TさんとRさんがホテルまで迎えに来てくれた。私以外の日本人観光客はガイドと一緒に博物館に行くことになっていた(別料金)。彼等とはしばらく別行動になる。別れ際にKABAが強い口調でこう言った。
「昼食までには絶対帰ってきて下さい」
「多分大丈夫でしょう。最悪の場合、空港へ直行しますから」
笑いながら答えた私にガイドは憎悪の眼差しを向けていた。タクシーで約7km先の「国立台湾大学(かつての台北帝大)」に向かう。最高学府は台北市の南部、大安区羅斯福路(ルーズベルト通り)にある。戦前は富田町と呼ばれたエリアだ。
冷静を装っていたが、気持ちは昂っていた。大学に合格して広島駅からタクシーに乗り千田キャンパスの前に降り立った時とまさに同じだった。
「ゆっくりしたいでしょうが、時間があまりないわ。写真を撮りたいところで車を停めるから合図してね」
Rさんの呼びかけで我に戻った。大学内に居られるのは1時間ほど。効率よく回るにはタクシーが最適であることに気づいた。
「わかりました」
南国情緒あふれる椰子並木に母校の森戸道路を重ね合わせ懐かしい感情が湧き上がってきた。