
(カトマンズ ダルバール広場 05年12月の反王政集会 “flicakr”より By thecnote http://www.flickr.com/photos/thecnote/73166215/)
【レバノン】
複雑な宗派が入り組む“宗教モザイク国家”であるレバノンは、大統領はキリスト教マロン派、首相はイスラム教スンニ派、国会議長はシーア派からの選出が決まっているなど、宗派に応じてポストや議席数を配分する独特の「宗派主義体制」をとっています。
そのレバノンでは昨年11月以来、議会で欧米や多くのアラブ諸国が支持する多数派とシリア・イランが支持する野党勢力(シーア派ヒズボラなど)が対立して、大統領を選出できない状態が続いていましたが、ようやく新大統領選出・組閣に至りました。
新大統領の人選自体については与野党間で合意していたのですが、ヒズボラなどの野党連合は、新大統領就任後の次期内閣の閣僚構成について、内閣の決定に拒否権を行使できる3分の1以上の閣僚ポストを求め、これを拒否する与党側との交渉が膠着していました。
【武力衝突】
今月8日には首都ベイルートで与野党間の武力衝突が発生。
かつてのレバノン内戦再発を懸念させる深刻な事態になりました。
ヒズボラ側はこれまでの政治的な駆け引きに実力行使を加え、力を誇示しようとする狙いがあったようです。
戦闘・武力の面では、06年夏の第2次レバノン戦争をイスラエル相手に互角に戦ったヒズボラの独壇場です。
ヒズボラなど親シリア派は9日、反シリア派の有力指導者ハリリ氏(スンニ派)が所有するテレビ局や新聞社を占拠し、放送・発刊停止に追い込んだほか、イスラム教徒居住区・西ベイルートの反シリア派拠点の大半を制圧しました。
その後も紛争は首都以外に飛び火しましたが、13日、それまで緊急事態宣言も出さず中立の立場をとっていた軍が、“秩序回復のためには武力行使も辞さない”と警告、事態は落ち着く方向に動き出しました。
結局、6日間で首都ベイルートを中心に少なくとも62人の死亡、200人近い負傷者を出しました。
【ドーハ合意 “力”の勝利か】
与野党の交渉は、アラブ連盟が仲介するかたちでカタールのドーハで行われ、21日に挙国一致内閣成立へ向けての“合意”がなされました。
野党側は、合意を受けて成立する新内閣で「重要問題」をめぐる閣議決定に拒否権を行使できる11閣僚(閣僚数30)を獲得しました。
結局、ヒズボラによる西ベイルート制圧にも発展した“力の誇示”が成果をもたらしたようです。
憲法では、閣僚の3分の1以上を欠く内閣は正統性を失うと規定しており、野党勢力の閣僚全員が辞任すれば内閣は存続できなくなります。
今回のドーハ合意は新政権の閣僚に「辞任しない」と宣誓させるなど、「倒閣カード」を防ぐための一定の対策も盛り込んだそうです。
また、「政治的対立に暴力を持ち込まない」ことも確認。ヒズボラなどの「実力行使」に歯止めをかけたそうで、アラブ連盟のムーサ事務局長は「勝者も敗者もない」と強調していますが、どうでしょうか・・・・。
対立が先鋭化すれば、「辞任しない」とか「政治的対立に暴力を持ち込まない」とかいった合意がどれだけの意味を持つものか・・・。
“合意はほぼ野党側の主張に沿い、部分的に野党側が譲歩した内容”【5月22日 産経】といったところでしょう。
ただ、野党ヒズボラ側の強みは武力だけでなく、選挙を行えば野党のほうが勝つと言われるように“民意”を得ている点にもあります。
与党側のこれまでの交渉における手詰まり感もそこにありました。
【ネパール 毛派をめぐる問題】
一方、民意を得て選挙戦に勝利したものの、組閣が難航しているのがネパールの毛沢東主義派。
単独過半数には届かないので組閣には連立が必要で、選挙後からコイララ首相のネパール会議派(110議席)、統一共産党(103議席)との連立政権協議を続けていますが、会議派、統一共産党とも、旧反政府武装勢力の毛派主導の政権への参加に党内で異論が多く難航しています。
毛派は武装解除には応じたものの、依然兵力を維持しています。
各政党に毛派への警戒感は根強く、今後、毛派兵士の処遇などをめぐって対立が深まる可能性も指摘されています。
そもそも、これまで毛派は王制廃止以外には明確な政策を示しておらず、どういう政権運営を目指しているのか不明です。
一応、複数政党制と市場経済を尊重するとはしていますが・・・。
【難航する連立、人事】
制憲議会では、王政廃止は決定しましたが、軍の最高指揮官の権限を新設する大統領と首相のどちらに与えるかなどをめぐってはかなりの綱引きがあったようです。
これまでの経緯、不明確な政策などを考えると他政党が連立をいやがるのもわかりますが、急に力をつけた新参者への嫌がらせというか妬みというか・・・そういった感じも。
まあ、そんなことは“下衆の勘ぐり”というものでしょうから、まずは民意を尊重して連立を組んでやってみることでは。
その後のことは、これからのことを見た上で・・・ということで。