
(パキスタン政局のキーパーソン チョードリー前最高裁長官 “flickr”より By sarahperacha
http://www.flickr.com/photos/sarahperacha/3857907247/)
パキスタンの政情がはっきりしません。
パキスタンは核保有国ですので、もうひとつの核保有国インドとの関係を含めて、それだけでもこの国の動向は重要ですが、それ以上に、北西部トライバルエリアが隣国アフガニスタンのタリバン・アルカイダ勢力の活動拠点となっており、これら勢力にパキキスタン当局がとる対応はアメリカ・ISAFがアフガニスタンで進める戦い、ひいては世界的な“テロとの戦い”の成否に関わる点で関心を持たれています。
パキスタンは2月の総選挙結果を受けて、故ブット元首相のパキスタン人民党(PPP)とシャリフ元首相のパキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派を中心に、旧与党イスラム教徒連盟クアイディアザム派以外の全勢力が結集する形で3月25日ギラニ首相(PPP)が誕生しました。
もともと“反ムシャラフ大統領”を鮮明にし、親イスラム勢力的なシャリフ元首相と、ムシャラフ大統領との決定的な対立までには至っていない、親米的なPPP、それを率いるザルダリ氏(故ブット元首相の夫)との間にはかなりの“温度差”があり、連立・政権運営には困難が予想されていました。
4月5日のブログでも、ギラニ内閣の発足の経緯、“無難な”スタートについて触れましたが、ここにきて最大の懸案事項であるチョードリー前最高裁長官等判事の復職をめぐって壁にぶつかっているようです。
連立両党は前長官復職には基本的には合意したことになっており、ギラニ首相は、新政府発足後1カ月以内の前長官復職を公約しました。
しかし、すでに1ヶ月以内の復職はタイムオーバーとなっています。
チョードリー長官が復職すればムシャラフ大統領の再選が無効と判断されると推測されており、この問題はムシャラフ大統領の去就に直結します。
また、ザルダリ氏にとっては、自分やPPP関係者の刑事訴追を免除した、ムシャラフ大統領による「国民和解協定」を前長官が「違憲」と断じる恐れがあります。
そういった事情で、ザルダリ氏側は前長官復職に慎重な姿勢を示してきました。
「最高裁長官の任期を3年にする」という提案もされたようです。
現行法では最高裁長官の任期はありません。
任期が3年になると、前長官は任期をほぼ終えており、復職してもすぐに退任を迫られる・・・という仕組みです。
当然シャリフ元首相側は反発しています。
なぜかわかりませんがドバイで、ザルダリ、シャリフ両氏の協議も行われました。
GW明けに連休中の新聞を整理していると「曲折の末、12日に前長官を復職させる方針で一致 ムシャラフ大統領失職の危機」【毎日】と報じられており、「ふーん、そうか・・・」と思ったのですが、“曲折”はいまだに続いており、「パキスタンの反ムシャラフ大統領派連立内閣を構成するパキスタン人民党とパキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派は11日、大統領に解任されたチョードリー前最高裁長官ら判事の復職をめぐり合意できなかった。」【5月12日 共同】とも報じられています。
ムシャラフ大統領により解任された前長官は民主化運動の象徴であり、これを復職させないということは“反ムシャラフ”を掲げる以上は困難です。
しかし、復職はムシャラフ大統領失職(再度の大統領選挙を行っても勝ち目はないとみられています。)、ザルダリ氏の訴追免除に直結する問題で、シャリフ元首相もムシャラフ、ザルダリ両方を一挙に追い落とすべく、連立解消の可能性をみせてザルダリ氏、PPP側に揺さぶりをかけています。
一方、ムシャラフ大統領を温存したいアメリカや軍部が、復職合意に圧力をかけているとの憶測も現地ではささやかれているとか。
復職で合意して大統領失職に至るのか、合意できずに連立解消(その場合は大統領側とPPPとの連立になるのでしょうか)に至るのか・・・難しい選択が迫られています。
イスラム勢力との関係では、ギラニ政権誕生後、自爆テロなどは目だって減少しています。
4月25日に自動車爆弾、5月1日に自爆テロ・・・その2件だけです。
ギラニ首相は国民議会の施政方針演説で、イスラム過激派が武器を捨てるならいつでも対話をする準備ができているとし、「北西部の部族地域が(国際テロ組織アルカイダなど)過激派の温床となっているのは、教育水準の低さや貧困が原因である」と武装勢力との対話を呼びかけました。
これに対し、武装勢力側からは、「米国と手を切るならば(対話に)応じる」との声明を出されました。
ギラニ首相はPPPの方針である“米国主導の対テロ戦争を継続”も明言しており、このイスラム勢力への対応についても、アメリカ寄りのPPP、融和的なシャリフ元首相派・・・と同床異夢の両党が連立していくことの難しさが垣間見えます。
その後、ギラニ首相の対話路線に沿う形で、ブット元首相暗殺の首謀者とされる、タリバン幹部のメフスード容疑者が、支持者に対し攻撃を中止するよう命令しました。
その通達には、「全面的な和平に向け、挑発的な行為を厳重に禁じる。これは最後通達で、例外はない」と記され、命令違反者は厳しく罰せられると警告されています。
アメリカはこのような“対話”の動きを懐疑的に眺めているようです。
ネグロポンテ米国務副長官は「だれがテロリストと交渉できるのか理解できない」と対話路線をけん制しています。【3月31日 毎日】
ただ、パキスタン国軍はタリバン勢力との結びつきが以前から言われていますので、また別の反応があるかも。
メフスード容疑者の停戦指令を歓迎する意向も示しています。【4月25日 AFP】
今後、アメリカとの同盟関係も維持しながら、対話によるテロ対策を成功させることができるか・・・これまた難しい選択を迫られる問題です。