エッセイ  - 麗しの磐梯 -

「心豊かな日々」をテーマに、エッセイやスケッチを楽しみ、こころ穏やかに生活したい。

「逝く母と詠んだ歌五十三首 永田 紅」

2010-11-04 | 文芸
          【キキョウの種】
    文藝春秋11月号で
 「逝く母と詠んだ歌五十三首 永田 紅」を読んだ。
新進歌人の永田 紅さんは、8月に乳癌で亡くなった歌人の河野裕子さんの娘さん。
最後まで、枕元に手帳を置き歌を書き続けていた辛い別れの日々を、家族が歌っている。

・最期の歌
  「手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が
・亡くなる前の日の歌
   「あなたらの気持ちがこんなにわかるのに言い残すことの何と少なき
・他に
   「俺よりも先に死ぬなと言ひながら疲れて眠れり靴下はいたまま
   「大泣きをしてゐるところへ帰りきてあなたは黙つて背を撫でくるる
・夫や息子さんも歌人
  「エーンエーンと生きる母にもぐりこみ泣きいる紅を羨しみて見つ」 永田 淳
  「おはようとわれらめざめてもう二度と眼を開くなき君を囲めり」 永田 和宏
・衰弱してゆく母親を介護し看取った河野さん自身に癌が再発したのだ。
 母を歌った
  「みんないい子と眼を開き母はまた眠る茗荷の花のような瞼閉じ

  歌人・馬場あき子は、追悼文で「歌人としての河野さんは天衣無縫の才質をもち、独特の詩材から物ごとの真に迫り、
 甘美な伸びやかさと詩的独断を併せもって、しかも言葉つづきの柔軟さには天性の品位があった。」と語っている。
 
 「ブラウスの中まで明るき初夏の陽にけぶれるごときわが乳房あり
 美しい歌と思う。

 
 最期はつらい。その日々を家族が歌に歌う。
 かえりみて歌を詠めない自分は、どう別れの気持ちを残そう・・・。
一年一年、何と早く過ぎていくことか。
 あれから7年、あれから15年、30年と、思い返す懐かしかったあのころ・・・
生きた密度は比べぶくもないが、私も妻も、河野さんと同い年だ。
 本当に人生は短いと思う。
 また、家族の幸せを思う。 



日記@BlogRanking