(イタリア 北部同盟の選挙ポスター イタリア語で内容がわかりませんが、アメリカインディアンは“移民”のせいで今の惨状にある・・・とか言っているのでしょうか? “flickr”より by lorenzinhos
http://www.flickr.com/photos/lorenzinhos/2404432909/ )
【南アフリカでのジンバブエ人襲撃】
昨日扱った南アフリカにおける外国人、特にジンバブエ人襲撃が止まないようです。
****南アの外国人襲撃、死者22人 逮捕者は250人以上******
南アフリカ・ヨハネスブルクでは19日、前週から続いている外国人襲撃でこれまでに少なくとも22人が死亡し、数千人の外国人が避難のためコミュニティセンターや警察署に押し寄せている。
南アフリカ経済の中心地であるヨハネスブルクでは、町の至る所で武装した地元住民などが、ジンバブエ人やほかのアフリカ諸国からの移民に暴行を加え殺害している。この外国人に対する暴動は、前週初めにアレキサンドラで発生し、この時は2人が殺害された。警察当局は19日、死者は22人に上っており、250人以上を逮捕したことを明らかにした。
ヨハネスブルク近郊のイーストランドにあるスラム地区では19日早朝、暴動が再び発生し、住宅などが放火され地元住民らが避難を余儀なくされたという。【5月20日 AFP】
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【アパルトヘイトと外国人襲撃】
記事では“前週から”とありますが、外国人襲撃事件自体はもっと以前から発生していたようで、4月28日には以下の記事も目にしました。
*****南ア大統領、外国人憎悪による犯罪撲滅を呼び掛け******
外国人襲撃事件が相次いでいる南アフリカで、ムベキ大統領は27日、外国人に対する憎悪犯罪(ヘイトクライム)を止めなければならないと国民に呼び掛けた。
ケープタウンで、全人種選挙から14年目を記念する「自由の日(Freedom Day)」の祝典に出席した大統領は、「われわれ南アフリカ人は、たまたま外国人だというだけの理由による何の罪もない人々への不必要な襲撃に加担すべきではない」と演説。
「南アフリカ人は(人種隔離政策・アパルトヘイトの経験から)人種差別、性差別、そのほかの偏見が与えうるダメージを充分に理解しているはずだ」と付け加えた。【4月28日 AFP】
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【社会問題の根幹 教育】
上記記事も指摘していますが、「犯罪と失業率の増加」を外国人のせいにする傾向がこうした背景にあると思われます。
しかし、多くの場合「犯罪と失業率の増加」といった表面的な現象は、社会制度自体の歪に由来しています。
南アフリカにおける問題のひとつは「教育」です。
アパルトヘイト(人種隔離政策)が撤廃されて14年たった現在も、白人と黒人間の経済格差が大きく、白人の平均収入は黒人の4.5倍、カラード(混血)の4倍であるとの調査報告が出されています。
その調査書が指摘している経済力の最大の決定要因が「教育」
「黒人は、アパルトヘイトが撤廃された翌日には白人専用ビーチに入ることができたが、教育はそういうわけにはいかない」という訳です。
政府は、14年間の教育格差を埋めようと、黒人が多く通う学校への助成金を増やしたり、アファーマティブ・アクション(黒人の入学を優遇する措置)をとるなどの措置を講じていますが、なかなか事態の改善には至っていないようです。【5月14日 AFP】
【ジンバブエが苦しむ二重の差別】
襲撃対象となっている外国人のなかでも、もっとも被害が大きいのが隣国ジンバブエの人々。
ジンバブエから南アフリカに逃れてこざるを得なかったのは、ジンバブエにおけるムガベ政権の経済的失策、政治的弾圧がありますが、ムガベ政権は自己の失策を人種問題にすりかえるべく、黒人至上主義を打ち出し、白人の農園・企業の不当な接収を行ってきました。
このことが、ジンバブエ経済を更に破綻に追いやっています。
ジンバブエ自国においては“黒人至上主義”よる国家破綻の犠牲となり、逃れた南アフリカでは“外国人が犯罪と失業率の増加をもたらしている”と憎悪の対象となり、二重にいわれなき差別の犠牲になっていると言えます。
南アにみられる外国人憎悪、移民排斥は別に南アだけの問題ではなく、多く(殆ど)の国々が抱える問題です
【イタリア 移民排斥の動き】
最近ではイタリアで政権獲得したベルルスコーニ政権が注目されています。
政権獲得の原動力となったのは、連立を組む極右政党「北部同盟」が得票を倍増させたことです。
「北部同盟」はイタリア北部の6州を南部から切り離し、独立を主張する政党です。
国税を無駄遣いしているとローマ以南を非難する地域主義で、移民も敵視しています。
イタリアへの移民は、80年代までモロッコ、ガーナなどアフリカ、中南米、南アジアからが主でしたが、冷戦後はルーマニアやアルバニア人が増え、最近は中国人が急増しています。
移民が大企業や役所に就職できる機会はまずなく、農業や不安定な商売に就く人が多くなります。
このことが移民と犯罪との接点にもなります。
90年に約100万人だったイタリアにおける移民は07年末、滞在許可者だけで294万。
人口の約5%に当たり、8・8%のドイツや5・7%のフランスに比べればまだ少ない数字です。
ただ、イタリアの場合、6割強にあたる187万人が北部、特に、産業と富が集まるミラノ(人口131万人)やトリノ(同90万人)に集まっているという事情があり、「北部同盟」の移民敵視政策につながります。
【移民のせいで治安が悪化したのか?】
「移民が増加したせいで治安が悪化した」と「北部同盟」は主張しますが、イタリアの殺人事件の被告人数は92年の1441人をピークに減り続け、06年には3分の1以下の442件でした。
ただ、外国人被告は92年から02年に1・8倍に増加しており、全体の殺人件数が減った分、外国人比率が6%から32%に増えています。
就業機会の問題などで移民・外国人が犯罪に関わりやすいのは事実ですが、国全体の治安が彼等のせいで悪化している事実はありません。
しかし、選挙では「治安悪化、外国人犯罪が3割」という主張が一人歩きしたそうです。【5月5日 毎日】
イタリア内務省は15日、同国の警察当局が犯罪および不法移民の一斉摘発を実施し、ルーマニア人多数を含む外国人268人を逮捕したと発表しました。
イタリアでは少数民族ロマ人を含むルーマニア人に対する風当たりが強くなっています。
しかし、ルーマニア人内部では「犯罪などが多いのはロマ人のせいだ」という多数派ルーマニア人による少数派ロマ人に対する攻撃があります。
【憎しみ・差別の構図】
アパルトヘイトに苦しんだ南アフリカ黒人が隣国ジンバブエ人を襲撃する
ジンバブエでは白人敵視政策で対立が煽られる
イタリア人はルーマニア人のせいで犯罪が増加したと主張する
ルーマニア人はロマ人のせいだと差別する
こんな話はどこの国でもあります。
日本も例外ではないでしょう。
移民・外国人を抱える社会が、均質的な社会に比べ多くの問題を抱えるのは事実です。
その克服は難しいものがあります。
そうした事情を踏まえて、移民・外国人への各自の対応がわかれる訳ですが、個人的には「社会が悪いのは移民・外国人のせいだ!」と叫ぶ自分の顔を鏡に映したときに“醜い”と感じるかどうかの“美学”の問題でもあるように思えます。