アメリカは中国の覇権主義を敵視し軍事的、経済的な圧力をかけています。しかし日本企業は馬耳東風で中国で盛んに経済活動を展開しています。その実態は、「米中抗争でも1万3千社以上の日本企業が中国にある現実」(2021年01月22日掲載記事)という記事で説明しました。
ところが一方、アメリカ企業は日本と同様に中国で企業活動や投資をしているのです。その実態は次の報告書のに詳しく書いてあります。
八木 三木男著、「対中企業進出の日米比較1」
(http://www.cc.kyoto-su.ac.jp/project/orc/econ-public/china/documents/DP22yagi )
これに対して、アメリカ政府はアメリカ企業が中国から帰るように呼びかけています。しかし中国に進出している企業は政府の言うことを聞きません。自社の利益を守る方が大切なのです。
今日はアメリカと中国の経済交流を制限しようとするアメリカ政府の政策をご紹介しようと思います。アメリカ政府が仕掛けた中国との経済戦争の激しさです。
まず昨年5月のニュースをご紹介いたします。
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「米政府、中国のテック企業30社超を貿易禁止ブラックリストに追加へ」
(https://thebridge.jp/2020/05/us-adds-dozens-of-chinese-firms-to-trade-blacklist )
アメリカは2020年5月22日に、中国に対する最新の反発として、人権侵害への関与や軍との関係を指摘されている30社超の中国企業や機関を、貿易ブラックリストに追加すると発表した。
(1)重要視すべき理由
今回の発表がなされた先週から今週にかけては、中国で最も重要な政治会合である2つの会議(両会=全人代と政治協商会議)に参加するため、中国全土から集まった代表(議員)や政治顧問が北京に滞在している。
貿易禁止令に追加されることで、指定された中国企業は政府承認無しにアメリカ企業から製品や技術を購入することが事実上禁止される。
(2)詳細情報
アメリカ商務省は、中国北西部のウイグル自治区での人権侵害加担した疑いがあるとして、9つの企業や機関を貿易禁止令に追加した。このうち7社は、「中国のハイテク監視プログラムを可能にした」として、いわゆる「エンティティ(ブラック)リスト」に追加された。
商務省の声明によると、この7社には顔認証企業 Cloudwalk Technology(雲従科技)と Sensenets(深網視界)、監視企業の Netposa(東方網力)、AI チップメーカーの Intellifusion (雲天励飛)が含まれる。
加えて商務省は、中国軍との関係が疑われる24の企業や機関をブラックリストに登録したと別の発表で述べている。その中には、有名サイバーセキュリティ企業 Qihoo 360(奇虎 360)や、ソフトバンクが出資するロボット企業 Cloudminds(達闥科技)などが含まれる。
Qihoo は、今回の告発に「断固として反対」すると強い言葉で声明を発表した。
また、ハルビン工業大学(哈爾浜工業大学)や北京計算科学研究センター(北京計算科学研究中心)など、アメリカの国家安全保障に影響を及ぼす可能性のある活動に関与している、または関与する危険性が高いと判断された大学や研究機関も、リストに登録された。
アメリカ商務長官の Wilbur Ross 氏は声明の中で、「中国がアメリカの利益を損なう活動にアメリカの商品や技術を利用することを防ぐことを目的としている」と述べている。
(3)背景
中米間の対立は長きに渡って続いているが、今回の動きは中国のハイテク企業に対するワシントンの最新の攻撃と言える。
アメリカは10月、AI の Sensetime(商湯)、顔認識の Megvii(昿視)、監視カメラメーカーの Hikvision(海康威視)などをブラックリストに登録した。
アメリカはまた、国家安全保障上の懸念を理由に、Huawei(華為)の5G展開への関与を制限しようとしている。
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以上の報道に加えて次のような報道もあります。
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「アメリカの中国系企業250社に上場廃止リスク・・・トランプ政権が会計監査めぐる「覚書」破棄へ」(https://toyokeizai.net/articles/-/363535 )
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この様にアメリカ政府はいらだって中国のアメリカでの自由な経済活動を締め付けようとしています。
しかしアメリカの経済界は政府の言うことを聞きません。次のニュースをご覧ください。
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「アメリカ企業は中国からの「切り離し」に反発…70%の企業が生産拠点の移転を考えていない」2020年9月17日)、(https://www.businessinsider.jp/post-219960 )
中国に拠点を置くアメリカ企業は、トランプ大統領の米国回帰の呼びかけを無視していることが、新たな調査で明らかになった。
トランプ大統領は、米国経済を中国から「切り離し(decouple)」、「アメリカを世界の製造業大国 」にする計画だと繰り返し述べた。
しかし、在上海アメリカ商工会議所の調査によると、中国で事業を展開しているアメリカ企業の70%以上が、生産拠点をアメリカに戻す計画がないことが分かった。
中国に進出しているアメリカ企業は、両政府の関係修復を望んでいることが明らかになった。
ドナルド・トランプ大統領が中国を放棄してアメリカに戻るよう求めたにもかかわらず、中国に拠点を持つアメリカ企業は通常通りの営業を続けるつもりだ。
トランプ大統領は9月7日、中国との貿易戦争が続き、通信機器大手のファーウェイや香港での中国の行動などをめぐって緊張が高まる中、アメリカ経済を中国から「切り離す(decouple)」計画をあらためて表明した。
大統領は、ホワイトハウスでの記者会見で、「(中国と)取引をしなければ、何十億ドルも失うことはなかった」と述べ、「アメリカを世界の製造業の超大国にし、中国への依存をきっぱりと終わらせる」と付け加えた。
しかし、フィナンシャル・タイムズは、在上海アメリカ商工会議所が委託した最新調査によると中国で事業を展開しているアメリカ企業はトランプ大統領の要請に耳を傾けていない、と報じている。
PwCコンサルティングが200社以上を対象に実施したこの調査では、生産拠点のアメリカへ移転すると答えたのは4%未満で、70%以上が中国からの移転をまったく計画していなかった。
在上海アメリカ商工会議所のケル・ギブス(Ker Gibbs)会頭は、アメリカ企業は北京から離れるよりも、中国での事業を続けたいと考えていると述べた。
「COVID-19は2020年初めに中国経済に大きな打撃を与えたが、回復は早かった。アメリカ企業は依然として中国市場を大きなチャンスとみなしている」と彼はフィナンシャル・タイムズに語っている。
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以上のようにアメリカ政府がそれを望んでも経済界は現状を変えようとしません。アメリカの自由な資本主義が政府の介入を許さないという原則があるのです。
アメリカの軍事力は中国の軍事力よりも圧倒的な優位に立っています。しかし経済力の分野では五分五分の戦いなのです。アメリカと中国の抗争の難しさは経済力の分野にあるのです。
アメリカの大統領がバイデンさんに変わっても中国との経済戦争の激しさは変わりません。バイデン大統領も就任早々、中国に厳しい圧力をかけるという演説をしています。
将来の日本は米中の抗争の渦に巻き込まれる可能性があります。困ったものです。
今日の挿絵代わりの写真はアメリカの首府、ワシントンDC[の風景です。出典は、https://tabit.jp/archives/7340 です。
それはそれとして、今日も皆様のご健康と平和をお祈り申し上げます。後藤和弘(藤山杜人)