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小倉つき子著『廃寺のみ仏たちは、今』(京阪奈新書)が奈良新聞に大きく掲載!

2020年07月08日 | ブック・レビュー
月曜日(2020.7.6)の奈良新聞に、NPO法人「奈良まほろばソムリエの会」会員で奈良佐保短期大学講師の小倉つき子(小倉涼眞)さんの著書『国宝仏から秘仏まで~廃寺のみ仏たちは、今~奈良県東部編』(京阪奈新書)が大きく紹介されていた、おめでとうございます!

神仏分離や寺勢の衰えで流出した廃寺の旧仏の行方を追った本で、ブログ「観仏日々帖」でも、詳しく紹介されていた。奈良新聞の記事内容は画像でご覧いただくとして、大淀町教育委員会学芸員の松田度(まつだ・わたる)氏がご自身のFacebookに見事な書評をお書きなので、以下に全文を紹介しておく。


著者の小倉つき子さん。奈良県文化・教育記者クラブで6月22日に撮影

ブックレビュー『廃寺のみ仏たちは、今 奈良県東部編』
奈良県内では、飛鳥時代から近現代にいたるまで、数多くの寺院・仏像が造られてきた。でも、時代の波に翻弄されて廃寺となり、そのあおりをうけて流転していった仏たちも数多く存在する。この度、京阪奈情報教育出版から刊行された『廃寺のみ仏たちは、今 奈良県東部編』(以下、本書)は、そんな埋もれた奈良県の歴史を訪ねるドキュメンタリー(記録書)である。

著者の小倉つき子さんは、NPO法人奈良まほろばソムリエの会・保存継承グループに所属し、そのような奈良県内の廃寺と旧仏の来歴を取材し続けている。今回は「奈良県東部編」。おもに奈良市東部・山添、宇陀・桜井といった地域の仏像に光をあてている。

本書は、豊富な写真資料で仏像の来歴を伝えるガイドブックでもある。巻頭のカラーページには、32箇所の仏像が紹介されている。普段簡単にみることのできない仏像の写真も本文中に多数登場し、著者の目指す「記録書」としての役割を十分に果たしている。

章立ては次のとおり。「桜井市の廃寺と旧仏」「宇陀地域の廃寺と旧仏」「山添村の廃寺と旧仏」「大柳生の廃寺と旧仏」「旧東山村の廃寺と旧仏」「高円山麓の廃寺と旧仏」。桜井市周辺の廃寺と仏像の来歴調査に大頁がさかれているのは、この地域にあった大寺院の廃寺率がいかに高かったかを示している。

魅力あるストーリー満載の本書から、評者の興味ある部分についてとりあげてみたい。今、国史跡となっている粟原寺跡(おおばらでらあと・桜井市粟原)ゆかりの旧仏は、近隣の寺院に引き取られている。その原因は「粟原流れ」と呼ばれた江戸時代の土砂災害ではないかとされているだけで、詳しい史料はない。



本書では、詳細な仏像の来歴調査をふまえて、粟原寺の寺運の衰退とともに、近隣の寺院へ仏像が引き取られていった事情を想定している。いわば「粟原流れ」は、すでに廃寺同然だった粟原寺の命運を決定づけたできごとだったのだろう。

三輪山麓にある大神神社の摂社・大直禰子神社(若宮社)の本殿一帯には、幕末まで「大御輪寺(だいごりんじ)」があった。その本尊・十一面観音立像(国宝・奈良時代の制作)は、慶應4年(1868)に多武峯山麓の聖林寺(桜井市下)に引き取られているが、その「お前立」であった江戸時代制作の十一面観音立像は、兵庫県神戸市灘区の金剛福寺に安置されている。県外に流出した仏像で、その来歴を追えるものは希少であるが、本書では一般に紹介されることのないこのような仏像も写真入りでとりあげている。

著者の取材力にはまったく頭が下るのだが、「はじめに」で述べられているように、在家の仏教徒として、過疎と少子高齢化のさなかで廃寺の諸仏をどのように次世代に引き継いていくべきかを自問自答し、取材を重ねるなかで導きだしたひとつの答えが本書なのだろう。

なにより、各地域で廃寺の旧仏を守り伝えている地域の人々の声も聞こえてくるのが、本書の魅力である。今後、奈良盆地編・奈良県南部編といった続編の刊行にも期待したい。小倉つき子『国宝仏から秘仏まで 廃寺のみ仏たちは、今 奈良県東部編』京阪奈新書 2020年6月刊行(新書判・246頁)


※7月11日追記 産経新聞奈良版(7/8付)にも《廃寺の仏さま、数奇な運命探る 「ソムリエの会」小倉さんが書籍刊行》の見出しで大きく紹介されました。以下に記事全文を貼っておきます。

NPО法人「奈良まほろばソムリエの会」の会員、小倉つき子さん(69)が、廃寺となった寺院に祭られていた仏像の現状を探る活動に取り組み、その成果をまとめた「『廃寺のみ仏たちは、今』奈良県東部編」(京阪奈情報教育出版、税別950円)を刊行した。現在安置されている寺院や地区収蔵庫など約50カ所を対象としており、貴重な記録になりそうだ。(岩口利一)

古代から数々の寺院が建立された県内では、神仏分離令や寺院の衰退で行方知れずとなった仏像もあれば、県内外の寺院や地域で大切に守られている仏像もある。小倉さんはそうした数奇な運命に興味を抱き、平成30年秋から約1年かけて取材。さまざまな事情に翻弄された仏像の「今」に迫った。

「『廃寺のみ仏たちは、今』奈良県東部編」では、各地の廃寺と移された仏像について紹介。国宝仏から秘仏まであり、このうち古代に桜井市に創建され、その後廃寺となった粟原(おうばら)寺から流出したと口伝されている仏像は、長野市の清水(せいすい)寺などに行き着いたとされる。

また、神仏分離令により一帯で唯一残った山添村の薬音寺には、廃寺の仏像が集められ、木造仏像群として村文化財に指定されている。十一面観音菩薩立像など18体が平安時代の一木造りという。

このほか、由緒不明の極楽寺(奈良市)の阿弥陀如来坐像(ざぞう)など県文化財3体や、宇陀市西峠区の住民に守られる薬師如来坐像(県文化財)も紹介。仏像がたどった運命に思いをはせることができる。

小倉さんは「取材を通じ、仏さんだけは守ろうという奈良の人たちの信仰心を感じた。だが、山間部では70~80代の人が守っているところが多く、次世代にどう引き継いでいくかが課題となっている」と話しており、今後は奈良盆地編にも取り組む意向だ。

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