Rさんは小さな公園の前で運転手に停まるように言った。学生が鐘の周りに自転車を置いて談笑していた。
「有名な場所だから見てもらおうと思って」
彼女が私に指差したのは「傅鐘」だった。名学長として称えられる傅斯年の名をつけた鐘は講義の始まりと終わりの合図として鳴らされていたそうだ。無言で鐘を見つめていた私は、ふと台湾大学の校訓を思い出した。
・徳を修める
・学問に励む
・国を愛する
・人を愛する
今の日本人(学生を含む)はどれ一つとしてできていないのではないか。疑問に思ったことなどを自発的に調べ、大量の情報から正確なものだけを選び出し緻密な検証を経て結論を出すのが真の学問である。
鋭い眼力と論理的思考は本来学生時代に培うものだが、丸暗記が唯一の取り柄である日本人は不確かな情報を集めた時点で満足し、再考するのを止めるのが大いに問題なのだ。
「正門で記念撮影して終わりにします。ここに来られて本当によかった。お二人に感謝しますよ」

旧台北帝国大学表門(現・台湾大学正門 昭和6年竣工)を出て戦前の着色絵はがきと同じアングルで写真を撮り、大学を後にした。次に向かうのは私が一番楽しみにしている所だった。

