MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『ファースト・マン』

2019-02-18 00:56:11 | goo映画レビュー

NASA 2028年に再び人類を月面へ
原題:『First Man』
監督:デイミアン・チャゼル
脚本:ジョシュ・シンガー
撮影:リヌス・サンドグレン
出演:ライアン・ゴズリング/クレア・フォイ/ジェイソン・クラーク/カイル・チャンドラー
2018年/アメリカ

「挫折」した宇宙飛行士の物語について

 宇宙飛行士の物語は『ライトスタッフ』(フィリップ・カウフマン監督 1983年)や『アポロ13』(ロン・ハワード監督 1995年)や『スペース カウボーイ』(クリント・イーストウッド監督 2000年)など既に多くの作品が制作されており、共通して言えることはひとつひとつのミッションをクリアして成功に喜びを感じるところである。
 ところが本作の主人公のニール・アームストロングは冒頭の飛行実験からしくじってしまい、さらにはプライベートにおいても2歳半の娘のカレンを脳腫瘍で亡くしてしまうのである。ジェミニ計画やアポロ計画に参加するものの、ここでも訓練の最中に多くの同僚を亡くしており、ラストシーンにおいても月から帰還してきたニールは感染症を防ぐ目的で隔離され妻のジャネットとはガラス越しで再会するのである。これまでの宇宙飛行士の物語とは違い、ひとつひとつ試練を乗り越えたニールは完全に疲れ切っているのである。
 ハンディーカメラと登場人物の顔のアップの映像が多用され、これではまるでアメリカンニューシネマのような「挫折」が描かれているように見える。これはアームストロングのニヒルな性格によるものではあるのだろうが、確かに現在のアメリカの宇宙開発は予算の削減などにより停滞気味で、かつてのような活気がなくなっているという事実もある。


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『ヴィクトリア女王 最期の秘密』

2019-02-17 00:54:27 | goo映画レビュー

原題:『Victoria & Abdul』
監督:スティーブン・フリアーズ
脚本:リー・ホール
撮影:ダニー・コーエン
出演:ジュディ・デンチ/アリ・ファザル/マイケル・ガンボン/エディー・イザード/ティム・ピゴット=スミス
2017年/イギリス・アメリカ

作品の出来よりも気になる女王の男性遍歴

 本作の主人公であるヴィクトリア女王を同じジュディ・デンチが演じているということからしても本作は『Queen Victoria 至上の恋』(ジョン・マッデン監督 1997年)の続編と言えるものである。
 1861年に42歳の若さで夫のアルバートが亡くなり、失意の底に沈んでいたヴィクトリア女王はまだ24歳だったのだが、やがてバルモラル城の屋外使用人だった35歳のジョン・ブラウンを寵愛するようになり、ブラウンが1883年に56歳で亡くなった後、本作で登場するインドのアグラで刑務所の記録係をしていた24歳のアブドゥル・カリムが女王即位50周年記念式典で記念金貨「モハール」を献上しにやって来た1887年に知り合い、ヴィクトリア女王が亡くなる1901年まで「ムンシ」として傍で仕えるようになるのだが、81歳で女王が亡くなった後、インドに戻され1909年に46歳で亡くなる。
 もはや映画の出来よりもヴィクトリア女王のこのような「男性遍歴」を辿った原因が気になるのだが、それを理解するには家族が多すぎて複雑すぎる。


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『マイル22』

2019-02-16 00:57:17 | goo映画レビュー

原題:『Mile 22』
監督:ピーター・バーグ
脚本:リー・カーペンター
撮影:ジャック・ジョフレ
出演:マーク・ウォールバーグ/ジョン・マルコヴィッチ/ローレン・コーハン/イコ・ウワイス
2018年/アメリカ

なりふり構わぬ作戦の是非について

 例えば、「シューティングゲーム」をし慣れている世代にしてみれば、本作のアクションシーンは十分に楽しめるのかもしれないのだが、そもそも主人公であるジェームズ・シルバが所属するCIAの「オーバーウォッチ」と呼ばれる特殊部隊は極秘部隊扱いであり、そうなるとシルバが関わったリー・ノアの身柄輸送は、シルバたちがCIAに辞表を出したとしてもあまりにも死亡者数があからさまに多すぎて、新聞記者たちが黙ってはいないと思う。
 さらにリー・ノアが三重スパイでシルバが16カ月前に関わったロシアの高官の息子の復讐だったというのであるが、息子一人の復讐のためにあまりにも多くのロシア人が犠牲になっており作戦としては大失敗であろうし、「オーバーウォッチ」を壊滅させるためにこのような大がかりな作戦が必要だったのかどうかさえ疑われる。


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『デス・ショット』

2019-02-15 00:56:30 | goo映画レビュー

原題:『Reprisal』
監督:ブライアン・A・ミラー
脚本:ブライス・ハモンス
撮影:ディーン・カンディ
出演:フランク・グリロ/ブルース・ウィリス/オリビア・カルポ/ジョナサン・シェック
2018年/アメリカ

「石原裕次郎化」したジョン・マクレーンについて

 噂に違わぬ酷い出来の作品だった。例えば、主人公のジェイコブが勤めている銀行に単独で強盗に押し入ったガブリエルは妨害電波発生装置で携帯電話を使用不能にし、顔もバレずに声も出すことなく完全犯罪を成し遂げるのであるが、その次に起こした現金輸送車の襲撃があまりにもお粗末で、同一犯が起こしたように見えないのである。
 偶然、ガブリエルの居場所を突き止めて、ガブリエルの犯行現場を目撃したジェイコブが現金輸送車に乗って現金を運んでいた女性を救助した後、入院中のその女性の元に忍び込んだガブリエルが女性にジェイコブに電話をさせておびき寄せるのであるが、あの慌ただしさの中でどのような話の流れからジェイコブが女性に電話番号を教えられたのかが気になって仕方がない。
 ようするにメチャクチャなのであるが、原題の「仕返し(reprisal)」という言葉の意味を勘案するならば、ガブリエルの父親はかつて兵士としてアメリカのために戦ったものの、認知症を患ってからは政府に手厚くもてなされることのない不満からガブリエルがアメリカ社会に「報復」を試みたと読めなくもないのだが、自分の勤め先を襲われ、さらに糖尿病を患った娘を妻と共に誘拐されたことに対するジェイコブのガブリエルに対する復讐にしか見えない。半年後のラストでジェイコブが警察官として採用されているところを見ると、ガブリエルに関する話は重要視されていないと感じる。
 それでも本作が日本で劇場公開された理由はブルース・ウィリスが出演しているためであろうが、ウィリスはかつての『ダイ・ハード』のように動き回ることはなく、むしろテレビドラマ『太陽にほえろ!』の石原裕次郎の立場に甘んじている。


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『イット・カムズ・アット・ナイト』

2019-02-14 00:56:51 | goo映画レビュー

原題:『It Comes at Night』
監督:トレイ・エドワード・シュルツ
脚本:トレイ・エドワード・シュルツ
撮影:ドリュー・ダニエルズ
出演:ジョエル・エドガートン/クリストファー・アボット/カルメン・イジョゴ
2017年/アメリカ

「実存」を問うホラー映画について

 未知の病原体の感染から逃れるために主人公のポールは妻のサラと息子のウィルと共に森の奥にある自宅に閉じこもっており、感染してしまった妻の父親のバッドを殺して地面に穴を掘って死体を燃やしてしまう。
 そんな時に、トラヴィスがポールの家に侵入し、家族のために飲料水を探していると事情を説明されたポールは車でトラヴィスの家まで向かい、妻のキムと息子のアンドリューを連れて戻って来て、2組の家族が一緒に住むことになる。
 ところがポールたちが飼っていたスタンリーという名前の犬が大怪我をして戻ってきた際に、勝手にドアを開けてしまったアンドリューが感染しているのではないかという疑いを持ったポールの家族がトラヴィスの家族と仲たがいしてしまい、トラヴィスたちは出て行くというのだが、感染した者を放っておくわけにはいかないポールたちは3人とも射殺してしまう。しかし実はウィルも感染しているのではないかという疑惑が生じてしまい、それではウィルもアンドリューのように射殺できるのかどうかということで、ラストにおいてポールとサラは悩んでいるのである。
 本作はホラー映画というよりも「実存主義」を巡る作品のように思う。理屈としては理解できるのだが、映画として面白いかどうかはよく分からない。


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『サスペリア』(2018年)

2019-02-13 00:57:06 | goo映画レビュー

原題:『Suspiria』
監督:ルカ・グァダニーノ
脚本:デビッド・カイガニック
撮影:サヨムプー・ムックディープロム
出演:ダコタ・ジョンソン/ティルダ・スウィントン/クロエ・グレース・モレッツ/ジェシカ・ハーパー
2018年/アメリカ・イタリア

政治という「ホラー」について

 言うまでもなく『サスペリア』(ダリオ・アルジェント監督 1977年)のリメイクではあるが、同様にホラー映画と呼べるかどうかは微妙である。
 ドイツのベルリンの「タンズ・ダンス・アカデミー」へアメリカのニューヨークから主人公のスージー・バニヨンがオーディションを受けて入団するというメインストーリーはそのままで、縦軸に1977年10月に起こった「ルフトハンザ航空181便ハイジャック事件」とその事件を起こしたドイツ赤軍の物語(因みにオリジナルは1977年2月公開である)、横軸に精神分析医のヨーゼフ・クレンペラー博士の、ホロコーストで亡くなった妻のアンケの物語と、ダンスアカデミーの振付師のマダム・ブランとエレナ・マルコスのアカデミー内での権力争いが描かれているのであるが、興味深いのはクレンペラー博士、ブラン、マルコスの3人をティルダ・スウィントン一人に演じさせている点である。
 そのような状況下で主人公のスージーはクライマックスにおいてアカデミーを裏切るような行動に出るのだが、アメリカから来た者がドイツの団体を壊滅に導く物語は、観客に第二次世界大戦の結末を想起させる。その32年後、1977年時においてもドイツは政治活動に失敗し、自身の精神分析も失敗しており、それを暴くのがアメリカ人なのであるが、これはアメリカの勝利というよりも、当時2つに分裂していたドイツの「内紛」による自滅の観が強い。


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『メリー・ポピンズ リターンズ』

2019-02-12 01:47:03 | goo映画レビュー

原題:『Mary Poppins Returns』
監督:ロブ・マーシャル
脚本:デヴィッド・マギー
撮影:ディオン・ビーブ
出演:エミリー・ブラント/リン=マニュエル・ミランダ/ベン・ウィショー/エミリー・モーティマー
    コリン・ファース/メリル・ストリープ
2018年/アメリカ

良質のミュージカルの「必需品」について

 敢えて前作『メリー・ポピンズ』(ロバート・スティーヴンソン監督 1964年)と同じようなレトロな画質にこだわり、前作で主演のメリー・ポピンズを演じたジュリー・アンドリュースと本作のエミリー・ブラントの外見を限りなく近づけることで「リターンズ」に真実味を持たせることにも成功しており、さらにジョージー・バンクスが上げた凧に掴まってメリー・ポピンズが地上に降りてくるシーンなど洒落ているのではあるが、何かが足りないと考えるとやはり全体的に楽曲が弱いのではないだろうか。前作にあった「チム・チム・チェリー(Chim Chim Cher-ee)」のようなキャッチ―な曲が一曲でもあるのとないのとでかなりの差が生じてしまうのではあるが、もちろん好みの問題である。


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『フロントランナー』

2019-02-11 00:50:15 | goo映画レビュー

原題:『The Front Runner』
監督:ジェイソン・ライトマン
脚本:ジェイソン・ライトマン/マット・バイ/ェイ・カーソン
撮影:エリック・スティールバーグ
出演:ヒュー・ジャックマン/ヴェラ・ファーミガ/J・K・シモンズ/アルフレッド・モリーナ
2018年/アメリカ

自らハードルを上げたアメリカ大統領候補について

 1988年のアメリカ大統領選挙の民主党候補予備選挙において最有力候補(フロントランナー)だったゲイリー・ハートがドナ・ライス・ヒューズとの密会が暴露されたことをきっかけに失脚したという物語を、もはやアメリカ大統領でさえジョン・F・ケネディの頃のように浮気を大目に見てもらえる時代ではなくなったと捉えることは確かに間違ってはいないのだが、ジェイソン・ライトマン監督はその経緯をもう少し丁寧に描いていると思う。
 ハートが失脚した原因として2つポイントがあると思う。一つはハートが立候補の時に挙げたキャッチフレーズで「経済・教育・環境(Economy・Education・Enviroment)」の「3E」に加えて、ハートは「倫理(Ethics)」の「4E」だと豪語してしまう。二つ目はワシントン・ポスト紙の若い黒人記者のA・J・パーカーの、ハートと妻のオレイサ・“リー”・ハートが別居していることと絡めて浮気を疑う質問に対してハートが「俺を付け回してみればいい(Follow me around)」と啖呵をきってしまい、その記事を真に受けた別の新聞社であるマイアミ・ヘラルド紙の記者たちがハートの相手とされるドナ・ライスを追跡した結果、証拠が出てしまうのである。
 以上の流れを見ていくと、何となくそれまでタブーとして「忖度」されていたアメリカ大統領の女性問題をハート自ら新聞記者たちに破らせたように見えるのである。ラストにおいてゲイリーとリーが離婚することなく今も一緒に暮らしているという字幕を見ると一抹の悲しみを催す。
 このような微妙な話を描かせたらジェイソン・ライトマン監督の右に出る映画監督はいないと思うのだが、観客のみならず映画批評家にもあまり理解されていないように感じる。


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『マスカレード・ホテル』

2019-02-10 00:56:18 | goo映画レビュー

原題:『マスカレード・ホテル』
監督:鈴木雅之
脚本:岡田道尚
撮影:江原祥二
出演:木村拓哉/長澤まさみ/小日向文世/濱田岳/前田敦子/石橋凌/渡部篤郎/松たか子
2019年/日本

「形式」を織り成す独特のモンタージュについて

 本来ならば原作者が東野圭吾である以上、ミステリーを楽しむべき作品ではあるのだろうが、個人的には鈴木雅之監督の演出に期待して観に行ったのだが、前作の『本能寺ホテル』(2017年)では影をひそめてしまっていた独特のモンタージュが『プリンセス トヨトミ』(2011年)の頃の全盛期まで戻って来たようなうねりを感じた。
 それはもちろんホテルという建物の「形式」を最大限に利用した画面の構図作り、さらに主人公でホテル・コルテシア東京のフロントクラークである山岸尚美が捜査一課の警部補で潜入捜査を試みる新田浩介にフロントスタッフの「形式」を強いるのみならず、チェックする部屋の机の上に置かれているホテルオリジナルのペーパーウェイト(文鎮)のロゴの向きも正確に定位置を細かく直すところや、エレベーターの階数を示すパネルの数字までブレずに映され、それ故にペーパーウェイトのわずかなズレが不穏な空気を作り出し、ストーリーのクライマックスに重大な影響をもたらすのである。これ以上本作に何を求めるというのか?


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『チワワちゃん』

2019-02-09 00:56:54 | goo映画レビュー

原題:『Chiwawa』
監督:二宮健
脚本:二宮健
撮影:相馬大輔
出演:門脇麦/成田凌/寛一郎/玉城ティナ/吉田志織/村上虹郎/松本穂香/栗山千明/浅野忠信
2019年/日本

不自然な性交について

 千脇良子、通称「チワワちゃん」の殺人事件をきっかけに主人公のミキが彼女のそれまでの消息を訪ね歩く本作の物語は、一見取留めのないように見えるのだが、ここでは印象的なシーンを取り上げたいと思う。
 ミキは元カレでチワワちゃんとも交際していたヨシダの元を訪れるのだが、就職活動中なのかヨシダはスーツの着こなしが気になってミキの話など上の空で、チワワちゃんが殺されたにも関わらず、無関心なヨシダにミキは失望してしまう。突然、ヨシダはミキを羽交い絞めにして強姦するのだが、途中で体を離すとヨシダは自慰をしながらもう一方の手でミキの股間を刺激するのである。
 この不自然な性交を勘案するならば、ミキやヨシダたち、つまりは原作者である岡崎京子は子供を持って家庭を持つというような安定した生活に全く興味がなく、「青春」の終わりが人生の終わりのように捉えているように見える。例えば、ミキがテレビのニュースで見るシンガポールなどで起こった連続爆破事件でさえミキたちにすれば「青春」の澎湃のように見えるのかもしれない。


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