孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン 緊張が高まるミンダナオ島周辺

2007-08-18 15:47:17 | 国際情勢

(写真はアブサヤフによって首を切られた犠牲者7名 2007年4月20日撮影 “flickr”より By ANG LAGALAG )

フィリピンのミンダナオ島周辺における反政府勢力と政府・国軍の衝突・対立のニュースを最近また目にします。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【8月7日 毎日】
反政府組織「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」と国軍の間で緊張が高まるフィリピン南部バシラン島などで、住民約1万2000人が避難していることが6日、政府対策本部などの調査で分かった。
治安悪化と住民の混乱が南部全体に広がれば、任期満了(10年6月)まで政権の安定を維持したいアロヨ大統領にとって大きな打撃となる。
政府は“和平プロセス”の早期進展を目指す方針だ。
一方、MILFは6日、イスラム過激派を対象に政府が実施するバシラン島での「食糧封鎖」を解除するよう、政府に求めた
MILF側は「食糧封鎖によって一般住民が飢餓の犠牲になるだけ」と主張している。
・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

上記記事の“和平プロセス”とは、MILFとフィリピン政府が03年7月、停戦で合意したことを指します。
04年にはマレーシア、ブルネイなどが参加して停戦監視、和平実現後の復興・経済支援を担当する「国際モニタリングチーム(IMT)」が活動を始めています。
日本政府は06年にIMTへの専門家を派遣、ミンダナオ島への経済支援を表明しています。

和平プロセスのなかにあって今回緊張が高まったのは、“7月10日、MILFとイスラム原理主義勢力アブサヤフの合同勢力が誘拐されたイタリア人宣教師を捜索していた国軍の海兵隊を襲撃し、海兵隊員14人が死亡、うち10人は首を切られていた。”という事件が契機です。
国軍は約5000人の部隊を出して、襲撃に関与したとみられるMILFメンバーの捜索を始めたため、戦闘激化が懸念されていました。


(写真は島内をパトロールする国軍海兵隊 それを見守る水牛に乗った農夫 “flickr”より By charliesaceda )
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【8月17日 AFP】
8月9日にはホロ島で、国軍とイスラム原理主義組織アブサヤフの間で戦闘が発生。
1日の被害規模としては過去数十年で最大となる26人の兵士が死亡した。
これを受けて国軍は、米軍の訓練を受けた国軍部隊の増派を決め、15日、フィリピン国軍の増援部隊約5000人が到着した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ミンダナオ島の反政府活動の中心になっているのは、島中部などに住むモロ人と呼ばれるイスラム教徒です。
フィリピンは全国的にはキリスト教国ですが、ミンダナオ島においても北部はキリスト教徒がもともと居住しており、また、島外から流入する移民・入植者もキリスト教徒であることから、ミンダナオ島においてもキリスト教徒が圧倒的多数を占める現状にあります。
このため、政治的に追いやられた格好のモロ人の反発が強いと言われています。

単に宗教的対立だけではなく、この島の経済の中心が大規模プランテーション(デルモンテ社のパイナップル農場、ドール社のバナナ農場など)であり、農民が農地を失って農場労働者になるという状況から生まれる社会的不安定さ、もっと基本的にはこの地域がフィリピンでも最も貧しい地域であるという事情があるようです。

ミンダナオ島の反政府活動は当初モロ民族解放戦線(MNLF)が中心でしたが、内部抗争を経て、その分派がモロ・イスラム解放戦線(MILF)を結成し、NLFMが政府と停戦した後も抵抗運動を継続して無差別テロなどを行っています。


(写真はMNLFの兵士 “flickr”より By Joe Galvez)

アブサヤフは、ソ連のアフガニスタン侵攻に抵抗してパキスタンで軍事訓練等を受けていたジャンジャラーニがフィリピン帰国後作った組織で、アルカイダやジェマ・イスラミアとの繋がりも指摘されるイスラム原理主義集団です。
指導者死後は強盗や身代金目的の誘拐を繰り返す単なる犯罪組織に変質したとも言われています。
メンバーの多くはMILFなどに合流して組織人員は減少し、更に国軍・米軍の掃討作戦で殆ど壊滅状態にある・・・とも言われていたのですが。
また、奇妙なことに本来厳しい対立関係にあるはずのアブサヤフと国軍との癒着(武器弾薬の供与など)も噂されています。
(http://homepage2.nifty.com/munesuke/paraiso-morostruggle-4.html )

おおまかになぞっただけですから詳しいことはわかりませんが、また、フィリピンに限った話でもないと思いますが、結局反政府勢力も国軍も“戦争産業”従事者という同じ立場にあるとも言えます。
紛争が収まり平和になるとその存在価値が薄れ、生活の糧にも困る、従ってなるべく紛争を長引かせたい・・・そんな者も一部には出てくるのではないでしょうか。
そして表向き対立する一方で、裏では奇妙な癒着関係も生じる側面もあるのかも。

長引く紛争で住民の暮らしは更に困窮し、若者の一部にはわずかの報酬で反政府勢力に身を投じる者も・・・

(写真は国軍とMILFの戦いにによる避難民 “flickr”より By Joe Galvez )


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする