孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  魔女に不可触民、IT社会に並存する闇

2008-05-27 14:48:28 | 世相

(昨年5月 インド・ウッタルプラデシュ州議会選挙において、自身が不可触民であるMayawati氏率いるBSPの勝利を報じる新聞記事。Mayawati氏は州首相となりましたが・・・ “flickr”より By counterclockwise
http://www.flickr.com/photos/xclockwise/530720366/ )

インドという国は同じアジアとは言いながらも、“カレー”に“ターバン”といった類のイメージしかなく、もともと日本人にはあまり馴染みがない国でした。
更に、最近のITを軸にした目覚しい経済発展や中国に対抗するような資源外交、その一方で、なお残存する極度の貧困や宗教対立、また、ときおり伝えられる前時代的な事件や風習、伝えられる情報もアンバランスな感じで、一体的なイメージを掴みづらい国です。
経済格差や非民主的に思えるようなことがらというのは中国からもいろいろ伝えられていますが、「沿岸部と内陸部の格差が大きいから・・・」とか、「まあ、あそこは共産党独裁の国だから、そんなこともあるかも・・・」といった感じで、それなりにイメージを把握できるのですが、インドの場合は、なんだか日本人の想像の域を超えたような部分があるようにも思えます。

“前時代的な事件や風習”ということでは、これまでも、女性の婚資“ダウリー”や寡婦殉死“サティー”の問題(07年7月21日 http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070721 )や不法腎臓密売の問題(3月1日
 http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080301 )などにも触れてきました。

圧倒的な経済格差・貧困は現地のスラムを一瞥するだけで、一介の旅行者でもその凄まじさが感じられます。
ときおり毛沢東主義者が警察を襲撃といった記事を目にしますが、毛沢東主義派は現在インド全29州の半数にまで勢力を拡大しているとかで、その背景に絶対的な貧困・格差があることは容易に推察されます。

****インドの「魔女狩り」がテレビで放送****
【3月31日 AFP】魔女とされたインドの女性が木に縛られ、村民らに殴打される映像が28日夜、テレビで放映された。貧困層の多いビハール州での事件。
地元の報道では事件発覚後、警察が介入し、村民6人が逮捕されているという。
インドでは特に農村地域で、「黒魔術」を実践したとして非難を受け、毎年多くの人が暴行されたり、殺害されたりしている。警察当局によると、24日には東部チャッティスガル州でも、女性が魔女とされ暴行を受けた後死亡。前月には、西ベンガル州の女性が、家族が病気になった後、魔女と疑われ、女性の2人の息子と娘に殺害されている。***********************

“魔女狩り”自体はもちろん日本的感覚では受け入れがたい風習ですが、それがテレビ放映されるということが理解できません。

他の国々からのニュースを含め、最近見聞きした事件で一番衝撃的だったのが次ぎの記事
****病院に処置を拒否されたインドの妊婦、出産後母子ともに死亡*****
【4月26日 AFP】インド北部ウッタルプラデシュ州の病院で処置を拒否され、屋外で出産した女性が24日死亡した。この女性はインドの身分制度で「不可触民」に位置付けられる階層の出身だった。
通信社PTIは、病院の医療管理責任者を含む医師数人が、この女性の出産に際し、触ったり処置を施したりするのを拒否したと報じている。
「不可触民」は「ダリット(Dalit)」とも呼ばれ、法律では差別が禁じられているにもかかわらず、上位身分出身者の多くはダリットとの接触を恐れている。
Mayawati州首相は関係した医師らを停職処分にし、捜査を行うよう命じた。
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医学という高度な教育を受けた者が、人の命を助けることを職業徒する者が、自分と異なる人間として医療を拒否するという、人間の心に巣くう差別の意識を目の当たりにする感じがして背筋が寒くなります。
インドにおけるカースト制度や不可触民“アンタッチャブル”については、万巻の書があるところであり、私は一片の知識も持ち合わせていませんので、これには立ち入りません。
ただ、彼等を神の子と呼んだガンジーをもってしても、また、経済成長・都市化といった社会の変容をもってしても、人の心に染み付いた差別の意識を拭うことはできないのか・・・と思うだけです。

ウッタルプラデシュ州はインドでも最も人口の多い州で、その数は1億7千万人あまり・・・日本より大きな人口です。そして、皮肉なことに、記事にも出てくるMayawati州首相というのは、彼女自身がDalit不可触民である女性です。
昨年5月の州議会選挙で彼女が率いるBahujan Samaj Partyは上位カーストの支持も取り付け、予想に反して第1党に躍進しました。そして彼女は州首相になったようです。
Mayawati州首相の政治実績・方針については全く知りませんが、あるサイトで「ヒンドゥー至上主義者とも手を組む、危うい政治的綱渡りをしている権力政治家である」との評価を目にしたことはあります。

もちろん、インド社会が“差別”を放置している訳ではありません。
人の心の内側に入り込むことはできませんが、目に見える部分での差別をなくしていくべく施策を行ってはいます。しかし、日本でも見られることですが、差別解消の取り組みが屈折して、そのような取り組みを利用した自己利益追及に変わってしまうこともあります。

****「最下層カースト優遇」求め暴動、31人死亡 インド******
【5月26日 朝日】インド西部ラジャスタン州で23~24日、最下層のカーストの人々に与えられる優遇策を州政府に求める少数部族のデモ隊が暴徒化し、地元報道によると、警察の発砲で少なくとも30人が死亡、デモ隊の暴行を受けた警官1人も死亡した。
インドでは、カースト制度で「不可触民」と呼ばれた最下層の人々と、生活水準の低い少数部族を、それぞれ「指定カースト」と「指定部族」と定めている。両者は人口の2割を占め、公務員の採用や国立大学の入学で優先枠が与えられる。
同州で人口の約5%を占めるグッジャール族が、自らも指定部族にするように州政府に要求。数千人が23日から、こん棒などを持って鉄道や幹線道路の封鎖を始め、制止しようとする警察と衝突した。
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強烈な日差しのもとでむき出しの生と死が織り成すインド社会のカオスは、日本的な穏健で秩序だった感覚では掴みかねる部分があるようです。

コメント
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