透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「32 男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎」再び

2022-01-23 | E 週末には映画を観よう

 寅さんシリーズ第32作「口笛を吹く寅次郎」を観た。この作品でもマドンナが寅さんの気持ちを確認する場面が印象に残る。

備中高梁、博の実家の菩提寺・蓮台寺の娘さん(朋子 竹下景子)がマドンナ。

高梁に来ていた寅さんは蓮台寺で博の父親のお墓参りをする。そこで朋子さんに会って、寅さん一目惚れ。お茶でも一杯と誘われた寅さん、いつの間にか和尚さん(2代目のおいちゃんを演じた松村さん)と居間で飲んでいる。で、寅さんそのまま寺に泊まることに。翌日、二日酔いの和尚に代わり寅さんが檀家の法事をする。「南無大師遍照金剛」法話もこなして無事法事を務めた寅さん。その後はすっかり寺の人に。

さて、途中省略で、ラスト。とらやを訪ねてきた朋子さんを見送って寅さんはさくらと柴又駅へ。ホームでの寅さんと朋子さんの会話。

「ごめんなさい」と朋子さんが切り出す。
「え、何?何が・・・?」
「いつかの晩のお風呂場のこと」
「え、何だっけな」ここでも寅さんはとぼける。
「あ~、あのことか」
「あの三日ほど前の晩に父が突然お前今度結婚するんやったらどげな人がいいかって訊いたの」
「それでね・・・、それで、私・・・」
「寅ちゃんみたいな人がいいって言っちゃたんでしょ」
朋子さん頷く。
「和尚さん笑ったろ。おれだって笑っちゃうよ。ハハハ なあ、さくら」
「ね、寅さん。私、あの晩父ちゃんの言うたことが寅さんの負担になって、それでいなくなってしまったんじゃないか思うて、そのことをお詫びしに来たの」
「おれがそんなこと本気にするわけねーじゃねーか」

落胆した朋子さんは
「そう」
「じゃ、私の錯覚・・・」と悲しそうな表情に。
「安心したか」という寅さんのことばに朋子さんは目を潤ませ、首を横に振る。
「お兄ちゃん東京駅まで送ってあげたら」とさくら。
「もういいの、私はこれで。さくらさんありがとうございました」

シリーズ中、最も印象的な場面と言っていいだろう。

光枝さんは寅さんの優しさに惹かれ、朋子さんは寅さんの明るさ、楽しさに惹かれたんだろうな。


 


「28 男はつらいよ 寅次郎紙風船」再び

2022-01-23 | E 週末には映画を観よう

 男はつらいよシリーズ全50作品(第49作と第50作をカウントしないで48作品とする見解もある)を第49作(第25作「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花」のリマスター版)を除き、全て観た。印象に残っているのはマドンナが寅さんに好意を抱いた次の5作品。

第10作「寅次郎夢枕」八千草薫
第28作「寅次郎紙風船」音無美紀子
第29作「寅次郎あじさいの恋」いしだあゆみ
第32作「口笛を吹く寅次郎」竹下景子
第45作「寅次郎の青春」風吹ジュン

第28作と第32作、この2作には、マドンナが寅さんに自分のことが好きかどうか間接的にではあるが確認する場面がある。寅さんの返事を聞いたマドンナ、光枝(音無美紀子)さんと朋子(竹下景子)さんの表情も似ている。その場面をもう一度観たくてDVDを借りた。昨日(22日)第28作を観た。


第28作「寅次郎紙風船」

九州は久留米水天宮の縁日でバイをしていた寅さんは、テキヤ仲間の常三郎の奥さん、光枝(音無美紀子)さんに声をかけられる。聞けば常三郎は病床の身。見舞いに行くと、常三郎は寅さんに自分の死後、光枝を女房にして欲しいと頼む。このことが印象的なラストシーンにつながる。

常三郎が亡くなり、光枝さんは東京に出てきて、本郷の旅館で働きだす。このことを光枝さんのはがきで知った寅さんは早速光枝に会いに行く。そこで休みの日に柴又に遊びに来るように伝える。休日をとらやで過ごした光枝さんを寅さんが柴又駅まで送っていく。そこで交わされたふたりのやりとりについてふたつの異なる解釈があるという。

DVDを少しだけ観て台詞をメモ、これを数回繰り返した。まだ表現の細部が違っているかもしれないが以下に載せる。

「まあ、元気出してやれや。おれは当分ここで暮らしてあんたのこと気にしてるからよ」
「どうもありがとう」
「ねえ」
「なんだい」
「寅さんがお見舞いに来てくれた時、うちの亭主変なこと言わなかった?」
光枝さんは寅さんの本意を確かめたくて訊く。

「え・・・? なんだっけ」
寅さんはとぼけるが、常三郎との約束のことは当然よく覚えている。
「息を引き取る三日か四日前なんだけどね、私にこんなこと言ったんだよ。もしおれが死んだら寅の女房になれって。寅さんにもそう話してあるからって」
「あぁ、あのことか」
「寅さん 約束したの? 本気で」 
この時の光枝の表情からは寅さんの「あぁ、本気だよ」という答えを待つ気持ちが窺える。

「ほら、病人の言うことだからよ まあ、適当に相づち打ったのよ」
「本当?」
「あぁ、本当だよ」
寅さんのことばを聞いた光枝さんが安堵したのか、落胆したのか・・・、この時の光枝さんの寂し気な表情・・・、まちがいなく落胆の表情だ。光枝は寅さんの優しさに惹かれている。

「じゃ よかった。寅さんが本気でそんな約束するはずがないわね」 
「ごめんね、失礼なこと言っちゃって。私も腹が立ったけどね、まるで犬か猫でも人にくれたような口きいちゃってさ」
「そりゃそうだよな」と寅さん。
光枝の台詞を真に受けて安堵したと解釈する人がいるのだろう。

「最後までバカだったね、あの男」
「まったくバカだよな」
「安心した、寅さんの気持ち聞いて」
「おら、別にそんなこと気にしちゃいねぇから」

寅さんシリーズ屈指の名場面だ。

この作品で寅さんは所帯を持つかもしれないと身内に告白する。もし寅さんが所帯を持つなら、光枝さんがもっとも相応しい、と思う。リリーは結婚して上手くいくようなタイプではないだろう、しばらく非日常的な日々を過ごすのであればよいかもしれないが。


 


「24 男はつらいよ 寅次郎春の夢」

2021-12-22 | E 週末には映画を観よう

 寅さんシリーズ第24作「寅次郎春の夢」を観た。これで第49作「寅次郎ハイビスカスの花特別篇」を除く全ての作品を観たことになる。寅さんを演じていた渥美清さん亡き後制作された第49作、第50作をシリーズに含めないで全48作品とするなら、全作品を観たことになる。

「寅次郎春の夢」のマドンナは満男君が通う英語教室の先生・めぐみ(林寛子)さんの母・圭子(香川京子)さん。圭子さんが夫と死別していることを知り、張り切り出す寅さん。圭子さんの家に押しかけて(マドンナと知り合うと寅さんはいつも積極的に行動する)、昔からの知り合いの棟梁に遅れている英語教室の増築工事の完成を急がせたりする。

ある日圭子さんのところにタンカーの船長だという二枚目が訪ねてくる(あれ? 見たことがある俳優だなと思って調べると、梅野泰靖さんで博の長兄を演じていた。博の葬儀で会っている、って本作とは関係ないが)。その日寅さんも圭子さんを訪ねていて、ふたりは顔を合わせる。

「港からまっすぐここに?」と圭子さん。「そうですよ」「だったら、お茶の前にシャワーでも浴びたら?」という会話を聞けばふたりの関係は察しがつく。めぐみさんから、「お父さんになるのかな」と聞いた寅さん。先日観た第9作「柴又慕情」でも吉永小百合が演じたマドンナに恋人がいることが分かって、寅さんガックリだったけれど、これはシリーズでお馴染みのパターン。

この作品ではもう一つの恋物語が描かれている。帝釈天で安宿を探していて、とらやに連泊することになったアメリカ人・マイケルさんがさくらに恋をして、大胆にも告白・・・。

アメリカ嫌いを公言する寅さんとマイケルはうまくいくはずもなく、とらやで大喧嘩になりそうになり、居合わせためぐみさんの通訳で事なきを得たということも。

寅さんが失恋して、マイケルの恋ももちろん「impossible」。失恋してマイケルは帰国、寅さんはいつものように旅に出る。連れ立って上野へ向かうふたり。上野で飲み明かし、別れ際に寅さんはお守りをマイケルの首のかけてやる。「おまえにこれやるよ。お守りだ。な。これ持ってるとな、そのうちきっといい嫁さんが来るから、きっといい嫁さん」 お互いがっちり握手。寅さんは女性にも優しいけれど、男性にも優しい。

江戸川の土手に座り、空を見上げるさくら。飛行機が去っていく。機内から江戸川を見るマイケル・・・。マイケルの恋の方がウェイトが大きい作品だった。


既に書いたこのシリーズの総括的な記事を以下に再掲する。

山田洋次監督は寅さんシリーズを通じて家族愛、家族の絆の尊さを観る者に伝えたかったのだろう。このことで印象的なのは第11作「寅次郎忘れな草」、リリーが夜遅くに酔っぱらってとらやに寅さんを訪ねてきて一緒に旅に出ようと誘うと、寅さんがやんわり断る。すると、リリーが「そうか・・・、寅さんにはこんないいうちがあるんだもんね。あたしとちがうもんね、幸せでしょ」という場面。リリーは根無し草の寂しさに泣く。

この作品で寅さんはリリーと出会うが、「兄さん、何て名前?」と問われて「おれは葛飾柴又の車寅次郎って言うんだよ」と名前だけでなく、居所まで答えているのに対し、リリーは「故郷(くに)はどこなんだい?」と問われて、「故郷(くに)? そうねえ、ないね、あたし」と答える。このようにふたりが対比的に描かれていることも、家族の絆というテーマにおいて見逃せない。

また、満男君が寅さんを「伯父さんは他人の悲しみや寂しさが理解できる人間なんだ」と言うが、確かに寅さんは旅先で知り合う人に優しい。第15作「寅次郎相合い傘」では家出した中年サラリーマン(船越英二)と一緒に旅をするし(この作品で寅さんはリリーと再会する)、第41作「寅次郎心の旅路」では自殺未遂したサラリーマン(柄本 明)に優しく接し、その後一緒にウイーンまで行くことになる。マドンナは観光ガイドをしている久美子(竹下景子)。

他人の悲しみや寂しさを理解して優しく接すること、これも監督が観る者に訴えたいことだろう。

寅さんが全国を旅するのは山田監督の故郷さがしの旅でもある。このことはだいぶ前にラジオで聞いた(過去ログ)。


寅さんシリーズに何回もちょい役で出演していた谷よしのさん。調べると36作品に出演している(内、28作品はクレジットされている)。寅さんシリーズには欠かせない女優だったと思う。


印象に残るマドンナ 4人とも寅さんの優しさに惹かれて好意を抱く
第10作「寅次郎夢枕」千代(八千草薫)幼なじみ 柴又で美容院経営 二年前に離婚
第28作「寅次郎紙風船」光枝(音無美紀子)テキヤ仲間の常三郎の妻 常三郎亡き後上京、本郷の旅館で働く
第29作「寅次郎あじさいの恋」かがり(いしだあゆみ)夫とは死別 京都に出て陶芸家の許で働く 失恋後丹後に戻り娘と暮らす
第32作「口笛を吹く寅次郎」朋子(竹下景子)岡山県高梁にある諏訪家の菩提寺・蓮台寺住職の娘 離婚後寺に戻り父親と暮らす


 


「9 男はつらいよ 柴又慕情」

2021-12-19 | E 週末には映画を観よう

 寅さんシリーズ第9作「男はつらいよ 柴又慕情」

「寅さん」ってどんな映画なのか紹介するとき、ストーリーの展開についてはこの作品を取り上げるのが好い。

①旅から柴又に帰ってきた寅さんがとらやで大喧嘩してまた旅に出ていく。
②旅先でマドンナと出会い、楽しいひと時を過ごす。
③旅先で別れて、その後寅さんは再び柴又に帰ってくる。
④しばらく経って、マドンナがとらやに寅さんを訪ねてくる。
⑤マドンナの好意的な振舞いに寅さん勘違い、でウキウキ。
⑥実はマドンナには好きな人がいることが分かる。
⑦寅さん、失意の旅に出る。
⑧旅先で寅さん元気を取り戻している。

とまあ、こんなプロットになる。

①旅から帰って来た寅さんがとらやの店先に吊り下げてある「貸間有り」の札を見て「もうお前の住むところはないよ」って読めたな、と腹を立てる。これが発端となりすったもんだの大騒ぎ。で、怒ったおいちゃん「おまえが帰ってくるのは迷惑だよ!」。

②金沢。マドンナの歌子ちゃん(吉永小百合)が友だちふたり(マリ、みどり)と観光地を歩いている。兼六園の近くで啖呵売する寅さんを見かける。その夜、偶然3人と同じ旅館に泊まった寅さん。
福井。永平寺。みそ田楽の店で寅さんと歌子さん、ついにごたいめ~ん。
店の前で記念写真を撮ることに。で、寅さん「バター」。この一言で一気に打ち解けて一緒に楽しく観光。別れる時「寅さん、どうもありがとう。本当に楽しかったわ。(中略)会えてよかった」と歌子さん。

③柴又に帰って来た寅さん、マリとみどりに偶然再会。寅さんシリーズには偶然の再会が欠かせない。「歌子さんたら、あれから寅さんのことばっかり話してるのよ」とみどりから聞いて寅さんご機嫌。

④それから何日か経ち、「寅さん わたしよ、歌子です」とマドンナ再登場。 
「マリちゃんやみどりさんから寅さんに会った話聞いてね、もう矢も楯もたまらず来てしまったの。会いたかったわ~」
茶の間で歓談。やはりマドンナはとらやの茶の間で寅さんはじめおいちゃんやおばちゃん、さくら、博たちとお茶したり、食事をしないと。そういう団欒の設定がないとダメ。

⑤柴又駅のホームで「またおいでよ」と寅さん、歌子さんがうれしそうに「うん」。寅さんルンルン。その後のことは省略。寅さんが怒ってまたとらやを出て行こうとする、まさにその時に歌子さんがやって来る。で寅さん何事もなかったかのように振る舞い、茶の間でまた団欒。

⑥歌子さんの少し寂し気な表情をさくらは見逃さない。さくらはいつもマドンナの心模様を察する。とらやに泊まることになった歌子さんがさくらに父親ともめていることを話す。「なにか、あったの?」と問うさくらに「父と、ちょっとね」と泣きそうになりながら。さくらのアパートで歌子さんはさくらと博に「結婚相談」をする。

アパートに歌子さんを迎えに行った寅さん、帰り道で結婚相談をしていたことを歌子さんから明かされる。「(前略)私決心がついたの。彼と結婚することを」自分のことかと思っていた寅さんのおめでたいこと。

⑦江戸川の土手。旅立つ寅さんのかばんには旅先の福井で歌子さんからもらった鈴が付いている。
「幸せになれそうでよかったね、歌子さん」
「うん」
「やっぱり寂しいの?」
「なんで?どうしておれが寂しいのよ」
「じゃあ、どうして旅に出てっちゃうの?」
ほら、見な。あんな雲になりてえんだよ」こんなセリフ、言ってみたいなぁ。

⑧再び旅に出た寅さん。舎弟の登と再会、これもすごい偶然。川で手を洗っている登に向かって「おい、兄さんケツちゃんと拭いたか?」。

これで第24作「寅次郎春の夢」1作品のみ。


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「4 新・男はつらいよ」

2021-12-16 | E 週末には映画を観よう

 寅さんシリーズ全50作(*1)のうち、第4作、第9作、第24作、第49作をまだ観ていなかった。先日(14日)第4作の「新・男はつらいよ」を観た。第49作は第25作「寅次郎ハイビスカスの花」の特別篇で、両作品に大きな違いがあるわけではないだろうから、観なくてもよい。で、残りは第9作と第24作のみになった。

さて、「新・男はつらいよ」。

競馬で大穴を当てて名古屋からタクシーで柴又に帰ってきた寅さんが、おいちゃんとおばちゃん孝行を考えてハワイ旅行を計画する。納めた旅行代を旅行会社の社長に持ち逃げされてしまうが、近所の手前、羽田まで行き、深夜にとらやに帰る。ひっそり隠れていると、泥棒(財津一郎)が・・・。その騒動でハワイには行かなかったことが近所にバレてしまう。

おいちゃんたちともめて、寅さんはとらやを飛びだしていく。ひと月後、とらやに帰ってくると、幼稚園の先生・春子(栗原小巻)が2階に下宿していて、寅さん一目惚れ。だが、マドンナには恋人がいて・・・。

マドンナは前半の騒動に全く関わっていないし、後半で寅さんともそれ程関わっていない。寅さんの旅先の様子も描かれていない。残念ながら印象に残るような作品ではなかった。

第1作「男はつらいよ」のマドンナは御前様の娘・冬子だったが、冬子には婚約者がいて、寅さんあえなく失恋。第2作「続・男はつらいよ」では恩師の娘・夏子に惚れるものの、夏子は寅さんが入院した病院の医師と恋仲になっていて・・・。どうも初期の作品はこんな設定で、寅さんがかわいそう。寅さんがその気になれば実る可能性のある恋でないと面白くない。第10作「寅次郎夢枕」では、幼なじみの千代(八千草薫)が寅さんに恋するという設定だった。第28作「寅次郎紙風船」のテキヤ仲間の女房(音無美紀子)、第29作「寅次郎あじさいの恋」のかがり(いしだあゆみ)、第32作「口笛を吹く寅次郎」の朋子(竹下景子)も同様で寅さんがその気になれば恋は実った。だが、寅さんはいつも逃げてしまう・・・。このパターンが好きだなぁ。

*1 第49作、第50作をカウントしないで全48作とする寅さんファンも少なくないようだ。


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「45 男はつらいよ 寅次郎の青春」

2021-11-08 | E 週末には映画を観よう

 久しぶりにTSUTAYA北松本店のDVDコーナーを覗いた。まだ観ていなかった寅さんシリーズの第45作「寅次郎の青春」があったので借りて昨日(7日)観た。

第42作「ぼくの伯父さん」以降の作品の主役は寅さんの甥・満男君で、高校の後輩の泉ちゃんとの恋物語の感があるが、「寅次郎の青春」は寅さんとマドンナの恋、それもマドンナが寅さんを好きになるという恋の行方も気になる展開だった。

寅さんは宮崎の港町・油津の食堂で本作のマドンナ・蝶子さん(風吹ジュン)と出会う。蝶子さんは食堂の近くで理髪店を営んでいる。蝶子さんに勧められて理髪してもらい、店を出ようとするも俄かに降りだした雨で足止め。本降りになり、寅さんは蝶子さんの家にそのまま泊めてもらうことになる。理髪代を払って寅さんの財布が空っぽになったことを蝶子さんは知っていたのだ。この日、貨物線の船乗りの弟・竜介が帰ってきていて、寅さんは竜介と一緒に寝ることに。

泉ちゃんも親友の結婚式に出席するために宮崎へ。寅さん映画によくある偶然、日南の飫肥(おび)城址で寅さんと泉ちゃんが再会する。泉ちゃんが石段を駆けあがって寅さんに抱きつく、とそこへ蝶子さんが通りがかり・・・。ちょっと怒った蝶子さん「寅さん どうぞそのお嬢さんと 私は家に帰っているから」。ふたりのマドンナの鉢合せに焦った寅さん、石段でこけて、足の骨が折れたかもと大袈裟に振る舞う。で、入院。

泉ちゃんから寅さんがけがをして入院したという連絡を受けた満男君も空路宮崎へ。目的は伯父さんの見舞いではなく、泉ちゃんに会うため。

その後の展開は省略して、印象に残るシーンを挙げたい。

寅さんと蝶子さん。ふたりが浜辺に座り、「港が見える丘」をデュエットするシーン。寅さんがマドンナとデュエットするなんて、他の作品にあったかな。リリーとしたのかもしれないが覚えていない。蝶子さんが日傘をさし、その隣で寅さんが古びた椅子に座っている。なんだか寅さん映画じゃないみたい。「寅次郎の青春」というサブタイトルに納得。蝶子さんの爽やかな笑顔がとても魅力的だった。

満男君と泉ちゃん。原宿のレコード店で働いていた泉ちゃんが仕事を辞めて名古屋に帰ることに。心臓を患って入院したお母さんを看護をするためだった。さくらは大学に電話して満男君にこのことを知らせる。満男君は授業をすっぽかしてバスと電車を乗り継いで東京駅へ。ホームでの悲しい別れ。満男君を見つめる泉ちゃんの悲しく寂しそうな表情・・・。そっと満男君にキスして、「さよなら」。新幹線のドアが閉まって、泉ちゃんが何か言うが聞こえない。想像するしかない。ふたりの恋が終わりではない、ということが分かる言葉であって欲しい。新幹線がホームを離れていく。見送る満男君の背中。切ないシーンに涙が出た。

他に、この作品では印象的なロングショットがあった。飫肥城址の石段で寅さんがこけた時の俯瞰的なロングショット。早朝の霧、川岸で蝶子さんと弟の竜介が話をしている場面のロングショット。寅さんがその様子を開けた窓から見ている。「姉ちゃん」「なんね」「いっそ一緒になったらどうね、あの寅さんと。男は顔じゃねえっちゃかいな」

寅さんは窓をそっと閉めて、沈思。満男君たちが東京に帰り、竜介が出発したら・・・。寅さんはかがりさん(いしだあゆみ)の時も逃げちゃったもんな~。

満男君に主役を譲った後の作品の中で好きな1作。


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まだ観てない作品は第4作、9作、24作、49作。TSUTAYA北松本店で欠品なら、他の店で借りて観るかな。


007「NO TIME TO DIE」

2021-10-08 | E 週末には映画を観よう



■ 
ダニエル・クレイグがジェームズ・ボンドを演ずる最後の作品「 NO TIME TO DIE」を観た。「男はつらいよ お帰り寅さん」を昨年(2020年)の1月13日に見て以来のシネコン。

既に現役を退き、心理学者のマドレーヌ・スワン(レア・セドゥ)とイタリアで静かに暮らしていたボンドが現役復帰、細菌?兵器の拡散を目論む男との壮絶な戦いを繰り広げる・・・。ちょっと後半が冗長な印象。それにしてもラストにはびっくり、潔い幕切れといえばそれまでだけど・・・。

ボンド引退後に007が割り当てられた女性エージェントのノーミ登場、クレイグの後は女性ボンドだと聞いていたけれど、次回作からは彼女が主役を演ずるのかな。

この作品の冒頭、「カジノ・ロワイヤル」のヴェスパー・リンドの墓をボンドが訪ねるシーンがある。エヴァ・グリーンが演じたヴェスパーはボンドガールNO.1。「カジノ・ロワイヤル」(過去ログ)をまた観たくなった。






「ハンターキラー」を観た

2021-10-03 | E 週末には映画を観よう



 金曜日は無料でDVDを1枚借りることができる。寅さんシリーズが一段落したので、一昨日(1日金曜日)「ハンターキラー」を借りてきて観た。

ロシアで起きたクーデターで身柄を拘束されたロシア大統領をアメリカ海軍の原子力潜水艦・ハンターキラーと特殊部隊(ネイビーシールズ)が連携して救出、第三次世界大戦勃発を阻止するというストーリー。潜水艦映画を観るのは初めてかもしれない。海の中より宇宙が舞台の映画の方が好き。SF映画を探そう。


 


「13 男はつらいよ 寅次郎恋やつれ」

2021-09-26 | E 週末には映画を観よう

 スタバで朝カフェ読書。雨の朝には読書が相応しい。漱石の『門』(新潮文庫1948年発行、1994年100刷)を読み終えた。スタバを出て隣接するTSUTAYAへ。DVDの寅さんコーナーに今までなかった第13作「寅次郎恋やつれ」があった。この作品は第9作「柴又慕情」の続篇だから、第9作を先に観る方が好いのだろうけれど、第9作が棚にないから、やむなく第13作を借りてきて観た。

寅さんシリーズは家族愛、家族の絆がテーマだと書いた。本作はこのテーマがきっちり描かれた作品。

旅から柴又に帰ってきた寅さん、「重大発表」があるなどと言うものだから、とらやでは寅さんの結婚相手が決まったのかと大騒ぎ、大喜び、前祝。さくらとタコ社長が寅さんと一緒に相手の女性に会いに行くことに。女性は島根県の温泉津(ゆのつ)の窯場で働く絹代(高田敏江)さん。ところが寅さんたちが絹代さんに会うなり蒸発していた亭主が戻ってきたことを聞かされて・・・、寅さん早くも失恋。3人で泊まった宿から寅さんはひとりで翌朝早く旅に出る。

津和野の食堂で寅さんは2年前に別れた歌子(吉永小百合)さんと超偶然な再会。歌子さんは夫と死別してからも夫の実家で姑と義姉と暮らしている。その後、歌子さんは東京で職を得て暮らしたいととらやを訪ねてくる。

ここからは娘と父親との和解の物語。ふたりの間を取り持ったのはもちろん寅さん。ある日、歌子さんの父親がとらやを訪ねてきて娘と再会、そしてお互いに謝罪。この場面では涙もろいおばちゃんはもちろん、おいちゃん(松村達雄)もさくらも涙、寅さんも。生みの母親の愛情を知らず父親とも不仲で家を出た寅さんが深い絆で結ばれている父親と娘を見て流した涙、それはもちろんうれし涙、それと自分の不幸な生い立ちを想っての涙でもあるだろう。寅さんが店先で戸に寄りかかりうつむいて泣く姿に僕も泣いた。今こうして書いていても涙が出る。

寅さんは父親と暮らすようになった歌子さんを訪ねる。縁側で遠くの花火を見るふたり。

場所が変わってとらや。みんなが裏庭で花火をしている。寅さんが2階からカバンを持って降りてくる。ひとり静かに旅に出て行こうとする寅さんに電話に出ていたさくらが気がついて言う。「お兄ちゃんどうしているかな~って、いつだってみんなそう思っているのよ」お兄ちゃんを見送るさくら・・・。さくらのこのことばは寅さんがとらやの家族と強い絆で結ばれていりことを示している。寅さんは決して根無し草ではない。

寅さんが会いに行ったのは伊豆大島の福祉施設で働く歌子さんではなく、温泉津の絹代さんだった。寅さんは絹代さん一家が海水浴場で楽しそうに遊んでいることに気がつくのだった・・・。そう、ラストは家族愛のシーン。


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第4作  「新・男はつらいよ」栗原小巻 
第9作  「柴又慕情」吉永小百合
第24作「寅次郎春の夢」香川京子
第45作「寅次郎の青春」風吹ジュン
第49作「寅次郎ハイビスカスの花 特別篇」浅丘ルリ子


「48 男はつらいよ 寅次郎紅の花」寅さんシリーズを総括する

2021-09-25 | E 週末には映画を観よう

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寅さんシリーズ全50作品のうち、下記の作品はまだ観ていない(2021.09.24)。
第4作  「新・男はつらいよ」栗原小巻 
第9作  「柴又慕情」吉永小百合
第13作「恋やつれ」吉永小百合
第24作「寅次郎春の夢」香川京子
第45作「寅次郎の青春」風吹ジュン
第49作「寅次郎ハイビスカスの花 特別篇」*1


 寅さんシリーズ全50作品(寅さんを演じていた渥美清さん亡き後制作された49、50の2作品をカウントしないで全48作としている寅さんファンも少なくないようだ)を今年の5月からDVDで観始め(過去ログ)、これまでに44作品観た(第50作「お帰り寅さん」は2020年1月13日にシネコンで観た)。

今日(24日)第48作「寅次郎 紅の花」を観た。

寅さんとマドンナのリリー(浅丘ルリ子)、満男とマドンナの泉(後藤久美子)、二つの恋物語の行方は・・・。

寅さんとリリー。ふたりは奄美大島で一緒に暮らしている。一緒に柴又に帰ってきて、また二人で奄美大島に帰る。ある夜リリーと喧嘩した寅さんは置手紙を残して翌朝島を離れる。その後ふたりがどうなるのか、分からない。さくらに宛てた手紙でリリーは寅さんとの再会を暗示と言うか予想しているが。

満男と泉。満男は泉との結婚を決める2回の決定機を逃す。だが、その後もふたりの恋は続く。しかし、ふたりは結婚しなかったことが第50作「お帰り寅さん」で明らかになる。


以下、8月22日の記事を再掲する。

□ 第10作「寅次郎夢枕」。この作品のマドンナは幼なじみの千代(八千草薫)。 ふたりが亀戸天神でデートする場面は印象的。お千代さんが寅さんにもう4時間も経っているけれど、話しがあるのなら話して欲しいという場面。その後、寅さんに結婚を申し込まれたと勘違いしたお千代さんはいいわよと答える。過去ログ

□ 第11作「寅次郎忘れな草」。マドンナはリリー(浅丘ルリ子)。リリーが夜遅くに酔っぱらってとらやを訪ねてきて、寅さんと飲みながら今から旅に出ようと誘う。でもこんなに遅い時間だともう夜汽車もないと寅さんは断る。この時の寅さんは理性的で良識あるおとなの振る舞いをする。寅さんには家があり、家がなくて根無し草の自分とは違うことに気がついたリリーが寂しさに耐えかねて涙する場面。過去ログ

□ 第28作「寅次郎紙風船」。ラスト、マドンナの光枝(音無美紀子)を柴又駅まで送る寅さん。駅前で光枝は俺が死んだら寅の嫁になれって亡くなった旦那から言われ、寅さんにも話してあると聞いているけれど、と寅さんに伝え、寅さんの気持ちを確認する場面。誠実で優しい寅さんに惹かれていた光枝は、寅さんから本気で約束したという返事を期待していたけれど、相手が病人だから適当に相槌を打っていただけだと聞かされる。この時の淋しそうな光枝の表情。過去ログ

□ 第29作「寅次郎あじさいの恋」。マドンナのかがり(いしだあゆみ)と寅さんがかがりの実家の居間で酒を飲む場面と、その後、離れの2階の寅さんが寝ている部屋にかがりが入ってくる場面。それから鎌倉デート、あじさい寺(成就院)で待ち合わせたふたり。かがりが寅さんに気がついたときのうれしそうな表情。過去ログ

□ 第32作「口笛を吹く寅次郎」。マドンナは結婚に失敗して実家の寺に戻っていた朋子(竹下景子)。第28作と同じような場面。やはりラスト、柴又駅のホームで朋子は父親から今度結婚するならどんな人が好いのか訊かれて・・・、寅さんみたいな人がいいって言っちゃたんでしょと寅さんが朋子に代わって答えた後、朋子は頷く。この後の寅さんの答えを聞いた朋子の悲しそうな表情。過去ログ


第48作「寅次郎 紅の花」で満男がリリーさんを前に寅さんの恋の過去ログを挙げる。

まず挙げたのがかがりさん。いしだあゆみが演じたかがりさんと寅さんの鎌倉デートに満男は寅さんに乞われて一緒に行ったからよく覚えているのだろう。次はデパートの店員・螢子さん(田中裕子)、それから朋子さん(竹下景子)、寅さんにぞっこんだった朋子さんが再婚したことを寅さんが明かす。それから女医の真知子さん(三田佳子)、で最後に挙げたのがリリー。

満男はぼくが印象に残るマドンナとして挙げた5人のうち、3人を挙げている。

リリーがひとりで奄美大島に帰ると知ったさくらは寅さんに言う。「今だから言うけど、お兄ちゃんとリリーさんが一緒になってくれるのが私の夢だったのよ。お兄ちゃんみたいに自分勝手でわがままな風来坊に、もし一緒になってくれる人がいるとすれば、兄ちゃんのダメなところがよ~く分かってくれて、しかも大事にしてくれる人がいるとすればそれはリリーさんなの、リリーさんしかいないのよ。そうでしょ兄ちゃん」 

多くの寅さんファンの気持ちもさくらと同じだと思う。でもぼくは違う。敢えて理由は書かないが、ぼくは光枝(音無美紀子)さんが一番相応しいというか、合っていると思う。


山田洋次監督は寅さんシリーズを通じて家族愛、家族の絆の尊さを観る者に伝えたかったのだろう。このことで印象的なのは第11作「寅次郎忘れな草」、リリーが夜遅くに酔っぱらってとらやに寅さんを訪ねてきて一緒に旅に出ようと誘うと、寅さんがやんわり断る。すると、リリーが「そうか・・・、寅さんにはこんないいうちがあるんだもんね。あたしとちがうもんね、幸せでしょ」という場面。リリーは根無し草の寂しさに泣く。

この作品で寅さんはリリーと出会うが、「兄さん、何て名前?」と問われて「おれは葛飾柴又の車寅次郎って言うんだよ」と名前だけでなく、居所まで答えているのに対し、リリーは「故郷(くに)はどこなんだい?」と問われて、「故郷(くに)? そうねえ、ないね、あたし」と答える。このようにふたりが対比的に描かれていることも、家族の絆というテーマにおいて見逃せない。

また、満男君が寅さんを「伯父さんは他人の悲しみや寂しさが理解できる人間なんだ」と言うが、確かに寅さんは旅先で知り合う人に優しい。第15作「寅次郎相合い傘」では家出した中年サラリーマン(船越英二)と一緒に旅をするし(この作品で寅さんはリリーと再会する)、第41作「寅次郎心の旅路」では自殺未遂したサラリーマン(柄本 明)に優しく接し、その後一緒にウイーンまで行くことになる。マドンナは観光ガイドをしている久美子(竹下景子)。

他人の悲しみや寂しさを理解して優しく接すること、これも監督が観る者に訴えたいことだろう。

寅さんが全国を旅するのは山田監督の故郷さがしでもある。このことはだいぶ前にラジオで聞いた(過去ログ)。


印象に残る作品として上に挙げた5作品はもう一度観たい。もちろんまだ観ていない作品も観たい。
*1 第49作は第25作『寅次郎ハイビスカスの花』のリニューアル作品


「47 男はつらいよ 拝啓車寅次郎様」

2021-09-22 | E 週末には映画を観よう

 寅さんシリーズ第47作「拝啓車寅次郎様」を観た。

本作も寅さんと甥の満男、ふたりの恋の同時進行で物語は進む。ただし寅さんの恋は恋とは言えないほど淡いというかあっさりしたもの、相手の名前すら知らないままだったのだから。恋の舞台は滋賀。

満男は既に大学を卒業して靴の卸会社で営業の仕事をしている。だが、自分には営業は向いていないと思っていて、寅さんに愚痴る。シリーズ最後、第50作で満男君は作家になっているから、会社を辞めてしまったのだろう。

ある日、満男のところに大学の先輩・川井信夫からはがきが届く。長浜(*1)に遊びに来ないかという誘い、相談もあるという文面だった。信夫の実家で妹の菜穂(牧瀬里穂)と出会った満男は次第に菜穂に惹かれ始める。菜穂も満男に。

信夫の相談事というのは、妹の菜穂と結婚しないかということだった。信夫が勝手に結婚話を持ち出したことに怒る菜穂。数日後上京してきた信夫から結婚話は無かったことにして欲しいと言われ、満男のことは嫌いだという菜穂のことばも聞かされて、満男は落ち込む。

一方の寅さん、例によってとらや(正しくはくるまや)で大喧嘩して旅に出ている。旅先は滋賀。琵琶湖のほとりで撮影旅行をしているという女性(かたせ梨乃)に声をかける。女性が岩場で転ぶ。寅さんは痛がる彼女を接骨院に連れていく。その後同じ民宿に泊まることになったふたりは身の上話をする。彼女は鎌倉に住む主婦。翌日、ふたりが連れ立って曳山祭りを見に行こうとしているところへ、女性の夫が迎えに来る。で、鎌倉に帰っていく。寅さんの恋とも言えない恋はこれでオシマイ。実にあっさりというか、あっけないというか・・・。

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その後、女性は世話になった寅さんにお礼を言いにとらやを訪ねる。そう、マドンナはとらやを訪ねるのが約束事。だが、あいにく寅さんは留守。自分の名前を寅さんは知らないかもしれないと名刺をさくらに渡す。

翌日寅さんは満男が運転する車で鎌倉まで出かけて行く。彼女の家のすぐ近くに車を停めて、様子をうかがう寅さん。娘と出かける典子を見て、声もかけずにその場を後にする。

その後、江ノ電の駅で寅さんは、恋することは疲れる、菜穂にフラれてほっとしているなどという満男を叱る。「燃えるような恋をしろ! 大声を出してのたうち回るような、恥ずかしくて死んじゃいたいような恋をするんだよ。ほっとしたなんて情けないことを言うな。さみしいよ俺は」 そして寅さんは江ノ電に乗って旅立っていく。これは珍しい、いつも柴又駅から旅立つのに。

正月。諏訪家に朝日印刷のタコ社長や従業員が集まっている。満男は社長に嫁さんを世話すると言われたことに腹を立て、家を飛び出す。このあたり、伯父さんと同じ。家のすぐ近く、江戸川堤に菜緒が立っているのを見つけて、走っていく。そう、満男の恋は終ってはいなかったのだ。満男、満面の笑み。菜緒もにこやか。マドンナの登場に態度を急変させるのも伯父さんと同じ。寅さんのマドンナがとらやを訪ねるように、満男のマドンナは満男の家を訪ねる、アポなしで。

流れる満男の伯父さんへのメッセージ「伯父さんは他人の悲しみや寂しさが理解できる人間なんだ」。そう、これこそマドンナが寅さんに惹かれる理由。

本作のタイトル「拝啓車 寅次郎様」はラストのこのメッセージに因るのだろう。


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*1 「琵琶湖 周航の歌」(三高)小口太郎作詞 二番 波の間に間に漂へば 赤い泊火懐しみ 行方定めぬ波枕 今日は今津か長浜か


「42 男はつらいよ ぼくの伯父さん」

2021-09-20 | E 週末には映画を観よう

 寅さんシリーズ第42作「ぼくの伯父さん」を観た。

この作品の主役は寅さんの甥の満男君。満男君は高校の後輩の泉ちゃんが佐賀の叔母さんのところで生活を始めたことを知り、東京から佐賀までバイクで会いに行く。超偶然にも佐賀の宿で寅さんと相部屋になった満男君は伯父さんと一緒に泉ちゃんの家を訪ねる。ここでマドンナ登場となるところだが、叔母(檀 ふみ)さんは高校教師の夫とおじいさん(義父)、泉ちゃんと暮らしていて、寅さん一目惚れといういつものパターンにはならない。そう、この作品にマドンナはいない。泉ちゃんは満男君のマドンナ。寅さんの恋模様が描かれないとなると、あまりおもしろくない。

ところで泉ちゃんの叔母・寿子さん役の檀 ふみさんは第18作「純情詩集」にも出演している。この作品では満男君の小学校の担任・雅子先生の役。1976年12月公開の作品で、この時は寅さん、雅子先生に一目惚れだったのに・・・。時は流れて、本作の公開は1989年12月、前作から13年経っていて、22歳だった檀 ふみさんも本作のときは35歳。小学生だった満男君は浪人生。

佐賀といえば吉野ケ里遺跡。満男君は泉ちゃんとバイクで、寅さんはおじいさんが会長をしている郷土史会の仲間と小型のマイクロバスで。吉野ケ里遺跡の物見櫓(物見やぐら)が映っていた。青森の三内丸山遺跡にもやはり櫓がある。古代からある櫓、そう、火の見櫓の原初は縄文・弥生時代と捉えていいのかもしれない。

*****

満男君はバイクで東京に帰り、寅さんは旅へ。寅さんからの電話にさくらが出る。

「そこにみんないるのか?」
「うん、みんないるわよ。おいちゃん、おばちゃん、社長さん(タコ社長とは言わなかった)、裏の工場のゆかりちゃん、越後屋さん、三平ちゃん、源ちゃん、博さん。もうお店いっぱいの人よ~、どうしてお兄ちゃんがここにいないの~」

なんだろうな、なんだか寂しい気分・・・、寅さんシリーズの終わりを予見させるような場面。

ラスト、お決まりの凧揚げのシーン。さくらの家に泉ちゃんが来ている。そう、寅さんのマドンナがとらやを訪ねたように満男君のマドンナ・泉ちゃんは満男君の家を訪ねる。

その頃寅さんは神社(*1)の長い石段の途中で啖呵売・・・。

やはりマドンナは寅さんに会うためにとらやを訪ねて欲しいし、寅さんは柴又からさくらに見送られて旅に出て欲しい。そう、寅さんシリーズは家族愛の物語なのだから。


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*1 佐賀県小城市小城町にある須賀神社


「31 男はつらいよ 旅と女と寅次郎」

2021-09-18 | E 週末には映画を観よう

 寅さんシリーズ第31作「旅と女と寅次郎」を観た。残すところあと9作品(全50作品)

この作品のマドンナ(寅さんが一目ぼれする他のマドンナとはちょっと違う存在)は演歌歌手の京はるみ、演ずるは都はるみ。ストーリーはシンプル。

恋に仕事に疲れてしまったはるみさんが、新潟での公演直前に失踪。ひとり旅に出たはるみさん、例の如くとらやで喧嘩して新潟を旅していた寅さんと出雲崎の港で出会って一緒に小さな漁船に乗せてもらって佐渡へ。佐渡の民宿で酒を酌み交わしながらあれこれ話し、翌日はるみさんは寅さんとのんびり島歩き。「ローマの休日」、もとい「佐渡の休日」。

はるみさんは寅さんの振舞いや話しに癒されて次第に元気を取り戻す。佐渡まで捜しに来た所属事務所の社長やマネージャーと一緒にフェリーで佐渡を後にする。寅さんとの別れ際、「この旅のこと、私一生忘れない」と言い残して。

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後日、はるみさんがとらやを訪ねてくる。ちょうど寅さんがいて再会。寅さんに会いにきた大スターにとらや騒然。とらやに集まってきた人たちは店の中まで入り込んでくる。ちなみにタコ社長ははるみさんの大ファン。とらやの2階の部屋で恋人とよりを戻してやり直すことを寅さんに告げるはるみさん。寅さん急に元気がなくなって・・・。

急遽、縁側に立って裏庭に集まった人たちに「アンコ椿は恋の花」を歌うはるみさん。集まった人たち大拍手。なぜアンコ椿? とらやが団子屋さんだからとはるみさん。

リサイタルに来て欲しいと寅さんがはるみさんから受け取ったチケットをさくらに渡して旅に出る寅さん。

京はるみリサイタル@東京のどこかのホール。寅さんと知り合い、優しくしてもらったことを話すはるみさん。客席で聞くさくらと博。そのころ寅さんは北海道・・・。

都はるみの歌なら「大阪しぐれ」がぼくは好きだな。


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「46 男はつらいよ 寅次郎の縁談」

2021-09-15 | E 週末には映画を観よう

 寅さんシリーズ第46作「寅次郎の縁談」を観た。

この作品では寅さんも満男君も相思相愛の恋をする。しかしそれはかりそめの恋。

就職活動が上手くいかない満男君は両親ともめて、家を飛び出す。東京駅からブルートレインに乗り、四国は高松へ。満男君は瀬戸内の小さな島に渡り、仕事を手伝いながら生活している。満男君はその島で看護師をしている亜矢ちゃんと仲良くなっている。

満男君を迎えに行った寅さん、満男君が下宿している家へ行く。そこで、病後の療養をしている葉子(松坂慶子)さんと出会い、一目惚れ。

満男君と亜矢ちゃんの恋は亜矢ちゃんの方が積極的で満男君にお弁当を作ってきて一緒に食べたり、手編みのセーターをプレゼントしたりする。ふたりは一緒になって島で暮らすんだろうなどと島の人たちから言われるように。

満君は伯父さんのことについて、亜矢ちゃんに「向こうがその気だったこともあるんだぜ。だけど伯父さんの方が逃げ腰になっちゃうんだ。見てて歯がゆくってさ」と言う。これに対して「じゃあ、満男さんにも遺伝してんや」と亜矢ちゃん。この後、逃げるように小屋に入っていった亜矢ちゃんを追いかけていく満男君。で、亜矢ちゃんが満男君に「好き」。となれば・・・。

寅さんはというと、元気になった葉子さんと金比羅参りに出かけて、その後高松の栗林公園へ。ふたりで茶店で休憩、「ね、なにかプレゼントさせて」と葉子さん。寅さんと色々話をしているうちに気持ちが安らいだことのお礼として。

ネクタイは? 締めない
コート 羽織らない
じゃあ、温泉にでも行く? おれ、風呂には入らない 

第27作「浪花の恋の寅次郎」では夜遅くにおふみ(この役も松坂慶子)さんが寅さんの宿を訪ねてきた時、寅さんは男と女の関係になることを避けて逃げちゃったし、今回も温泉行きを断って逃げちゃった。 寅さん、満男君の言う通り。ダメじゃん、寅さん。

ある夜、葉子さんは満男君に「男の魅力はね。顔じゃお金じゃないんよ。あんたまだ若いから寅さんの値打ちがわからんのよ・・・」と言う。満男の「お姉さん、伯父さんのこと好きなんですか?」に、ゆっくり頷く。

*****

あんなこと、そんなこと、こんなことがあって(そんなに色々なかったか)、結局ふたりは、一緒に島を出ることに。

正月のとらや(正しくは「くるまや」)に、葉子さんが来ている。そう、マドンナにはとらやに来てもらわないと。寅さんに会いたくて来たのに、寅さん旅の空・・・、小豆島で啖呵売。

葉子さんと寅さんの結婚はないとしても、満男君は亜矢ちゃんと結婚して島暮らし、それもなしか・・・。泉ちゃんがいるから。船着場で別れ際、亜矢ちゃんは「就職のことなんかあるから・・・」と言い訳する満男君に「他にわけがあるんでしょ」と問う。満男君には他に意中の女性がいることが分かっていたのかもしれない。

亜矢ちゃんは新しい彼氏と小豆島に初詣に来て寅さんと再会(超偶然!)。「満男、お前はまた振られたぞ、ざまあ見ろ」と寅さん。

最後の方の作品はそうだけど、何だか物足りなく思うのは、この作品でも寅さんとマドンナ(葉子さん)の恋愛より、満男君と亜矢ちゃんの恋愛の方をメインに描いていること。


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「39 男はつらいよ 寅次郎物語」

2021-09-13 | E 週末には映画を観よう

 寅さんシリーズ第39作「寅次郎物語」

母親さがし、幸せさがしの旅

オープニング、寅さんは中妻駅の待合室で寝ている。中妻駅ってどこ?分からなかったので調べてみた。関東鉄道常総線の駅だと分かった。ぼくはこの常総線で水海道駅で降り、駅近くの火の見櫓を見に行っている。中妻駅は水海道駅の二つ先の駅(常磐線の取手から水戸線の下館に向かって)で、その時この駅も通過していた。

とらやにリュックサックを背負った少年が訪ねてくる。少年の名前は秀吉、寅さんのテキヤ仲間の息子だった。秀吉君の父親が死に、母親(五月みどり)は家を出てしまっていて行方不明。秀吉君は父親から「オレが死んだら寅さんのところへ行け」と言われていたらしい。

母親が和歌山にいるらしいことが分かり、寅さんは秀吉君を連れて母親捜しの旅に出る。

大阪は天王寺、和歌山は和歌の浦、奈良は吉野、ふたりの旅は続く・・・。吉野の旅館で夜に秀吉君が急に熱を出して、寅さん大慌て。偶々隣の部屋に泊まっていた隆子さん(秋吉久美子)が看病を申し出て、寅さんは医者を呼びに行く。旅館に連れてきたのは既に引退したじいさん先生(2代目のおいちゃん、第6作「純情篇」でも医者役で出ていた)、しかも耳鼻科の先生。宿で秀吉君を診察する先生、寅さんと隆子さんを夫婦と勘違い。まあ、状況からして誰もふたりが赤の他人とは思わないだろう。

隆子さんは寅さんを子どもの父親だと思ってお父さんと呼び、寅さんはそれに合わせて隆子さんを母さんと呼ぶ。まあ、この辺りは寅さん映画的。

幸いにも秀吉君は翌朝すっかり回復する。その日、寅さんと隆子さんは連れ立って金峯山寺へ。そこでふたりは秀吉君の回復を喜び、隆子さんは寅さんに旅館にひとりで泊まった事情を話す。男と泊まる予定だったが断られてしまい、旅館の窓から飛び降りてしまおうかと思っていたことも告白する。

秀吉君の母親の居場所がようやくわかる。三重県の伊勢志摩。寅さんと秀吉君は隆子さんと別れて、母親に会いに行くことに。その前夜、3人は川の字になって寝る、本当の親子のように。

部屋で隆子さんは大事な人生を粗末にしてしまったと泣く。「まだ若いんだし、これからいいこといっぱい待ってるよ」と慰める寅さん。こういう場面の寅さんのことばは心に染みる。「そうね、生きててよかった、そう思えるようなことがね」と応える隆子さん。このあたり、この作品のテーマに関わる場面。

*****

伊勢志摩、賢島。秀吉君の母親は病気療養中。再会する親子。母親役が第28作「寅次郎紙風船」でテキヤ仲間(小沢昭一)の奥さんを演じた音無美紀子だったら、ぼくはぽろぽろ涙を流したかもしれない。彼女にピッタリの役だと思う。もちろん五月みどりも好演していたけれど。

母親と再会できた秀吉君を残して、船で島を離れようとする寅さん。急いで船まで走ってきた秀吉君は寅さんに一緒に帰ると言う。厳しく諭す寅さん。

船が岸を離れていく・・・、泣きながら桟橋を走って船を追いかっける秀吉君。「おじさ~ん、行っちゃだめ おじさ~ん おじさ~ん!」

泣かせる場面。

さくらさんが顛末を御前様に話している。「よかった。本当によかった。仏様が寅の姿を借りてその子を助けられたのでしょう」

また旅に出る寅さんを満男君が駅まで送っていく。駅前まできて、「人間は何のために生きてんのかな」と満男君。「生まれてきてよかったなあってことが何べんかあるじゃない、そのために人間生きてんじゃないのか。そのうちおまえにもそういう時が来るよ」と言い残して寅さん駅へ。

年が明けて、隆子さんがとらやに来ている。残念ながら寅さん旅の空。ふたりの再会場面、見たかったなあ。


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