青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

駅ビルに 夢見た未来 泡と消え

2020年02月12日 17時00分00秒 | 高松琴平電気鉄道

(押しも押されぬターミナル@瓦町駅)

赤い電車に乗って、瓦町までやって来ました。瓦町の駅は、琴平線・長尾線・志度線の3線が合流する、ことでん最大のターミナルであります。そう言えば、京都にある某マルーンな会社のターミナルも「かわらまち」ですね。あっちは「河原町」ですけど。ターミナルにありがちな名前なのだろうか。駅名標に添えてある「瓦町FLAG」は駅の真上に建つ駅ビルの名称で、日用品からファッションフロア、カルチャースペース、銀行、ジュンク堂、レストランや高松市の行政施設などが入る地上11階地下1階の大型複合施設です。

瓦町駅のホームは、琴平線が島式ホームの1面2線・長尾線が1面1線の単式ホームを使います。またこれとは別に、志度線ホームが通路を通って200mくらい離れた位置に頭端式の1面2線のホームを持っていまして、動く歩道付きの通路で繋がっています。昔は志度線も瓦町の駅に北側(築港側)から合流していたのだけど、駅ビルの建設による1990年代初頭の再開発の際に分断されて今に至ります。今の形は、昔の仙台駅における東北本線と仙石線のような位置関係というと理解しやすいか(しにくいな)。

おそらく香川県でも屈指の商業施設だと思われる瓦町の駅ビル、正式名称は「コトデン瓦町ビル」と言って、1997年(平成9年)に大手百貨店のそごうと琴電本社が共同出資した経営法人を母体に「コトデンそごう」として華々しく開業しました。しかしながら、開業から僅か3年後の2000年にそごう本体が多額の負債を抱え経営破綻。出資相手であったそごうブランドの信用不安に巻き込まれる形で、コトデンそごうも2001年に民事再生法を申請、そしてコトデンそごうの借入に対し保証を入れていた琴電本体も、その保証債務が負い切れずに民事再生法を申請するという連鎖倒産の見本のような結果となっています。うーん、一応まがりなりにも百貨店大手のそごうが共同出資して3年で飛んじゃうなんてさすがの琴電も想像してなかったのか。恐るべき平成不況。

瓦町駅2階改札口と連絡した「瓦町FLAG」の2Fフロア。オープン後に3年でテナントのデパートが破綻という完全な黒歴史となってしまったコトデン瓦町ビルですが、そもそも地方私鉄にここまでの豪華な駅ビルがあるということ自体驚くべきもので、当時の琴電本体のイケイケぶりが伺い知れます。他に地方私鉄が営業するでっかいハコモノあったかな、と思い出しても長電権堂ビル(長野電鉄)くらいしか思い付かないねえ。それでも、ここ瓦町の規模の足下も及ばないわなあ・・・。まあ長電の権堂ビルも長年の店子のイトーヨーカドーの撤退が決まって大変そうだけどな。ってか琴電(当時)の問題点は、「鉄道会社がグループ会社とは言え本業以外に債務保証して本業が飛んじゃうってどうなのよ」というところに尽きる。どういうリスクマネージメントになってたんだろう。しくじり先生に出てもらいたい。一言でいうと「身の丈に合わない投資(経営陣のアタマん中がバブったまんまでした)の結果」という事に尽きるのかもしれないが。

瓦町駅のホームの端っこに置かれたくず物入れ。ことでんのキャラクターであるイルカの「ことちゃん」がデザインされたものです。2001年12月に390億円の負債を抱え、民事再生法を申請した琴電は、長年に亘り続いて来た旧態依然としたサービス、古い設備、労使対立などの問題が澱のように溜まっていました。そんな琴電の体質に際し、県民の中に「電車が残れば琴電はいらないのではないか?」という風潮が蔓延して行きます。県民の強烈なダメ出しを突き付けられた新経営陣が、危機感の末に「(こんな状態の)ことでんは要るか?要らないか?」を徹底して議論し、新経営ビジョン「ことでん100計画」に基づく改革を発表。金融機関から負債の約2/3に当たる230億円の債権放棄を取り付け、再生計画を進めました。このキャラクターは2002年に「大人の事情」により誕生したとされていますが、大人の事情とは、再生を図る企業の存在価値を根本から問いかける「いるか、いらないか」の議論と、虚実ないまぜの企業内の戦いの結果だったんですね。なんだか、TBSの日曜劇場で、阿部寛あたりが会議室の机叩きつけてブッてる感じの画が脳内に浮かび上がって来たぞ(笑)。

華やかさと同時に、非常に苦い思い出の舞台となった瓦町の駅ビルをバックに、リバイバルカラーの1081編成が行く。コトデンそごうの破綻の後、コトデン瓦町ビルは岡山の天満屋による経営を経て現在の複合商業ビルとなっていますが、テナントの出入りについてはかなり流動的でなかなか安定しないようです。現在も地下1階の食品フロアが空きスペースとなっているなど、すっかり車社会に変貌を遂げた地方都市の交通事情と小売店事情に翻弄されていることは否めませんが、「FLAG」の名前の通りに、高松の中心市街地に逆襲の狼煙を上げられますかどうか。

そんな訳でイルカの「ことちゃん」(Twitter画像より)。てっきり瀬戸内にいるスナメリ?あたりをモチーフにしたかわいらしいキャラクターでイメージアップ!ってな感じで生まれたものかと思いきや、かわいいだけではないクセモノの相がある。難儀な(?)出自のせいか、SNS上でのことちゃんの発言は過去の歴史を隠そうともしない攻めたキャラ。すこしとぼけたキャラクターの向こう側には、琴電が忘れてはいけない改革への初心が詰まっているのだろうと思う。そーいや、ことちゃんグッズなんか買って来ようと思ってたんだけど忘れてもーたわ。ぞぞー。


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