孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

バングラデシュ  海面上昇による陸地減少はないかもしれないけれど・・・

2008-08-08 16:55:22 | 世相

(ガンジス川の真の水源、ヒマラヤのGaumuk氷河 岩のように黒く見える正面部分が氷です。 “flickr”より By huggy47
http://www.flickr.com/photos/huggy47/2592276899/)

【増加する陸地面積】
昨日、面白い記事を見ました。
バングラデシュの陸地は今世紀末までに消滅するとの予想もこれまでありましたが、実際には陸地面積が増えていることが最近のデータにより判明しているそうです。

海面下に沈むとのこれまでの予測は次のようなものでした。
“国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の予測によると、200本以上の川を有するバングラデシュは、2050年までに地球温暖化による海面上昇で陸地の17%を失い、環境難民が2000万人発生し、食糧生産高が30%程度減少するという。さらにNASAゴダード宇宙研究所のジェームズ・ハンセン所長は、バングラデシュは今世紀末までに海底に沈むとの厳しい予想をたてている。”

しかし、これらの予測は「川の堆積物による陸地の形成を考慮に入れていない」との指摘です。
“ダッカの環境地理情報サービスの研究者らは、過去32年間の衛星画像を調査した。すると、バングラデシュの陸地面積が年間で20平方キロずつ増えていることが明らかになったという。
CEGISのサーカー氏は、ヒマラヤ山脈を水源とするガンジス川とブラマプトラ川で押し流された堆積物が陸地面積の増加の要因だとみている。
バングラデシュ中部で合流するこれら2つの川が運ぶ堆積物は、年間10億トン以上に及ぶ。そして、その大半が河口のベンガル湾岸に堆積し、新しい陸地を形成しつつあるというのだ”

“バングラデシュ水資源開発委員会のラフマン氏も、サーカー氏と同意見だ。
「専門家らは、この10年間、バングラデシュは海中に沈むと主張し続けているが、これまでのところ、それを裏付けるようなデータはない。川の堆積物は、今後数十年間、いや数百年間、河口に堆積し続けるだろう」
ラフマン氏によると、1950-60年代に湾岸に建設された複数のダムが堆積作用に拍車をかけている。新しいテクノロジーも併用すれば、堆積プロセスのスピードアップが図れると同氏は言う。”【8月7日 AFP】

陸地が減るのか、増加するのか・・・よくわかりませんが、衛星画像で実際に増えているというのであれば・・・・。
減るより増える方がもちろんいいですが、増えた土地が実際に使える土地なのかも問題ですし、今現在現実に進行している河川の侵食で削られている河岸耕地への対策も重要です。

【洪水より水不足】
バングラデシュというと例年洪水が発生し、水没した農地の写真などをよく目にしますので、その連想で“海面上昇によって水没”というシナリオはイメージしやすいところがあります。
また、同時に、“バングラデシュは洪水のように水が溢れている国”とのイメージもありますが、こちらの“常識”にも注意が必要のようです。

もちろん洪水被害は多いのですが、バングラデシュが抱えている問題は実は洪水ではなく“水不足”だとの指摘があります。
一昨年バングラデシュを旅行した際に、現地の方がそのようなことを言っていました。
渇水期になると大河ガンジスも歩いて渡れるようになるとか。
これは、上流にインドがダムを建設し、バングラデシュ側に水を流す門を約束どおりに開けていないからだ・・・とのことでした。
ダム建設、流域での農業等への水利用などで河川の水量が減少しているのはガンジス川に限らず、中国の黄河や揚子江でも懸念されている問題です。
水をめぐる国家間の争いは、今後の世界情勢を決める重大なポイントのひとつになることが予測されています。

【ヒマラヤ氷河減少】
この問題を加速・深刻化させそうなのが、やはり温暖化の進行によるヒマラヤ氷河減少の問題です。
ヒマラヤ氷河については、先日NHKで番組を放映していました。
ヒマラヤ氷河が溶けやすいのは、同地域の氷河が夏場に降雪する雪から形成されるものであるため、僅かの気温上昇によっても雪が雨に変わり、氷河形成が妨げられることによるためとか。
その点、ヨーロッパアルプス氷河は冬場の雪によるので、多少の気温変動でも影響が出にくいそうです。
IPCC報告は、2035年にはヒマラヤ氷河が5分の1に減少すると予測しています。

氷河減少で当面問題になるのが氷河湖決壊の問題です。
それは深刻な問題ではありますが、もっと長期的にみるとアジア全域に影響する問題があります。
ヒマラヤ氷河はアジアの7つの大河(ガンジス川、インダス川、ブラフマプトラ川、サルウィン川、メコン川、長江、黄河)の水源であり、インド亜大陸と中国に暮らす多くの人々の水需要を満たしています。
氷河から流れ出す川の流量が減少すれば、灌漑が滞って農業生産が低下する可能性があり、また水力発電減少による工業への影響もあります。
番組によると、氷河が縮小するとその溶けた水で一時的には河川水量が増加し流域では洪水が起きます。
その後、数十年で状況は変化し、“水がめ”枯渇によって河川水量が減少していきます。

このシナリオは05年にWWF(世界自然保護基金)が発表した報告書『An Overview of Glaciers, Glacier Retreat, and Subsequent Impacts in Nepal, India and China (氷河の全貌-ネパール・インド・中国における氷河の後退とその影響)』に描かれているものと同じです。
WWFによると、ネパールでは年平均気温が毎年0.06℃上昇しており、氷河を水源とするネパールの3つの河川で流量が減っていることを示しているとのこと。
また、中国では、青海高原の湿地帯において、湖の水位の減少や、湖そのものの縮小、河川の流量不足、湿原の劣化などが起きており、インドでは、国内最大級の河川流域を支えるガンゴトリ氷河が、年平均23メートルの割合で後退しているそうです。

【結局、温暖化の影響は?】
最初の話題に戻って、温暖化による海面上昇(このこと自体がウソだとの説が流行っているようですが)による陸地減少は免れるかもしれませんが、そのシナリオを支える河川による堆積をもたらす河川自体が温暖化によるヒマラヤ氷河減少によって変調する・・・そういう不安があるようです。

もし本当なら大変なことですが、人間と言うのはジワジワ進行する将来的な不安については、それがどんなに深刻な問題であれ、あまり関心を払わずにいられる、そんな生き物のようです。



コメント
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