「ヒストリア」池上永一
久しぶりに、池上永一作品を読んだが、とても良かった。
629ページで読みごたえもあった。
戦争末期の沖縄から物語は始まる。
ヒロイン・知花煉は、米軍の沖縄上陸作戦で家族をすべて失ってしまう。
九死に一生を得て、戦後をたくましく生きる。
しかし、米軍のお尋ね者となり、ボリビアへと逃亡せざるを得なくなる。
全部で13章あるが、第3章からボリビアが舞台となる。
ボリビアでの描写も詳細を究める。
風景、風俗、音楽、食事、特に飛行機のメカ描写に感心した。
背景となる歴史も重要なポイント。
ボリビア革命が起き、キューバ危機も描かれる。
なんと、チェ・ゲバラも登場。
読んで良かった、今年度トップクラスの作品だ。
P119
「その口ぶりじゃあ、まだ本当の恋を知らないだね」
私はその言葉にカチンときた。恋と酒は本質的に同じものなのだ。一口の泡盛で酩酊する人もいれば一升瓶をラッパ飲みしても素面の人もいる。きっと私は後者なのだろう。
P198-199
ボリビア革命はアシエンダ農地解放を断行すると同時に、開拓を行った。サンタクルスから百キロメートル先の北東部が開拓地と位置づけられた。それに伴い大量の移民を募るという。
(中略)
ボリビア革命から間もない1954年のことである。
P522
「残念ながら革命以外、世界を変える方法はない。人に正論を吐くなら、レンの意見を聞こうじゃないか。どうすれば貧しい国の人たちを救えるんだ?」
この男はわたしが口籠もるとでも思っているのか。
「私なら――。五十年かけて人材教育をする。まずは経済の仕組みを学ばせるわ。憲法や法律は豊かになった後、社会に合わせて変えていけばいい」
「権利より生活を取るなんて奴隷根性だ」
「生活を捨てて権利を取るのは死人だけよ」
P535
スペイン語の語感では名前の最後の音がAで終わると女性になり、Oで終わると男性名になる。日本では一般的な「幸子」とか「麗子」とか「美智代」は男性だと思われてしまう。だから娘が生まれたら絶対にAで終わる名前をつけたかった。あとAでも「茉莉花」は絶対ダメだ。[marika]はスペイン語でオカマという意味である。「真理子」はもっと悲惨だ。(強調表現の「オカマ野郎」という侮蔑語になるそうだ)
P616
私はAサインバーにふらりと入った。米軍から公衆衛生で優良店とお墨付きを得た[APPROVED(承認済)]店のことだ。看板のどこかに「A」が図案化されていたり、許可証が入口に貼られている。
【おまけ】
編集者は上・下2巻にするか迷ったのではないか。
結局、厚い1冊となった。
文庫本化されるときは、2冊になるかも。
あるいは、「テンペスト」のように4冊になるか?
【おまけ】
読んでいて、なんとなく、古川日出夫さんの「ベルカ、吠えないのか?」を思い出した。
【ネット上の紹介】
第二次世界大戦の米軍の沖縄上陸作戦で家族すべてを失い、魂(マブイ)を落としてしまった知花煉。一時の成功を収めるも米軍のお尋ね者となり、ボリビアへと逃亡するが、そこも楽園ではなかった。移民たちに与えられた土地は未開拓で、伝染病で息絶える者もいた。沖縄からも忘れ去られてしまう中、数々の試練を乗り越え、自分を取り戻そうとする煉。一方、マブイであるもう一人の煉はチェ・ゲバラに出会い恋に落ちてしまう…。果たして煉の魂の行方は?著者が20年の構想を経て描破した最高傑作!
「風雲児たち」(7)みなもと太郎
シリーズ7巻目。
仙台藩は子平の上申を無視してしまったのだが……
このあとすぐに起こった天明の飢饉に仙台藩は被害を最小限度に食い止めることができたであろう!!
これが現代も三条京阪駅の横っちょにある高山彦九郎像の始まりである……
「風から聞いた話」奈知未佐子
装丁が絵本のようになっている。
内容もそれにふさわしい。
次の4編が収録されている。
「天狗の里の豆ぞうり」
「稲守りさまの白い舟」
「猫姉さ」
「草の下には巻き巻きさんがいる」
思った以上によかった。
他の作品を読んでみようと思う。
【ネット上の紹介】
罠をしかける人間から子供たちを守るため、狐の夫婦がとった方法とは…? 静かな感動を呼ぶ選りすぐりのお伽話4編に、描き下ろし作品をプラス。オールカラー、ビッグサイズ、総ふりがな付きの豪華絵本。(集英社提供)
現在使っている車は4年前に買った。
今さらながら、便利な機能を挙げると、BluetoothとUSB。
Bluetoothはハンズフリーで携帯が使えて便利。(以前の車にもあったけど、必需品だ)
USBは、録音したデジタルデータを再生するときに便利。
液晶画面にUSBのマークが出ていて、ここをタッチする。(上の液晶はナビ)
ソニーのポータブル・レコーダーを接続している。
昔は、CD、MD、さらに前はカセットしかなかった。隔世の感がある。
「人生と勉強に効く学べるマンガ100冊」菊池健/佐渡島庸平/里中満智子/中村伊知哉/藤本由香里/細田尚子/本山勝寛
カテゴリー別に、マンガを紹介するという趣向。
次のように分けられていて、それぞれ数冊ずつ紹介されている。
文学
生命と世界
芸術
社会
職業
歴史
戦争
生活
科学・学習
スポーツ
多様性
不満な点もある。
芸術で、なぜ「テレプシコーラ」「アラベスク」を出さない?
文学で、なぜ「千年の夢」を紹介しない?
歴史で、なぜ「カムイ伝」を出さない?
戦争で、なぜ「あれよ星屑」「この世界の片隅に」「美童物語」がない?
(「この世界の片隅に」の代わり「夕凪の街 桜の国」があったけど)
スポーツで「柔道部物語」「スラムダンク」を出して欲しかった。
また、職業で「おたんこナース」か「動物のお医者さん」を出して欲しかった。
さらに言うと、カテゴリー『家族』を作って欲しかった。
具体作品として「ルームメイツ」「海街diary」とか。
でも、まぁ、知らない作品もあって参考になった。
【ネット上の紹介】
世のなかには、星の数ほどマンガがあるけど、本当に面白くてためになるのは、どれ?この本では、マンガの達人たちが「文学」「職業」「歴史」「戦争」「科学・学習」「スポーツ」などテーマに分けて、100作品を紹介。教科書よりも深く学校よりも楽しい、知力アップの最強ガイド!
「うさぎパン」瀧羽麻子
先日読んだ「乗りかかった船」が良かったので、引き続き読んでみた。
それなりに面白かった。
高校生が読んだら、感激するような作品だと思う。
でも、私のようなオヤジが無理して読む作品ではなかった。
2007年の作品なので、それから10年。
すばらしく進化した、ということだ。
【ネット上の紹介】
お嬢様学校育ちの優子は、高校生になって同級生の富田君と大好きなパン屋巡りを始める。継母と暮らす優子と両親が離婚した富田君。二人はお互いへの淡い思い、家族への気持ちを深めていく。そんなある日、優子の前に思いがけない女性が現れ…。書き下ろし短編「はちみつ」も加えた、ささやかだけれど眩い青春の日々の物語。
今年の7月に、壁にセミの抜け殻が付いていると書いた。
空蝉である。
これが、先日の台風にも負けず、まだ付いていた。
隣の家は瓦が飛んだ、と。
我が家では、植木鉢が割れ、垣根に付けている板がバラバラになり、
よその家の5mくらいの波板が庭に飛び込んできた。
それなのに、この空蝉の丈夫な事と言ったら…驚いた。
「女たちの避難所」垣谷美雨
3.11を生き延びた3人の女性を描いている。
地震と津波、その後の避難所生活がリアルに描かれている。
【著者の言葉】P352
主人公は三人の女性で、それぞれが三月十一日にあの地震と津波に遭遇し、命からがら避難所に辿り着き、仕切りのない体育館での暮らしを余儀なくされます。その過程と暮らしぶりを細かく、生活者の目線で追うことを心がけました。
モデルにした場所はありますが、あえて宮城県の鷗ヶ浜市という架空の場所を舞台にしました。
P277
テレビでは連日キズナ、キズナと馬鹿のひとつ覚えみたいに言っているが、周りを見渡せば、離婚した夫婦は少なくなかった。離婚の原因は様々で、夫婦のことは他人にはわからない。聞いた範囲では妻の側から言い出した離婚がほとんどだった。
三世帯で暮らしていた家族が、新しく土地を買って家を建て直すとき、少し離れた土地に別々に家を建てたというのも最近よく聞く話だ。仮設住宅で別々に住むことの快適さをいったん味わった夫婦は、二度と親世代とは同居したがらないという。
【著者の他のお薦め作品】
以上、どれもハズレなし。
【ネット上の紹介】
九死に一生を得た福子は津波から助けた少年と、乳飲み子を抱えた遠乃は舅や義兄と、息子とはぐれたシングルマザーの渚は一人、避難所へ向かった。だがそこは、“絆”を盾に段ボールの仕切りも使わせない監視社会。男尊女卑が蔓延り、美しい遠乃は好奇の目の中、授乳もままならなかった。やがて虐げられた女たちは静かに怒り、立ち上がる。憤りで読む手が止まらぬ衝撃の震災小説
「乗りかかった船」瀧羽麻子
お仕事小説だけど、テーマを人事に絞っている。
そこにドラマが生じる。
中堅造船会社を舞台にした連作短編集。
次の7編が収録され、主人公は短篇ごとに異なる。
「海に出る」
「舵を切る」
「錨を上げる」
「櫂を漕ぐ」
「波に挑む」
「港に泊まる」
「船に乗る」
この著者は、以前から知っていたが、恋愛小説がメインなので、
「私の読む作品ではないな…」、と思っていた。
まさか、このようなお仕事小説を書くとは意外だった。
しかも、予想以上にレベルが高い。
かつて、奥田英朗さんが「ガール」を書いたとき、著者は女性なのでは?と思った。
今回は逆パターン。これほどおっさんの心理を描写するとは、オヤジでは?と思ってしまった。
今後、要チェック作家のリストに加えることにする。
P174
仕事と家庭の両立、という言葉がある。あれは仕事100パーセント、家庭100パーセント、合計200パーセントをひとりの人間がこなすという意味ではないはずだ。そんなことをしたら死んでしまう。70対30、50対50、20対80、ひとによって、また時期によっても、比率は変わるだろう。どれも両立だし、優劣はないと玲子は思う。
【ネット上の紹介】
舞台は創業百年を迎える中堅造船会社。配属、異動、昇進、左遷…。人事の数だけドラマがある!明日、働く元気がもらえる、全七編の連作短編集!
ガジュマルの樹を育てている。
先日読んだ、「キジムナーkids 」には、次のように書かれている。
P14-15
ガジュマルにはヒゲのような気根がある。風にもゆれる細い気根をどんどん伸ばして地面に届かせる。そこで土から養分を吸い上げてされに成長する。ガジュマルはそうして増殖を繰り返す。
(中略)
キジムナーはガジュマルを好んで棲むといわれる。
「鬼平犯科帳」(17)池波正太郎
シリーズ17巻目は長篇。
P255
「では、いまの永井家の当主・伊織殿は、亡き渡辺丹波守様の実の子にて、ひそかに永井家へ養子となったのでございますな」
(中略)
大名や旗本の家で、こうした例は、すこしもめずらしくない。
大名家のことはさておき、徳川将軍の家臣である旗本の家の内情は、いかに隠しても隠しきれぬようになっている。
それほどに幕府の監察はきびしいといってよい。
【ネット上の紹介】
「丹波守様が亡くなられたぞ。知っているか?」…従兄の話に興味をそそられた平蔵は、駒込の「権兵衛酒屋」に立ち寄った。酒と一品のみの肴がうまいと評判だが、平蔵はそこに曲者の気配を感じる。ほどなく、この店の女房が斬られ、亭主は姿を消す。これを発端に、平蔵暗殺から大身旗本の醜聞へと、謎が謎を呼ぶ長篇「鬼火」登場!
「親が倒れた!桜井さんちの場合」小林裕美子
親が倒れたらどうするか?
桜井家を例にとってのシミュレーション。
まず、父が脳梗塞で倒れ、車いす状態になる。
その後、認知症を発症。
されに、母が脳腫瘍で救急入院。
余命半年を宣告される。
次々に襲いかかる不幸。
介護の申請のしかたから、延命措置の判断まで、親切に教えてくれる。
介護では、良いほうに、と考える傾向があるんですけど、
このことが実は弊害をうんでいるんです。
「有料ホームにいれる」
「自宅で看る」
どんな選択をしてもOKだし、正解はない。
延命措置を望まないようでしたら、
呼吸が止まっても救急車は呼ばないでください。
呼ぶと蘇生措置がはじまってしまいますから。
【ネット上の紹介】
突然倒れた父の介護は誰がする―息子?娘?それとも年老いた母?助けになりたいけど、目の前の生活で手一杯の子どもたち。なるべく子どもに迷惑かけないようにと奮闘する父と母。介護する側、される側それぞれの気持ちと事情を細やかに描いたハートフル・コミック。介護世代のみならず、プレ介護世代も必読です!
「キジムナーkids 」上原正三
戦後間もない頃の沖縄が舞台。
子どもの目を通して沖縄が描かれる。
ウルトラマンのシナリオライター上原正三氏の自伝小説。
5人の子どもたちを中心に周囲の大人たちも描かれる。
戦争をどう生き抜いたのか、ときおり登場人物たちの回想シーンが入る。
それは生きているのが不思議なくらいの凄絶な過去である。
P298
シュルシュル!夜明け前の空を切り裂くように光の矢が頭上を過ぎてゆく。艦砲射撃が始まったのだ。ハルはイモをカマスにつめて家族が避難する墓へ急いだ。ハルの目の前で爆弾が墓に命中した。ハルも爆風に飛ばされたがすぐに立ち上がり走り寄った。
「かあちゃん、とうちゃん!ああ」
両親が、おじい、おばあが砕けた墓石に埋もれて動かない。弟のヒデオの手が動いた。
「ヒデオッ」
ヒデオが目を開けた。
「ねえちゃん」ヒデオは微かに笑い、手を伸ばした。
「しっかりッ」
ヒデオはハルの手をしっかり握りしめた。ハルはヒデオを助けようと必死で引きずり出した。
ずるずると臓器が長く伸びている。ヒデオの内蔵だ。ハルはその場で気を失った。
P106
ひめゆりの塔の前で車を降りて塔に向かって歩き出した時、「セイちゃーん、セイちゃーん」と呼ぶ声がした。空耳かと思った。だけどまた聞こえた。「セイちゃーん」。見えた。ガマの方から小学校から一緒だったスミちゃんや隣の席で仲良くなったテルちゃんが笑顔で手を振りながら駆け寄ってきた。その姿は半透明でゆらゆら揺れ、次第に実体になった。
【感想】
おそらく、今年度ベスト作品、と思う。
お薦めです、読んでみて。
ちなみに、(本作以外で)沖縄を舞台にした作品、私の選ぶベストは…
【ネット上の紹介】
出会い、友情、冒険、好奇心、別れ…そして、希望。たくましく生きた子供たち“キジムナーkids”を、ウルトラマンのシナリオライターがみずみずしく描く自伝小説。
「親を、どうする? 介護の心編 」小林裕美子
先日読んだ「親を、どうする?」の姉妹編。
「いくら仕事ができたって、生きていく上で基本的なことができないようじゃ、人間としてどうなの?って思うよね」
「自分の娘や孫には、こんな仕事させたくないよ」
【参考リンク】
立ち読みする
【ネット上の紹介】
避けては通れない親の介護。「介護される親」と「介護する子」の心の声をリアルに、でもあたたかく綴った感動作。
「戦禍に生きた演劇人たち 演出家・八田元夫と「桜隊」の悲劇 」堀川惠子
広島で全滅した「桜隊」の悲劇について書かれているが、
そこに至る経緯、戦時下の演劇人たちの青春群像を描いている。
当局の執拗な検閲、拷問も詳細に書かれているが、
それだけ演劇の力を恐れていたのかもしれない。
P142
たとえば「共謀罪」や「扇動罪」では複数の人間が集まって謀議することが必要だ。だが「目的遂行罪」では、党の信条や教義に協力的であるというだけで、個人を検挙することができた。それを判断するのは当局である。
P210
昭和19年以降、映画界は撮影のための原材料不足にも悩まされた。
(中略)
各社が制作できる映画は年4本までに減らされた。検閲を通るのは戦場の兵隊が主役の戦争映画ばかりとなり、女優たちの出番はなくなっていく。
本書を著した動機を次のように書かれている。
P358
夢を抱くこと、これぞと思う仕事に没頭すること、理想を追い求めること、人を愛すること、生きること、そんな当たり前のことすべてを戦争は奪い去った。言葉には言い尽くせぬ彼らの無念を胸に、八田元夫という演出家の目を借りて本書の執筆にかかった。
【著者の他の作品】
【他の著者による関連図書】
【ネット上の紹介】
演劇界を襲った検閲、蹂躙、拷問の時代。被爆直後の広島へ圧倒的な描写で迫る。舞台で輝きつづけた魂の交錯。
【目次】
ある演出家の遺品
青春の築地小劇場
弾圧が始まった
イデオロギーの嵐
拷問、放浪、亡命
新劇壊滅
「苦楽座」結成
彰子と禾門
眠れる獅子
戦禍の東京で
広島
終わらない戦争
骨肉に食い込む広島
そして手紙が遺された