透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

ブックレビュー 2024.09

2024-10-03 | A ブックレビュー

 
 精読派と多読派のどちらか問われれば多読派だと答える。じっくり時間をかけて1冊の本を丁寧に読む、という楽しみも味わいたいとは思うが、読みたい本が次から次へと出てきて、そのような読書ができない。9月の読了本は5冊、小説は安部公房の短編集1冊だけだった。

『城の日本史』内藤 昌  編著(講談社学術文庫 2011年8月10日第1刷、2020年9月23日第4刷)
色んなことは覚えられないから、天守の外観的な特徴は望楼型層塔型に大別され、構法は井楼式通柱構法互入式通し柱構法に大別されることを覚えておきたい。一般的に望楼型は井楼式通柱構法によって成立し、層塔型は互入式通し柱構法によって成立する。これには例外もあって、松本城の外観は層塔型だが(これは、別の本も読んだ私の解釈)、構法は井楼式通柱構法。井楼:せいろう

『経済学者たちの日米開戦 秋丸機関「幻の報告書」の謎を解く』牧野邦昭(新潮選書2018年5月25日発行、2021年12月25日13刷)
「なぜ日本の指導者たちは、正確な情報に接する機会があったのに、アメリカ、イギリスと戦争することを選んでしまったのか」という謎。著者は数多くの史料を丹念に読み込み、行動経済学のプロスペクト理論と社会心理学の集団意思決定の集団極化の理論という現代の知見によってこの謎を解き明かす。難しい内容だが、明快な論理展開で読みやすかった。

『日本列島はすごい 水・森林・黄金を生んだ大地』伊藤  孝(中公新書2024年)
地学に関する内容で、芭蕉の俳句も田中角栄の「日本列島改造論」も登場する。なるほど、確かに地学に関係する。掲載されている数多くの図が、記述内容の理解を助けてくれる。

『R62号の発明・鉛の卵』安部公房(新潮文庫1974年8月25日発行、1993年2月15日24刷)
「鉛の卵」は1957年(昭和32年)に発表された作品。冬眠器の故障で80万年後に目を覚ました男の話。携帯無線電話が出て来て、びっくり。収録されている短編12編を通しで読んで、安部公房の発想の豊かさに驚かされた。

『水が消えた大河で ルポJR東日本・信濃川不正取水事件』三浦英之(集英社文庫2019年)
9月12日の記事の一部を加筆して再掲する。

JR東日本によって行われていた信じられないような不正が詳細に綴られていた。加えて生態系への深刻な影響も。信濃川の中流域には東京電力とJR東日本の取水ダムと発電所がそれぞれ別々にあって(東京電力:西大滝ダム 長野県飯山市 JR東日本:宮中ダム 新潟県十日町市)、ダムで取水された水は発電所までの間に落差をかせぐために延々と地下トンネルを流れる。その間、両者合わせて63.5kmは信濃川にはごく少量の水しか流れない。

**清流魚であるヤマメは二〇℃を超えるとエサを食べない。冷水性のカジカやアユは二五℃以上では生きていけない。**(31頁) 信濃川を流れる水量が上記の理由で極端に減り、流速も遅くなって水温が上昇、**魚が死に、流域周辺の井戸が枯れ、人びとが心の拠り所としてきた雄大な大河の風景が姿を消した。**(33頁)という。

このような事態を招いた東日本の不正を三浦さんは多くの関係者に取材をして厳しく追及していく・・・。

**「あなた方は毎秒三一七トンの水を抜いていおて、わずか毎秒七トンの放流ですよ。信濃川は石河原になって死んでいる。JR東日本の売り上げは二兆七二七〇億円。そんな独占的な優良企業が十日町の命の水をさらに不当に取っているなんて、まさしく屍に鞭を打つ、吸血鬼のような行為ですよ」**(175,6頁)

**「信濃川を涸らしておいてどこが地球に優しいんだ」**(176頁)