著者矢野武氏の本業は、兵庫医科大学で非常勤講師などを務める医師である。本書は、自費出版の形で出版され、改めて文庫の形で再版されたものである。幕末のテクノクラート(技術官僚)六名 ――― 川路聖謨、小野友五郎、榎本武揚、土方歳三、松本良順、勝海舟 ――― を取り上げる。土方や海舟が、一般的な意味でテクノクラートと呼べるか微妙なところであるが、そこは著者の主観が反映されていると見るべきであろう。
幕府は迫りくる外圧、西南雄藩の揺さぶりに対し、あたかも無為無策だったような印象があるが、実は陸海軍の充実や人材の育成・抜擢には力を注いでいた。本書で取り上げられた面々はその成果というべき人たちである。
著者は歴史家でも作家でもないので、読み通しても特に目新しいことは見出せない。一冊を通して一貫していることは、著者の思い入れである。特に川路、小野に対する思い入れは格別である。一方で勝海舟は著者のお好みではないらしく、批判的な記述が目につく。
なお、本書に香川敬三が登場するが、長州藩人としているのは明らかに間違いである。香川敬三は水戸藩の出身で、国事に奔走するうちに岩倉具視の知遇を得た。たまたま京都を中心に活動したため、藩内の抗争に巻き込まれることなく、水戸藩出身者としては珍しく維新まで生き抜き、新政府にも出仕することになった。恐らくその履歴において長州藩に属したことは無く、著者の勘違いではないかと思われる。
幕府は迫りくる外圧、西南雄藩の揺さぶりに対し、あたかも無為無策だったような印象があるが、実は陸海軍の充実や人材の育成・抜擢には力を注いでいた。本書で取り上げられた面々はその成果というべき人たちである。
著者は歴史家でも作家でもないので、読み通しても特に目新しいことは見出せない。一冊を通して一貫していることは、著者の思い入れである。特に川路、小野に対する思い入れは格別である。一方で勝海舟は著者のお好みではないらしく、批判的な記述が目につく。
なお、本書に香川敬三が登場するが、長州藩人としているのは明らかに間違いである。香川敬三は水戸藩の出身で、国事に奔走するうちに岩倉具視の知遇を得た。たまたま京都を中心に活動したため、藩内の抗争に巻き込まれることなく、水戸藩出身者としては珍しく維新まで生き抜き、新政府にも出仕することになった。恐らくその履歴において長州藩に属したことは無く、著者の勘違いではないかと思われる。