(今年5月の独立記念日で首都トビリシをパレード行進するグルジア軍 “flickr”より By Gribiche
http://www.flickr.com/photos/rob-sinclair/2526616237/)
【「一つの世界 一つの夢」】
国内外でいろんな話題・関心・批判などを集めながら、また、いろんな問題をかかえながら、第29回オリンピック北京大会の開会式が8日夜“鳥の巣”で開催されました。
暴動やテロへの警戒から厳重な警備が敷かれる中、史上最多の204カ国・地域から選手、役員合わせて約1万6000人が参加。
「一つの世界 一つの夢」をスローガンに掲げた世界最大のスポーツ祭典が幕を開けました。
ダルフール問題への中国の対応を批判するスピルバーグが、今年2月に開会式芸術顧問を辞退。
代わった張芸謀(チャン・イーモウ)が演出した開会式は、「中華」を前面に押し出した構成で、この大会にかける中国の意気込み、思い、昂ぶりが伝わるものでした。
“204カ国・地域”というのはさすがに膨大で、時々中座しながら入場の様子を観ていましたが、内紛を抱える国、飢餓に悩む国、人権弾圧を批判されている国、貧困にあえぐ国・・・そんな国々も選手団は何もなかったように晴れやかに入場してきます。
“これでいいのかな? 「平和の祭典」なんて現実離れした虚構じゃないのか?”という思いと、“これはこれでいいじゃないか・・・。この「平和の祭典」が行われることで、現実へのなんらかのアピールができれば”という思いが交互に胸をよぎります。
中国について言えば、単に“国威発揚”といった偏狭なナショナリズムに終わるのではなく、大会成功で得る自信、国内外の多様性の認識などを通して、国内における民族対立・民主化・経済格差などの問題に対する新たな対応のスタートとなることを、また、これを機に、国際的には常識の通じる普通のつきあいができるようになることを願うところです。
【その頃、グルジアでは・・・】
それにしても、プーチン首相がスタンドでロシア選手団を見守るとき、グルジア選手団が晴れやかに入場するとき、ロシアが支援する分離独立派支配地域を抱え、かねてより対立が激化しつつあったグルジアでは、ついに衝突が本格化しました。
このグルジアの南オセチア自治州に対する攻勢は、まさにこのオリンピックで世界の注目がそちらに集まっているときを狙ってのものとも言われています。
グルジアが抱える問題についてはこれまでも取り上げてきました。
07年8月12日「対立を煽る1発の不発ミサイル」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070812)
07年11月9日「手折られたバラ、もうひとつの非常事態宣言」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20071109)
08年5月9日「たかまる紛争の危険」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080509)
グルジアは一方的に停戦すると表明しましたが、南オセチア自治州側がこの停戦に応じなかったとして、8日未明には州都ツヒンバリを包囲し砲撃を開始、戦車で侵攻しこれを一時制圧。
これに対し、独立派の後ろ盾となってきたロシアも「対抗措置」を表明。8日午後、独立派の反撃を支援するためツヒンバリに戦車部隊部150両を進めて戦闘が激化しています。
ロシア軍機がグルジア都市を空爆しているとも伝えられます。
一方で、南オセチア自治州側は、グルジア軍の攻撃で南オセチア(住民の多くがロシア国籍を取得している)住民ら1400人以上が死亡したと表明。
また、平和維持部隊に派遣されたロシア兵10人以上も死亡したと伝えられています。
【弱腰は見せられないメドベージェフ大統領】
オリンピック開会式に出席中のプーチン首相は「対抗措置を呼び起こすことになる」とグルジアを非難。
メドベージェフ大統領も、グルジアの攻撃でロシア平和維持軍やロシア国籍を持つ住民が犠牲になったことを指摘し、「犯罪者は罰せられなければならない」と述べ、強い対抗措置を取ることを示唆しています。
国内基盤が強くないメドベージェフ大統領としては、国内的に“弱腰”と取られるような対応はとりづらく、特にプーチン首相が留守のこの時期の“弱腰対応”は“独り立ちが出来ない”とのイメージが強くなるため、グルジアに対する「軍事介入」の強い対応に出ています。
グルジアはカスピ海の石油をロシアを回避して欧米へ輸出するルート上にあり、欧米にとって中東とロシアをにらんだ戦略的に重要な位置にあります。
このような事情もあって欧米はグルジア・サーカシビリ大統領を強く支持してきました。
8日の国連安保理協議でも、グルジアに停戦を求めるロシアの声明案は欧米の反対で採択されませんでした。
また、ロシアが軍事介入したことについて、ライス米国務長官は、ロシアに対して「航空機やミサイルによる攻撃を中止し、グルジアの領土の一体性を尊重して戦闘部隊を撤退させることを求める」との声明を8日発表しました。
北京訪問中のブッシュ大統領は8日、プーチン露首相と会談した際、停戦と自制を求めたとのことで、米政府は南オセチア自治州の分離独立は認められないとの姿勢を明確にしており、ロシアの軍事介入に強く反発しています。
グルジアはNATO加盟を目指していますが、今後、欧米諸国がどこまでグルジアをバックアップできるか、グルジア・サーカシビリ大統領は大きな賭けに出たとも言われています。
なお、NATO対ロシアの戦闘なんてなったら大事ですが、 “NATOといえども、グルジアを支援してロシアとの「代理戦争」に踏み切る可能性は低い。”【8月9日 毎日】とも報じられています。
賭けに出たサーカシビリ大統領、後に引けないメドベージェフ大統領・・・安保理の表舞台は空転しているようですので、今後の展開は、やはりアメリカの意向、そしてプーチン首相の判断によるのでしょう。
なんだか、“あいも変わらず”といった感じはしますが。
【オリンピック停戦】
それにしても、犠牲となった1400人以上の住民と兵士、空爆に脅える住民、避難を始めた住民・・・少なくとも彼らには“平和の祭典”は無意味です。
古代ギリシアでは戦闘を中断してもオリンピックが開催されたともいわれます。
中国の新華社は9日、「2008年8月8日は神聖な日であり、北京五輪の開幕に伴って世界は五輪期間に入った」と指摘。世界の人は軍事衝突を望んでいないとして、両国に対し五輪精神を引き合いに出して大会期間中の停戦を求めたそうです。
また、国連の潘基文事務総長も、五輪期間中に停戦を実現してきた伝統に敬意を払うためとして、世界各地での戦闘行為を中断する「五輪停戦」を呼び掛けています。
お互い面子を潰さずに停戦するには、「オリンピック停戦」というのは格好の名分だと思いますが・・・。