透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「アバウト・シュミット」

2022-12-21 | E 週末には映画を観よう

 週末には映画を観よう。先週の土曜日(17日)にジャック・ニコルソン主演の「アバウト・シュミット」をDVD(*1)で観た。

保険会社を66歳で退職したシュミットはネブラスカ州オマハで奥さんとふたり暮らし。さて、ネブラスカってどのあたりだっけ? ネット検索してアメリカのほぼ中央に位置する州だと分かった。デンバーに暮らす一人娘は結婚間近。

退職後、特にすることもないシュミットは退屈な日々。ある日、テレビでアフリカの子どもたちの支援プロジェクトを知り、6歳の少年の養父になる。で、少年に手紙を書くことでうっぷん晴らし。

ある日、シュミットが出かけている間に(郵便局に行っていたんだっけかな)、奥さんが急死してしまう。

孤独・・・。シュミットは奥さんと一緒に旅行に行こうと買っていた大型のキャンピングカーで娘を訪ねていくことにする。孤独を癒す旅。

娘の結婚相手の男も気に入らないし、男の家族も気に入らないシュミットだったが、結婚式ではきっちりスピーチ。でも孤独は癒えず。

ラスト、アフリカの少年から届いた手紙には少年が描いた絵が同封されていて、その絵を見たシュミットは涙する。人と人との繋がりって、とても大切なんだ、ということがストレートに伝わる絵。絵を見て僕もウルっときた。

ジャック・ニコルソンが定年退職した男を演じているなら、おもしろいというか、共感することもあるだろうと思って見たけれど、ストーリーは起伏に乏しく、ジェットコースター的なストーリー展開の映画に慣れてしまった者としては物足りなかった。次はあり得ないほどハッピーなストーリーの映画を観たいなぁ。そんな映画、何かあるかな。

そして、来週は「ラーゲリより愛を込めて」を観よう(原作は感銘を受けた『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』辺見じゅん(文春文庫))。

320


*1 まったく気がつかなかったけれど、DVDをVDVと書いていた。なぜだろう。ある方に指摘していただいたので訂正した。どうやら老人力がついてきたようだ。

ご指摘ありがとうございました。



「キューティ・ブロンド」

2022-11-14 | E 週末には映画を観よう

 「週末には映画を観よう」というカテゴリーをつくっておきながら、このところ観た映画の掲載をサボっていた。

「3022」「惑星戦記 ジーロック」しばらく前にSFを2作観た。★☆☆☆☆ どちらも評価はこんな感じだった。で、SFではなく別のジャンルの作品を観ようとDVDコーナーで探した。手に取ったのが「キューティ・ブロンド」(2002年に日本で公開されたアメリカ映画)。主演女優がかわいいからではなく(まぁ、少しは選んだ理由にはなっているけれど)、コメディだったから。

この作品はコメディにしてサクセスムービー。

今夜は彼氏のワーナーがプロポーズしてくれるかも、と期待して出かけたデートで切り出された別れ話。 ワーナーがハーバード大学のロースクールに入学したと知るや、主人公のエルは猛勉強してハーバード大学に入学する。ワーナーを追いかけて入った大学で再会したワーナーには婚約者がいた・・・。



派手派手ファッションのエルはキャンパスで目立つ、目立つ。周りの学生たちが地味な格好をしているので余計に。エルは厳しい授業にも耐えて、やがてある殺人事件の弁護をすることに・・・。なにせサクセスストーリーだから上手く展開していく。こんな映画は観ていて楽しいし、気分がいい。つねにポジティブシンキングなエルは「他人(ひと)に優しく、自分に正直に」というポリシー。自分もそうありたいものだ。


 


「秋刀魚の味」小津安二郎

2022-09-21 | E 週末には映画を観よう

 「週末には映画を観よう」というカテゴリー名を変えなければいけないかもしれない。「秋刀魚の味」を観たのは昨日(20日)、平日の夜だった。1962年(昭和37年)公開のこの作品は小津安二郎の遺作。

小津作品はモノクロ、というイメージがなんとなくあるけれど、これはカラー。カメラを据える高さはやはり低い。昭和の居間は畳敷きだから、今の椅坐位の生活平面のおよそ半分の高さ、低い。家族の日常を捉えるカメラが低く据えられるのは必然と言えなくもない。

先日観た「東京物語」は家族とは何か、家族の絆とは何かを問うものだった、と思う。「秋刀魚の味」も家族、初老の父親と結婚適齢期(などと書くとまずいのかな)の娘を中心に家族が描かれる。娘が嫁いで、独りになった父親の孤独、孤独は表現がきついかもしれない。父親の寂しさが描かれる。主人公はやはり笠 智衆が演じている。娘は岩下志麻。この作品が撮られたときは21歳くらい。美しい。   

小津作品の静的な映像はやはり好い。この映画を現代の規範に照らして、出演者の台詞や振る舞いを評しているものもあるけれど、昭和の映画は昭和という時代の中で味わうのが好い(って、意味が通じるかな)と私は思う。

ラスト。結婚式当日の夜、バーでひとり飲む父親の表情が印象的だった。顔の表情に台詞以上語らせるのも小津作品か。


この秋は酒(もちろん日本酒)をちびちび飲みながら小津作品を観ることにする。


「東京物語」追記

2022-09-13 | E 週末には映画を観よう

 「東京物語」。監督は言わずと知れた小津安二郎。1953年(昭和28年)に公開された名作をDVDで観た。映像はもちろんモノクロ。低い位置に据えたカメラが尾道で次女と暮らす周吉(笠 智衆)ととみの老夫婦や、東京で暮らす長男と長女の家庭の様子、そのディテールを的確に捉えている。

ストーリはいたってシンプル。老夫婦(と言っても60代)が東京に子どもたちを訪ねる。心を込めて二人をもてなしたのは長男・幸一でも長女・志げでもなく、戦死した次男の奥さん・紀子(原節子)だった。紀子は仕事を休んで二人を観光案内したり、酒好きな義父のために隣りから酒を借りてもてなす。

周吉ととみは子どもたちの家庭には自分たちの居場所がないと感じて、予定を早めて尾道に帰って行く。直後にとみが危篤に。葬儀の後、実の子どもたちは早々に帰ってしまうが、紀子だけは残って義父の世話をする。

紀子が東京に帰るという日、周吉は妻・とみの懐中時計を形見に紀子に渡す。その時、周吉は次の様に言う。「妙なもんじゃ。自分が育てた子どもより、いわば他人のあんたの方がこのわしらに良うしてくれた。いや ありがとう」この台詞はこの映画のコンセプトを示している。親子とは何か、親子の絆とは何かを問う最も大事な台詞だ。

やはり名作と評される作品、なかなか味わい深くて良かった。この秋は小津安二郎の作品を観るか・・・。


 


男はつらいよ

2022-08-21 | E 週末には映画を観よう

 映画「男はつらいよ」シリーズ全50作品で特に印象に残っているのは次の5作品。

第10作「寅次郎夢枕」八千草薫
第28作「寅次郎紙風船」音無美紀子
第29作「寅次郎あじさいの恋」いしだあゆみ
第32作「口笛を吹く寅次郎」竹下景子
第45作「寅次郎の青春」風吹ジュン

これらの作品はマドンナが寅さんに好意を抱いているということが上手く表現されていると思う。

19日に第10作「 寅次郎夢枕」をDVDで、20日に第45作「寅次郎の青春」BSテレ東で観た。どちらも上掲リストにある作品だ。

「寅次郎夢枕」では、寅さんがマドンナのお千代(八千草薫)さんと亀戸天神でデートして、プロポーズ。で、お千代さんがOKする。こんな設定は、他にはない。

この作品は寅さんと舎弟の登が木造の橋を渡っていくところで「終」となる。このシーンは山梨県の北杜市須玉町を流れる塩川に架かる橋で撮影されたことがネット情報で分かっている。映画を観ていても櫓センサーはONになっていて(*1)、橋の向こうの木々の間に火の見櫓が立っていることに気が付いていた。グーグルマップとストリートビューでこの火の見櫓を確認できたので近々出かけたいと思っている。

*****

「寅次郎の青春」のマドンナは宮崎の港町・油津で理容店を営む蝶子(風吹ジュン)さん。寅さんは蝶子さんと理容店の近くの喫茶店で偶然出会うが、お千代さんとはとらやで何十年ぶりかで再会する。マドンナとの出会いは旅先の方が好い。

この「寅次郎の青春」では、寅さんと蝶子さんが港で一緒に歌うシーンが秀逸だ。

♪あなたと二人で来た丘は と蝶子さんが歌い出すと、寅さんも ♪港が見える丘 と重ねて歌う。♪色あせた桜一つ 淋しく咲いていた 

二人は顔を見合わせてニッコリ。寅さんとマドンナのツーショットではこのシーンが私のベスト1。


*1 テレビで今流行りの旅番組などを見ている時もセンサーはONになっている。


「ジュラシック・ワールド」ジュラシック・シリーズ完結編

2022-08-06 | E 週末には映画を観よう

 映画「ジュラシック・パーク」が公開されたのは今からおよそ30年前(もうそんなに経つのか・・・)の1993年のことだった。原作はマイクル・クライトンの同名小説(ハヤカワ文庫1993年)。この映画は大ヒットしてシリーズ化された。その完結編となる第6作「ジュラシック・ワールド 新たなる支配者」が現在公開されている。



マイクル・クライトンは実に興味深くておもしろい作品を何作も書いた。文庫になるまで待ちきれなくて単行本で読んだ作品もある(写真下)。

 



琥珀に閉じ込められた蚊の体内に残っていた血液から抽出したDNAをスーパーコンピューターで解析、複雑な作業を経て恐竜をよみがえらせる「ジュラシック・パーク」。何の説明もなく恐竜を出現させられたらおもしろくもないが、クライトンは科学知識を駆使して読者に説明した。

コンピュータで完全にコントロールされていて安全なはずの「ジュラシック・パーク」、だがシステムにトラブルが発生して恐竜たちが人間に襲いかかり、大パニックに。これと同じことが福島第一原発で起きた。クライトンは作品の中で最先端技術に潜む危険性を指摘し、警告を発し続けた作家だった(*1)。

「ジュラシック・パーク」では恐竜たちの生息域は孤島という限定的なエリアだったのに、「ジュラシック・ワールド 新たなる支配者」では、恐竜たちは世界中で生息していて、各地でトラブルを起こしている。

敢えてこの映画の内容には触れない。悪の研究施設に潜入、間一髪脱出という007でよくあるパターンのストーリー、と簡単に括っておく。巨大な翼竜・ケツァルトアトルスが飛行機を襲ったり、パラサウロロフスが馬と一緒に草原を疾走したり・・・。まあ、映画は娯楽と割り切って、おお、すごい! と単純に楽しめばよいと思う。このシリーズに登場する恐竜たちの多くはタイトルの由来のジュラ紀ではなく、白亜紀に生息してしていたという(*2)が気にしない、気にしない。

この映画では恐竜との共生が模索されるが、恐竜が絶滅していてよかったと思う。巨大隕石の衝突という偶然に感謝。

遺伝子改変などという神の領域に立ち入らない方がいいと思うけどなぁ、映画を観ての感想。


*1 マイクル・クライトンは2008年に66歳で亡くなってしまった。現代社会に欠かせない作家だったと思う。クライトンにはコロナ禍がなかなか収束しない現代社会の混乱を予見したかのような「アンドロメダ病原体」という初期の作品がある。
*2 『ジュラシック・パーク 下』(ハヤカワ文庫)の解説文(404頁)による。




「男はつらいよ」雑感記

2022-08-02 | E 週末には映画を観よう

■ 男はつらいよシリーズの全50作品を一通り観たが、また観たいと思った作品を観ることにしている。小説もそう。また読みたいと思った作品を読んでいる。

7月22日(金)に第22作「噂の寅次郎」をまた観た。冒頭、大井川に架かる蓬莱橋が出てくる。全長が900m近くもある木造の橋(橋脚は鉄筋コンクリート製)だが、この橋の上で寅さんは行脚僧から女難の相があるから気をつけるように言われる。橋を歩く寅さんの姿が印象的だが、寅さんシリーズにはよく橋が出てくる。

その後、寅さんは大井川の中流域、川根本町(*1)のダムで、失恋に涙する女性・小島 瞳(役名が分からなかったので調べた。演じたのは泉ピン子)と出会う。寅さんは彼女を食堂に誘い、話を聞いて慰める。ここで寅さんは少し散財する(あまりお金を持っていない寅さんにとって少額というわけではなかったかもしれない)。だが、これまで女難とは言えないだろう。

寅さんは実に優しい、特に旅先では。寅さんに優しくしてもらった女性はみんな寅さんに惹かれ、その後とらやを訪ねてくるというパターンが何作かある。この辺りきちんと調べたいと思う。

瞳と別れた寅さんは木曽へ向かう。バスの中で義弟・博の父親の飈一郎(志村 喬)と偶然再会し、同宿する。このシリーズに偶然の再会はつきもの。一体どのくらいあるのだろう、これも調べてみたい。リリー(浅丘ルリ子)とも函館の屋台で偶然の再会を果たす。この映画でもラストで寅さんは列車の中で新婚旅行中の瞳と偶然再会する。

この「噂の寅次郎」で飈一郎役の志村 喬のしぶい演技をもう一度見たかった。飈一郎が木曽の宿で寅次郎に「今昔物語」に描かれている人生のはかなさついて説くシーンは特に印象に残る。

第8作「寅次郎恋歌」で飈一郎が寅さんに民家の庭先で咲いているリンドウの花を引き合いに人の幸せについて語るシーンも好い。寅さんが飈一郎から聞いた話をとらやの茶の間でみんなに話すシーンも好い。「今昔物語」もリンドウの花も。

さて、この作品のマドンナ・早苗(大原麗子)はとらやで働いていて、寅さんはマドンナととらやで出会うけれど、やはりマドンナとは旅先で出会う方が好い。この頃いいなと思う旅先での出会いは第45作「寅次郎の青春」のマドンナ・蝶子(風吹ジュン)と第39作「寅次郎物語」の隆子(秋吉久美子)との出会い。

また、橋と言えば28作「寅次郎紙風船」では福岡県の秋月眼鏡橋を寅さんが渡って、昔のテキ屋仲間を見舞いに行くシーンが出てくる。この石橋はなかなか美しい。寅さん映画に出てくる橋をすべて整理するというのもおもしろいかもしれない。

このシリーズには火の見櫓も出てくる。 例えば第10作「寅次郎夢枕」。田中絹代が出演している作品だが、北杜市須玉町で寅さんが塩川に架かる橋を渡るラストシーンをよく見ると火の見櫓が写っている。ストリートビューで火の見櫓を確認することができた。橋は架け替えられているが、周辺の様子が一致する。この火の見櫓を見に行きたい。


*1 この町で火の見櫓めぐりを2回している。残念ながら映画に火の見櫓は写っていなかった。


「ぼくのおじさん」を観た

2022-07-30 | E 週末には映画を観よう

 DVDで映画を観るのは金曜日、1枚無料で借りられるから。歳を取るのはわるいことばかりじゃない。

昨日(29日)は金曜日、北 杜夫の「ぼくのおじさん」が原作の同名の映画を観た。なお、寅さんシリーズにも同名の作品があるけれど、表記は「ぼくの伯父さん」。先日「ぼくのおじさん」を読んだばかりだから映画の原作との違いが分かった。

「おじさん、見合いをする」 小説では**カンジンの相手がいなくなってから、ぼくのおじさんはようやく元気になるのである。これでは見合いもなかなか成功しそうにない。**(41頁)と、雪男(ぼくの名前)くんのおじさん(松田龍平、まん丸メガネをかけている)の見合いはあっけなく終わってしまう。だが、映画では真木よう子が演じている見合いの相手・稲葉エリーにおじさんが一目ぼれ、彼女に会うために雪男くんと一緒にハワイまで出かけていくという展開に・・・。

エリーは日系四世でハワイのコーヒー農園の経営後継者。東京でおじさんと見合いをした後、ハワイに帰ってしまった。雪男くんに(おじさんにもかな)、ハワイに遊びにおいでよ、と言い残して。

原作にない後半の展開にユーモラスな場面はない。雪男くんとおじさんがハワイ滞在中に、彼女にぞっこんな元彼(?)が彼女を追いかけてハワイにやってくる。そこでひと騒動。おじさんに有利な展開かと思いきや、最後の最後で元彼が逆転する。

雪男くんとお金の無いおじさんがハワイに行くことになったのは、雪男くんの作文がコンクールで入選したから。担任の若い女の先生が、雪男くんの作文をクラスの代表として選んで応募していたのだった。

ハワイでの顛末を書いた雪男くんの日記を読んだ担任の先生、「あ、そうだ、今度おじさん紹介して」。


エンドロールを見ていたら、企画協力に北 杜夫の奥さんの名前があった。


「39 男はつらいよ 寅次郎物語」他

2022-06-04 | E 週末には映画を観よう

 男はつらいよシリーズの第39作「寅次郎物語」を観た。シリーズ全50作品の中でも寅さんの優しさが特に印象に残る。

ある日、柴又駅前でリュックサックを背負い野球帽をかぶる少年に満男が声をかけるところから物語は始まる。とらやでさくらやおばちゃんが少年に事情を訊く。少年は寅さんのテキヤ仲間の子どもで、秀吉という名前は寅さんがつけていた。父親がオレが死んだら寅さんを頼れと言い遺して亡くなったために郡山から出てきたという。母親は家出をして行方不明。

「出張」からとらやに帰ってきた寅さんは秀吉少年を連れて母親さがしの旅に出る。テキヤ仲間から母親が和歌山にいるらしいという情報を得て訪ねた旅館で、母親が奈良の吉野に行ったと聞いた寅さんは秀吉と吉野へ。

だが、母親は吉野から伊勢志摩へ行ってしまっていた。その日の夜、旅館で秀吉少年が発熱して寅さん大慌て。この時、隣の部屋に泊まっていた女性・隆子(秋吉久美子)が看病を買って出る。夜中に2代目のおいちゃんが演ずる老いた医者の診察を受ける。医者はふたりを夫婦だと思い(当然のこと)、隆子をおかあさんと呼ぶ。医者から今夜が峠だといわれるほど秀吉少年は重篤な状態。看病の甲斐あって明け方には熱も下がって、ふたりは一安心。

寅さんが所帯を持ったらどんな生活を送るだろう・・・。ファンのみならず、制作スタッフもそう思っているのかもしれない。吉野の旅館での出来事でそんな思いに山田監督が応えた、僕はそう思う。マドンナが寅さんをとうさんと呼び、寅さんがマドンナにかあさんと返すなんてこの作品しかない。この作品のマドンナ、かあさんは浅丘ルリ子でも竹下景子でもだめ。やはり秋吉久美子だった。

翌日、隆子と別れてふたりは伊勢志摩に向かう。島で病後療養している母親(五月みどり)とついに再会。母親が我が子を抱きしめる。このシーンに涙、涙。柴又に帰る寅さんについて行こうとする秀吉を寅さんがやさしく諭す。このシーンも泣ける。船(船長  すま けい)で島を離れる寅さん、岸で泣き叫ぶ少年・・・。だめだ、涙が止まらない。

正月、寅さんはテキヤ仲間のポンシュウと伊勢の二見浦で啖呵バイ。寅さんは秀吉少年とおかあさんと船長、三人が楽しそう歩いて行くところを岩陰からそっと見る。そして静かに言う。「そうか、船長が秀のてておやか・・・。いいだろう。あいつだったらいいだろう」

こちらはリアルな家族、寅さんとマドンナと秀吉少年は夢か幻の家族・・・。

「寅次郎物語」はシリーズのベスト5に次ぐ作品(*1)という評価を変えなければ。


*1 寅さんシリーズ全50作で特に印象に残る5作品とそれに次ぐ5作品は次の通り。

第10作「寅次郎夢枕」    八千草薫
第28作「寅次郎紙風船」   音無美紀子
第29作「寅次郎あじさいの恋」いしだあゆみ
第32作「口笛を吹く寅次郎」 竹下景子
第45作「寅次郎の青春」   風吹ジュン
*****
第  6作「純情篇」      若尾文子
第17作「寅次郎夕焼け小焼け」太地喜和子
第27作「浪花の恋の寅次郎」 松坂慶子
第38作「知床慕情」     竹下景子
第39作「寅次郎物語」    秋吉久美子


記事にしなかったが、他にも何作か観ている。タイトルとごく簡単なメモだけ挙げておきたい。

「インセプション」SF レオナルド・デカプリオ、渡辺 謙
「タイムライン」SF 原作マイケル・クライトン
「エベレスト」実際に起きた遭難事故を基に制作された映画
「レフト・ビハインド」
「オブルビリオン」SF トム クルーズ
「オフィシャル・シークレット」
「007 ユア・アイズ・オンリー」
「007 美しき獲物たち」


 


戦争の悲劇を描く「ひまわり」

2022-04-04 | E 週末には映画を観よう


**1970年の初公開から50周年 日本で大ヒットした恋愛映画の金字塔**
今日(4日)映画を観終えて手にしたこのリーフレットは2020年のもの、と思われる。

 「週末には映画を観よう」から平日でも映画を観ることができるサンデー毎日な生活が始まった。

アイシティシネマで「ひまわり」を観た。1970年に公開されたこの映画を初めて観たのはいつどこで、だったのか覚えていない。「ひまわり」といえば遙か地平線まで広がるひまわり畑とヘンリー・マンシーニのもの悲しい旋律がまず浮かぶ。広大なひまわり畑はウクライナで撮影されたということを最近知った。青色と黄色のウクライナ国旗、青色は空で黄色は豊かに実る小麦を表現していると聞くが、黄色はひまわりという説もあるようだ。ウクライナの風景をシンプルに表現した2色の国旗。上映で得た収益の一部はウクライナの人道支援に充てられるとのことだ。

第二次大戦下、結婚間もない夫・アントニオ(マルチェロ・マストロヤンニ)はソ連戦線へ。終戦になっても戻らない夫を探すために、ジョバンナ(ソフィア・ローレン)はソ連に向かう。広大なひまわり畑、十字架で覆いつくされた丘。ようやく見つけ出した夫の居場所。彼女がそこで見たのは美しいロシア女性と結婚し、子どももいる家庭だった・・・。戦争が引き裂いた男と女の愛、戦争が狂わせた男と女の人生。

ああ、こんな悲劇が数えきれないほどウクライナで、そしてロシアでも起きている。映画のふたりとは違う、再会叶わぬ悲劇が・・・。なんということだ。


 


「49 男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇」

2022-03-13 | E 週末には映画を観よう

 寅さんシリーズでまだ観ていなかった第49作「寅次郎ハイビスカスの花  特別篇」を観た。これでシリーズ全50作品を観たことになる。 本作のマドンナは浅丘ルリ子が演じたリリー。リリーは全国各地のキャバレー回りをしている歌手。本作は第25作のリメイク版。ただし、ストーリーは全く同じ。違うのはファーストシーンとラストシーン。第25作では他の作品と同じように、冒頭旅先で寅さんが居眠りして見た夢をショートストーリーにしている。寅さんが江戸中を荒らしまわる鼠小僧寅吉を演じ、裏長屋で貧しい暮らしをしているおさく(さくら)と博吉(博)夫婦に盗んできた小判を与えるという話。特別篇では冒頭のこのショートストーリーが無くて、列車で全国を営業回りする満男が寅さんを懐かしく思い出すシーンが加えられている。第11作「寅次郎忘れな草」でふたりは出会い、第15作「寅次郎相合い傘」で再会する印象的なシーンも出てくる。

ラスト、第25作では群馬の田舎の停留所でバスを待つ寅さんの前をリリーの乗ったマイクロバスが通りがかり、リリーと一緒に草津に向かうシーンをかなり遠くからカメラが捉えて「終」。 第49作はこのシーンの後に仕事から帰ってきて、柴又の参道を帝釈天に向かって歩く満男を上空から捉えたシーンが加えられている。

「寅次郎ハイビスカスの花」は寅さんとマドンナが相思相愛で、結婚に一番近づく作品。沖縄で吐血して入院したリリーを寅さんが見舞い、退院した後ふたりはそのまま沖縄で一緒に暮らす。過去ログ  この時のリリーの告白を寅さんがまともに受けず、その後ふたりは喧嘩別れ。

しばらくして二人はとらやで再会、今度は「リリー、おれと所帯持つか」と寅さん。するとリリーが「やあねえ、寅さん変な冗談言ってぇ、みんな真に受けるわよ」と片付けてしまう。

寅さんは永遠の旅人なんだな・・・。


 


「27 男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎」再び

2022-03-05 | E 週末には映画を観よう

 寅さんシリーズ第27作「男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎」。この作品は既に観ている(過去ログ)。今日(5日)改めて観て、主人公は寅さんではなく、ふみ(松坂慶子)さんだと思った。そう、これはひとりの若い女性の・・・、生き様、そう、生き様を描いた作品だ。

瀬戸内海のとある小島、祖母の弔いに帰ってきていたふみさんは、墓地にお参りに来て、そこで寅さんと出会う。わずかの間一緒に過ごしただけなのに船で島を離れる寅さんをふみさんは手にしていた日傘を振りながらずっと見送っている。お互い惹かれるものがあったのだろう。

ふみさんは大阪で芸者をしている。ある日、石切神社の縁日で寅さんと偶然再会する。ふたりは一緒にお宮詣りをするなど、楽しく過ごす。ふみさんが絵馬に書いた願い事によって、生き別れの弟がいることを寅さんが知ることとなり、その日のうちに連れ立って弟に会いに行く。しかし弟は一月前に亡くなっていた・・・。哀しみにくれるふみさん。

その日のお座敷、ふみさんは体調不良を理由に途中で帰ってしまう。夜遅くふみさんは酔って寅さんの宿を訪ねる。優しい寅さんに縋りたかったのだろう。
「うち泣きたい」
「えっ」
「寅さん泣いてもええ?」
「寅さん、うち眠い、今夜ここに泊めてぇ」

だが、寅さんは同衾を避けるため、階下の宿主の部屋へ。翌朝早く、置手紙をして宿を後にするふみさん。寂しそう・・・。

*****

柴又まで来たふみさん、寅さんに結婚報告。対馬から大坂に出てきて板前の修業をしていた男に見初められ、一緒に対馬に帰ってすし屋を開くことになったと。後日対馬までやってきた寅さんと再会したふみさん。寅さんを見つめる目に涙。

♪ 教えて欲しいの 涙のわけを

 (中略)

  今でもあなたを 愛しているのに

 (「夕月」黛ジュン 作詞 なかにし 礼)





「6 男はつらいよ 純情篇」再び

2022-02-27 | E 週末には映画を観よう

 寅さんシリーズ全50作で特に印象に残る5作品に次ぐ作品とマドンナは次の通り。

第  6作 純情篇 若尾文子
第17作 寅次郎夕焼け小焼け 太地喜和子
第27作 浪花の恋の寅次郎 松坂慶子
第38作 知床慕情 竹下景子
第39作 寅次郎物語 秋吉久美子

第6作「純情篇」を観た。この作品のあらすじは省略する(過去ログ)。

長崎港。五島行きの船が出てしまって、寅さん思案橋ブルース、もとい思案。寅さん、赤ちゃんを背負った若い女性に声をかける。なんだか薄幸そうな雰囲気のこの女性、宮本信子が演じる絹代。この映画の公開が1971年1月、となると製作されたのは前年で、この時1945年生まれの宮本は25歳。絹代は遊び人の夫に愛想をつかして故郷・五島に帰るところだった。宿代が足りないことを寅さんに告げて、お金を少し貸して欲しいという。寅さん「来な」と一言。寅さんは幼い子どもを連れた絹代と鄙びた旅館に同宿する。

寅さんが隣の部屋で寝ようとした時、絹代は服を脱ごうとしている。
「泊めてくれて、何もお礼できんし・・・」

この時、寅さんは
「あんた、そんな気持ちで、このオレに金を・・・、そうだったのかい」

この後、寅さんは絹代を優しく諭す。その長台詞は省略するが、この時の寅さんの心根に涙した。今こうして書いていても涙が・・・。

この後、絹代は実家で父親(森繫久彌)と再会する。父娘の情にふれた寅さん、故郷が恋しくなって、柴又へ。帰ってみるととらやの2階には夫と別居中の夕子(若尾文子)が下宿していて、寅さんお決まりの一目惚れ。

その後の流れは省略。

とらやに迎えに来た夫と夕子は帰っていき、寅さん失恋。

ラスト、旅に出る寅さんと柴又駅のホームで小さいころの思い出話をするさくら。ふたりの会話を聞いていてまた涙。ますます涙もろくなった。

電車に乗り込んだ寅さんの首にさくらは自分がしていたマフラーをかける。
「あのね、お兄ちゃん。つらい事があったら、いつでも帰っておいでね」
「そのことだけどよ、そんな考えだから、オレは一人前に・・・」
「故郷ってやつはよ・・・」
「うん」
「故郷ってやつはよ・・・」
電車のドアが閉まる
「なに?」

電車が走り出す。

この後、寅さんがなんて言ったのか分からない。続く台詞は観る者に委ねられている。

遠ざかっていく電車をじっと見送るさくら。実にいい場面だ。

正月のとらやに絹代が夫と子どもと一緒に来ている。この時寅さんは旅の空。絹代が五島の父親に電話する。近況を聞きながら泣く父親。その様子を見てまたしても涙、涙。

寅さん映画、いいなぁ、好きだなぁ。


 


寅さんシリーズ 印象に残る場面

2022-02-13 | E 週末には映画を観よう

 男はつらいよシリーズ全50作品(第49作と第50作をカウントしないで48作品とする見解もある)を第49作(第25作「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花」のリマスター版)を除き、全て観た。寅さんの片想いパターンの作品の方が多く、その逆、マドンナが寅さんに恋愛感情を抱くという作品は少ない。印象に残るのは全て後者のパターンで次の5作品だが、これらを2回観終えた。

第10作「寅次郎夢枕」八千草薫
第28作「寅次郎紙風船」音無美紀子
第29作「寅次郎あじさいの恋」いしだあゆみ
第32作「口笛を吹く寅次郎」竹下景子
第45作「寅次郎の青春」風吹ジュン

5作品の印象的な場面を以下に記す。

第10作:寅さんが千代(八千草薫)さんと亀戸天神でデートする場面、第28作:光枝(音無美紀子)さんが柴又駅前で寅さんに亡くなった夫との約束の真意を確認する場面、第29作:かがり(いしだあゆみ)さんの色香(丹後の実家に帰ってしまったかがりさんを訪ねた寅さん。最終の船便が出てしまって泊めてもらうことに。居間でふたりだけで飲む場面と離れの2階の寅さんが寝ている部屋にかがりさんが入ってくる場面)、それから鎌倉デートでかがりさんが、旅先の寅さんとは違う・・・、という次の場面。

「今日の寅さん、なんか違う人みたいやから」
「私が会いたいなあ、と思ってた寅さんはもっと優しくて、楽しくて、風に吹かれるたんぽぽの種にたいに、自由で気ままで・・・、せやけどあれは旅先の寅さんやったんやね」
「今は家にいるんやもんね、あんな優しい人たちに大事にされて」

第32作:朋子(竹下景子)さんが柴又駅のホームで寅さんの気持ちを確認して悲しそうな表情をする場面、第45作:蝶子(風吹ジュン)さんが寅さんと浜で歌う場面。

これらの中から、敢えてひとつを挙げるとすれば・・・、柴又駅のホームでと朋子さんが見せた悲しく、寂しそうな表情。ふたりは以下のような会話をする。その時、雰囲気を察したさくらはその場から少し離れている。さくらはいつも場の空気というか雰囲気を読み取り、その状況に相応しい振舞いをする。すばらしい女性だと思う。

この作品の後、竹下景子は第38作、第41作でもマドンナを演じている。これは彼女の演技を山田監督が高く評価した結果だと、私は思っている。第38作、41作で彼女はそれぞれ違う役を演じている。

「ごめんなさい」と朋子さんが切り出す。
「え、何?何が・・・?」
「いつかの晩のお風呂場のこと」
「え、何だっけな」ここでも寅さんはとぼける。
「あ~、あのことか」
「あの三日ほど前の晩に父が突然お前今度結婚するんやったらどげな人がいいかって訊いたの」
「それでね・・・、それで、私・・・」
「寅ちゃんみたいな人がいいって言っちゃたんでしょ」
朋子さん頷く。
「和尚さん笑ったろ。おれだって笑っちゃうよ。ハハハ なあ、さくら」
「ね、寅さん。私、あの晩父ちゃんの言うたことが寅さんの負担になって、それでいなくなってしまったんじゃないか思うて、そのことをお詫びしに来たの」
「おれがそんなこと本気にするわけねーじゃねーか」

落胆した朋子さんは
「そう・・・。じゃ、私の錯覚・・・」と悲しそうな表情に。
「安心したか」という寅さんのことばに朋子さんは目を潤ませ、首を横に振る。
「お兄ちゃん東京駅まで送ってあげたら」とさくら。
「もういいの、私はこれで。さくらさんありがとうございました」


 


「10 男はつらいよ 寅次郎夢枕」再び

2022-01-30 | E 週末には映画を観よう

 寅さんシリーズで、いいなと思った4作品をまた観ている。既に第28作「寅次郎紙風船」(マドンナ音無美紀子)と第32作「口笛を吹く寅次郎」(マドンナ竹下景子)は観終えた。今日(30日)の午後、第10作「寅次郎夢枕」(マドンナ八千草薫)を観た。

本作には寅さんが亀戸天神でマドンナ・お千代(八千草薫)さんにプロポーズ。お千代さんOKというびっくり場面が!? 「観て止めて書く」を繰り返してその場面の台詞をメモした。ちゃんと聞き取れないところは違っているかもしれないが、次の通り。
「寅ちゃん・・・」
「なんだい」
「用があるって、なんのこと? 歌ばっかり歌ってないで話してよ」
「ちょっと言いにくいんだよなぁ、これがなぁ」
「でも、ご飯食べて、お茶飲んで、もうかれこれ4時間も経ってるのよ」
「そんなに経っちゃった? じゃ、めんどくさいから今日は打ち切りにして帰るか?」
「そんな・・・、せっかくお店を休みにして出てきたのよ」
「そうか。なんて言ったらいいもんかなぁ」

「大方察しはついてるだろ。千代ぼうは感がいいから、えぇ?」
「それは・・・、まあ、なんとなく」
「それだよ、それでいいんだよ。なんだよ、4時間かかってくたびれちゃった。まあ、千代ぼうもさ、いつまでもひとりで居られるわけじゃないんだし。あんまりぱっとした相手じゃねぇけどさ、このあたりで手打った方がいいんじゃねぇかな。どうかね」
「うん」
「いやだったら、いやでいいんだよ、こういうことは」
「いやかい?」
「ううん いやじゃないわ」
「じゃ、いいのかい」

「ずいぶん乱暴なプロポーズね、寅ちゃん」
「しかたねぇや、おれこういうこと苦手だしさ。じゃ、いいんだな」
「決まったようなもんだ。よし、そうとなりゃ、あいつに電話で知らせてやるか。(略)赤電話どこかな」
「ちょっと、寅ちゃん」
「なんだい」
「あいつって誰のこと?」
「決まってるじゃねぇか、うちの2階のインテリだよ」
「岡倉先生?」
「そうだよ」

「私、勘違いしてた」
「勘違いって誰と?」
「寅ちゃん」
「私ね、寅ちゃんと一緒にいると何だか気持ちがほっとするの。寅ちゃんと話していると、あぁ、私は生きているなぁって、そんな楽しい気持ちになるの」
「寅ちゃんとなら一緒に暮らしてもいいって、今、ふっとそう思ったんだけど・・・」
「冗談じゃないよぉ、そんなこと言われたらびっくりしちゃうよ。ハハハ」
「冗談じゃないわ」
・・・・・
「うそよ。やっぱり冗談よ」
「そうだろ、冗談に決まってるよ」
「じゃあそろそろ帰りましょうか」
「そうねぇ 帰ろうか」

これ程はっきり寅さんに結婚の意志を示したマドンナは他にはいない。一方的に寅さんが失恋するパターンとは逆で、これはマドンナが失恋するパターン。お千代さんはそれ程がっかりした様子ではなかったが、内心はどうだったんだろう・・・。第32作の朋子(竹下景子)さんの場合は観ていて切なくて涙が出た。

本作のデートの場面はいいなぁ、好きだなぁ。