
(温暖化に抗議する雪だるま達 “flickr”より By wstera2
http://www.flickr.com/photos/sully_aka__wstera2/3256633723/)
最近、温暖化対策として日本の提案している「セクター別アプローチ」に関する報道をいくつか目にします。
そもそも「セクター別アプローチ」とは何か?
正直なところ、未だよく理解できていません。
いくつかこの方式を解説・批判しているサイトで検索すると・・・
この手法の基本的な考え方は,エネルギ利用効率(CO2排出原単位)の改善を目標とするものです。電力や鉄鋼,セメントといったCO2排出量が多い産業分野(セクター)別に,エネルギ利用効率などの改善を目指していきます。セクター別アプローチの考え方が取り入れられれば,世界トップレベルにある日本の省エネ技術の価値は飛躍的に高まります。そして何より,まじめに省エネに取り組んできた者が正当に評価されることになるので,道理が通ります。一方で,セクター別アプローチには排出量の削減を担保できない,という大きな弱みもあります。エネルギ効率が高まっても全体の生産が増えればCO2排出量が増えてしまうからです。・・・このため,セクター別アプローチが登場したとき,特に欧州や環境NGO(非政府組織)は冷ややかでした。
(http://techon.nikkeibp.co.jp/article/TOPCOL/20070628/135035/ )
つまり、次の温暖化対策条約を批准した加盟国は、個々の設備機器(発電所や生産設備)や自動車のエネルギー効率を高めれば、国全体としての化石燃料消費量を削減しなくても良い、という仕組みのようです。
でも会議が開始した途端に、中国やインド等の発展途上国から、この仕組みは、先進国が生産する高効率の機械(発電機や自動車)を強制的に購入させられるのではないかと疑われてしまったようです。
(http://www.asyura.com/07/nature2/msg/616.html )
この手法は先進国の新たな削減目標を決めるための手法として、また現在は削減義務を負っていない中国やインドなどに対策の強化を促すものとして提案されました。
セクター別アプローチでは、各国の産業を電力や鉄鋼、セメントなどの部門に分け、部門ごとに今後削減できる量を計算します。これを積み上げて先進国の新たな削減目標を設定するほか、経済発展を遂げた途上国に対しては、指標を元に技術の移転や資金協力を進め、世界全体の温室効果ガスの削減を目指しています。
(http://www.janjanblog.jp/user/stopglobalwarming/post2012/13511.html )
ごく簡単に言えば、業種や分野(セクター)ごとに効率を向上させて達成しうる潜在的削減可能量を計算し、それを積み上げて国別の総量目標を決める方法論だ。日本政府は、発電や製鉄、セメント、運輸など8分野を「考えられる対象」として例示、製品1トンあたり、輸送量・距離あたりなどでCO2排出量の効率指標をセクターごとに設定し、これを基に削減可能量を算出して国別目標を決めるとしている。
で、考えればすぐに分かることだが、このアプローチでは温室効果ガス排出の総量はなんら規制されない。例えば、鉄鋼の1トンあたりのCO2換算生産効率を20%向上させても、鉄鋼生産の総量が20%以上増えれば排出される温室効果ガスは増える。
(http://plaza.rakuten.co.jp/ecopiecealpinism/diary/200803170000/)
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技術的可能性をベースにして積み上げるこの方式では、EUが目指すような指導的な高いハードルが設定できない、総量規制にならない、途上国は先進国からの技術移転を強いられる不安がある・・・そういった面があるようですが、立場が相反する先進国・途上国双方をとにもかくにも取り込んで、一定の歯止めをかけていける方式・・・そのようにも思えます。
それで、この「セクター別アプローチ」に対する各国の反応ですが、
4月23日、首相官邸で開いたEUとの定期首脳協議で、「セクター別アプローチ」は有用との認識で一致した。協議後に発表した共同プレス声明に盛り込んだ。【4月24日 日経】
外務省は5日夜、福田康夫首相と胡錦濤国家主席の7日の日中首脳会談で「気候変動に関する日中共同声明」をまとめることで両政府が合意したと正式に発表するとともに、声明の骨子を公表した。
声明では、分野別に温室効果ガスの排出量を削減するとした日本の提案「セクター別アプローチ」を中国側が「排出削減を実施する重要な手段」と初めて評価。日中両政府が2013年以降の「ポスト京都議定書」の枠組み交渉に積極的に参加することも確認する。【5月5日 毎日】
地球温暖化防止を目指す国際的枠組みで、日本政府が提唱している「セクター別アプローチ」について、欧州連合(EU)や米国など17カ国の政府関係者と研究者らが8日、パリで意見交換を行った。会議後の会見で、環境省の谷津龍太郎、経済産業省の本部和彦両審議官は「セクター別の積み上げ方式が国別総量目標の設定に有効であると(出席者からの)手応えを感じた」と述べた。【5月9日 毎日】
28日から横浜市で開かれる第4回アフリカ開発会議(TICAD4)で採択される共同文書の全容が10日、明らかになった。日本が提唱する地球温暖化対策「クールアース推進構想」(「セクター別アプローチ」をベース)へのアフリカ側の支持を明記した。具体的には、途上国の温暖化対策に5年間で総額100億ドルを拠出する日本の構想をアフリカ側が「歓迎する」と記した。【5月11日】
一連の報道を眺めると、欧米・中国・アフリカといった、従来立場が異なっていた各国から、“一定の”評価は得つつあるようにも見えます。
なお、「クールアース推進構想」とは、福田康夫首相が1月、世界経済フォーラム(ダボス会議)で提案した地球温暖化対策の新計画だそうです。
その概要は・・・2050年までに世界の温室効果ガス排出量を半減させるため(1)全主要排出国が参加できる国際的枠組みの創設(2)削減数値を国ごとに定める「国別総量目標」の設定(3)産業・分野別に削減可能量を算定し、国ごとに積み上げる「セクター別アプローチ」実施(4)世界全体で20年までにエネルギー効率の30%アップを目指す・・・といったものです。
日本の存在感が薄れていることが言われる昨今ですが(個人的には、敢えて“目立つ”ことにこだわる必要もないとは思いますが)、もとより軍事面は考えておらず、経済力でも新興国の影に隠れがちですので、技術や“あるべき世界の姿に対する”ビジョン・提案・理念・・・そういった面で存在感を示していければと願います。
そうした意味で、いろいろ批判はあるものの、温暖化対策で「セクター別アプローチ」によって各国の利害を調整できるのであれば、珍しく喜ばしい話ではないかと思います。
*****温暖化ガス削減目標******
政府は7月の主要国首脳会議(洞爺湖サミット)を前に、2050年までの温暖化ガスの国内排出量の削減目標を設定する方針を固めた。削減幅は6―8割を軸に調整している。温暖化ガス排出の過不足分を企業間で取引する国内排出量取引制度の導入に前向きな方針も打ち出す。地球温暖化問題が主要議題となるサミット議長国として、自国に高い目標を課すことで国際交渉を主導する狙いだが、達成に向けたハードルは高そうだ。【5月11日 日経】
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京都議定書によって,先進国(ただし米国は離脱)はCO2などの温暖化ガス排出量を削減しなければなりません。
日本は,2008~2012年の第1約束期間の排出量を,1990年と比べて6%削減することを約束しています。
ここ数年の実績は、削減どころか増加しているとも聞きます。
「セクター別アプローチ」、洞爺湖サミット、「クールアース推進構想」はともかく、足元は大丈夫なのでしょうか?