春になると野山には小さくて可憐なスミレが沢山咲きます。そのスミレを園芸種として大きな花びらのパンジーや、ビオラに改良しました。パンジーは冬でも大きくて華麗な花を見せてくれます。花屋さんの店先を美しく飾っています。
小さく可憐な野に咲くスミレ、華麗な花びらのパンジー、あなたはどちらがお好きでしょうか?
この問いに自信を持ってはっきり答えるのは難しいと、数日考え込んでしまいました。
解答が出ました!私は「小さな野に咲くスミレの方が好きです」と明快に答えることにしました。しかし本音ではパンジーの方がすきです。
こんな問題に呻吟している私は本当に暇な老人なのです。
しかしこの難問を思いついたのでスミレとパンジーの関係をいろいろ調べてみました。
その結果を見る前にスミレの花の写真とパンジーの写真をまずご覧下さい。
1番目と2番目のスミレの花の写真の出典は、「菫の小部屋」;http://www.wondersquare.net/50/sumire.htm です。
3番目と4番目の写真は、「パンジーの画像集」を検索すると沢山の写真が出てきますので、その中から選びました。




さてここで二つの疑問が湧いてきます。
人間とスミレの関係と、スミレからパンジーへと改良したいきさつです。
野に咲く小さなスミレを人間は何時頃から見て楽しんでいたのでしょうか?
そこで万葉集を見てみました。するとスミレが出ているのです。
万葉集1424番、山部赤人、
「春の野に すみれつみにと 来(こ)し吾ぞ 野をなつかしみ 一夜(ひとよ)宿(ね)にけり」
この菫はツボスミレではないかと言われています。
それではヨーロッパではどうでしょうか?
ゲーテの詩があります。それをモーツァルトが歌曲として作曲しました。K.476 歌曲 「すみれ」ト長調です。
そのゲーテの詩は、http://www.marimo.or.jp/~chezy/mozart/op4/k476.html から転載しました。西野茂雄訳です。
すみれ、Das Veichen
一本のすみれが牧場に咲いていた
ひっそりとうずくまり、人に知られずに。
それは本当にかわいいすみれだった!
そこへ若い羊飼いの少女がやって来た
軽やかな足どりで、晴れやかな心で
こっちの方へ近づいてくる
牧場の中を、歌をうたいながら。
ああ、とすみれは思った、もしも自分が
この世で一番きれいな花だったら、と
ああ、ほんのちょっとの間だけでも
あの少女に摘みとられて、
胸におしあてられて、やがてしぼむ
ああ、ほんの
十五分間だけでも
ああ、それなのに!少女はやってきたが、
そのすみれには眼もくれないで、
あわれなすみれを踏みつけてしまった!
すみれはつぶれ、息絶えたが、それでも嬉しがっていた
ともあれ、自分はあのひとのせいで
あのひとに踏まれて
死ぬんだから、と!
かわいそうなすみれよ!
それは本当にかわいいすみれだった。
当時ゲーテのこの詩は単独でよく知られていて、多くの作曲家が曲をつけていたそうです。
ですからヨーロッパ人はスミレの花を見つけるとロマンチックな気分になるらしいです。
なをこの詩の訳は新潮文庫の高橋健二訳にもありますが省略します。
さてこの小さな野生のスミレはどのようにしてパンジーになったのでしょうか?
簡単に言うと、1800年代に北欧で、アマチュアの園芸家が、野生のサンシキスミレと野生スミレビオラ・ルテア、さらに近東のスミレビオラ・アルタイカを交配して品種改良に成功したと言います。
1820年代から1830年代に膨大な交配が行われた結果、華麗な大きな花びらの品種が非常に普及したのです。
1835年までには園芸種は400品種が存在しており、1841年までには、パンジーは観賞植物として完成したのです。
イギリスでは園芸愛好家たちによって育種され、1813年にトムスンが改良を始めたと言われています。
しかし19世紀半ばには、ヨーロッパ大陸生まれの華麗で鮮やかな色のファンシー・パンジーが流行し現在に至っているのです。
なお詳しくは、https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%BC をご覧ください。
詳細は省略しましたがスミレに対するヨーロッパ人の情熱には圧倒されます。
このヨーロッパのパンジーは戦前の日本では「三色スミレ」と呼ばれ販売されていました。
戦後から現在に至って三色スミレはパンジーと呼ばれるようになり、その小型のものはビオラと呼ばれているようです。
宝塚の少女歌劇の歌に「スミレの花咲くころ・・・」という歌があり憶えていらっしゃる方々も多いと思います。
このように野生のスミレやパンジーやビオラは私達の生活を豊かに潤しているのです。
それはそれとして、今日も皆様のご健康と平和をお祈りいたします。後藤和弘(藤山杜人)