(グルジアの首都トビリシの街角で “flickr”より By khalampre
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【開いたパンドラの箱】
グルジアについては、現在進行中であり、ロシア軍の介入を受けてグルジア軍は撤退の様子、今後ロシアがどうするのか・・・、フランス・サルコジ大統領が仲介に立つ意向を示している・・・という状況のようです。
そんな状況を伝える報道を見ていて思ったことがいくつか。
ロシア側は南オセチア住民の被害を強調するかたちで、「(南オセチアの多数派)オセット人への虐殺」(プーチン首相)を訴えています。
コソボと同じではないかと言いたいのでしょう。
コソボが独立して、なぜ南オセチアはできないのか?
NATOはコソボ支援で介入したのに、ロシアが同じように虐殺を止めるべく介入してどこが悪いのか?
いきなり、結論じみた、しかも短絡的な話になりますが、血を流してでも分離したいという住民・地域を「国家の領土保全の原則」云々で力ずくで押さえ込んでも仕方がないような気がしています。
仮に押さえ込めたとしても、残るのは互いの憎しみだけであり、そんな国家に何の意味があるのかわかりません。
確かにロシア・南オセチア側の言うように、コソボがよくて南オセチアがダメという理屈はやはり難しいように思えます。
最終的には住民投票などによる、そこに住む人々の意思で国家帰属を決めるしかないのでは。
もちろん、そのような分離独立を認めると世界中あちこちで独立の動きが噴出して世界の秩序が保てない、国家の体をなさないような地域が独立に走り結果的に住民の負担になる、・・・その他いろんな弊害は出るでしょうが、それでも力ずくで国家に縛りつけ、多くの犠牲者を出すことに比べれば、まだましのように思えます。
国家・領土というものはアプリオリに決定しているものではなく、そこに暮らす人間が自らの意志で決めるべきもので、それ以上のものではないようにも思えます。
極端なたとえ話ですが、万一、北海道の住民が日本から分離したいと言えば、万一、北陸の住民が中国と一体化したいと言えば、万一、九州の人々が独立して将来はアメリカの1州になりたいと言うなら、もちろんどうしたらこれまでどおり一緒にやっていけるか協議はしますが、どうしても分離の意思が固いなら、それを止めることはできないと考えます。
分離した後に良好な関係を維持し、やがて50年後、百年後にまた再統一の機運が高まればそれはそれで・・・。
更に飛躍すれば、国家だけでなく、家族とか地域とかいった従来社会の基礎的な単位と考えられていたものは、多分に必要性に基づくものであり、社会の変化に伴いその必要性が薄れれば、やがてその拘束は弱まり、次第に“個人”に帰して行くものなのかな・・・という感を持っています。
このあたりの考え方は、どういう人間関係を想定しているかによるのでしょう。
私的には、あまり濃密な関係は息苦しく思うほうであり、希薄な人間関係から社会的事件を起こすような者を指弾する側より、その犯罪者にどちらかというとシンパシーを感じるほうなので、こんなことも思うのでしょう。
昔、職場に体育会系の新人が入ってきて、「もし自分の忠告に耳をかそうとしない者がいれば、殴りつけてでも自分の方を向かせて話をする」と話すのを聞いて、「ああ、そういう関係もあるのか・・・、それがまっとうな人間関係のあり方なのかも・・・」と感じた記憶があります。
【新たな冷戦】
話がどんどん飛躍していきますので、グルジアに戻すと、安保理は機能せず冷戦時代に戻ったようだとの声もあるなか、今回の件でロシアがやりすぎると新たな冷戦の時代に突入する懸念もあります。
そうなると世界の流れは大きく影響をうけますが、瑣末なところでは、ロシアにとって2014年に同国南部のソチで開催される冬季五輪の問題もあります。
すでに昨年の段階で、グルジアのシュワルナゼ前大統領はロシアのアブハジア自治共和国支援に抗議してソチ五輪ボイコットを世界に呼びかけています。
南オセチア自治州同様に帰属が問題となっており、今回の事態で戦闘の波及が懸念されているアブハジア自治共和国はロシアの保養地ソチから車で30分の距離です。
アブハジア自治共和国はグルジアから独立を宣言しグルジア軍との武力紛争に発展、15年間にわたる対立で、双方合わせて約1万7000人もの人命が奪われています。
ロシアは、そのアブハジアに「平和維持軍」を駐留させており、グルジア側は駐留ロシア軍の撤退を求めています。ロシアは、同共和国住民にロシアのパスポートを発給し、すでに住民の8割がロシア国籍を保有しています。
このあたりの経緯は南オセチアと全く同じです。
ロシア・プーチン首相にとってソチ五輪は、ソ連軍のアフガニスタン侵攻を非難する日本を含む西側陣営がボイコットした1980年夏のモスクワ五輪以来となり、何としても実現させたい悲願です。
少なくとも今回紛争の影響とこの一体の不安定化はチェチェンなども絡んで、北京五輪同様、ソチ五輪においてもテロへの警戒をまた重要課題にしそうな雰囲気です。
ソチ五輪はまだ6年先の話ですからともかく、新たな冷戦の状態になると、これまで豊富な資源を軸に世界経済のなかで発展してきたロシア経済にも影がさしますので、ロシアとしても欧米との決定的な対立は避けたいところでしょう。
【歴史認識】
メベージェフ大統領は緊急招集した安全保障会議で「ロシアは歴史的にカフカス住民の安全の保証人だったし、そうで有り続けている。」とその歴史観を述べたそうです。
これを伝えた記事にもあるように、この歴史観はグルジアの歴史観とは全く逆です。
グルジアにとって、ソ連・ロシアは常に“侵略者”でした。
今回の衝突に対し、ポーランドとエストニア、ラトビア、リトアニアのバルト3国の大統領は9日、グルジア・南オセチア自治州情勢をめぐり共同声明を出し、ロシアの軍事介入を「帝国主義的政策」と非難し、EUとNATOに指導力を発揮するよう求めたそうです。
また、ロシア政府は、ウクライナにあるロシア海軍基地から数隻の艦艇をグルジア沿岸に派遣していますが、ウクライナはグルジアの同盟国であり、ロシア海軍艦艇をウクライナ国内の基地に帰還させないと警告しています。
旧ソ連圏の諸国、歴史的にロシアと関連が深い国から、“ロシアの侵略”に対する非難が高まっており、歴史認識の違いに根ざしたロシア対周辺国の対立も事態の推移に影響を与えそうです。