幕末史最大のミステリーといわれる龍馬暗殺の謎を手がけた著作である。
とはいえ、今井信郎の証言から、実行犯は幕府の治安維持組織である見廻組というのが定説となっており、そのことについてはほぼ疑いがないだろう。
この本では、当時から囁かれていた新選組犯行説、薩摩藩陰謀説、伊東甲子太郎実行犯説、更には本当の狙いは巻き添えを食った中岡慎太郎だったという説まで取り上げ徹底的に検証を重ねている。
中でも多くの頁を割いているのが、薩摩藩の陰謀説である。薩摩藩を黒幕とする主張の論拠は、藩閥で新体制を主導しようという薩摩にとって、公議政体によって民の声を政治に活かすことを主張していた龍馬の存在が、邪魔だったというものである。しかし、これは歴史を結果から見た判断であって、龍馬が暗殺された慶応三年(1867)十一月時点では、王政復古のクーデターが成功するかどうかも不透明であったし、戊辰戦争の勝利も約束されていなかったのである。そんなときに暗殺など考えている余裕もないだろう。加えて、①薩摩藩が政治的に対立している幕府の組織を使って暗殺を実行するのはどう考えても不自然である。②幕末史は暗殺劇の連続である(本書の巻末にも暗殺事件を列挙してあるので参考にされたい)。その中でも薩摩藩が計画的に暗殺を命じたケースは皆無である(偶発的に発生した生麦事件や、赤松小三郎の暗殺事件があるが、いずれも組織的犯行とは言い難い)。以上の理由からも、薩摩藩陰謀説はどう考えてもあり得ない。
現代でこそ、龍馬は幕末を代表するヒーローであるが、その当時はそれほど名の知られた存在ではなかった。伏見寺田屋で幕府の捕吏を銃殺した龍馬は、以来お尋ね者となっていた。それが故に幕府に抹殺されたというのが自然な見方ではないか。また本著ではほとんど触れられていないが、いろは丸事件の報復として紀州藩が龍馬暗殺を指示したという風説は当時から囁かれていた。紀州藩復讐説が取り上げられていないのはちょっと残念である。
「龍馬ファン」としてはできるだけ龍馬を偉大な存在として祀り上げたいという気持ちが働く。単なる殺人犯や怨恨の報復措置として暗殺されたというのでは「納得がいかない」というファン心理が、龍馬暗殺をミステリー化している最大の理由かもしれない。
とはいえ、今井信郎の証言から、実行犯は幕府の治安維持組織である見廻組というのが定説となっており、そのことについてはほぼ疑いがないだろう。
この本では、当時から囁かれていた新選組犯行説、薩摩藩陰謀説、伊東甲子太郎実行犯説、更には本当の狙いは巻き添えを食った中岡慎太郎だったという説まで取り上げ徹底的に検証を重ねている。
中でも多くの頁を割いているのが、薩摩藩の陰謀説である。薩摩藩を黒幕とする主張の論拠は、藩閥で新体制を主導しようという薩摩にとって、公議政体によって民の声を政治に活かすことを主張していた龍馬の存在が、邪魔だったというものである。しかし、これは歴史を結果から見た判断であって、龍馬が暗殺された慶応三年(1867)十一月時点では、王政復古のクーデターが成功するかどうかも不透明であったし、戊辰戦争の勝利も約束されていなかったのである。そんなときに暗殺など考えている余裕もないだろう。加えて、①薩摩藩が政治的に対立している幕府の組織を使って暗殺を実行するのはどう考えても不自然である。②幕末史は暗殺劇の連続である(本書の巻末にも暗殺事件を列挙してあるので参考にされたい)。その中でも薩摩藩が計画的に暗殺を命じたケースは皆無である(偶発的に発生した生麦事件や、赤松小三郎の暗殺事件があるが、いずれも組織的犯行とは言い難い)。以上の理由からも、薩摩藩陰謀説はどう考えてもあり得ない。
現代でこそ、龍馬は幕末を代表するヒーローであるが、その当時はそれほど名の知られた存在ではなかった。伏見寺田屋で幕府の捕吏を銃殺した龍馬は、以来お尋ね者となっていた。それが故に幕府に抹殺されたというのが自然な見方ではないか。また本著ではほとんど触れられていないが、いろは丸事件の報復として紀州藩が龍馬暗殺を指示したという風説は当時から囁かれていた。紀州藩復讐説が取り上げられていないのはちょっと残念である。
「龍馬ファン」としてはできるだけ龍馬を偉大な存在として祀り上げたいという気持ちが働く。単なる殺人犯や怨恨の報復措置として暗殺されたというのでは「納得がいかない」というファン心理が、龍馬暗殺をミステリー化している最大の理由かもしれない。