孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

コロンビア コカ栽培からの脱却

2007-08-25 14:34:24 | 国際情勢

(写真はコロンビアのコカ栽培農家 “flickr”より By Myles Mellor )

南米コロンビアは治安の悪い国として旅行者には有名です。
年間に誘拐事件が約3000件、殺人事件は約1万7000件発生していると言われていますので、1日に換算すると誘拐が8件、殺人が46件ということになります。
この国で働く外国人は万一に備えて、高額の誘拐保険加入が必要となるとか。
5月27日のこのブログでも取り上げた誘拐をテーマにした映画「プルーフ・オブ・ライフ」、その中の誘拐された人質の環境、誘拐ビジネスの話もコロンビアで発生した実在の事件がモデルです。

8月23日のAFPにこの国の人々の暮らしを紹介したものがありました。
http://www.afpbb.com/article/war-unrest/2270996/2038970
「絶えず身の危険と隣り合わせで生活するコロンビアの人々は、そのストレスを発散させるため、毎週末夜になると街へ繰り出し、パーティに参加する。この国ではパーティを楽しむことが、生きていく上で欠くことの出来ない「方法」なのだ。・・・」とのことです。
パーティ参加者の発言「一分一秒も無駄にできません。明日ここにいられるかわかりませんから。」

外国を紹介した情報はどの程度全体像をあきらかにしたものかわからないのが常ですが、コロンビアで暮す危険についてもよくわかりません。
日本からの観光旅行者もいる訳で、彼らの感想などは「言われているような危険な国ではなかった・・・」といったものが多いようです。
もちろん1週間やそこらの観光と毎日の暮らしはまた別物でしょう。

この国の治安が悪いのは左翼ゲリラ組織、右翼民兵組織の活動が止まないことにありますが、これら組織はコカ栽培農家とつながりコカイン密売を資金源にしていると言われています。
このコカイン密売は大規模な犯罪組織を生み、治安を更に悪化させます。

このコカ栽培・コカイン製造を撲滅するための取組み「コロンビア計画」(農薬・除草剤によるコカ畑の撲滅)と合法作物への転換誘導プログラムについて、“まだまだ小さな一歩ではあるが成果をあげている”という紹介が8月20日AFPでなされています。
http://www.afpbb.com/article/economy/2269680/2033680

「このプログラムに53000世帯が参加している。
コカからの転作に応じると18ヶ月間、月100ユーロが支給される。
転作によって収入は大幅に減るが、武装勢力や軍に怯えることなく安心して生活できると農民は語っている。
これによって、コカインを収入源とするこの地域の右翼民兵組織や左翼ゲリラ組織の力が低下している。
この地域のコカ栽培は6ヵ年で半減した。
しかし、今なお世界のコカイン生産の半分をコロンビアが占めている。」

これだけを見ると将来に希望がもてるような気持ちにもなりますが・・・。
これも“全体像がわからない情報”のひとつです。

特に、コカイン大量消費国のアメリカが強力にバックアップしている「コロンビア計画」による除草剤空中散布は、コカだけでなく他の作物・豚などの家畜までをも壊滅させ、更に人体にも健康被害が及ぶと強い批判があります。
(コロンビア大統領は「人の健康には無害である」と主張していますが。)

その効果についても疑問が投げかけられています。
アメリカの国家麻薬取締り局(ONDCP)は今年6月5日、2006年度報告書を発表。
それによると、「コロンビア計画」による大量の除草剤散布にも拘らず、コロンビアのコカ栽培は、前年比で8%増加、耕作面積は、1万3千ヘクタール増加し全体で15万7千2百ヘクタールとなったそうです。
結局、除草剤散布は「麻薬撲滅にこれだけ力をいれています」というアメリカ国内向けのアピールに過ぎないのではないか・・・という意見もあるようです。

隣国エクアドルは除草剤散布によって、自国内においても農作物・家畜の被害、更に人体への被害が出ていると強く抗議しています。
両国関係は悪化し、エクアドルは米州人権裁判所に告訴する意向であるとも報じられています。


(写真は森の中に切り開かれたコカ栽培のプランテーション
“flickr”より By Mikael Hook )

転作プログラムはしっかり対応すればその効果もあがるかと思います。
どんなに収入が減っても、基本的に人間はrisk loverよりrisk averterの方が多いと思いますので、“安心して暮れせる”ことは収入以上の魅力になります。

しかし、コカ栽培がどうか知りませんが、ケシなどは他の作物が育たない土壌でも栽培できると聞きます。
水利などの他の作物が栽培可能な条件を整えることが必要になります。
また、コロンビアのコカでも、他の作物に転換した場合輸送が問題になるようです。
コカなら密売業者がジャングルの奥でも取りにきてくれますが、バナナなどは運ぶ手段・道路が必要です。

更に、転作した場合の補償金がきちんと払われない・・・というのは論外です。
コロンビアでも「政府にだまされた!」という声を聞くとも言われています。
アフガニスタンでも、ケシ栽培転作のための政府の補償(インフラ整備、種籾の供与など)が実行されず農民の怒りを買い、結局タリバンの支持層を増加させる結果になったとも言われています。
(ケシ栽培中止に報奨金を出したところ、報奨金目当てに大急ぎでケシ栽培を開始した農民も大勢いたそうで、実施方法には十分な配慮が必要です。)

ついでに言えば、左翼ゲリラ等による内戦が絶えないことも、農民が危険なコカ栽培に手を染めることも、コロンビア社会の基本的な構造にその原因があるのではないか・・・と勘ぐってしまいます。

コカインに関しては、406億円相当のコカインを密輸しようとしていた“半潜水艇”(4名が乗船)を米税関国境警備局が発見・拿捕したとのニュースも今月23日にありました。
密輸組織もあの手この手のようです。


(写真はコロンビアのSierra Nevada de Santa Marta国立公園の夜明け 
“flickr”より By Mikael Hook )
コメント
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