「月まで三キロ」伊与原新
短編集、6編収録されている。
物語が展開する中で、理系の蘊蓄が語られる・・・天文学、火山学、化石、素粒子。
そこに、プラスアルファの面白さがある。
著者は、神戸大学理学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻し、博士課程修了。納得だ。
一番面白く感じた作品は、「山を刻む」。
姑の誕生日に家を出て、山に向かう主婦の話。
エンディングも素晴らしい。
P224
今日こうして一人で山へ来たのは、自分の気持ちを、覚悟を確かめるためでもあるのだ――。
P225
平日の昼下がり。わたしがぽつんと食卓の隅に座り、何を思い、悩んでいたか、夫は知っていただろうか。
平日の昼下がり。わたしがぽつんと食卓の隅に座り、何を思い、悩んでいたか、夫は知っていただろうか。
【ネット上の紹介】
「月は一年に三・八センチずつ、地球から離れていってるんですよ」。死に場所を探してタクシーに乗った男を、運転手は山奥へと誘う。―月まで三キロ。「実はわたし、一三八億年前に生まれたんだ」。妻を亡くした男が営む食堂で毎夜定食を頼む女性が、小学生の娘に伝えたかったこと。―エイリアンの食堂。「僕ら火山学者は、できるだけ細かく、山を刻むんです」。姑の誕生日に家を出て、ひとりで山に登った主婦。出会った研究者に触発され、ある決意をする―。―山を刻む。折れそうな心に寄り添う六つの物語。