孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ジンバブエ  決選投票は6月27日、国内外で続く弾圧・苦難

2008-05-19 14:50:48 | 国際情勢

(ジンバブエの野党MDC活動家 深夜自宅を民兵に襲撃され、頭を棍棒で殴られ、足を斧で切りつけられました。正視に耐えない写真がたくさん投稿されていますが、一番“穏当なもの”という基準でこの写真にしました。 “flickr”より By Sokwanele - Zimbabwe http://www.flickr.com/photos/sokwanele/2475583371/ )

ジンバブエ選挙委員会は5月16日、野党・民主変革運動(MDC)のツァンギライ議長(56)と与党ジンバブエ・アフリカ民族同盟愛国戦線(ZANU-PF)のムガベ現大統領(84)との間で争われる大統領選挙の決戦投票を6月27日に行なうと発表しました。

【続く選挙後の混乱】
大統領選挙は3月29日に行われましたが、結果が公表されないまま、野党は勝利を主張、与党は再集計を要求と混乱が続いていました。
選挙管理委員会は今月2日にようやく、ツァンギライ議長が47・9%、ムガベ大統領が43・2%の得票率で、両者が過半数に届かず「決選投票が必要」との決定を公表しました。

これに対し、既に勝利宣言している野党側は反発、「不正が行われた」と決選投票への参加を拒否する構えを見せていました。
与党・政権側は“再集計”による“時間稼ぎ”で体制の立て直しを図ったと見られており、決選投票を受け入れることを表明。
この間、MDC事務所に警察を強制立ち入りさせ、野党支持者300人以上を拘束、書類を押収するなど野党への弾圧を強めていました。
また、野党支持派に対するムガベ大統領支持派の民兵らによる暴力行為が多発しているとも報じられていました。
一方、アメリカのフレーザー務次官補(アフリカ担当)が「大統領選で勝利したのはツァンギライ議長だ」との見解をしめすなど、欧米各国はムガベ政権への批判を強めていました。

しかし、選管は野党が決戦投票を拒否すればムガベ大統領の再選を確定させる構えのため、ツァンギライ議長は今月10日、滞在先の南アフリカで会見し、大統領選の決選投票に参加する方針を初めて明らかにしました。
議長は「国際的な監視団とメディアによる選挙監視」を条件としています。
また、野党MDCは大統領選後、野党支持者30人以上が死亡し数千人が拷問を受けたり負傷させられたりしているとしていますが、政府はこれを否定しています。

ツァンギライ氏は大統領選後すぐに出国、帰国すれば国家反逆罪を問われる恐れもあるそうですが、支持者が襲撃を受けているにもかかわらず国外に滞在していることについて批判も高まっているとも報じられていました。
今回の6月27日の日程発表を受けて、17日には帰国して選挙活動を再開するとのことでしたので、予定通りならもう帰国していることになります。

【教師への弾圧】
こうした経緯をたどるなかで、ふたつ痛ましい記事を目にしました。
ひとつは、選挙管理委員を務めた教師たちに対する与党側の弾圧です。

****選挙管理委員をつとめた「教師たち」が与党の標的に*****
ジンバブエでは多くの教師が選挙管理委員をつとめたが、第1回投票で破れた与党側から「票を操作した」との疑いを持たれ、教師が襲撃される事件があとを絶たない。
匿名希望のある女性教師は、自分が与党の「指名手配リスト」に載せられたことを話してくれた。
議員がある日突然学校を訪れ、校長に彼女の所在を尋ねた。校長は「そんな者はいない」と追い返してくれたが、彼女はおびえて学校に戻ることもできず、故郷のハラレでひっそりと暮らしている。
ジンバブエでは4月29日に新学期が始まったが、彼女のように学校に戻れずに逃亡する教師は多く、教育現場は混乱をきたしている。ある教師組合は「教師の4分の3が学校に戻ってきていない」と指摘する。 

野党は、「候補者は自分の意思で選ぶ」といった投票の自由をうたってきた教師たちを「わが党のメッセンジャー」と位置づけてきた。
そうした教師の多くが今回の選挙で選挙管理委員をつとめ、「票を操作した」嫌疑で逮捕されたり罰金を科せられたり襲撃にあったりする例が頻発している。
匿名希望の別の教師は、「前週、武装した男たちから襲撃されて」東部のマニカランド州から逃げてきたと語った。自分と間違えられて襲撃された甥(おい)は、重体だという
チグウェデレ教育相は、そうした暴力行為があることは認めたが、政府の努力により事態は沈静化していると強調した。「被害はひどく誇張されている。暴力沙汰は与野党双方が起こしている」とも付け加えた。【5月17日 AFP】
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“投票の自由”は日本では当たり前のことのように感じら、特段意識されることはありませんが、一部の国では未だに“命懸け”にもなります。
先日、新憲法に関する国民投票を行い92%超という賛成票が投じられたとされるミャンマーでは、新憲法への「反対者狩り」も始まったそうです。
軍政は10日の国民投票時に「反対票を投じても罰せられない」としていたが、投票時に登録させた名前と住所をたどり、逮捕しているとか。 【5月19日 朝日】
こうした弾圧が噂になるだけで、人々は脅え、二度と権力側の機嫌を損ねるような投票はしなくなるでしょう。
それが、権力側の狙いでもあるのでしょうが・・・。

【南アフリカでのジンバブエ難民の苦難】
ジンバブエは本来、今回のような政治空白が許される状態にはありません。
何回か取り上げたように、年間10万%超のハイパーインフレーションが進行しており、国民経済は破綻しています。
そうした経済破綻に加えて、上記【朝日】記事のようなムガベ政権の反対派弾圧によって、隣国南アフリカに多くの難民が逃れています
ムガベ大統領は02年の大統領選でも不正を行ったといわれており、今回同様の反対派に対する粛清を行い、国連の報告によると05年7月までに“不法居住者の掃討”とされた警察の活動により70万人が家を失ったとされます。

しかし、南アフリカで彼等を待っているのは、警察による弾圧と国民からの差別です。
南アフリカの教会に寝泊まりするジンバブエ難民の1人は「ジンバブエ人は隣国人としてではなく動物のように扱われる」、「仕事を探しているといっても、相手にされない。苦しむのは当然だという態度をする」と語っています。
【5月11日 IPS】

そんな南アフリカから痛ましいもうひとつの記事が。

****ヨハネスブルクで外国人襲撃、12人死亡 特にジンバブエ人が標的*****
南アフリカのヨハネスブルクで、16日からいくつかの貧困地区で外国人を狙ったとみられる襲撃があり、計12人が死亡した。警察当局が18日、明らかにした。当局は、激化する暴動の収拾にあたっている。
警察当局はこれに先立ち、計6人死亡、50人が入院中で、商店の強奪や車への放火も発生したと発表していた。
前週初めにアレキサンドラと呼ばれる町で暴動が起きたのをきっかけに、ヨハネスブルクのいくつかの貧困地域で、なたのような刃物や銃を持った暴徒が、外国人、特にジンバブエ人を標的として襲撃を行っている。
近年、南アフリカには隣接するジンバブエから大量の移民が流入している。
経済崩壊や政治危機から逃れるためで、その数は300万人ともいわれているが、南アフリカでの犯罪や失業率の増加、食料価格高騰の原因として非難されている。【5月19日 AFP】
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ひとは困難な状況にあると、その困難をもたらした“原因となる人々”を探しがちです。
「あいつらのせいで、いま自分のこの困難がある。」「あいつらがいなくなれば事態はよくなる。」という訳です。
その矛先は、往々にして自分たちより弱い立場の人間に向かいます、今回の難民たちのように。

コメント
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