あれは1969年の秋でした。南ドイツのシュツットガルトにあったマックス・プランク研究所で働いていた頃のことです。
ある日、デパートの鮮魚売り場に行ったところ、水槽にマスやドイツ鯉を沢山泳がせて売っています。足元のバケツには太いウナギがうごめいています。パッとひらめきました。鰻の蒲焼を作る決心をしたのです。
一番太いウナギを買いながら、何処で獲れたか聞きました。ライン河です。その支流の流れのよどんだところに仕掛けを沈めておくと獲れると説明します。
1番目の写真はドイツの鰻の写真です。
ドイツではウナギは棒状の燻製にして売っています。ハンブルグでは筒切にしたウナギ入りのスープを飲んだこともあります。
しかし生きたまま売っているのは珍しいことです。活きウナギを買って意気揚々と帰宅しました。
しかし蒲焼など作ったことがありません。自宅の台所で2枚におろし、3角形の中骨を切り離し、何とかウナギを開いた形の切り身にしました。
2番目の写真はウナギを割いて蒲焼の下準備が終わった状態の切り身です。
この写真の出典も、https://passaulife.blogspot.jp/2016/06/blog-post_94.html です。
さて次の段階は「蒸し」です。鍋に少し水を入れ、皿に並べた切り身を充分、蒸し上げました。
次は醤油、砂糖、日本酒のタレをつけてオーブンで焼きます。途中、何度もタレを塗り直して、コンガリ焼き上げます。
家中がウナギの蒲焼の美味しそうな香がします。これで出来上がりです。
招待した日本人の青年の前に自慢げに供しました。味の深いドイツビールとともに。
一口、食べた彼が興奮しています。でも無言です。
美味しくて感動しているに違いないと、「どうです。美味しいでしょう」と言いながら私も食べてみました。
兎に角すごく不味いのです。生臭くて嫌な泥の味がするのです。トイレに駆け込んで全て吐き出して、うがいをしました。
席にもどると客の青年が顔をゆがめています。泥臭いウナギを礼儀上、吞み込んでいたのです。
私は謝りました。冷蔵庫の中のチーズとソーセージと上等なワインを持ち出して来て、お客の機嫌が直るように努力したのです。あんなに冷や汗をかいたことがありません。
結論は、ライン河の活きウナギを清い水で数日飼って、泥の臭いを除いてから食べるべきだったので。後日、買ったデパートの鮮魚売り場に行って、「泥臭かったよ」と言いました。そうしたらドイツではお客が自分で泥を抜くものだと昂然と言うのです。食文化の違いは恐ろしいものです。
さてライン河の思い出にはもう一つ船上のワインパーティの楽しかったことがあります。
まずライン河の風景を見ましょう。
3番目の写真はライン河中流の風景です。中世風の古い町並みの後ろの山には一面にブドウ畑が広がっています。個人経営のワイン製造も盛んなところです。水は濁りに濁り、滔々と流れ行きます。3番目と4番目と5番目のライン河の写真の出典は、「 ドイツ ・ ライン川クルーズで見える古城と風景 」、http://blogs.yahoo.co.jp/tommy_poppo/7199351.html です
4番目の写真はライン河から見える中世の古城です。日当たりの悪い北向きの山の斜面はブドウ畑になっていません。
列車は南ドイツと北ドイツを結ぶ鉄道です。何度か乗りましたが車窓から見るライン河も良いものです。
5番目の写真は船上パーティに使ったような小型の観光船が手前に写っている写真です。観光船が2隻写っていますが手前の小型の船にご注目ください。
1978年前後の頃でした。当時、日本とドイツの鉄鋼製錬の研究者が出席して「日独鉄鋼セミナー」を開催したことがありました。
その折にドイツ側が小型の観光船を貸し切って日独の参加者をライン下りに招待してくれたのです。
左右の古城を見上げながらワインを飲む会でした。ドイツ人がワインの味のいろいろを教えてくれました。重い味。フルーティで軽い味。ドライな味、べたべたした味。甘すぎる味。そしてモーゼルワインとラインワインやネッカーワインの違いなどを教えてくれました。酔うほどに彼らが肩をくんで唄い出したのは何とも暗い歌なのです。あとで聞くと高校の寮歌だそうです。
ワインを注ぎ回るのが民族衣装を着た娘さん達です。
6番目の写真はその民族衣装を着た娘さんの写真です。
ドイツの民族衣装の写真の出典は、https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AB です。
彼女達はブドウ農家の子供たちだそうです。アルバイトにこのようにワインパーティで働いているのです。その素朴な感じが周囲の風景をともに忘れられません。
ライン河にまつわる思い出はもっといろいろありますが、今日はこのくらいにしておきます。
それはそれとして、今日も皆様のご健康と平和をお祈り申し上げます。後藤和弘(藤山杜人)