孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  アヘン生産激減、女性の権利

2008-05-29 17:40:12 | 世相

(アフガニスタン 自分のラジオ番組のインタビューをするブルカの女性 “”より By knottleslie http://www.flickr.com/photos/34897016@N00/2424047237/)

アフガニスタンの全般的な情勢はどうなっているのでしょうか?
掃討作戦とか自爆テロの断片的な記事は時々目にしますが、タリバンを抑えつつあるのか、逆にアメリカ・ISAFが追い込まれつつあるのかよくわかりません。

【最近のアフガニスタン 住民避難とテロ】
“断片的な記事”として最近目にしたところでは・・・

****アフガン南部で住民最大6000人が避難=NATO部隊の掃討作戦恐れ
【5月13日 時事】アフガニスタン南部(ヘルマンド州のガルムセル)でNATO主導部隊が反政府勢力タリバンに対する大規模な掃討作戦を展開するなか、NATO部隊の攻撃を恐れて最大6000人の住民が避難している
国連はこうした避難民を支援する用意があると発表しているが、避難民の数はつかんでいない。
掃討作戦は4月28日に開始され、米海兵隊と英軍部隊が作戦を主導している。
NATO部隊によると、ガルムセルは隣国パキスタンからアフガンへの反政府勢力の通路になっている。パキスタンの対アフガン国境沿いには、反政府勢力の複数の基地があるとされている。
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自爆テロ関連は断続的に入ってきます。

*アフガニスタン南西部ファラ州デララムで5月15日、買い物客らでにぎわう市場で女性の伝統衣装のブルカを身に着けた女性とみられる人物が自爆し、警察官4人を含む16人が死亡した。
*アフガニスタン南部のカンダハルで5月25日、NATO主導のISAFの軍用車を狙った自動車による自爆攻撃があり、ISAFの兵士3人が負傷した。また地元の警察によれば、この自爆攻撃で少なくとも子ども2人も負傷した。
*アフガニスタン各地で5月27日、タリバンによるとみられる警察施設などへの攻撃や道路脇に仕掛けられた爆弾の爆発が相次ぎ、市民ら計24人が死亡した。(南部カンダハル州で警察施設などが攻撃され、警察官や子ども計12人が死亡した。中部ロガール州でも爆弾の爆発で警察官4人が死亡した。また西部ファラー州では乗り合いバスが爆弾の爆発に遭い、乗客ら8人が死亡した。)

少なくとも“治安が回復”というような状態にはないようです。
そんなアフガニスタンで明るいニュースがひとつ。

【アヘン生産が激減】
****アヘン生産が激減へ=アフガン対麻薬担当相*****
【5月28日 時事】アフガニスタンのコダイダード対麻薬担当相は、同国34州のうち約20州でアヘン生産を停止したと宣言する見込みであることを明らかにした。アヘン生産をやめたのは2007年は13州で、06年は6州だった。
同相は、昨年、全世界のアヘン生産の93%を占めていた同国の生産が、今年は大きく減少すると予想。農家や地元当局者にアヘン栽培をやめるよう説得するとともに、補償措置を約束したことが、奏功したと指摘した。
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アフガニスタンではこれまでアヘン生産がなかなか減らず、記事にもあるように世界アヘンの大部分を供給する拠点となっていました。
アヘン生産・取引には、かつてはアヘン生産を禁止したタリバンが絡んでおり、このアヘンから得られる利益がタリバンの攻勢を支える大きな資金源になっているとも言われています。
その意味で、今回の発表が実態を伴う事実であれば、タリバンの活動資金を抑えることにもなり、カルザイ政権の将来に関わります。

また、“補償措置を約束”云々が事実なら、カルザイ政権の施策が一定に機能した、人々に信頼されたということにもなり、そのことも重要なポイントになります。
これまで、アヘン生産を止めるように“説得”だか“強要”だか“実力行使”だかがなされても、農業インフラが破壊されている地域の農民はアヘン以外につくれるものがない事情、政府は補償を口にしても実行してくれないという不信感がありました。

農民への補償措置をきちんと実行してアヘン生産を減らすことができれば、今後のアフガン統治にも幾らかの希望が持てます。
各国の支援も軍事だけに偏らず、こうした面での施策を援助していくことが、アフガンの安定化へ至る道筋ではないかと思います。

【アフガンの戦闘は何のため?】
それにしても、今更ではありますが、アフガニスタンでの戦闘はなんのために行われているのか?
アメリカにとっては明確で、9.11への報復であり、テロ集団アルカイダとそれを支持するタリバンとの戦いということでしょう。
日本を含め他の参加・協力している国々も、このアメリカを支援して・・・ということなのでしょうが、当初ISAFは治安維持・復興促進を目的としていたのが、思わぬタリバンの復活・攻勢によって、イラクに足を取られたアメリカに変わってアフガンでの対タリバン戦闘の矢面に立たされている・・・というような感もあります。

個人的には、もちろんテロを容認する訳ではありませんが、9.11は他国にいつも爆弾の雨を降らせているアメリカにとって、“痛み”を知る機会にもなったのでは・・・と思うところもあり、9.11報復だけでアフガンでの戦闘を支援する気持ちにはなれません。
さりとて、“タリバンでもいいじゃないか”とも言いがたい思いもあります。

【タリバン支配】
テロ云々より、正直なところ、あまりにも日本の今日的価値観とはかけ離れた“タリバン統治”に対する拒否感・嫌悪感があります。
文字どおりのイスラム原理主義に部族社会の前時代的封建性をミックスしたようなタリバン統治のもとでの息をひそめるような生活は、アフガン国民が望んでいるものではないのでは・・・との思いもあります。

****パキスタン:石打の刑-タリバン復活の兆し*****
アフガニスタンと国境を接するパキスタン辺境の部族地域で、駆け落ちした男女を石打の刑で処刑したのはタリバン支持者だったと、タリバンが認めた。石打の刑はいわゆる「名誉犯罪」に対する昔からの処刑方法だが、この地で行われたのは初めてである。
「タリバンが運営するガジ(宗教)法廷はこの男女を姦通の罪で有罪とし、石打の刑による死刑という判決を下した。」と、タリバンのモハマド・アサド広報官はIPSの取材に応じて語った。処刑はタリバンが判決を言い渡した2週間後の4月1日に執行された。
パキスタンの人権組織は、部族の古い慣習である「名誉殺人」が、タリバンによって銃殺よりも残酷な死刑方法を宣告されるという新たな事態を憂慮しているようだ。
ペシャワールの法律家であるヌール・アラム・カーン氏によると、最近でも「名誉殺人」と呼ばれる家族に恥をかかせたという理由での処刑が行われている。
「厳格な父権制の社会では、妻、娘、姉妹、母はちょっとした性的無分別さ(家族の承諾なしに結婚した・・・とか)とわずかな姦通の疑いで殺される」とカーン氏は説明した。【5月28日 IPS】
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2005年に刑事裁判法が改正され、賠償金に応じるといった示談により和解後に犯罪者を無罪放免とすることが阻止されるようになったそうですが、裁判所・警察にあっても実際には厳格には機能していないようです。
ある裁判長は「後進地域では女性が劣った市民として扱われ、名誉に関連した殺害などの非人道的慣習がいまだに行われている。これはイスラムの教えに反するとともに国の法律にも違反している」と語っていますが、社会全体に受け入れられてはいないようです。

【受け入れらない女性軽視社会】
もちろん“石打の刑”のような残酷さは、べつにタリバン・イスラム社会に限った話ではなく、日本も含め、どんな社会も過去に遡れば同様のものは見出せます。
今現在も行っている社会もあるでしょう。

名誉殺人にしても大同小異のことは、他の封建社会・家社会にはあるのでしょう。

ただ、教条主義的なイスラム原理主義に峻烈な部族社会の掟が加味されたタリバン社会における、人類の半分を占める女性に対する扱いは、どうしても今日の日本的価値観からは受容できないものを感じます。
“たわいもない”(日本的価値観にすればの話ですが)理由による名誉殺人にしてもそうですが、全身を覆うブルカを強要するだけでなく、そもそも保護者なしでは女性ひとりでの外出も認めない・・・そうした世界は、あまりにも身勝手な男性中心のルールを女性に押し付けているように思われます。

そんな男性中心の発想を物語るひとつの記事。
****マレーシア公立校の制服は「セクシー」過ぎる、イスラム系団体の非難に反論****
【5月28日 AFP】マレーシアの公立学校の制服が「セクシー」過ぎて性犯罪を誘発するとの非難をイスラム系団体から受けた問題で、同国のヒシャムディン・フセイン教育相は、制服には責任はないと反論した。
ことの発端は、イスラム系学生協会が前週、白いブラウスに胸当てのついた青いスカートという公立学校の制服を、薄すぎて「男性の気を散らす」と非難したことだった。
この団体は、「性的暴行やセクシャル・ハラスメント、10代での婚前交渉など」の社会悪を避けるには、イスラムの教えにのっとり「(体の線を)隠す」ことが重要だとしている。
これに対しフセイン教育相は「わたしの知る限り、性犯罪者の主な動機は衣服ではない。もっと根本的な問題がある。性犯罪の原因として、女性や子ども、彼らの着ている衣服を責めるのは不当だ」と述べ、公立学校の生徒や制服の責任転嫁するのは間違っているとした。
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フセイン教育相の意見に一票。
確かに、オスにとってメスはその気をひく存在ではありますが、そこで起こる問題は基本的には問題を起こす男性の側のモラルの欠如・女性の人権軽視あるいは信仰の弱さが原因であり、それを女性側に責任を押し付ける発想はどうもいただけません。
イスラムを蔑視するつもりはありませんが、こうしたあまりに無邪気な男性中心主義はなんとかならないものかと思ってしまいます。


コメント
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