マイケル、アルバム22年ぶり1位(サンケイスポーツ) - goo ニュース
Michael Jackson - Beat It (Official Video)
私が映画『Michael Jackson's This Is It』を見て一番驚いたことはマイケル本人より、
マイケルのそばでいとも簡単に「Beat It」のギターソロ部分を完全コピーしていた
ギタリスト、Orianthi Panagaris という24歳の女の子の方だった。当時は難易度の
高い奏法だったと思うが、テクニックというものはあっという間に越えられてしまう
ものだと実感した次第である。
今回取り上げておきたいのはその名曲「Beat It」である。この曲が発表された
当初は“Beat it”を“ぶん殴れ”というように訳されていたと思うが、さすがに今は
それが誤訳であることが理解されたようで“逃げろ”というように訳されている。
“逃げろ”を誤訳とは言わないが、私は歌詞内の“Beat it”を全て“逃げろ”と訳す
ことは前後の文脈を勘案すると無理が生じると思う。だから私がここで「Beat It」を
正しく翻訳しておきたい。
Michael Jackson「Beat It」正しい日本語訳
奴らは彼に言った
「おまえはここら辺をうろつくんじゃない。おまえの顔など見たくはないんだ。
どこかへ消えた方がおまえの身のためだ」
奴らの目は炎と化していたからその言葉は冗談ではない
だから逃げろ(=Beat it)、とにかく逃げろ
おまえは逃げた方が良い
おまえができることをしていればいいんだ
血を見たくはないはずだ
マッチョな男にはなるなよ
おまえは怪我をしたくはないはずだ
おまえができることをしていればいいんだ
だから逃げろ
でもおまえはワルになりたいはず
ならばオナニーをしろ(=Beat it)
オナニーだ!
負けたい奴なんかいないのだから
おまえの“奮闘”がどれだけセクシーでたくましいのか示すんだ
誰が正しくて誰が間違っているかなんて重要ではなくなるから
ただオナニーをしろ!
おまえを捕まえるために奴らが出てきたから、できる限り逃げた方が良い
おまえは少年のままでいたくはないはず
おまえは大人の男になりたいはずだ
生き残りたいのならば、おまえができることをしていればいいんだ
だから逃げろ、とにかく逃げろ
おまえが本当は怖がっていないことを奴らに示さなければならない
おまえは人生をダラダラと過ごしていて
“Truth or Dare”のゲームのような緊張感が全く無い
奴らはおまえを蹴って、それからおまえを殴って
「これが正しいゲームの仕方だ」とおまえに言う
だから逃げろ
でもおまえはワルになりたいはず
だから“オナニーをしろ”とマイケル・ジャクソンは煽っているのである。上の訳を
「Beat It」のPVと照らし合わせてみるとよく分かる。ギターソロの前の“Beat it”と
言った後に「はぁ、はぁ」言うマイケルの声や、ラストでマイケルがバックダンサー
と一緒に踊る時のマイケルの股間のそばの右手の動きを見れば納得できると思う。
“同期”のマドンナがいまだに人気が衰えない理由として、マドンナが思春期の
女の子が大人になるときの葛藤を歌っているのと同じように、マイケル・ジャクソン
の人気が衰えない理由はマイケルが思春期の男の子が大人になるときの葛藤を
歌っているからだと思う。思春期の子供がいなくならない限り彼らの曲は聴き継が
れていくのである。それにしても闘うことも逃げることもしない大人の態度として
マイケル・ジャクソンが提唱する“Beat it”はその実用性と、笑いを誘い戦う意欲を
失わせる点から鑑みるとガンジーの非暴力の概念をはるかに越えていて、その上
マイケルはその概念をポップに表現して世界中に楽しく知らしめたのである。
このような離れ業は今後も誰にもできないであろう。貴重な才能を私たちは失った。
フランスの思想家であるミシェル・フーコーの言葉を引用しておきたい。
「また同時にこの時代には子供たちの間にマスターベーションがおそろしい勢いで広まったという事実を多くの医師が記録してもいる。それ以前も確かにそうした自慰行為は存在していたが、十八世紀になると、それが熱病のように流行する。これはいかにも理解しやすいことで、医師なり神父なり両親なりが禁止というかたちで『権力』を行使すれば、子供たちはそのことじたいによってみずからの肉体をエロチックなものにして反抗する。自分が問題としているのはそうした心理的な真理ではなく、具体的な禁止という『権力』の行使が、具体的に自慰という反抗形態を生み、それが間違いなく観察されるという事実である。」(『表象の奈落』蓮實重彦著 青土社 2018.6.11 p.122)