ヨットの趣味は50歳から75歳まで25年間楽しみました。体力が無くなり75歳で止めてからもう5年たちました。
ヨットの趣味は素晴らしい体験でした。もっと多くの日本人に普及するようにと祈っています。
しかしヨットの趣味はお金がかかる、危険だ、仲間が必要だという大きな誤解があってなかなか普及しないようです。
そこでこの3つの誤解を解くためにいささか自分の体験をふまえてご説明したいと思います。
(1)ヨットはお金のかかる趣味で自分にはむいていないという誤解
確かにヨットの新品を買おうとしたら300万円から600万円くらい必要です。しかしヨットの中古品なら驚くほど安いのです。
キャビン付の長さ26フィート位のヨットなら100万円くらいで新品同様の中古品が買えるのです。琵琶湖や瀬戸内海方面には安い中古艇が沢山あります。ネットでヨットの中古品を検索すると沢山の情報があります。30万円や50万円の船もあります。しかしあまり安いのは水漏れがあったり、エンジンが老朽化していることがあるので要注意です。
問題はヨットの係留料です。湘南のマリーナなら年間100万円以上ですが、霞ヶ浦の茨城県の経営の場所なら年間5万円の係留料です。全国の県庁が管理している係留場所は格安なのです。根気よく探せば安い係留場所があると思います。
ですから100万円から150万円もあればキャビン付の中古のヨットを買って、ヨットの趣味が始められのです。
ヨットの趣味はお金がかかるというのは誤解で、少しの準備金があれば始められる素晴らしい趣味なのです。
(2)ヨットは転覆して危険だという誤解
ヨットはすぐに転覆してしまうので危険きわまりないと思っている人がいます。
しかしヨットには2種類あって、「すぐに転覆するヨット」と「絶対に転覆しないヨット」があります。前者はキャビン(客室)の無い小型ヨットでディンギーと言い、後者はキャビンがあり、クルーザー・ヨットと言います。
ディンギーは公園の池などでよく見かける手漕ぎボートのような舟にマストを立てた構造で、長さも普通5m以下です。
一方、クルーザー・ヨットは長さが普通6m以上で、屋根のついた気密なキャビンを持っています。そして船底に転覆防止のために重い鉄板が水中へ突き出ています。この重い鉄板のことをキールと言います。
キールは丁度、釣りのとき使う「浮き」の下にある「重り」と同じ役目をしています。その重りのお陰で、浮きがどんなに傾いても直ぐに起き上がります。
ですから「ヨットはすぐに転覆する」という理解はディンギーに関しては正しく、クルーザー・ヨットに関しては大きな誤解なのです。
それでは写真に従ってもう少し分かり易く説明いたします。
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上の写真はディンギーを2人の若者が、舟が右側に倒れないようにマストからのロープを左方向へ引っ張りながら走っています。帆を3枚上げているのでロープを引っ張る若者達は必死です。風が突然これ以上左から吹けば、ヨットは右側に転覆します。風前の灯のような状態です。危険だからスリルがあって楽しいのです。
私は50歳になってからヨットを始めました。江の島にあったヨットスクールへ何度も通い、ディンギーの帆走方法を習いました。
沖に出ます。快調に帆走していると、突風が襲うことがあります。転覆します。横倒しになったヨットの舷側や底に掴まります。
すると教官がモーターボートの上から「ヨットは自分の力で起こすものだあ!」と怒鳴ります。その通りで自分の力で起こせます。しかし転覆する時は強風なのです。波も荒れています。せっかく起こしたヨットが今度は反対側へ倒れます。50歳の中年過ぎの男にとってこの作業は厳し過ぎます。葉山のディンギー倶楽部に2年位通って帆走を習いましたが、かなり上手になっても横倒しになります。
そこで絶対に転覆しない構造のクルーザーヨットの中古を購入したのです。
クルーザーには23年間乗りましたが一度も横倒しになりませんでした。転覆もしませんでした。
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上の写真は突風にあおわれて私が慌てている様子です。見っともない状態ですが、家内が陸上から撮った写真です。
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上の写真は危険な状態を立てなおして正常な姿で港の外に出て行こうとしている姿です。
右からの風を2枚のセールに受けて、快速で走っています。このようにキャビンのついたクルーザーヨットは絶対に転覆しない安全な乗り物なのです。
ですからヨットは転覆して危険だというのは誤解なのです。
(3)ヨットには仲間が必要という誤解
私はヨットには独りで乗りました。時々家内が一緒に乗って、帆走を手伝いますが、基本的には独りで帆走します。どんな強風が来てもクルーザー・ヨットは横倒しになりません。安心です。ですから私は何時も一人で乗りました。
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上の写真は一人でもヨットがいかに安全な構造になっているかを示す図面です。
クルーザー・ヨットが絶対に沈まない巧妙な構造をもう少し説明致します。
2つの巧妙な構造があるのです。一つは、前にも書きましたが、重いキールが下についていることです。もう一つは横倒しになっても、真っ逆さまになっても水が入らない気密なキャビンがあることです。上の絵をご覧下さい。船底から下に突き出ているのがキールです。部厚い、丈夫な鉄板が船底にシッカリ固定してあるのです。そしてキールの重さは舟の全重量の3割から4割もあるのです。
舟の甲板の下は全て気密な空間になっていて、幾つかの船室になっています。中央の船室をメイン・キャビンと言います。前部をバウ・キャビン、後部をスターン・キャビンと言います。その他に水洗トイレの小部屋があります。ロッカーもついています。炊事用のコンロや流しも付いています。要するに生活出来るような構造になっているのです。後ろの出入り口さえ閉めてしまえば、この生活空間には絶対に水が入らないような気密構造になっているのです。
凄く荒れる海では波が逆巻いて大きなヨットを回転させます。運が悪いと真っ逆さまのまま動きを停止することもあります。本で読んだことですが、この場合でも暫く辛抱していると次の大波でヨットは再び起き上がるそうです。水さえキャビンに入らなければ絶対に沈まないそうです。
霞ヶ浦のような平水では逆巻く大波はめったに起きません。怖いのは強風だけです。しかし強風になりヨットが傾き、マストが水面につきそうになると風はセイルの上を吹きぬけて行きます。セイルに風の力が加わらない状態になるのです。ですから横倒し近くなっても暫く辛抱しているとヨットがひとりで起き上がります。起きあがったら、すかさずセイルを下ろして、エンジンをかけて帰港するば良いのです。
こういう怖い経験を何度かしました。スリル満点で後から愉快になります。
しかしたった一人で沖に出てもヨットの趣味は危険ではありません。安全な構造になっているのです。ですから仲間は要らないのです。
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上の写真は 流しと2口コンロのある料理コーナーの写真です。
夜になれば港に係留して、キャビンで簡単な料理を作ってビールを飲みます。
眠くなったら、そのままキャビンに蒲団を敷いて寝ます。寒い冬でも泊ります。朝食は上の写真のようにコーヒーとパンだけです。お正月は重箱につめたお節料理を持ちこんで家内と食べて帰ってきます。
係留したヨットが冬の風波で心地良く揺れているのです。
人間は水から生まれたのでしょうか。水に揺れていると何故か原始の自然を想うのです。
普通は一人でビールを楽しみますが、たまには昔の同級生やヨットで知り合った友人を招待して一緒にキャビンやデッキでパーティをします。一緒にレースにも参加します。
デッキやキャビンのパーティは、場所が狭いせいかすぐに打ち解けたパーティになります。お客がシャンパンなどを持参してきます。私はオードブルの大皿を準備します。
ヨットの楽しみ方はいろいろです。仲間を組織化してレースに出場するだけの人もいます。自分流にいろいろな楽しみ方をする人もいます。いろいろな楽しみ方があるのです。ヨットは奥行きのある趣味なのです。
皆様もクルーザー・ヨットの趣味を始めては如何でしょうか?これからセイリング・ボートを自分の趣味にしようとする方々の参考になれば嬉しく思います。
それはそれとして、今日も皆様のご健康と平和をお祈り申し上げます。後藤和弘(藤山杜人)