■ 本稿も夏目漱石の『吾輩は猫である』からの引用。
**細君は乳飲み児を一尺ばかり先へほうり出して口をあいていびきをかいて枕をはずしている。(中略)
子供のほうはと見るとこれも親に劣らぬていたらくで寝そべっている。姉のとん子は、姉の権利はこんなものだといわぬばかりにうんと右の手を延ばして妹の耳の上へのせている。妹のすん子はその復讐に姉の腹の上に片足をあげてふんぞり返っている。双方とも寝た時の姿勢より九十度はたしかに回転している。しかもこの不自然なる姿勢を維持しつつ両人とも不平も言わずおとなしく熟睡している。**(160頁)
夏目漱石と妻・鏡子の仲については、あまり良くなかったとも、良かったともいわれている。引用した箇所を読むと、私は漱石の妻や子供に対する優しい眼差し、愛情を感じる。
このところ読書時間が減っているが、この長編をじっくり読み進むといろいろ気がつくことがある。古い文庫の活字は小さく、用紙は変色しているが、読書をしているという実感がある。いまどきの大きな活字、派手なカバーの文庫より好ましい。