南の島から日本が見える [単行本]
立松 和平 (著)
ジャック・T. モイヤー (著), Jack T. Moyer (原著)
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=====図書館の進一男文庫で偶然に見つけた本。
その前に検索した
沖縄久米島から日本国家を読み解く
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2009-10-01
と似た書名なのも、偶然なので、おもしろい。
出版から、15年もたつのに新鮮。熟読に値するところは、いろいろあったが、以下一例だけあげる。
島に住んでいる動物と大陸に住んでいる動物とでは、サイズに違いが見られる。典型的なものはゾウで、島に隔離されたゾウは、世代を重ねるうちに、どんどん小形化していった。島というところは、大陸に比べ食物量も少ないし、そもそもの面積も狭いのだから、動物の方もそれに合わせてミニサイズになっていくのは、なんとなく分かる気がするが、話はそう単純ではない。ネズミやウサギのようなサイズの小さいものを見てみると、これらは逆に、島では大きくなっていく。島に隔離されると、サイズの大きい動物は小さくなり、サイズの小さい動物は大きくなる。
これが古生物学で「島の規則」と呼ばれているものだ。
(『ゾウの時間ネズミの時間』より)
P158
ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 (中公新書)
価格:¥ 714(税込)
発売日:1992-08
ゾウが大きいことにもネズミが小さいのも理由がある。
簡単に言えば捕食者から身を守るため。
しかしそのためにゾウもネズミも無理をしている。彼らは、哺乳類として無理のない「普通の動物」に戻りたいはずだ。
そこで捕食者の数が少ない島では、「島の規則」 ↑ が働くというわけ。
島ではすべてが平均化する。
日本では特別の大天才が現れなくなった代わりに多くの人が高等教育を身につける機会が増えた。
大陸間の移動も飛行機を使えば、石垣島から与那国島へ連絡船でわたるより容易になった現在、地球そのものが島になっていく。世界は急速に縮んでいき、島になっていったのである。ニュースという名の電波は数時間のうちに全地球を走りまわる。地球は球体なので表も裏もないのであるが、どこか一点で発した声は、システムに乗せれば一瞬のうちに世界中に届けることができる。現代の人びとは世界を狭くすることに喜びを見出しているかのようだ。要するに地球が島となっていったのである。交通機関はもっともっと遠くなり、通信手段ももっと便利になっていくだろうから、この島はまだまだ小さくなっていく。そうすれば「島の規則」が働き、ゾウもネズミも同じ大きさになっていく。ゾウとかネズミとか区別することが無意昧になってくる。島の生き方に学ぶ必要が増してくるのだ。総論としてはこういえるのだが、長い歴史を積み重ねてきて血の濃い島は、深い風土性を残している。風土の壁の奥に血の濃さを染み込ませていて、どんなことをしてもそれを守るうという強い意思がなければ、土地が狭い分だけ外部からやってきたものに蹂躙(じゅうりん)されてしまうだろう。言葉や習慣や宗教感情を幾重ものバリヤーにすることにより、島は魂を守ってきたのだ。私は与那国島をそのモデルと考えているのだが、もちろん近代によって蹂躙されきった島のほうが多いのかもしれない。小さい魚は大きい魚によって食べられる構造は、島同士でも働いている。小さい島が身を守る方法は、身のうちに毒をためることなのかもしれない。与那国島は石垣島に食べられ、石垣島は沖縄本島に食べられ、沖縄は東京に食べられ、日本はマメリカ大陸に食べられる。この構造は戦後一貫したものではあるのだが、与那国島はアメリカ大陸には食べられない。餌とするには小さすぎるからだろうし、身のうちに毒をためていくと同じように、言葉も習慣も宗教感情も独特だからである。そこから学ぶことはたくさんある。学ぼうとする態度の前には土地の大小など関係がないはずである。しょせん地球がひとつの島のだから、島も大陸も今や同じだ。小さな孤島が大陸と鋭く向かい合っている光景を、私は思い描く。これまで時代は大陸的パワーで突き進んできたのだが、これからは島的な繊細で緻密で平均的な時代に望むと望まないにかわわらずはいっていくのだ。島から学ばなければならないことはあまりにも多い。沖縄の南島には、独特の宗教感がある。長いこと向かい合ってきた自然から抽象した観念・・・・
161 島の規則 立松 和平
島の人々のマレビトに対する絶妙な間の取り方。それには方言が大きな力。方言を失ってはならない。
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自信に満ち、自己正義に燃え、今日まで政治的に強大で優位にたったアメリカの一翼を担うWASP(ワスプ White Anglo-Saxon Protestant)であるジャック・T. モイヤー は、言葉では平等を説きながら、実際では矛盾した行動をとる母のWASP主義に疑問をもち「私たちとは違う」人々や文化に興味をもち日本へ、後には三宅島へと向かう。世界中の島の人たちと偏見をもたずに溶け込んでいく経験談には頭が下がる。島に住むわたしたちが耳を傾けるべき提案も数多くある。
各地のリゾート開発に疑問をもち、地元の人が自然を守りながら観光で経済的自立をするためには、教育を含めた長い目でみることが必要という意見にはうなずける。
登録情報
単行本: 229ページ
出版社: 岩波書店 (1995/09)
南の島から日本が見える 価格:¥ 1,835(税込) 発売日:1995-09 |