「先生!どうやって死んだらいいですか?」山折哲雄/伊藤比呂美
山折哲雄さんと伊藤比呂美さんの対談。
性、老、病、死・・・この4つのテーマに分けて語られる。(「生」でなく「性」、ってのがミソ)
先生役の山折哲雄さんに、伊藤比呂美さんが、いろいろ質問する。
伊藤比呂美さんが、あまりに激しくつっこむので、山折哲雄さんもたじたじなシーンが。
でも、おおむね博覧強記な山折哲雄さんが、ずばずば答えていく。
読んでいて、目から鱗の数々。
これは、お薦めである。
P17-18
山折:性欲をコントロールするために何が一番必要か?到達した結論は、食欲を制すれば抑えられるということだったんです。女色を避けるための基本路線だったんだね。
伊藤:食欲と性欲ってつながってるんですか。
山折:食欲と性欲は切っても切れません。釈迦やキリストが修業時代、悟りを開くとか真理を突きとめるとかいう前に、断食や精進ということを非常に重視して行うわけですね。
P22
伊藤:「女の体は汚いから仏になれない」という箇所がありますね。
山折:はい、あります。ですから、女性は一度男に生まれ変わった上で、あらためて仏になる。これが釈迦滅後に出てきた「変成男子(へんじょうなんし)」という考え方なんですね。
P25
山折:たとえば、西洋近代の絵で、男女が草原で食事をする場面がよくあるでしょう。あれは、食後に性的饗宴の世界が待っていることを前提にして描いているわけですよ。
P49
山折:アメリカにE・H・エリクソンという精神科医・心理学者がいますね。「アイデンティティ」という言葉を発明した人。彼が、成熟した人間は若い異性をそばに置いておくと、人生最後に生命の輝きが表れる、と言う意味のことを言っているんですよ。
伊藤:最後の生命の輝きが?
山折:その実例として『旧約聖書』のダビデ王の話を引き合いに出すんです。晩年になって枯木のように衰えた王を近臣たちが心配して、全国に美しい若い少女を求めた結果、シュナミ族のアビシャグという女性を見つけてきた。そして、彼女を湯たんぽ代わりにダビデに侍らせたところ、ダビデ王は見事に甦ったというんですね。
伊藤:湯たんぽ代わりですか。
山折:そこでエリクソンは、このようなケースに「シュナイズム」という、新造の心理学用語を与えているんです。シュナイズムというのは、男というのは年を取ると湯たんぽを欲しがると。
(例として、一休と森女、良寛と貞信尼が挙げられている・・・そう言えばパール・バックの「大地」でも、シュナイズムのシーンが出てきて印象に残っている)
P94-95
山折:日本では比叡山で修行するときに重要な四つの課題があると、伝統的に言われてきた。それが「論湿寒貧」です。日本の宗教にとって重要な時代、思想的に深まった時代というのは十三世紀です。法然・親鸞・道元・日蓮が出てくる。この四人は全員、その四つの課題にとりくんで、比叡山で修行したり勉強したりしていた。
伊藤:ろん・しつ・かん・ぴん?
P101
山折:センチメンタルということで言えば、敗戦と同時に、五七五の詩歌のリズムは「奴隷の韻律」だとして、短歌や俳句の叙情性が全面否定されたんですね。その先頭に立ったのが大阪の詩人の小野十三郎。
(このあと、全共闘の話につながっていく)
山折:あの演説は心に届かないんです。なぜなら、彼らの演説のすべてが五五調だから。
伊藤:「われわれはー、革命の-、なんとかでー、米帝とー、戦うぞ-」っていう調子ですね。
P125
山折:気配を感じる、気配で察する。煎じ詰めれば「察する」ということですね。それに対して西洋的なコミュニケーションでは、言葉で知らせる。それを告知と呼んでいるでしょう。だけどね、マリアの無原罪の身ごもりを告知する「受胎告知」にしても、告知する主体は神だったんです。それが現代は神殺しの時代になってしまったから、神に代わる代理人として医師が出てきて告知する。
P128-129
山折:『ヨハネ福音書』の冒頭に、「はじめに言葉ありき」と書かれているでしょう。この翻訳がほんとに正しいのかどうかに異議を唱える人はあまりいないけれど、山浦玄嗣(はるつぐ)さんという方がまったく新しい問題提起をされました。
伊藤:(前略)今、山折先生がおっしゃったところは、こんなふうになります。「初めに在ったのァ神様の思いだった。思いが神様の胸に在った。その思いごそァ神様そのもの。初めの初めに神様の胸の内に在ったもの」(『初めの言葉』ケセン語新約聖書)
P136
座禅の際、山折先生は、お茶を飲みながら線香を立ててするそうだ
山折:だいたい一本燃え尽きるのに五十分から一時間。私は毎日、東京の「毎日香」という線香を使っています。その話をしたら京都の人から、そんな安い線香を使わないで、京都にはたくさんいい線香がありますよって言われた(笑)。
【ネット上の紹介】
生きることを真正面から見つめ、格闘してきた詩人・伊藤比呂美が、宗教学者・山折哲雄に問いかける、「老いを生きる知恵」。
[目次]
1 性をこころえる(食欲と性欲の切っても切れない関係
欲望を満たしつつ、快く死んでいきたい
「翁」の表情は日本の老人の理想 ほか)
2 老によりそう(木石のように生きる
乾いた仏教、湿った仏教
国を誤らせた五七調 ほか)
3 病とむきあう(創造的な病
「気配の文化」と「告知の文化」
「思いやり」のあいまいさ ほか)
4 死のむこうに(骨を噛む
ひと握り散骨のすすめ
儀式抜きで生きていけない ほか)