透明タペストリー

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「一首のものがたり 短歌(うた)が生まれるとき」

2022-10-15 | A 読書日記



 『一首のものがたり 短歌(うた)が生まれるとき』加古陽治(東京新聞2016年)を読んだ。著者の加古陽治さん(東京新聞編集委員)が講演「文芸取材の新流儀」(*1)で紹介された本。

背景を知ることで歌の理解が深まる、という講演での加古さんのことば通り、本に掲載されている短歌27首の全てに作者の生きざま、人生そのものが反映されている。加古さんは丹念に取材して歌の背後のものがたりを明らかにしている。

講演でも取り上げられた恋の歌。 あの夏の数かぎりなきそしてまたたつた一つの表情をせよ 小野茂樹『羊雲離散』 

この歌の作者、小野茂樹さんは中学一年生の時に雅子さんと出会う。同級生の二人は同じ高校に進み、ともに校友会誌の編集委員になる。お互いに惹かれてつき合うようになったが、雅子さんは就職した会社の男性から求婚されて結婚してしまう。小野さんの淡い恋は終わってしまった・・・。

それから8年後、小野さんは自分の結婚を報告するために雅子さんの家を訪ねる。その後二人は喫茶店などでひそかに会い続ける。そして、結婚しようと、小野さんは雅子さんに迫る。雅子さんは二児を残して家を出る。二人はそれぞれの伴侶と離婚して、結婚する。

人生の大きな軌道修正だ。人生は一度きり・・・。

二人は娘を授かり穏やかで幸せな日々が続く。だが4年後、小野さんは交通事故で亡くなってしまう・・・。上掲歌はふたりが再び会いはじめたころにできたとのこと。高校生の頃にぼくだけに見せた表情をも一度して欲しい、と詠った歌。

この本には俵 万智さんの「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日 も取り上げられていて、この歌にまつわるものがたりもが収録されている。

本の帯に**著者が掘り起こした物語に何度も胸が熱くなりました。**という俵 万智さんのことばが載っているけれど、僕も朝カフェで読んでいて、何回もウルっと来た。

ちなみにベストセラー『サラダ記念日』を世に出した長田洋一さん(当時河出書房新社『文藝』の編集長)が本の寺子屋(*2)のナビゲーター。


*1 塩尻のえんぱーくで9月18日に行われた「本の寺子屋」の講演会
*2 次回10月23日の本の寺子屋は校條 剛さん(評伝作家・「小説新潮」元編集長)の講演会 演題は「作家という生き方―佐木隆三、津本 陽、藤田宣永ら」




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