青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

中塩田温故知新。

2021年06月07日 17時00分00秒 | 上田電鉄

(レトロで粋で洒落ていて@中塩田駅)

別所線の駅は、近代化事業の中でだいぶ整理されて味わいのある駅も少なくなりましたが、その洒落た雰囲気がひときわ目を引く中塩田の駅。上田電鉄の木造駅舎と言えば終点の別所温泉の駅が有名ですが、この駅も昭和レトロの薫り高き良物件。溜池と田園風景の広がる塩田平の集落の片隅に、ひっそりと佇んでいます。形としては別所温泉の駅舎を一回り小さくしたような感じで、車寄せに輝くのは上田丸子電鉄時代の社紋。駅名のアルファベットのフォントが味わい深いですね。

駅の中に入ると、スコンと抜けた高天井の待合室は、少しひんやりとした夕方の空気に支配されていました。昔からそのままであろう木造のラッチ、作り付けだった窓はサッシに取り換えられているようですが、往時の上田丸子電鉄時代の風合いをそのまま残しています。別所線の木造駅舎に統一して塗られているこの明るい水色、何とも表現が難しいのですが、ただの水色ではなくて非常にノスタルジックな水色なんですよね。ソーダのような、夏祭りのラムネの瓶のような・・・ラムネ色、って言えばいいのかな。そうだ、ラムネ色。箱根登山電車の106号にも通じる、駅舎の壁のベージュとラムネ色の組み合わせが抜群に似合っている。

漆喰と板張りで構成された壁に、ラッチを挟むように置かれた木造のベンチ二つ。ここに座って一時間くらいは、缶コーヒーでも片手に左へ右へ走り去る電車を眺めていられそうだ。また「なかしおだ」の駅名票の書き文字も渋いよねえ・・・ワンマン乗車の案内板は新しいのに、ホーローの駅名票は雰囲気に合うようにそのまま残しているんだろうね。藍色にアイボリーホワイトの書き文字は、それこそ丸窓電車の時代からの上田丸子電鉄のコーポレートカラー。

私がホームから駅舎を眺めている間に、いつの間にか一人の男性客が現れて、待合室で電車を待っていた。何となく自分の姿を見られるのが恥ずかしいような気持ちになって、そそくさと駅の外に出てしまった。駅横の踏切の鐘が鳴り、「NAKASHIODA STATION」に上田行きが滑り込む瞬間をスローな感じでパチリとやってみる。たまに思うのだけど、地元の人には、この駅を風情があるとは捉えずに「何だか古い駅だなあ」としか思わない人が大半なのかもしれなくて。そんな駅を何だか珍しがるような、ありがたがるような素振りでパチパチと写真に収めている見知らぬ異邦人は、違和にしか映らないだろうな、なんて思うんですよね。

本当は地元の人だって、「きれいに建てられた明るい新しい駅」がいいに決まってるんじゃないか。だから、普段使いの人を前にして、こういう年季の入った駅を撮影する事に少し気後れのようなものを感じてしまう時がある。それは考え過ぎなのかもしれないけど、それでも自分はこんな駅が好きで。これからも、都会の人の傲慢さを後ろめたく思いつつ、郷愁の情景を探し歩くのかと思われます。


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