この記事は
2010年8月20日 (金曜日)
南州神社 奄美大島名瀬・芦花部(あしけぶ)=====
2010年8月21日 (土曜日)
『西郷隆盛伝説』 佐高 信(著) のつづきです。
登録情報
文庫: 606ページ
出版社: 学陽書房 (2010/8/10)
発売日: 2010/8/10
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「虫よ虫よ、五ふし草(稲)の根を絶つな
絶たばおのれもともに枯れなむ」
西郷について書かれた本にはよくでてくる詩だ。
虫とは、五ふし草(稲)に寄生する汚職役人のこと。
(奄美ではサトウキビにたかり不正に私腹を肥やす役人を描いた歌がある。)
西郷は、まだ駆け出しの下級役人だった頃、農民に賄賂を要求する汚職役人たちの日常的な不正に苦しむ農民の惨状をみて我慢がならず告発、これを正すよう上司に訴えつづけた。
気弱な上司は「お前の言うことにも一理あるが」、自分ではどうにできないと、辞任してしまう。
その時上司が西郷のためにと詠んだのが上の詩。
この汚職は構造的なもので、おエラ方もすべてご存知。それで年貢の徴収がうまくいけばそれでよいのであった。現在の官房機密費問題とマスコミを想起させるが、この詩の意味を西郷は一生忘れず大事にした。
この詩を、維新の大業を成し遂げたいわば西郷の原点としてこの小説は描かれている。
尊敬する薩摩藩主斉彬に言われた「おまえは薩摩の小さなカエルだ。日本のカエルになれ、世界のカエルになれ」という言葉を胸に、さまざまな体験をしながら成長していく「江戸城無血開城」までの西郷の姿をその他魅力的な幕末の登場人物とともに描く。
しかし、小説の始まりは「沖永良部島のカエル」から始まる。
二度目の遠島となった沖永良部島で西郷は同じ流刑人の風変わりな学者や、島役人や島の人々との交わりと自然の中で「敬天愛人」の思想を育んでいく。
あの原点の「おれの藩における仕事は、苦しむ農民たちを救済することだ」という思いが国事のために奔走するなかで世界に通じる「敬天愛人」にまで高められていく過程の描写は、なかなか読み応えがあった。
著者は公務員としてサラリーマンの経験もあり、個人と組織人との問題についても西郷や高杉晋作やその他の志士たちの仕事を通して考えさせてくれる。その他現在の政治状況につながるテーマなど幅広い現実的な人間観察など盛りだくさんだ。
余談?ながら相撲に関する中岡慎太郎と西郷の次のやりとりをかかげておこう。(小説では西郷は中岡に好印象をもって高く評価している)
「わたくしが思うに、強い兵を養うには相撲を学ばせたほうがよいと思います。これは勇気を養うからです。西郷先生はいかがお考えか」
これに対して西郷は、
「まったく賛成です。林子平(寛政の三奇人のひとり)がこんなことを申したことがありま
す。それは士風を起こすのには、撃剣(げきけん)を三年学ばせるよりも、相撲を一年学ばせたほうがはるかに勝るということです。わたしも中岡先生の説に大賛成です」
奄美大島で約3年暮らした西郷はよく相撲を取って心身を鍛えたり、島の人との交流をはかったりしていたことはよく知られている。
情に棹差すタイブの西郷は後年、「薩摩藩士族の利益保全」に傾き、惜しくも自滅した。
一方、「智に働いた大久保利通は、角が立ち最後は殺された。
ちなみに、
大久保利通の父大久保 利世(おおくぼ としよ)は、沖永良部島代官付役を務めたこともあり、また琉球館付役を勤めていたことから、その役得もあり比較的裕福で、普通の武士にはない開明的な考えもあったことは、幼馴染の西郷にも少なからず影響をおよぼしたことがわかりやすく描かれていて西郷と大久保の性格の違いやその後たどった人生を考える上で興味深かった。利世は、のちにお由羅騒動(高崎崩れ)に連座し翌年喜界島に流されるのだが。
小説 西郷隆盛 (人物文庫) 価格:¥ 1,029(税込) 発売日:2010-08-10 |