大の移民国アメリカは、いま大きな危機を迎えている。一九九〇年代以降、中南米出身の移民が急増し、現在一〇〇〇万人を超える不法移民がいる。多くの移民の支持を得たオバマ大統領は、五〇〇万人を超える不法移民に合法的地位を与える行政命令を出した。建国以来、移民の国であることに誇りを持ってきた米国社会で、不法移民批判が高まりつつある。移民政策はどう展開するのか。日本はどう対応すべきか。気鋭の政治学者が、移民問題を切り口に米国社会を鋭く分析する。
第1章 アメリカ移民略史(移民の理念・シンボル
連邦の移民政策―建国期から一九六五年移民法まで
中南米系移民の増大)
第2章 移民政策(移民国家アメリカの変容
移民問題をめぐる政治過程
白人のバッククラッシュ―二〇一六年大統領選挙)
第3章 移民の社会統合―教育・福祉・犯罪(連邦制と移民
教育
社会福祉政策
犯罪)
第4章 エスニック・ロビイング(象徴的な事例―なぜ慰安婦決議はなされるのか
アメリカのエスニック・ロビイングの特徴
ユダヤ系―最強のエスニック・ロビー
キューバ系・メキシコ系
東アジアのロビー勢力交代―日系から中国系へ
エスニック・ロビイングをどう見るべきか)
第5章 移民大国アメリカが示唆する日本の未来(マイノリティが変えるアメリカ
日本への示唆)
「ルポトランプ王国 もう一つのアメリカを行く」金成隆一
いったいなぜ、トランプが選ばれたのか?
いまだによく分からない。
その回答の手助けになるかと読んでみた。
トランプを応援し選んだ地域に出むいて1人1人インタビューしていった記録。
P35
ジョーが理解に苦しむのは、若者を取り巻く環境だ。「大学を出る時に既に10万ドル(1150万円)の借金があって、満足な仕事も見つからないなんで、どうなってるんだ?オレは高校卒業の前から稼いでいたぞ」
トランプは州立大学で集会を開いた…それに参加した久保文明・東大教授のコメント
P136
「小話の連続や、根拠の乏しい話を50分も聞かされるのは、なかなかつらいですね」
【感想】
トランプの主張は2点。
①自由貿易はよくないと攻撃
②不法移民への攻撃
…でも、これって自由の国アメリカの建国理念に抵触するのでは?
トランプ自身移民の子孫なのに。
「地球温暖化は中国の陰謀」なんて言ってる人間ってどうなのよ、って問題がある。
本当にそう信じているなら、その頭脳に疑問がわくし、
フェイクと分かって言っているなら、嘘つきである。
どちらにしても、ろくでもない。
しかし、ここで次の点を考える必要がある。P227
今回の選挙では、権威主義的なトランプが、移民や難民、イスラム教徒らへの排外主義的な主張を繰り返した末に当選したという点だ。自由、民主主義、多様性の尊重、言論の自由、機会の均等など、アメリカが大切にしてきた理念を語ろうとしない人物。
トランプを応援した地域は、中間層の没落著しいという特徴がある。
エスタブリッシュメント(既得権層)に対する、中流層の憎しみ。
クリントンが選ばれなかった理由もそうだと思う。
トランプは憎しみを巧みにあおり、利用した、と。
【参考リンク】
「トランプ現象とアメリカ保守思想」会田弘継
「激震!セクハラ帝国アメリカ」町山智浩
「さらば白人国家アメリカ」町山智浩
「宗教国家アメリカのふしぎな論理」森本あんり
「アメリカと宗教」堀内一史
【ネット上の紹介】
なぜトランプなのか?ニューヨークではわからない。アバラチア山脈を越えると状況が一変した。トランプを支持する人々がいた。熱心な人もいれば、ためらいがちな人も。山あいのバー、ダイナー、床屋、時には自宅に上がり込んで、将来を案ずる勤勉な人たちの声を聴く。普段は見えない、見ていない、もう一つのアメリカを見る。
第1章 「前代未聞」が起きた労働者の街
第2章 オレも、やっぱりトランプにしたよ
第3章 地方で暮らす若者たち
第4章 没落するミドルクラス
第5章 「時代遅れ」と笑われて
第6章 もう一つの大旋風
第7章 アメリカン・ドリームの終焉
「宗教国家アメリカのふしぎな論理」森本あんり
「富と成功」「反知性主義」、この二つのキーワードを基に、アメリカを読み解いていく。
著者は国際基督教大学(ICU)学務副学長で、神学レベルで初期の伝道形態から掘り起こす。
興味深い内容で面白く感じた。
ライプニッツ「神義論」
P52
「神義論」とは、善人が苦しみ悪人が栄えることは神の義に反しているのではないか、というテーマを論じるものです。(中略)
アメリカのキリスト教には、このような経験を熟考する歴史的機会がなかったようです。(中略)
ちなみに、「苦難の神義論」の未発達は、イスラムにも共通しています。(中略)
その意味で、アメリカとイスラムは似た者同士であり、両者は共に原理主義の産みの親と言えるかもしれません。
P78
「政教分離」というと、日本では政治から宗教性を脱色して、非宗教的な社会を作ることであるかのように解釈されます。しかしアメリカではまさにその反対です。政教分離は、むしろ宗教的熱情を確保するために定められたのです。つまり、各人が自由に、自分の信ずる宗教を実践するための制度として政教分離があるのです。
トランプ大統領
P99
「聖書は好きな本だ」と言いながら、「では、聖書のどこが好きですか」と記者に尋ねられると、まったく答えられない。新約聖書の引用をしようとして、聖書を読んでいるキリスト教徒なら「コリント第二(second)」というところを、「コリント二つ(two)」と言ってしまう。
こうした言動を見る限り、彼はとてもキリスト教的な人間とは言えないでしょう。にもかかわらず、得票率を分析すると白人福音派の八割が彼を支持したという結果が出ていました。それはなぜでしょうか。
その答えが、第1章で挙げた「富と成功」の福音です。
過去にトランプのような大統領はいたのか?
P103
対するアイゼンハワーは、ノルマンディー上陸作戦の指揮をとった名将軍ですが、知的には凡庸、演説も下手、政治経験はゼロです。(中略)
政治的には、トランプに勝るとも劣らぬほどズブの素人だったのです。(中略)
「反知性主義」という言葉は、この1952年の大統領選挙を背景に生まれたものです。
さらにもうひとり
P104
ジャクソンは、西部開拓地の貧しい家の出身です。学校の勉強もろくにせず、本もほとんど読んだことがない。(中略)
ジャクソンは、対立候補の陣営からjackassと呼ばれました。これは「ロバ」という意味ですが、「間抜け」とか「とんま」という侮蔑語としても使われます。そのロバがいまや民主党のキャラクターになっていることは、みなさんもご存じでしょう。
P111
ジャクソンの言動を見ると、トランプ大統領がことあるごとに唱える、反ワシントン、反ウォールストリート、反エスタブリッシュメントといったスローガンとじつによく似ていることがわかるでしょう。
【ネット上の紹介】
なぜ進化論を否定するのか?なぜ「大きな政府」を嫌うのか?なぜポピュリズムに染まるのか?あからさまな軍事覇権主義の背景は?歴史をさかのぼり、かの国に根づいた奇妙な宗教性のありかたを読み解き、トランプ現象やポピュリズム蔓延の背景に鋭く迫る。ニュース解説では決して見えてこない、大国アメリカの深層。これがリベラルアーツの神髄だ!
序 アメリカを解きほぐすカギは宗教にあり
第1章 「富と成功」という福音―アメリカをつらぬく「勝ち組の論理」
第2章 「反知性主義」という伝統―アメリカ史にさぐる「ふしぎな宗教性」の原点1
第3章 何がトランプ政権を生み出したのか―アメリカ史にさぐる「ふしぎな宗教性」の原点2
第4章 ポピュリズムをめぐる三つの「なぜ」―トランプ現象を深層で読む
終章 「正統」とは何か
「アメリカと宗教」堀内一史
アメリカにはどんな宗教があるの?
特に政治との絡み、歴代大統領との関係。
宗教団体をどう利用し、もちつもたれつだったのか?
様々な論点がある。
福祉改革、死刑制度、健康保険改革、安楽死、ポルノ、同性愛、人工中絶、銃規制、イスラエルを支持するのか、イラク戦争は正当だったのか、…。
各候補、政治団体、宗派は積極的に賛成したり、黙殺したり。
プロテスタントをとっても、いろんな立場がある、ということだ。
福音主義の信条
P44
1.『聖書』の無謬性
2.聖母マリアの処女降誕
3.イエスによる代理贖罪
4.イエスの復活
5.イエスの奇跡の真性
P71
公立学校で進化論の教育を禁止した州は、全米でも、カンザス、テネシー、アーカンソー、ルイジアナとオクラホマの五つの州だけである。
P85
保守派はニューディール政策の多くを「忍び寄る社会主義」と捉え、サービスを受ける個人は次第に政府に依存し、その結果、社会の道徳的基盤は崩れ去っていくと考えた。対してリベラル派は、高齢者のための社会保障や労働者のための国民労働関係法などのニューディール政策に拍手を送り、こうしたサービスがすべての国民に拡大されることを望んだ。そもそもこうした前提となった野放しの資本主義を、リベラルなプロテスタントもカトリックも同様に不道徳で誤った制度だと断罪していた。
1946年3月、FCCカルホーン委員会の報告書『核戦争とキリスト教信仰』
「広島と長崎への騙し討ち爆撃はいかなる戦争の倫理に基づく判断を行っても、道徳的に弁護の余地がないことにわれわれは合意する。[中略]われわれは神の法と日本国民に対して言語道断の罪を犯した」
P196
クリントン政権は、政権発足の二週間後、同性愛者の軍隊入隊を解禁し、この措置がリベラル派と保守派の「文化戦争」を激化させた。
【おまけ】
GHQにはニューディーラーが多く存在したと聞いている。
戦後日本への影響は計り知れない。
日本人は、これが民主主義だ、って思っただろう。
もし保守派が多数派だったら、日本は今と違った資本主義になっていたかも。
【蛇足】
自らピュアであると、ピューリタンと名乗った。
当時の人々は、「グッドなネーミング!」って思ったのでしょう。
現代からみると、その感性はどうなの?って思う。
【追記】・・・なぜ「ピューリタン」なのか分かった。2022/12/31
彼らは、国教会に従わなかったため、「非国教徒」、あるいは「ピューリタン」と呼ばれる。ピューリタンには、もともと杓子定規とか、偽善者といった必ずしも肯定的でない意味が込められていたが、やがてはあくまで純粋な信仰を求める人々の意味で使われるようになっていく。(「教養としての宗教事件史」より)
【ネット上の紹介】
アメリカは、二億人を超えるキリスト教徒を抱え、その八割が「天地創造」を信じ、教会出席率・回心体験でも群を抜く保守的な宗教大国である。一九七〇年代以降、宗教右派が政治に参入し、レーガンの大統領当選に貢献するなど、表舞台に登場。二一世紀以降、ブッシュ、オバマは宗教票を無視できなくなった。本書は、世俗への危機意識からリベラル派が衰退し、保守化・政治化していく過程を中心に、アメリカの宗教の実態を描く。
序章 アメリカ宗教概観
第1章 近代主義と原理主義の闘い―『種の起源』と高等批判
第2章 宗教保守化の背景―南部福音派のカリフォルニア流入
第3章 主流派とリベラリズムの隆盛―一九三〇~六〇年代の潮流
第4章 原理主義・福音派の分裂―新福音派・福音派左派の登場
第5章 政治的保守の巻き返し―ゴールドウォーターからレーガンへ
第6章 宗教右派の誕生―自閉から政治の世界へ
第7章 大統領レーガンと宗教右派の隆盛―一九八〇~九〇年代の政治との関係
第8章 共和党ブッシュ政権と宗教右派の結集―政策への関与と“失敗”
第9章 オバマ政権誕生と宗教左派―政教分離と左派意識
町山智浩さんの映画コラム。
(ラジオ番組でのトークを文字に起こしている)
映画を観ると現代事情が見えてくる。
P17
「BLとかやおいは『スター・トレック』から始まっているんです。もともと『スター・トレック』が放送された1960年代、カーク船長とミスター・スポックがあまりにも仲がいいので〈2人はデキている〉と女性たちが妄想して、それを物語として書き始めたのが、やおいやBLの始まりなんですよ!」
P31
自分のための復讐は「リヴェンジ」ですが、他の人に代わって仇を討ってあげることを「アヴェンジ」といいます。
P37
民主党と共和党のイデオロギーが逆転したのは、1960年代に民主党のケネディとジョンソン大統領が南部の黒人に選挙権を与える法律を通したからです。南部の白人たちはこれに怒って民主党を離れ、彼らを取り込むことでニクソンが大統領に勝ちました。
P86-87
いわゆる「リベラル」という言葉は、もともと「ニュー・ディールに賛成」という意味でした。戦後の日本も、このニュー・ディール主義(リベラリズム)のもとに始まったのです。
1980年ごろから新自由主義(ネオ・リベラリズム)に取って代わります。当時の大統領は共和党のロナルド・レーガン。ネオ・リベラリズムとは、基本的に「国が経済をコントロールしたり、国民に福祉を与えたりするのをやめて、実力重視の競争社会、自由主義競争を加速しよう」という考え方です。
これはつまり、企業が利益を上げるために人員を削減したり、大きい企業が小さい企業を乗っ取ることなどを規制しないということです。
P173
映画業界では「興行収入が制作費の3倍なればトントン」といわれています。つまり「制作費10億円の映画を作ったとしたら、チケットの売り上げが最終的に30億円になれば黒字に転換」ということです。
【ネット上の紹介】
映画は、何も知らずに観ても面白い。でも、知ってから観ると100倍面白い。観てから知っても100倍面白い!人種差別・戦争・ドラッグ…映画が映し出す光と闇。合計21本の傑作コラムを収録!
多様性のあるアメリカ、人類の未来―スター・トレックBEYOND
ミュータントに託して描かれる差別との闘い―X‐MEN:フューチャー&パスト
タランティーノが暴くアメリカの暗い歴史―ジャンゴ繋がれざる者
政治とは交渉と妥協である―リンカーン
“良い戦争”などあり得ない―フューリー
PTSDで壊れゆくアメリカ軍人―アメリカン・スナイパー
市井の人から見た戦争の脅威―この世界の片隅に
ゾンビに託して描かれる虚構と現実―ワールド・ウォーZ
外国に無関心なアメリカ人―マイケル・ムーアの世界侵略のススメ
ドラマでわかるアメリカのドラッグ事情―ブレイキング・バッド〔ほか〕
「激震!セクハラ帝国アメリカ」町山智浩
つっこみどころ満載のトランプ大統領。
コラムニストにとっては、ネタの宝庫。
ありがたい存在だが、合衆国国民にとってはどうだろう?
ある程度の知識と常識を持つ者にとって、トランプは我慢ならないでしょうね。
「温暖化は中国の陰謀」なんて言ってるんだから。
今さらだけど、「どーしてこんな人、選んじゃったの?」。
コネチカット州のクイニピアック大学が1078人を対象に行った調査
「ドナルド・トランプと聞いてまず最初に浮かぶ単語は?」
P73
1位はIdiot(バカタレ)。39人がそう答えた。以下、Incompetent(無能)が31人、Liar(嘘つき)が30人とミもフタもない。4位でやっとLeader(指導者)という言葉が出た人が25人、並んでUnqualified(不適格)、6位でようやくPresident(大統領)。遅いよ!
P91
じゃあ、何のためにトランプはパリ協定を抜けるのか?閣僚を化石燃料にしがみつく化石サイダーで固めているからだ。国務長官レックス・ティラーソンは国際石油資本エクソン・モービルの元CEOだし、環境保護庁長官スコット・ブルーイットはオクラホマ石油電気などの企業規制を撤廃させようと環境保護庁を訴えていた男。商務長官ウィルバー・ロスも衰退した石炭や鉄鋼会社を買い叩いて再建するハゲタカ投資家だった。
トランプは選挙中も「温暖化は中国の陰謀だ」と叫んでいたが、排出量第1位の中国はEU首脳と共にパリ協定への合意を発表して欧州にグッと近づき、アメリカは世界を敵に回した。
ハンバーガー大手・マクドナルドのダークな側面を描いた映画「ファウンダー」について
P121
チェコ、ポーランド、ハンガリー等の東欧系移民は1900年前後に大量にアメリカに入ってきたが、イタリアやギリシャ系などとまとめて「ホワイト・エスニック」と呼ばれ、差別の対象だった。マクドナルドはアイルランド系の名前だが、19世紀から移民しているので、アメリカ人の名前として定着していた。
P55
最近はユナイテッドに限らず、どの航空会社も飛行機を満杯にするため、オーバーブッキングを意図的に行い、いつも何人かが飛行機を変えさせられる。航空会社の利益のために、顧客が不便を強いられている。(中略)
ユナイテッドがコンチネンタル、デルタがノースウエストなど、大手航空会社の合併吸収が進んで、選択の余地が少なくなった。
【ネット上の紹介】
つぶやくほど敵を作る失言マシーンの大統領!側近は次々に辞任、息子はボンクラ、何一つ公約は実現できない!そこにメガトン級の「セクハラ・ミサイル」が着弾!元祖セクハラおやじトランプの運命は…?週刊文春連載「言霊USA」単行本化、第六弾!澤井健のイラストも完全収録。
私の政権はよくチューンされたマシンのように機能している byトランプ大統領
危険なファゴット
次の4年間、私たちはあなた方を忘れません byバリー・ジェンキンズ
サミュエル・L.ジャクソンお得意のセリフ
電子レンジもカメラになります byケリーアン・コンウェイ大統領顧問
ディープ・ステート=国家内国家
フージャー=インディアナ州に住む人
白人救世主
ヒットラーですら化学兵器は使わなかった byショーン・スパイサー報道官
大麻男爵〔ほか〕
「ケンブリッジ数学史探偵」北川智子
舞台はハーバードからケンブリッジに移動。
内容も「日本史」から「17世紀の数学史」へ。
P82
算額とは、大きな板に数学の問題と答えを記して神社仏閣に奉納したものです。
(このあたりを小説にしたものに「算法少女」がある)
P140
ライプニッツは、八卦と二進法のつながりに関する見解の結論をはっきりと残していないのです。
【おまけ】
「ハーバード白熱日本史教室」でも感じたが、本書を読んでいて、著者あるいは編集者は、藤原正彦氏の「若き数学者のアメリカ」「遥かなるケンブリッジ 一数学者のイギリス」を意識し、敬意を表しているていると感じた。アメリカ→イギリスと、同じような軌跡をたどっているし、道徳にも言及されている。
また、本書タイトルで。「歴史探偵」を名乗っているのは、同様に半藤一利さんへのリスペクトか?
【ネット上の紹介】
斬新な日本史講義がハーバードで熱狂を呼んだ歴史学者が、ケンブリッジに移って選んだテーマは「17世紀の数学史」。近代国家が成立する以前、知識人たちは国家の枠にとらわれず、自由に知識を交換しあっていた。著者は京都で花開いた和算を起点に、西洋、さらには中国の数学文化まで縦横無尽にたどっていく。「知の生成」の瞬間を追い求め、真にグローバルな時代に相応しい歴史の語り方を探った知的興奮の書。
1 ケンブリッジを歩く
2 17世紀の数学史(数学史の4つのモデル
日本 京都から栄えていった「和算」
西洋 科学者たちの「知識の共和国」
中国 西洋との出会いと「思想の断層」
謎ときの終わりに グローバル数学史)
3 普遍性のある歴史とは
「ハーバード白熱日本史教室」北川智子
先日「ハーバード日本史教室」を読んだ。
これは、ハーバード大学で日本史を教える教授へのインタビュー記事。
本書は違う。
実際、ハーバード大学で日本史を教えた北川智子さん自身による作品。
思った以上におもしろかった。
P34
聞くところによると、日本史の受講生は年々減少の一途をたどっており、私の前任の先生のクラスには2人の受講生しかいなかったらしい。(先日読んだ「ハーバード日本史教室」の報告とはかなり違う…この後人気が出た、ってこと?)
P129
5つのハンデとはつまり、女性である、若い、アジア人種である、英語が母国語ではない、そしてテニュア(終身在職権)付きの教授ではないことです。白熱教室のマイケル・サンデル教授の正反対のような存在、というとわかりやすいかと思います。
【参考リンク】
「ハーバード日本史教室」佐藤智恵/アンドルー・ゴードン/〔ほか述〕
【おまけ】
読んでいて、山口真由さんを思い出した。
どちらも超優秀な頭脳の持ち主。
本書の著者は、アイスホッケーをするそうで、アクティブ。
自身の授業でのパフォーマンス能力も高い。
【ネット上の紹介】
少壮の日本人女性研究者が、ハーバード大学で日本史を大人気講座に変貌させた。歴史の授業に映画作りや「タイムトラベル」などの斬新な手法を導入。著者の熱に感化され、学生たちはいつしか「レディ・サムライ」の世界にのめり込んでいく―。「日本史は書き換えられなければならない」という強い使命感のもと東部の有名大学に乗り込み、「思い出に残る教授」賞にも選ばれた著者が記す「若き歴史学者のアメリカ」。
第1章 ハーバードの先生になるまで(大学の専攻は理系だった
ハーバード大学に行こう! ほか)
第2章 ハーバード大学の日本史講義1―LADY SAMURAI(サムライというノスタルジア
時代遅れの日本史 ほか)
第3章 先生の通知表(キューと呼ばれる通知表
学生のコメントは役に立つ ほか)
第4章 ハーバード大学の日本史講義2―KYOTO(アクティブ・ラーニング
地図を書こう! ほか)
第5章 3年目の春(歴史は時代にあわせて書き換えられる
印象派歴史学 ほか)
「不屈の小枝 日系移民ヤスイ家三代記」ローレン・ケスラー
アメリカに移民した三代の記録。
ヤスイ家をとおして戦前・戦中・戦後の歴史を辿る。
上下2巻で読みごたえがあった。
上P108
日本人はプロテスタント的な労働倫理とたぐいまれな集中力で、白人の隣人たちを圧倒していた。熱心に働き、こどもたちに労働の大切さをo教え、自分たちの満足はあとまわしにした。彼らはまさに、ピューリタンだった。「昔のピューリタン」たちは、「新しいピューリタン」が気に食わなかった。
上P138
フッドリバーの日本人キリスト教徒は、同じ信仰をもっていても、白人社会に受け入れられることはなかったのである。彼らは白人メソジスト教徒が構成する主流派には入れてもらえなかった。日系のメソジストたちは独自の牧師を探して後援し、白人の信徒たちとは別々に礼拝しなければならなかったのだ。
下P199
親の手で、強引なまでにアメリカ化させられるというのは、三世に共通する幼児体験である。「出る杭は打たれる」という日本のことわざがある。二世には、このことわざが同化を促す戒めに聞こえた。
下P206
60パーセントから70パーセントといいう高い割合で、日系アメリカ人が日系以外の相手と結婚しているという事実には(異人種との結婚は、中国系のアメリカ人の場合は13パーセント、メキシコ系移民では16パーセントである)、なにかほかの要素もからんでいるようである。つまり、人種の混合であるそうした異人種間の結婚こそが、アメリカの人種差別が生んだ皮肉な結果だったという側面だ。
【おまけ】
本作は、先日読んだ「星ちりばめたる旗」の元ネタのひとつ。
戦中の苦しい頃が、しっかり描かれている。
ノンフィクションとしてもレベルが高い。
参考→「星ちりばめたる旗」小手鞠るい
【ネット上の紹介】
二十世紀初頭、アメリカン・ドリームに魅せられて、岡山からオレゴンに移民したヤスイ・マスオ。“人種”の壁に屈せず、農園主として成功するが、1941年12月8日の日本軍による真珠湾攻撃の直後、FBIに逮捕され、強制収容所へ。ヤスイ家の歴史をとおして、日本とアメリカの戦前・戦中の歴史を辿る…。
第1部 一世の時代(広大な夢
楽園
深く根をおろして
黄禍
零細企業家、マット・ヤスイ
失われた楽園)
第2部 二世の時代
[カンバスを覆う影]
「がんばり屋の二世たち」
「大好きな東洋の囚人さんへ」
「毒ヘビは毒ヘビ」
鉄条網のなかで
帰郷
二百パーセント、アメリカ人)
第3部 三世の時代(ウィロー・フラット農場
過去はプロローグ)