タイトルどおり、福島原発20キロ圏内ペットレスキュー報告書。
いくつか文章を紹介する。
P39
福島でのレスキューが通常の保護と違うのは、犬猫たちは捨てられたわけではなく、飼い主と生き別れの身の上にあるという点だ。20キロ圏内で救われた犬猫は、だから最低でも1年間は預かりボランティアのもとで飼い主の発見を待つことになる。
P64
「(前略)普段は泣かないのに、今回はやたらと涙が出る。皮しか残ってない犬や猫がたくさんいて、勘弁してよ、と思って。泣くことが恥ずかしいとは思わなくなっちゃっいましたね。見たくもないような量の見たくもないようなものを見ちゃって、泣くことでしか精神のバランスを保てなくて。
自分がやってることが正解だとは思ってないし、もう何回もやめたくなりましたよ。なんのためにこんなことやてるんだろう、って。泣いて、吐いて、泣いて、吐いて・・・・・・長いことやめてた煙草もまた吸いはじめちゃったし。それでも、保護した犬の飼い主さんが見つかったよって報告がくれば、大喜びしますしね。そういう一つ一つが心の支えです」
P152
「今、地元の人の申請だったら、許可証はばんばん下りるんですよ。理由とかも全然チェックされない。なのに、ペットレスキューだけは申請が通らないって、どういうことなんだか」
P191
20キロ圏内に残された動物たち、そしてその飼い主の哀や苦を、彼女たちに代わって引きうける機能がこの国には存在しない。だから彼女たちがこうして命を賭している。何度も何度もここへ通って、線量の高い地区をめぐり、一体どれだけの放射能を浴びているの?死んじゃうんじゃないの?警察は彼女たちの何を恐れているの?彼女たちが実際に犬猫レスキューをしていることは、誰より警察が一番よく知っているはずなのに。
【関連リンク】
ねこさま王国
森 絵都『おいで、一緒に行こう』 | 特設サイト - 本の話WEB
【参考までに】
この作品は、「オール讀物」3月号に掲載された。
本作品は、その単行本化、である。(これほど迅速な単行本化は珍しい)
雑誌と単行本の異なる点は、カラー写真が多数収録されていること。(雑誌は白黒)
●「オール讀物」とは文藝春秋の雑誌で、キャッチフレーズは『わが国で最も長い歴史を有する中間小説誌』。
[特集情報]
直木賞掲載号 葉室麟「蜩ノ記」/森絵都「救出」ノンフィクション
◆女たちのペットレスキュー 森 絵都
残された動物を救うべく、原発20キロ圏内へ向かった女たち──。被災地に無償の愛をそそぐ人々の姿を、著者一流のタッチで描く。