「生き物の死にざま」稲垣栄洋
いろんな生き物が登場する。
どのように死んでいくのだろう?
死にざまは、生きざま、である。
読んでいて感情移入し、悲哀を感じてしまう。
【セミ】
一般に、セミの幼虫は土の中で七年過ごすと言われている。そうだとすれば、幼稚園児がセミをつかまえたとしたら、セミの方が子どもより年上ということになる。
【ハサミムシ】
ハサミムシは成虫で冬を越し、冬の終わりから春の初めに卵を産む。
石の下のハサミムシの母親は、産んだ卵に体を覆いかぶせるようにして、卵を守っている。そして、卵にカビが生えないように一つ一つ順番にていねいになめたり、空気に当てるために卵の位置を動かしたりと、丹念に世話をしていく。
卵がかえるまでの間、母親は卵のそばを離れることはない。もちろん、母親は餌を口にする時間もない。餌を獲ることもなく飲まず食わずで、ずっと卵の世話をし続けるのである。(中略)
ハサミムシは肉食で、小さな昆虫などを餌にしている。しかし、孵化したばかりの小さな幼虫は獲物を獲ることができない。幼虫たちは、空腹に耐えながら、甘えてすがりつくかのように母親の体に集まっていく。(中略)
あろうことか、子どもたちは自分の母親の体を食べ始める。
そして、子どもたちに襲われた母親は逃げるそぶりも見せない。むしろ子どもたちを慈しむかのように、腹のやわらかい部分を差し出すのだ。
【カマキリ】
メスは、交尾の間も体をひねらせて何とかオスを捕らえようとするので、オスは食べられないように避けながら交尾をしなければならない。もし、交尾の途中につかまれば、オスは食べられてしまうのである。(中略)
交尾に対するオスの執念はすさまじい。運悪くメスにつかまっても、オスは決して交尾をやめようとしないのだ。
交尾をしている最中でも、食欲旺盛なメスは、捕らえたオスの体を貪り始める。しかし、オスの行動は驚愕である。あろうことか、メスに頭をかじられながらも、オスの下半身は休むことなく交尾をし続けるのである。
P96
古代の地球の海で、有機物が集まり、最初の生命が産声を上げた。この最初の生命が「ルカ(全生物最終共通祖先)」と呼ばれている。
P107
チャートと呼ばれる岩石は、放散中と呼ばれる小さなプランクトンの作り出した殻が積み重なって形成されたものである。また、石灰岩も有孔虫という小さなプランクトンの殻が堆積してできたものである。
P140
細胞の中の染色体には、テロメアという部分がある。このテロメアが、細胞分裂をするたびに短くなることが知られており、これが老化の原因とされている。(中略)
テロメアさえなければ、人は老化することなく、不老不死が実現するのではないかという考えもある。
P179
(クリスマス・イブは)ニワトリたちにとっては、まったくの厄日である。いったいどれだけの鶏が命を落とし、オーブンの中で荼毘に付されていることだろう。
【ネット上の紹介】
すべては「命のバトン」をつなぐために── 子に身を捧げる、交尾で力尽きる、仲間の死に涙する…… 限られた命を懸命に生きる姿が胸を打つエッセイ! 生きものたちは、晩年をどう生き、どのようにこの世を去るのだろう── 老体に鞭打って花の蜜を集めるミツバチ、 地面に仰向けになり空を見ることなく死んでいくセミ、 成虫としては1時間しか生きられないカゲロウ…… 生きものたちの奮闘と哀切を描く珠玉の29話。生きものイラスト30点以上収載。
空が見えない最期―セミ
子に身を捧ぐ生涯―ハサミムシ
母なる川で循環していく命―サケ
子を想い命がけの侵入と脱出―アカイエカ
三億年命をつないできたつわもの―カゲロウ
メスに食われながらも交尾をやめないオス―カマキリ
交尾に明け暮れ、死す―アンテキヌス
メスに寄生し、放精後はメスに吸収されるオス―チョウチンアンコウ
生涯一度きりの交接と子への愛―タコ
無数の卵の死の上に在る生魚―マンボウ〔ほか〕