(アマゾンの熱帯雨林と開発地 “flickr”より By leoffreitas
http://www.flickr.com/photos/leoffreitas/447619461/)
【地球の肺】
自分自身のことでも、社会の出来事でも、まともに考えると大変な話だけども、とりあえず今はなんとかなっている、解決の方法がすぐには見つからない、考えると鬱陶しくなる・・・そんな事情であまり考えない、見て見ぬふりをする、そんな問題がたくさんあります。
ブラジル・アマゾンの熱帯雨林破壊の問題もそのひとつでしょう。
アマゾンの熱帯雨林は「地球の肺」ともよく言われます。
地球上の酸素の3分の1を供給しており、また、世界の二酸化炭素の4分の1を酸素に変えているそうですから、「地球の肺」という表現は例えでも誇張でもなんでもなく、文字通りの意味として受け取るべきでしょう。
そのアマゾンで森林破壊が進行していることも多くの者・機関が以前から指摘・警告しているところです。
昨年12月インドネシアのバリ島で開催された国連気候変動枠組み条約の第13回締約国会議(COP13)でも、国際自然保護NGO、世界自然保護基金(WWF)が、森林破壊と気候変動によって2030年までに、アマゾンの熱帯雨林の最大60%が消滅または破壊され、世界各地に連鎖的に影響を及ぼすと警告する報告書を発表しています。
(すでに原生林の約20%は違法伐採や開発などで失われたとも言われています。)
温暖化による気温上昇はアマゾンの干ばつを招く危険があるとされています。そうなると熱帯雨林が減少し、それがCO2吸収減少となって更に温暖化を加速させるという悪循環に陥ります。
この森林の減少を加速させているのが人為的な森林破壊です。
アマゾンの森林減少の主な原因として、森林を大規模なウシの放牧地に転換するための山焼きと、大豆栽培のための農地拡大をWWFは指摘しています。
ウシの放牧にしても、大豆生産にしても、私達自身の生活と無縁ではありません。
【私達の暮らしとアマゾン破壊】
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たとえば、牛肉。熱帯林の消失の8割が牧場の造成によるものといわれ、ここで造られた肉牛はハンバーガーやペットフードとして先進国へ輸出されてきました。欧米でBSE問題が発生して以降は、感染の危険のないブラジル産牛肉の需要が一層高まり、アマゾンでも肉牛を飼育する牧場の造成がさらに進んでいます。これらの多くも先進国へと輸出されます。
たとえば、大豆。ブラジルは米国に次ぐ世界第2位の大豆供給国です。みそ、醤油、納豆、豆腐など、大豆製品を口にしない日はないほど、日本人の暮らしに欠かせない大豆ですが、自給率はわずか4%。その多くを輸入に頼り、75%がアメリカから、13.5%がブラジルからやってきます。ブラジル産大豆はアメリカや中国にも輸出され、加工食品となって日本にも輸入されていると考えると、その割合は数字に表れているより高いでしょう。その畑を造るためにもアマゾンの森が切り開かれています。【07年6月19日 All About】
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更に、最近懸念されているのが、ブラジルで加速しているサトウキビからのバイオエタノール生産の影響によるサトウウキビ栽培拡大目的の森林開発です。
ブラジルは世界一のバイオエタノール輸出国であり、先進国の“環境にやさしい生活”を実現するために、アマゾンが切り開かれていくという不安もあります。
もっとも、ブラジル政府は“サトウキビ栽培用地はきちんとコントロールされており、森林破壊にはつながらない”と主張していますが・・・。
【ブラジル政府:“自らの手で”】
こうした事態から、アマゾンの熱帯雨林保護が指摘されているのですが、ブラジル政府は“アマゾンはブラジルの資源であり、ブラジルの責任で処理する”という立場で、国際的な枠組みを課されることには強く抵抗しています。
まあ、ブラジルの立場に立てば当然とも言えます。
牛肉にしても、大豆にしても、エタノールにしても、自然保護を声高に叫ぶ国々は自分達はそのメリットを享受しておきながら、そのつけだけ生産国ブラジルに押し付けてくる、開発規制をかけることで現地住民の生活に負担が課される・・・ということであれば反発も当然です。
ブラジル政府もアマゾンの開発規制に取り組んでいることは間違いありません。
******ブラジル、アマゾン保護基金を設立*****
【8月2日 AFP】ブラジル政府は1日、アマゾンの森林破壊防止のための国際的な基金「アマゾンファンド」を設立した。
今後13年間で最大210億ドル(約2兆2000億円)の資金を集める計画。ブラジル国立経済社会開発銀行が集まった資金の管理とこの資金によるプロジェクトの監視を行う。
初年度の資金受け入れの上限は10億ドル(約1100億円)。カルロス・ミンキ環境相は、ノルウェーが最初の出資者として9月に1億ドル(約110億円)を拠出することを明らかにした。ノルウェー以外にも基金に関心を示している国や企業があるという。
BNDESによれば出資は「自発的に行われ」、出資者は資金の使途について発言権はなく、また出資したことによる税の控除やカーボンクレジットなどの便益もないという。
一部の環境保護団体は、ブラジルのアマゾン保護策は不十分で、外国の関与も検討すべきだと主張してきたが、この基金の設立は、アマゾンの保護はあくまで自らの手で行うというブラジル政府の姿勢を示すものとみられる。
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今年6月には、ブラジル政府はアマゾン流域での違法なウシの飼育を取り締まる方針を明らかにしました。
アマゾン流域では、人口の3倍に相当する推定7300万頭ものウシが飼育されており、総面積の約8%に当たる約410万平方キロが放牧地として開墾されています。
この多くが、熱帯雨林の破壊につながる違法な開墾とされていることもあって、ブラジル政府は発見次第、ウシを没収する強硬手段を取ると報じられています。【6月6日 産経】
なお、温暖化をめぐっては家畜の“げっぷ”に含まれるメタンガスが温室効果をもたらすとして問題視されており、削減に向けた研究も進んでいるとか。本当でしょうか?
昨年6月には、ブラジル・アマゾン州が、アマゾンの森林破壊や環境劣化を抑制する手法として、温室効果ガスの排出削減クレジット(カーボン・クレジット)を他国政府や企業などへ売却し、資金を温暖化対策に振り向ける姿勢を打ち出しています。(その後どのように機能しているのかは知りません。)
一昨年12月には、ブラジル北部に位置するパラ州で、州知事が世界最大面積となる熱帯雨林を保全地域に指定する法令に署名しました。
この熱帯雨林はアマゾン川北部に位置し、広さはバングラデシュの国土面積とほぼ同じで、約15万平方キロメートル。法令によると、この保全地域の3分の1は、熱帯雨林の再生活動のため完全に立ち入り禁止。残りの3分の2では、政府の厳しい規制・制限が設けられているものの、木材の伐採や他の産業活動を営むことができるそうです。
もっとも、ブラジルの有力紙グロボは先月6日、アマゾンの熱帯雨林の違法伐採について、昨年は全体の22%が先住民保護区など政府管轄地で起きたと警告する政府の内部文書を報じており、単なる法律上の規制だけでなく、実効ある措置・対応がブラジル政府には求められています。
【地元に配慮した持続可能な仕組みを】
それは、強権的に押さえつければいいというものでもないでしょう。
05年6月、ブラジル連邦警察と検事当局は違法伐採を取り締まるクルピーラ(ブラジル民話の森の守護者)作戦を実施しました。
警察は100人近くを拘束し、「犯罪に関わった」容疑で174人を告発した。主たる容疑は、環境保護当局から企業への(違法伐採された木材の搬出と売買を許可した)偽文書の偽造・販売でした。
しかし一連の取り締まり措置は、(本来の取り締まりの対象である犯罪者に留まらず)合法的に伐採事業に従事してきた業者をも追い込む結果となってしまいました。
また、ブラジル環境庁(IBAMA)は一切の木材搬出許可を「一時保留」としたため、収入手段を絶たれた木材産業は行き場を失い、多くの労働者が解雇され会社が相次いで閉鎖される事態に陥ったとも言われます。
やみくもに禁止するだけでは、“禁酒法”のように水面下の不正を増大させる結果にもなります。
何より、現地で生活している人々の暮らしと両立しうるものでないと長期的継続が見込めません。
ブラジル政府主導で施策を実行するということであれば、国際社会はこれを資金的にも後押しして、単なるパフォーマンスではなく、住民・地元企業の経済合理的行動の結果、森林資源も同時に保護されるような長期的に持続可能な仕組みを構築していく必要があります。
そうした取組みをサボっていると、そのうち私達は酸欠で口をパクパクさせている金魚鉢の金魚のようになってしまうのでは・・・と言えば言いすぎでしょうか。